自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

泣いてみろ、乞うてもいい 119話 ネタバレ 原作 あらすじ 彼が壊した人生

119話 レイラは自転車とぶつかってしまいました。

レイラは足を引きずりながら

階段を上りました。

捻挫した足首がズキズキしましたが

耐え難いほどではありませんでした。

転んで怪我をした膝の傷も

ひどくはありませんでした。

だから大したことではない。

そう思うように努めながら、

レイラは玄関のドアを開けました。

 

服を着替えて、

家の中を片付けている間は

平気だったけれど、

地面を転がって傷ついた桃を見ると

改めて胸が痛みました。

 

これが一体何だと言うのか。

ほんの数個の桃なのに。

 

レイラはきれいに洗った桃を

皿に乗せて食卓の上に置きました。

しかし、

気軽に手を伸ばすことができず、

じっと座って桃を眺めていました。

両腕は、自転車にぶつかって

倒れた瞬間のように、

無意識のうちに、お腹を

しっかりと抱えていました。

 

幸いなことに、

新たな痛みは現れませんでした。

足首と膝以外、

痛い所はありませんでした。

しかし安堵した後も

レイラは動けませんでした。

吐き気がするようでしたが

実際に、胃の中のものを

吐き出すことができない、

変な苦痛が

再び始まったためでした。

 

小さく体を丸めたレイラは、

しばらく食卓の前に

じっと座っていました。

部屋で横になりたかったけれど

めまいがする状態で足を引きずれば

転んでしまうのではないかと

恐怖を感じました。

 

その瞬間、レイラは、

しばらくの間、夜眠れなくなる程

心を乱した複雑な考えが

消えたことに気づきました。

 

吐き気を催していた胃が落ち着くと

レイラは慎重に立ち上がって

台所の窓を開けました。

海の匂いがする風が吹いて来て、

冷や汗が出た額を

優しく撫でてくれました。


再び食卓の前に戻ったレイラは

最も傷が少ない

きれいな形の桃を選んで

一口かじりました。

口の中いっぱいに広がる甘い果汁に

鼻の頭がうずきました。

レイラはその場で、

二個の桃を食べ続けました。

水の上に仰向けになって眺めた

初夏の空は平穏でした。

雲が流れ、鳥たちが飛び立ち

透き通って青い水の色は

非現実的でした。

ピチャピチャ言う水の音と感触、

その中にいる自分の存在も

そうでした。

 

しばらく流れに身を任せていた

マティアスは、

再び体を回して泳ぎ始めました。

息が切れて、体が壊れそうな痛みが

大きくなるほど、

心は落ち着いて行きました。

それにすがりつくように、

マティアスは、

死力を尽くして動きました。


エトマン博士が脅した通り

彼は睡眠薬を減らしました。

そのことに関して、彼は

主治医である自分の意思が

患者の要求に優先すると

釘を刺しました。

それは、彼が二日間ずっと

寝ていた後のことでした。

 

他の医師を訪ねて

解決すれば済むことだと

思っていましたが、

実際、現実に直面すると、

マティアスは、

それさえ面倒になりました。

すでに、カルスバル中に

ヘルハルト公爵の健康異常説が

広まっている状況で、

信頼できない医師まで巻き込んで

噂を拡大させるのは

少し滑稽でもありました。

 

薬がない。 しかし、彼は

眠らなければならない。

だから残りの選択肢は一つ。

体を苦しめることだけでした。

この方法が、睡眠薬と同じくらい

効果があるということは、

ここ数日で証明できました。

疲れ果てるほど運動をして

ベッドに体を投げ出せば、

薬を飲んだのと似た効果が

現れました。

 

昨日の夕方、

往診に来たエトマン博士は、

この世で最も情けない存在にでも

会ったかのように彼を見つめると

これでは本当に困ると、

重々しく口を開きました。

 

マティアスは、にっこり笑いながら

十分な運動と睡眠。

かなり健康的な習慣のようだと

くだらない話をしましたが、

エトマン博士が

何の返事もしなかったのを見ると、

博士は冗談など言う気分では

なさそうでした。

 

エトマン博士は深くため息をつくと

睡眠は逃避先にはなれない。

こんなやり方は正しくない。

いくら良い医者と薬があっても、

患者の意志がなければ治らない。

だから根本的な問題が何かを

直視して認めた後、

解決法を探さなければならないと、

問題を起こした息子を前にした

父親にでもなったような口調で

話しました。

かつてないことでした。

 

マティアスは、博士が自分のことを

心から心配していることを

理解しました。

彼は有能な医者であり、

立派な人間でした。

 

カイル・エトマンも、

このような人として生きていくだろう。

息子と同じように

善良でまっすぐな眼差しを持つ

エトマン博士を

じっと見つめていたマティアスは

虚しく笑いました。

 

カイル・エトマンと

レイラ・ルウェリンは

とてもお似合いのカップルに

なっていただろう。

アルビスの人々が口を揃えて言う

その言葉を、マティアスは、

素直に受け入れることができました。

 

カイルと結婚して

エトマン夫人になっていたら、

レイラは幸せだっただろう。

良い男に愛されながら

大学で勉強をしていただろう。

みんなに祝福される美しい夫婦の姿で

孤独で苦労した幼少期を

全て補っても余りあるほど、

立派に生きていただろう。

恐ろしくて嫌いな男の

愛人の役割をしながら

涙と苦痛の中で

元気を失っていく代わりに、

レイラは、眩しいほど幸せな人生を

生きていくこともできた。

しかし、後悔していないことが

マティアスをさらに狂わせました。

 

あの日に戻れるなら

他の選択をするだろうか。

とんでもない。

彼は100回機会が与えられても

同じ選択をする、そんな人間でした。

エトマン親子のような

高貴な人格のようなものは

彼にはありませんでした。

他の全ての人の前では、

そのような真似をすることは

できるけれど、レイラの前では

それさえ不可能でした。

 

他の男の女になって

幸せになるのを見るより

自分が手に入れて壊してやる。

それとも、むしろ命を奪うか。

 

ところで根本的な問題? 解決法?

マティアスは、にっこり笑うことで

返事の代わりをしました。

 

レイラを永遠に失ったという

クロディーヌの言葉は、それほど

衝撃的ではありませんでした。

すでに、身に染みて

よく知っている事実を、

他人の口を通じて

伝え聞いたに過ぎませんでした。

 

レイラを探す資格がないと

カイルが叫んでいたのも同じでした。

すでに、あまりにもよく知っている

事実でした。

知っているのに

どうすることもできないことに

ぞっとするだけでした。

 

疲れ果てた体が

これ以上動いてくれないと、

マティアスは息を切らしながら

水の外に顔を出しました。

かなり痩せましたが、

依然として強健な濡れた体が

日差しの中で輝きました。

 

笑ってばかりいるマティアスに、

エトマン博士は、

もし自分では気まずかったり、

頼りにならなければ、

他の医者を紹介する。

しかし、このままではいけない。

これ以上、傍観することはできないと

より深い心配のこもった言葉を

かけました。

マティアス微かな笑みを浮かべながら

首を横に振りました。

エトマン博士に勝る医者がいるとは

思えませんでした。

何より、この世の誰を連れて来ても

変わることはありませんでした。

それがレイラでない限りは。

それとも神か。

 

それでも、未練を捨てられない

エトマン博士は、最後に、

環境を変えてみる方法もある。

しばらく、

休養地へ行ってみたらどうかと

提案しました。

マティアスは、再考の余地もなく

首を横に振りました。

 

それでも、

レイラの記憶でいっぱいの離れに

移って来たから、これだけ

耐えることができました。

 

そうはいっても、レイラは、

いつも泣いたり、恐怖に震えたり、

あるいは、それさえも手放して、

深い絶望の中で

彼を耐え忍んだだけの所でしたが、

マティアスにとっては

崇拝したい記憶の神殿でした。

 

ここまで来ると、

信仰という虚像に捕らわれて

生きていく部類が

理解できそうな気がしました。

今の彼の姿と、彼のしていることは

狂信徒と、

あまり変わらないからでした。

 

もう帰らないといけないのだろうか?

マティアスは、

朦朧としそうになる意識を集中させて

向きを変えようとしましたが、

体は再び無意識に動いていました。

もう全身の筋肉が

切れてしまいそうなのに、

止まりませんでした。

 

実はマティアスは、

止まると思い浮かんで来る考えと

時間が経つほど

鮮明になるレイラの記憶を

怖れていました。

それがあってこそ生きられるのに、

それがまた喉元を締めつけました。

 

苦痛で歪んだ顔に失笑がよぎる頃、

マティアスのぼんやりとした視界に

川沿いに立っている

一抱えもある木が入って来ました。

レイラが好んで、

度々登っていた、あの木でした。

太陽の光の中に、

輝く金髪が見えるようでした。

幻影だと分かっていながら

幻影を見るのは、

ひどく惨めであると同時に

甘美なことでした。

 

虚しく笑ったマティアスは、

川に身を任せたまま目を閉じました。

穏やかな水の流れに沿って

流れるように続いていた人生は

もうない。

残ったのは、深く溜まったまま

静かに腐っていく

時間だけのようでした。

 

それでは、何のために

もがかなければならないのか。

マティアスは、

体が沈んでいくのが感じられましたが

そこから抜け出そうとする意志は

働きませんでした。

ピチャピチャいう音まで止まった

完璧な水中の静けさの中で、

マティアスは、捨てられた小屋で見た

レイラのノートを思い出しました。

 

そこでマティアスが見たのは、

自分に厳しい世の中をひたすら愛し、

最善を尽くして生きてきた

一人の人間の人生でした。

しかし、その人生はもうない。

彼が壊してしまいました。

 

マティアスはそっと目を開けて、

いつの間にか遠くなった

水面を見ました。

砕ける日差しが美しく、

まるでレイラの涙のようだと

思った時、マティアスは、

彼女を失った日以来、初めて

安らかな笑みを浮かべました。

その涙に浸って、永遠に眠るのも

悪くないと思いました。

それはマティアスが覚えている

午後の最後の瞬間でした。

そして再び目を覚ました時、

一番最初に視界に入って来たのは

驚くべきことにレイラでした。

二人で一緒に迎えた最初の朝のように

レイラは彼のそばに横になって

じっと彼の顔を見つめていました。

 

帰って来たんだ。

話したいのに声が出ませんでした。

その代わり、マティアスは、

あの日のように、手を伸ばして

そっとレイラの顔を包み込みました。

お互いを見つめる視線が

ますます深く絡み合うほど、

レイラの澄んだ瞳は美しく輝きました。

 

レイラ。

その名前を囁くために

口を開けた瞬間、マティアスは、

レイラがいないことに気づきました。

幻影が消えた場所に残ったのは、

日差しが長く差し込むベッドに

情けない姿で横になっている

自分だけでした。

 

お目覚めのようですねと言う

聞き慣れた声が、

まだ、ぼんやりとしている意識を

呼び覚ましました。

安堵のため息をついている

エトマン博士でした。

 

侍従たちが、川にいる公爵を

発見できなかったら

大変なことになるところだったと

博士は叱責するような口調で

昨日のことを話しました。

 

つまらない話でした。

自分の体一つ支えられずに

水の中に沈んだのに、

いざ死ぬこともできずに生き返り、

主治医の小言を聞いている

情けない人間についての話。

 

彼の言葉が長く続く間も、

マティアスは、

先程の美しい幻影だけを

思い出しました。

 

あの日、互いに深く見つめ合った

あの瞬間も偽りだったのだろうか。

そんなことを考えると、また水の中に

沈んだような気がしました。

 

そうだったらどうしよう?

まるで、自分の力では

どうにもならない現実の前に

投げ出された子供になった

気分でした。

 

君との終わりが分からない。

このままでは到底生きられない自分は

一体どうすればいいのか。

 

「聞いていらっしゃいますか?」と

エトマン博士の声が聞こえましたが、

その言葉は、耳元で

意味もなく散らばるだけでした。

 

今やマティアスは、

首が絞められているような

恐怖に包まれ、狂ったように考え

また考えました。

死んだカナリアが思い浮かんだのは、

開けておいた窓の向こうから

鳥たちの歌声が聞こえてきた時でした。

 

マティアスは起き上がり、

目を細めてそちらを見ました。

レイラの幻影を見るように,

彼は度々、

死んだカナリアの歌を聞きました。

しかし、

それは何とか耐えられました。

鳥が死んだという明確な事実が

脱出口になりました。

 

そうか。そうなんだ。

暗黒の中で、

微弱な希望の一筋の光を

発見したかのように

胸が一杯になり始めました。

永遠に失って

取り戻すことができないなら、

いっそのこと命を奪うべきだ。

ついに

生きる道を見つけたという喜びに

胸がドキドキしました。

笑いがこぼれました。

 

マティアスの青白い顔に浮かんだ

奇妙な笑みを見たエトマン博士は

これ以上、言葉を続けられず、

乾いた唾を飲み込みました。

電話のベルが鳴り始めたのは

その時でした。

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マティアスの乗った車と

ぶつかった時もそうでしたが、

レイラは、なぜ、こんなに

痛みを我慢してしまうのか。

きっと、自転車とぶつかった時、

相手は、

医者に診てもらった方がいいと

勧めてくれたのではないかと

思いますが、

なぜ、そうしなかったのか。

レイラは、あらゆることに

我慢し過ぎだと思います。

 

マティアスは、

レイラが苦しんでいたことを

分かっていても、

まだ、自分のことばかり考えて

レイラの苦しみを思いやる気持ちと

あんなことをして申し訳なかったと

後悔する気持ちが

芽生えていないと思います。

今のマティアスでは、

レイラと再会しても、二人の関係は

依然と変わらないままだと

思います。

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