自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

バスティアン 69話 ネタバレ ノベル あらすじ マンガ 55話 血統の持つ力

69話 オデットとバスティアンは、ヘルハルト家の昼食会に招待されました。

角を曲がったヘルハルト家の馬車が、

邸宅に続く進入路に

差し掛かりました。

両側に並ぶ背の高いプラタナス

印象的な道でした。

 

オデットは緊張感と好奇心が

入り混じった目で、

窓の外の風景を見ました。

枝と枝が重なって作り上げた

アーチの間から差し込む光の影が

道を彩っていました。

それが消えた所に立っている

出入り口は、

ヘルハルトの威容と同じくらい

雄大で華やかでした。

 

大丈夫。

オデットはもう一度決意を固めて

息を整えました。

昨日、電話で話した

ヘルハルト公爵の母親は、

彼女に好意的な態度を示しました。

皇室についても、

短く言及したのを見ると、

彼女たちも、

すでに知っているだろうという

バスティアンの考えは

正しかったようでした。

 

それにもかかわらず、

ヘレネ皇女の娘を

招待することにしたのなら、

その目的も、彼の推測と

さほど違わないはずでした。

 

一番大きな峠を越えたので、

もう残っているのは

素敵な昼食一食だけ。

バスティアンの助言を思い返すと

心の片隅に残っていた

最後の陰さえ姿を消しました。

 

母親の名前が、

こんなに軽く感じられることも

あるという事実に驚き

オデットは少し笑いました。

馬車の窓から視線を逸らした時は、

本当に、全てが良くなっていました。

 

バスティアン。

習慣のように呼びそうになった

その名前を飲み込んだオデットは、

隣に座っている男の方に

そっと目を向けました。

 

バスティアンは、

座席の奥深くにもたれて座り

目を閉じていました。

ほっとしたオデットは、

いっそう楽になった気持ちで

眠っている

バスティアンを見つめました。

 

とても長い睫毛が、鋭い目元の

威圧感を和らげていました。

きれいに伸びた鼻筋と繊細な唇の線も

そのような対比を成していました。

 

バスティアン・クラウヴィッツ

美男子でした。

名誉ある軍人であり、また

成功したビジネスマンでもありました。

世間の評価がどうであれ、

オデットはこの男との結婚を

不名誉だとは思いませんでした。

祖父の血統をあざ笑う

貴族たちが付けた蔑称も、

やはり共感し難いものでした。

 

最初から、ずっとそうだったことに

ふと気づいた瞬間、

バスティアンが目を覚ましました。

視線を避ける暇もなく

起こったことでした。

 

きまりが悪い状況でしたが、

オデットは、

わざと平然としたふりをしました。

バスティアンも、

驚いた様子がありませんでした。

 

ますます深まっていく静寂が

耐え難くなったオデットは

タイが少し曲がっていると

先に口を開きました。

もちろん苦境を免れるための

言い訳でした。

 

「どこ?」

眉を顰めたバスティアンは

身なりを確かめ始めました。

嘘がばれるのではないかと

ハラハラしたオデットは、

「ここです」と答えると

慌ててバスティアンのタイに向かって

手を伸ばしました。

きちんとした結び目の形を少し乱し

再び直している間に、

馬車は公爵邸の出入り口を

通り過ぎました。

 

「これで大丈夫です」と告げると

オデットは自然に笑いながら

タイに触れていた手を離しました。

バスティアンは

何の返事もしませんでした。

 

どうしても感情が読めない

氷のような目が怖くなったオデットは

自分の装いは大丈夫かと

真剣に心配しているように装って

尋ねました。

 

しばらく黙って凝視ししていた

バスティアンは、

馬車が止まる頃になって、ようやく

「完璧です」と答えました。

 

オデットは、

ぎこちない笑みを浮かべながら

目を見開きました。

ちょうど馬車のドアが開いたおかげで

適切な挨拶の言葉を悩む手間を

省くことができました。

 

まず、馬車から降りたバスティアンは

「準備はできましたか?」と尋ねて

エスコートを求めて来ました。

不要な考えを消したオデットは

優雅に、完璧な

クラウヴィッツ夫人のように、

その手を握って、素敵な昼食のための

第一歩を踏み出しました。

マティアスは陸軍で服務中の将校で、

今は海外戦線に出ていると、

グラスを置いた

ヘルハルト家の老婦人が

孫の話を始めました。

その瞬間も、両目は

オデットに向けられていました。

 

自分たちは、あの子に

皇室の近衛隊にいて欲しいと

願っていたけれど、

あの子は志を曲げなかった。

その頑固さまで、まさにヘルハルトだと

誇りに満ちた微笑を浮かべた

ヘルハルト公爵の母親も

一言付け加えました。

彼女も、

まるでバスティアンの存在は

きれいに忘れてしまったかのように

オデットばかり見つめていました。

品位があり、上品な方法で

無視したのでした。

 

バスティアンは適当に礼儀正しく

客観的な傍観者の姿勢で

食事を進めました。

特に驚くようなことでは

ありませんでした。

影の役割をする場になるということは

最初から分かっていたからでした。

年配と身分の高い貴族ほど

頑固で閉鎖的だという点を勘案すれば

公爵家の二人の奥様は今、

最善を尽くした歓待を

見せているのでした。

 

どうせ重要なのは、

ヘルハルト家の招待客になったという

事実そのものでした。

公爵と親交があったとしても

二人の公爵夫人に認められなければ

中途半端な人脈に過ぎませんでした。

 

そのような理由で、今まで、

ヘルハルトの社交範囲内に

入ったという認定を

受けられませんでしたが、

今日が過ぎれば、

話が変わるはずでした。

アルビスの二人の奥様の署名が入った

招待状は、社交界の中心部に上がる

梯子のようなものでした。

招待され、その招待に応じることで

既に成立した取引でした。

 

公爵家の二人の奥様も

同じ考えであることを

バスティアンは、よく知っていました。

各自の目的を達成したので、

適当に格式張った時間を過ごして

帰れば良いことでした。

 

孫の話が長引くと、

一度、休暇でも

出してくれればいいのに。

あの過酷な土地で、

元気に過ごしているか心配になると

完璧に冷静で優雅だった貴婦人も

普通のおばあさんになりました。

 

そんな心配は、

彼女の孫を相手にする

敵軍のおばあさんにこそ、

似つかわしいと思いましたが、

バスティアンは、

適当に心配そうな表情をして

共感を示しました。

その時、オデットが、

母鳥の役割を始めました。

 

ヘルハルト公爵は、

元気で過ごしていると思う。

海外戦線の状況も、

それほど悪くないと

聞いた気がするけれど、

どうですか、バスティアン?

と、従順な態度を貫いていたオデットが

要領よく話の方向を変えました。

続いて、無邪気な好奇心を湛えた

青緑色の目が、

バスティアンに向けられました。

食卓を囲むヘルハルト一家の視線も

自然に、その後に続きました。

カトラリーを置いたバスティアンは、

微かな笑みを浮かべた顔で、

列席者に向き合いました。

 

彼は、

北海戦線の対峙状況は、

ベルクに有利な方向に流れている。

断続的な局地戦が

発生してはいるけれど、地上戦では

味方の兵力が圧倒的で、何よりも、

ヘルハルト公爵は立派な軍人なので、

きっと、うまくやっているはずだと

適切な答えで、

気まずくなった雰囲気を収拾しました。

 

じっと彼を見つめていた

ヘルハルト家の老婦人は頷きながら、

慈しみ深い笑みを浮かべました。

オデットが引き起こした波紋を

不快に思ってはいない様子でした。

 

その後も、オデットは、

しばしば母鳥になることを

自ら進んで引き受けました。

慎重に時機を待ち、

適当な獲物が現れると、

素早く狩って、咥えて運びました。

主に国際情勢や戦争に関する

バスティアンが一言添えるのが

不自然ではないテーマでした。

静かな昼食を楽しんで

立ち上がろうとした計画に

支障をきたす努力でした。

 

誰かが、

昨春のポロ大会の話を持ち出すと、

オデットの目つきが

再び真剣になりました。

バスティアンは、

少し呆然とした気分で

妻を見つめました。

 

オデットは、

まるで猛禽の母鳥のようでした。

弱いヒナが口を開けられないと、

自ら、嘴を開いてでも、

無理矢理、餌を押し込む勢いでした。

 

彼が気づいたことを、

古狸のような公爵家の奥様たちが

知らないはずがありませんでした。

それを証明するかのように、

ヘルハルト家の老婦人は、

妙な目つきで、

オデットを注視していました。

 

バスティアンと目が合うと、

彼女は眉を顰めて微笑みました。

夫を疎外させたくない新婦の努力を

感心している様子でした。

バスティアンは短く目で挨拶し、

感謝の意を伝えました。

 

貴族の中の貴族と呼ばれる

あの老婦人が、

オデットを気に入っている。

哀れな身の上となった仇の娘に施す

慈善的な憐れみかもしれませんでしたが

その理由は、

どうでも良いと思いました。

 

オデットは意外と役に立つ妻でした。

たとえ没落して、

底辺を転々としていたとしても

その血統の持つ力が、

永遠に消えてしまったわけでは

なさそうでした。

 

もしかしたら、皇帝は、

処置に困る荷物を

下賜したのではないかもしれないという

気がした頃、

カタリナ・フォン・ヘルハルトは

同年代の男性がいない席なので、

クラウヴィッツ大尉は退屈だろう。

マティアスがいれば、

良い話し相手になっていたでしょうにと

バスティアンを直視して言いました。

最初の挨拶を交わして以来、

初めて交わした直接的な会話でした。

慌てた客たちの視線が注がれましたが、

彼女は少しも気にしませんでした。

 

老婦人は、

マティアスがクラウヴィッツ大尉を

好意的に見ているようだったこと。

どうやら、同じ軍人であり実業家なので

気が合う部分があるのだろう。

直接会ってみたら、

あの子と似ている面もあるようだと

言いました。

 

バスティアンが

褒め過ぎだと謙遜すると、老婦人は

マティアスが帰国したら、

もう一度、アルビスを訪ねるように。

もちろん妻も一緒にと告げると、

彼女の視線が

オデットに向けられました。

気の毒に思いながらも

殊勝な子供を見るような目つきでした。

 

もう食事が終わったようなので

お茶を飲みに行きましょうと

昼食の終わりを告げた老婦人は、

再びバスティアンを注視することで

無言の命令を伝えました。

その意味を理解したバスティアンは

静かに立ち上がると、

昼食会のテーブルの上座に

近づきました。

丁重な身振りで

エスコートをお願いすると、老婦人は

喜んで手を出してくれました。

 

昼食室を離れる前に、バスティアンは

チラッとオデットを見ました。

子をお腹いっぱい食べさせた母鳥は、

とても満足そうな表情をしていました。

遠ざかって行く公爵邸を

見つめていたオデットは、

バスティアンの方を向いて、

「料理が本当に素晴らしかった。

そうですよね?」と尋ねました。

ニコニコしている顔が

胸に抱いたバラの花束のように

華やかでした。

ヘルハルト家の奥様からの

お別れのプレゼントでした。

 

バスティアンは、

「気に入ったのなら

奪って来ましょうか?」と

余計な言葉をかけながら

馬車の座席に背をもたせかけました。

 

オデットは眉を顰めて

小さく首を傾げながら

どういうことかと尋ねました。

バスティアンは、

ヘルハルト家の料理人。

実力がありそうだったと答えました。

オデットは、

「そうだけれど、どうやって?」と

尋ねると、

不真面目な話だと気づいたかのように

クスッと軽い笑みを浮かべました。

 

バスティアンは、

もっと、お金を払うと答えました。

オデットは、

そうだけれど、お金で

あなたに言いくるめられるようには

見えなかったと反論しました。

 

それでも、バスティアンは、

ずるい戦いでは自分が勝つ。

あちらには、

絶対に持てない武器があるからと

返事をしました。

 

オデットは、

それは何かと尋ねました。

バスティアンは、

成金の厚かましさだと答えました。

 

淡々と放った冗談に

オデットは笑い出しました。

聞くのに心地よい笑い声を持った

女でした。

 

オデットは、

残念だけれど諦めよう。

うちの料理人たちも、十分

立派な実力を備えているからと

いけずうずうしく、

いたずらに応じました。

修道女のように面白くない時とは

全く違う姿でした。

 

公爵邸の出入り口を離れると、

馬車が次第に速度を上げ始めました。

オデットは笑いの余韻が残った顔で

通り過ぎる車の外の風景を眺めました。

木々の間から差し込む光が

眩しい午後でした。

 

バスティアンは斜めに下ろした視線で

隣に座っている妻を見守りました。

規則正しい馬の蹄と馬車の車輪の音が

金色に染まった

プラタナスの道に沿って

響き渡りました。

 

あえて馬車にこだわる老婦人の好みも

それほど悪くはないと思った頃、

チリンチリンと

澄んだ鐘の音が聞こえて来ました。

道の向こう側から走って来ている

自転車のベルの音でした。

 

まもなく、自転車に乗った女学生が

馬車の横を通り過ぎました。

何気なく、その風景を一瞥した

バスティアンの視線は

再びオデットの横顔に向けられました。

自分の仕事を終えたオデットは、

ただ気楽そうに見えました。

 

ゆっくりと乾いた唾を飲み込んだ

バスティアンは、習慣的に

タイの結び目を握りました。

しかし、最後まで、それを

引っ張ることはできませんでした。

蠢く首筋が落ち着くと、

バスティアンは、

なかなか解けなかったタイから

手を放しました。

自分が情けなくて、

自嘲が漏れましたが、

結論は変わりませんでした。

今のまま、もう少し、

残しておきたいと思いました。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain

f:id:myuieri:20210206071517p:plain

マンガには出て来なかった

ヘルハルト家での

オデットとカタリナのやり取り。

最初は、

バスティアンが考えていたような

目的で、二人の公爵夫人は、

オデットとバスティアンを

昼食に招待したのかもしれませんが

仲間外れにされているバスティアンを

上手く会話に引き入れ、

おそらくバスティアンを

見下していたであろうカタリナが、

バスティアンに

エスコートさせるまでにするなんて

オデットの手腕が素晴らしかったです。

彼女は、鞭で叩かれながらも、

母親から厳しい教育を受けたおかげで

社交界で自然に会話を広げる方法を

学んだのではないかと思いました。

そして、今回のお話で、

レイラを登場させる必要は

なかったように思いますが、

Solche様の遊び心が嬉しかったです。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain