自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

泣いてみろ、乞うてもいい 92話 ネタバレ 原作 あらすじ 自分のものでないものは欲しがらない

 

92話 アルビスへの帰り道、レイラはカイルに会いました。

 

どう考えても変。

床を拭いていた手を止めたレイラは

ぼんやりと空中を眺めました。 

 

あの日、一体なぜカイルは、

そうしたのだろうか。

数日前に会ったカイルの顔が

浮かび上がると、

レイラの疑問は一層深まりました。

レイラは、公爵の車から降りて

アルビスに向かう途中、

カイルに会いました。

レイラがちょうど領地に入った時、

反対側からカイルが歩いて来ました。

 

目が合うと、カイルは

レイラの名前を呼びました。

その落ち着いた声が、なぜか、

涙声のように聞こえました。

レイラは心配になり、

カイルに近づこうとしましたが、

公爵が買ってくれた、

自分の立場をまざまざと思い出させる

その靴が、

ふと目に入ったので止めました。

 

カイルは、

何度もレイラの名前を呼んだだけで

他に何も話しかけませんでした。

ある瞬間からは、レイラから目を逸らし

遠い空を眺めました。

顔を撫で下ろす手が震えていました。

 

先に去ったのはカイルでした。

二人を発見したアルビスの使用人たちが

好奇心のこもった視線を送り始めた頃、

カイルは何事もなかったかのように

大股でレイラの横を通り過ぎました。

チラッと見たカイルの目頭が

赤くなっていました。

 

明らかに、何か用事があったから

来たのだろう。

以前と同じ言葉を

伝えようとしたのなら、カイルが、

あのような姿であるはずが

ありませんでした。

 

叶わなかった初恋である以前に

カイルは、

ずっと一緒にいた友達であり

兄妹でした。

お互いの顔を見るだけで、

心を推し量ることができた時代は

もう過ぎてしまったとしても、

彼に何かが起こったということさえ

知らないわけにはいきませんでした。

 

大声でレイラの名前を呼ぶ

郵便配達人の声が、

ますます深い想念に陥っていた

レイラをハッとさせました。

 

返事をしたレイラは、

握っていた掃除ブラシを下ろし、

ドアの外に飛び出しました。

彼はビルおじさんからの電報を

レイラに渡しました。

 

二日後に、ビルおじさんが

アルビスに戻ってくるという

電報を読んだレイラは、

しばらく、すべての考えを忘れて

子供のように明るく笑いました。

クロディーヌがアルビスにいると

邸宅が満ち足りているような気がすると

エリーゼ・フォン・ヘルハルトは

心から嬉しそうな顔で言いました。

老婦人も、 クロディーヌがいると

本当に心強いと言いました。

 

静かにカトラリーを下ろした

クロディーヌは、

礼儀正しい優しい笑みを浮かべながら

そう言ってもらえると本当に嬉しい。

あまりにも長く滞在している

かましい客ではないかと

心配していたと返事をしました。 


そんなに寂しいことを言わないでと

優しく叱った老婦人の視線が、

静かに食事を続けている孫に

向けられました。

そして、

自分たちの事情で

結婚を一年延ばさなければ、すでに

ヘルハルト家の人になっていたのだから

そんなことを言うのは間違っている。

そうではないかと、

マティアスに確認しました。

 

それを聞いたマティアスは

顔を上げてクロディーヌを見ました。

申し分なく丁寧でしたが、

クロディーヌがよく見てきた

一点の温もりも感じられない眼差しと

微笑を抱いた顔でした。

ただ一つ違う点と言えば、

答えなかったことでした。

 

「お好きなように」と

優雅で無情な返事をすると

思っていた彼は、

ただ短い笑みを浮かべた後、

グラスを握りました。

問題視するような態度では

ありませんでしたが、

クロディーヌは、

その些細な変化さえ不安でした。

 

カイル・エトマンは

まだ動いていないのだろうか。

クロディーヌが、膝に置かれた

ナプキンを握りしめながら

感情をコントロールしている間、

エリーゼは、

庭師の養女がエトマン博士の息子と

再び会っているようだと、

尋常でない口調で、

投げつけるように話しました。

 

主治医の息子を大事にしている

老婦人へ話したことでしたが、

いきなり、クロディーヌは、

エトマン夫人が、

あんなことさえ起こさなければ、

二人とも、

とっくに夫婦になっていた。

お互いに、本当に好き合っていたし

とてもお似合いだったと

口出ししました。

 

確かにそうだったと、

エリーゼも快く同意すると、

あのおとなしい子が、

母親の反対を押し切る覚悟をして、

今度こそ、レイラを連れて

逃げようとしているのだろうかと

言いました。

 

しかし、老婦人は軽く眉を顰めながら、

カイルは、

そんなに無謀な子だろうかと、

それとなく反対の意見を出して、

カイルを庇いました。

そして、噂は噂に過ぎない。

そしてカイルも、もう少し年を取れば

分別のない愛で

結婚という一大事を決めることが

どれほど愚かなことか

確実に分かるだろうと言いました。

 

クロディーヌは、

老婦人が、そう言うのは意外だ。

レイラのことを

気に入っていると思っていたと言うと

驚いた表情でマティアスを見ました。

彼はもはや、

食卓の会話に興味がないように

食事だけを続けていました。

 

老婦人は、

もちろんビル・レマーの養女は

きれいで優しいお嬢さんだ。

自分は確かにレイラが好きだ。

しかし、そのような個人的な感情と

結婚は違う。

確かに、エトマン夫人は

浅薄な行動をしたことで

嘲笑され、恥をかいたけれど、

息子を持つ上流階級の夫人たちの中で

その気持ちを理解できない人は

いないだろう。

ただ、その方法が

あまりにも低劣だったというのが

問題だったと話しました。

 

しかし、クロディーヌは、

カイル・エトマンは

レイラを心から愛しているようだと

言いました。

 

老婦人は、

名門の後継者なら、結婚は、

ただ、そのような感情で

決めるものではないということを

当然、知っておくべきでは

ないだろうか。

たとえ爵位はないにしても、

エトマンほどの名門に、

下流階級出身の、天涯孤独の嫁は

最初から不釣り合いだったと、

これといった悪意はなく、

淡々と穏やかな声で言いました。

 

善良な子供のように

頷きながら笑ったクロディーヌは、

今度こそ、あの氷壁のような男も

動揺するのではないかという

期待を込めて、

再びマティアスの顔色を窺いました。

しかし、マティアスは、

静かな笑みを浮かべた顔で

祖母を眺めていました。

少しも憚ることのない態度に

鳥肌が立つほどでした。

昨日の午後、

一緒に散歩に出かけた道に隠れていた

あの、みすぼらしいネズミを

見せればよかったと

後悔したりもしました。

 

あんな男に愛されることが

果たして嬉しいのだろうか。

いや、

それを愛と呼べるのだろうか。

 

クロディーヌは、

ツンと澄ました表情で、

婚約者から目を逸らしました。

そして、

あの子も本当に可哀想だ。

一生、彼女を

宝物のように大事にして愛してくれる

カイル・エトマンを逃し、

あの冷血漢の

囚われの身になったのだからと

考えました。

 

昼食は、和やかな雰囲気の中で

終わりました。

クロディーヌが、

二人の奥様の話し相手になって

お茶を飲んでいる間、

マティアスは、

一人で散歩に出かけました。

暖かい日差しのせいか、

鳥たちの鳴き声が

ひときわ美しく聞こえました。

 

食卓の会話が

気に障る理由はありませんでした。

それは皆が、誰よりもマティアスが

最もよく知っている事実に

過ぎなかったからでした。

レイラに対する

祖母の評価もそうでした。

そのため、彼女を愛人にしたし

今後も変わらないはずでした。

 

そうだね。そうすべきだった。

 

正体不明の微かな苛立ちを

振り払うように、

もしもレイラを、

クロディーヌの場所に

置いてみたらという、

とんでもない、束の間の考えを

消すように、マティアスは、

重々しい足取りで

森の道を歩きました。

 

庭師の小屋が

視界に入ってくる頃になって、

マティアスは、

意図していなかった道に入ったことに

気づきました。

マティアスは帰る代わりに、

日差しが、たっぷり降り注ぐ

庭に入りました。

アルビスに近づいた時は、

すでに西の空が赤く染まっていました。

レイラはいつもより速く

自転車のペダルを漕ぎました。

かごの中の食料品店の紙袋が

かさかさと音を立てました。

久しぶりに食卓を囲んで、

思う存分食べて

おしゃべりできるように、

ビルおじさんが好きな食べ物を

たくさん作るつもりでした。 

もしかすると、その場でなら、

一緒にここを離れて

新しい人生を始めようと

話せるような気もしました。

簡単ではないかもしれませんが

二人一緒なら、

うまくやっていく自信がありました。

ビルおじさんも、

この広々とした邸宅の庭の

世話をするのが大変な時が来たら、

ここを離れて、

小さくてきれいな家を一軒探して

暮らそうと、よく話していました。

 

もちろんビルおじさんは

アルビスから遠くない村で

暮らしたいと思うだろうけれど

心変わりさせるのは

不可能ではないだろうと思いました。

 

自分は遠い都市の新しい学校で

子供たちを教え、

アルビスでそうだったように

ビルおじさんと一緒に

末永く幸せに暮らして行く。

そのように決意を固めると

心がいっそう軽くなりました。

 

しばらく悩みましたが、

再び履けなかったあの靴も、

きれいなコートも

記憶から消しました。

あれは、レイラのものではないので

自分のものでないものを

欲しがりたくありませんでした。

その過分な欲がどんな傷を残すのか

すでに骨の髄まで学んだからでした。

 

できることなら、

紐を解くことができず、

そっと靴を脱いだ夜と、

婚約者と一緒に散歩をしていた

公爵を見た昨日の午後の記憶まで

レイラは、

すべて消したいと思いました。

 

まず、買って来た物を整理して、

服を着替えて、

家畜の世話をしなければ。

森の道の向こうに小屋が見え始めると

レイラは、もう少し

心が忙しくなりました。

 

その後は暖炉に火を点けて、

家が暖かくなるまでの間に

夕食の準備をしよう。

そして・・・と考えながら、

自転車から降りて、

紙袋を手にした瞬間、

「こんにちは、レイラ」と

のんびりとした挨拶が

聞こえて来ました。

 

レイラは、

落としそうな袋を抱え直して、

慌てて、

その声が聞こえてきた方向を

振り返りました。

ポーチに置かれたビルおじさんの椅子に

足を組んで座った公爵が、

レイラを見つめていました。

信じられなくて、

何度も見直しましたが、

間違いなくあの男でした。

 

レイラは、

なぜ、ここにいるのかと尋ねました。

マティアスは、

ここは自分の領地なので、

自分が来てはいけない場所では

ないのではないかと反論しました。

 

レイラは、

公爵の領地とはいえ、

今は自分たちの住まいとして

貸してくれた所だと主張しました。

マティアスは、

「だから?」と聞き返しました。

レイラは、

招かれざる者が、

このようにむやみに訪ねて来ては

いけないという意味だと答えると

震え始めた手で、

コートのポケットに入れておいた

鍵を探して握りました。

そして、マティアスに

帰るようにと告げました、

片腕に抱えた紙袋が、騒々しく

かさかさと音を立てました。

 

マティアスは、

玄関のドアの前に立って

自分を見下ろすレイラと

喜んで目を合わせました。

頭のてっぺんからつま先まで

注意深く目を通した彼の口元から

笑みが消えました。

 

レイラは、

あの日、洋装店に捨てて来た

インクの染みがついた靴よりも

古い靴を履いていました。

コートも同様でした。

 

彼が与えたものを

何一つ喜ばないこの女の性格を

知らなかったわけではないけれど

改めて虚しくなり失笑しました。

 

マティアスはゆっくりと立ち上がって

レイラに近づきました。

ドアを開けて

家の中に逃げようとしたレイラは

驚いて慌てて体を回し、

ドアを閉めるために

手を伸ばしましたが、

それよりも少し早く、マティアスは、

そのドアを力いっぱい押し退けました。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain

f:id:myuieri:20210206071517p:plain

マティアスが結んでくれた靴の紐を

解けないくらい、

マティアスに気持ちが傾いている

レイラ。

けれども、カイルと結婚して

大学へ行こうとしたことで

大きく傷ついたレイラは、

クロディーヌのものである

マティアスを欲しがらないために

彼からもらったものを

自分のものではないと、努めて

思い込むことで、

必死で彼への気持ちを

抑え込もうとしているのだと

思います。

その気持ちは、

彼から逃げなければいけないほど

切羽詰まったものなのかもしれません。

 

それなのに、自分の気持ちに

歯止めが利かなくなりつつある

マティアスは

レイラの気持ちなんて考えずに

暴走してしまう。

そして、レイラは再び傷つくという

悪循環に陥っていると思います。

これを断ち切るには、

強烈な決定打が必要だと思います。

けれども、そうするためには、

ヘルハルト公爵としての

マティアスの完璧な人生を

ひっくり返さなければ

ならないのではないかと思います。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain