自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

泣いてみろ、乞うてもいい 167話 外伝15話 ネタバレ 原作 あらすじ 美しい時代

167話 外伝15話 道路を挟んで、マティアスとカイルの目が合いました。

二人の男は、しばらく落ち着いて、

お互いに見つめ合いました。

あえて視線を逸らそうとせず、

特に意識することもなく、ただ、

お互いに相手を見ていた時間でした。

 

先に終わりを告げたのは公爵でした。

カイルのいる方向へ体を回すと

簡潔な黙礼を送りました。

首をまっすぐに伸ばしたまま、

軽く顎の先を動かす彼の身振りから、

適切な礼儀と無心さが

滲み出ていました。

時折出会う主治医の息子に対していた

まさに、あのヘルハルト公爵と

少しも変わらない姿でした。

 

カイルは、

マティアス・フォン・ヘルハルトという

名前が、自分の人生において、

何の意味も占めていなかった

あの時代のように、

相手が示した礼儀に相応しい短い挨拶で

答えました。

 

あの男は、

少しも変わっていませんでした。

その事実を虚しく感じたけれど

一方では安心したりもしました。

彼のあのような面貌の中に、

もしかしたらレイラの幸せが

あるかもしれないからでした。

 

公爵は、すぐに、

完璧な貴族であり、

かつビジネスマンの姿で、悠々と

ホテルの中に入って行きました。

カイルは遠ざかって行く彼の後ろ姿を

淡々とした眼差しで見守りました。

 

わざわざ探そうと努力しなくても、

時々、ヘルハルト公爵夫妻のニュースを

聞くようになりました。

このベルクの空の下に住む限り、

避け難いことでした。

 

全帝国を騒がせた結婚と

公爵夫人になった愛人。

そして彼らの私生児への関心は、

しばらく熱く続きました。

毎日のように、

新しいゴシップが沸き起こり、

あらゆる憶測と非難が続きました。

その件に、最も熱心だったのは

貴族社会でしたが、

公爵夫人が入学し、そして

スキャンダルの主人公の一人である

主治医の息子が在学中の大学の状況も

大きく変わりはありませんでした。

 

カイルは、その全てのことと

無関係な人のように、

この一年を過ごしました。

二つの季節が過ぎた頃には、

何とか彼の反応を引き出そうと

努力していた彼らも、

結局は諦めたようでした。

彼らの口に鍵をかけることに、

もちろん、あの男も、

大きく貢献したということを

カイルはよく知っていました。

 

ヘルハルト公爵は、

自分の妻に夢中な男だ。

 

ベルクの貴族が、

その事実を深く悟るまで、

それほど長い時間は

かかりませんでした。

彼は躊躇うことなく、その事実を

証明して見せたからでした。

その方法が、

どれほど残酷になり得るかを

はっきりと知った貴族たちは、

少なくとも、これ以上、公然と

公爵夫人に食って掛かることは

できませんでした。

その一つを除く他の全ての面貌は

以前と少しも変わらないという

事実は、人々がヘルハルト公爵を

さらに恐れる理由になりました。

 

公爵の姿が見えなくなると、

カイルも病院に向かいました。

広い歩幅で踏み出す足取りは、

大の仲良しと一緒に

アルビスを歩いていた

あの少年のように快活でした。

 

公爵は決して良い人ではないという

カイルの見解は

変わっていませんでした。

これからも、

永遠にそうなるはずでした。

しかし、だからこそ、公爵は

良い夫として生きていけるだろう。

おかしなことに、カイルは

その事実も変わらないということを

知りました。

ヘルハルト公爵のスケジュールは

ぎっしり詰まっていました。

外務部の昼食会が終わるや否や

このホテルに移動し、

ここで開かれる実業家の会合が終われば

理事会に出席し、

海外の新規の油田への投資の件を

確定しなければなりませんでした。

こんなに急ぐ必要のないことでしたが

マーク・エバースは

不必要な言及をせずに

公爵に随行しました。

 

公爵がアルビスを去った日、

見送りに出た公爵夫人は

何日かかるのかと、

とても名残惜しそうに尋ねました。

 

しばらく考え込んでいた公爵は

一週間くらいと答えました。

その約束を守るためには、

スケジュールが、

あまりにも過密になるに違いないのに

彼は、全く意に介さない顔を

していました。

予想していたよりも短い期間なのか、

公爵夫人は、

嬉しそうな様子を隠せませんでした。

 

彼女は微笑みながら

「待っています」と告げると、

公爵は短い別れのキスで応えました。

 

それが全てでしたが、

すでに、その瞬間、

マーク・エバースは、

あの男は、どんな手を使ってでも

一週間以内に、全ての仕事を終えて

止めさせるということが

分かりました。

だから、どうしようもない。

多少、無理なスケジュールだとしても

素直に

受け入れるしかありませんでした。

 

ホテルのロビーを通って

宴会場に向かう途中、

マーク・エバースは、今日の会合で

別途に話し合わなければならない

名称とその案件について、

もう一度、簡単に報告しました。

その言葉に耳を傾ける瞬間も、

マティアスの姿勢と足取りは

崩れませんでした。

一種の習慣のように浮かべている、

適度な礼儀以上、

何も含まれていない微笑も

またそうでした。

 

宴会場の入り口が近づくと、

マーク・エバースは

一歩後ろに退くことで、

熟練した随行人らしい礼儀を

示しました。

そのおかげで、マーク・エバースは

公爵が入る瞬間、

彼に集中する耳と目と、

それに続くざわめき。

そして、微細ながらも

明確な気流の変化を、より鮮明に

感じることができました。

 

ヘルハルトは、

多くの敵を抱えていました。

貴族社会の枠を打ち破った結婚と

大胆で攻撃的な事業拡張を

好まない人々の数が、決して

少ないとは言えませんでした。

 

しかし、

それ以上にヘルハルトは強く、

戦後の混乱の中で、

多くの名門の家が道を見失い

力なく消え失せましたが、

ヘルハルトは、

むしろ新時代の秩序を吸収し、

日々、ますます

富強になって行きました。

 

貴族たちは、

秩序を乱した彼を非難しながらも

頼りにしたかったし、

新興資本家たちは、

自分たちのライバルを牽制すると同時に

その名前が持つ、

輝きや権威、名声を羨みました。

 

しばらく立ち止まっていた

マティアスは、

スピードを落とした足取りで

宴会場の敷居を跨ぎました。

その本音が何であれ、

この場に集まった男たちは

丁重な礼儀を尽くして、

ヘルハルト家の若い主人を

迎えました。

彼らの間を、マティアスは

ゆっくりと進み始めました。

病院の二階に上がると

「エトマン先生! 先生!」という

聞き慣れた声が聞こえて来ました。

カイルは振り返って、

日の当たる廊下を見ました。

入院している父親の見舞いに

度々立ち寄る小さな少女が

急いで走って来ていました。

 

一歩ほどの間隔を空けて

彼の前に立ち止まった子供は、

息を切らしながら笑顔を見せました。

彼を見上げる大きな緑色の瞳が

太陽の光を受けて明るく輝きました。

まだ、お医者さんではないと言って

髪がもじゃもじゃしている

子供の頭を撫でるカイルの口元に

優しい笑みが浮かんでいました。

 

「それでは?」と尋ねた子供が

小さく首を傾げると、

一つに編んだ金髪が揺れました。

カイルは、まだ学生だと答えると、

もう一度、ゆっくり

子供の頭を撫でました。

その指先に触れる

柔らかな感触に導かれて、

幼い少年の心を奪った

美しい少女がいた時代の記憶が

一つ二つと蘇りました。

 

子供は、

それでも自分にとっては

お医者さんなので、先生と呼ぶと

頑固な眼差して、

力を込めて言いました。

カイルは心地よい笑顔で

少女の意思を尊重しました。

それが嬉しいのか、子供の顔は

再び日光のように明るくなりました。

 

膨らんだポケットを

熱心に探っていた子供は、

これを先生にあげる。

この前、チョコレートとクッキーを

くれたからと言って、

桃を一個、突然差し出しました。

 

カイルは

「だから恩返しなの?」と尋ねました。

子供の「はい!」という力強い返事が

静かな廊下に響きました。

 

本当においしい桃なので、

是非食べてくださいと、

すごい秘密でもあるかのように

付け加えた子供は、

再び、廊下を走り出しました。

カイルは、うっかり受け取った桃を

手に持ったまま、

遠ざかって行く少女の後ろ姿を

見守りました。

 

病室のドアを閉める前に、

子供は小さく手を振って、

もう一度明るい笑顔を

送ってくれました。

美しい時代の中の、

あの小さな少女、レイラのように。

 

カイルは、

子供からプレゼントされた桃を

手に持ったまま

階段をさらに上りました。

父親の手伝いをする時間を除けば

カイルは一日のほとんどを

病院の三階の端にある

書斎で過ごしました。

 

数世代に渡って集めて来た

エトマン家の医学書

収めているその場所は、

勉強に集中するのに

最適な場所でした。

 

いつものように机の前に座る代わりに

カイルは、

書斎の窓際に近づきました。

そこに立つと、病院の裏側にある

小さな公園が見下ろせました。

 

カイルは、空へ舞い上がる

白い鳩の群れに向けられていた

視線を落として、

手に持った桃を見つめました。

 

分別のなかった幼い少年は

好きな女の子にあげたいものが

たくさんありました。

良い学用品、本、おやつ。

レイラが持っていないのを見ると

心が痛み、何とかして、それを

あの子にも分け与えたくて

やきもきしました。

 

幸いレイラは、

彼があげたプレゼントを

受け取ってくれましたが、

その後は必ず、

何か恩返しをしようと努めました。

 

借金をしたくないという

意味だろうか。

そういうことなら、レイラは

自分のことが嫌いなのだろうか。

 

しばらくは、そんな気がして

落ち込むこともありましたが、

レイラはただ、

良いものを受け取ったことへの

感謝の気持ちを、自分に大切なもので

表現しようとしていることを、

カイルは、

すぐに知るようになりました。

それ以来、カイルもレイラの贈り物を

喜んで受け取ることが

できるようになりました。

 

色とりどりの鳥の羽毛や

不思議な形の小石、

あるいは野生の果物。

レイラがせっせと森を駆け回って

集めて来た物は、

一様にあの子のようにきれいで

愛らしかったけれど、

カイルはその中でも

野生の果物が一番好きでした。

それを分け合って食べる時間だけ、

もう少しレイラを

見ることができたからでした。

そして、あの子が取ってきた果物は

どれも甘くて美味しい物でした。

本当にそうでした。

 

カイルは、

窓枠に斜めに寄りかかって座ると

桃を大きく一口かじりました。

子供が断言した通り、

本当においしい桃でした。

 

窓の向こうの公園を見下ろしながら

カイルは、

ゆっくりと桃を食べました。

緑が濃くなると自然に浮かぶ

薄緑色の瞳は、

あえて消そうとはしませんでした。

 

幼少期を支配していた少女の記憶は、

一生色褪せないまま、

彼の一部として残るだろう。

カイルは、もう絶望や悲しみなしに

その事実を

受け入れることができました。

叶わなかった愛だからといって、

そのすべての記憶が無意味に

なるわけではないからでした。

 

レイラがいた、あの時代は美しかったし

あの美しい時代があったからこそ

彼は少しでも良い人間に

成長することができました。

 

一番大切な友達であり、妹であり、

また恋人でもあったレイラ。

 

甘い果汁の香りが漂う手で、

カイルは固い桃の種を

包み込むように握りました。

 

君がいて本当に良かった。

感謝しているし、幸せだった。

 

伝えられないその言葉を

微笑の中に入れたまま、

カイルは立ち上がり、

医学書が積まれている机の前に

座りました。

彼の頭の上に、長く伸びて来た

夏の午後の日差しの一筋が

舞い降りました。

 

桃の香りが、ほのかに漂う手で、

カイルはゆっくりと本を広げました。

静かな書斎は、

すぐにペン先がカリカリいう音で

満たされ始めました。

その写真が入った額縁を覗き込むことは

今や一日の日課の一部として

定着しました。

 

すでに十分きれいな額縁を

念入りに磨いたレイラは、

もう一度、

写真を注意深く見つめました。

ビル・レマーが写っている

唯一の写真には、公爵一家の姿も

一緒に写っていました。

彼らが中央に座り、その後ろに、

使用人が並んでいる構図でした。

 

ビルおじさんのいる左端から

動いて行ったレイラの視線は、

真ん中にいる少年公爵の顔の上で

しばらく止まりました。

写真の下の方には、

郵便馬車が少女を乗せて来た

一年前の年号が書かれていました。

17歳の少年らしい幼い顔立ちとは違って

彼の姿勢や表情は、驚くほど

今と変わりませんでした。

公爵邸のあちこちに掛かっている

写真と肖像画を見ても、

マティアスはそうでした。

しかも、とても幼い子供の時も。

 

それが面白くて

レイラは少し笑いました。

そうして、

その笑顔の痕跡が残った優しい目で

またビルおじさんを見つめました。

 

次の休暇には、

ロビタへ旅行に行こうと

誘ってみたらどうかと思いました。

大きな戦争をした両国の関係は

まだ、以前のように

回復していませんでしたが、

それでも今や国境が

開かれたということなので、

今年の冬が難しければ、来年にでも

水の色が美しい

シエンの海辺で眠っている

ビルおじさんに会いに行きたいと

思いました。

 

力を入れて閉じた目を開けたレイラは

額縁を慎重に置いた後、

そのくらいで背を向けました。

今日の午後は、

エリーゼ・フォン・ヘルハルトが

久しぶりに

一人で外出する予定でした。

レイラが息子を独り占めできる

貴重な機会というわけでした。

 

ウキウキした気分で歩いていたレイラは

ノックの音に、

しばらく立ち止まりました。

おそらく乳母なのか、

フェリックスの明るい笑い声も

一緒に聞こえて来ました。

 

「はい、どうぞお入りください!」

息子のように明るく答えたレイラは

歩幅を少し広げて、

スウィートの応接室を横切りました。

 

しばらくして開いたドアの向こうに、

予想通り、乳母とフェリックスが

姿を現しました。

乳母は両腕を広げた母親の胸に

上手に息子を抱かせると、

後ろに下がりました。

 

かなり気品のある姿で

二人のおばあ様を喜ばせた

フェリックスは、母親の胸に抱かれると

間違いなく赤ちゃんになりました。

 

老奥様は昼寝をすると言って寝室に入り

大奥様は外出の準備をしている。

そして今日の午後には、

ご主人様が帰ってくるそうだと、

乳母は慇懃な口調で告げました。

 

息子に向き合って、

笑いながら、ふざけていたレイラは

丸く大きくなった目で彼女を見て、

「もうですか?」と確認しました。

 

レイラは、一日一日、

指折り数えて待っていたので

一週間を満たすには、

まだ一日が残っているということを

よく分かっていました。

 

乳母は、

三時までに、カルスバル中央駅に

車を待機させるようにと、

エバースさんから連絡があったと

返事をしました。

乳母の言葉が

一つ一つ積み重なるにつれ、

レイラの顔に浮かんだ笑みも

明るくなって行きました。

何度も電話をしながらも、

早く帰って来るという

約束をしてくれなかったことは、

少し憎らしいけれど、

喜んで許すことにしました。

あまりにも長く感じられた一日を

減らせることになったのは

確かに嬉しいことだからでした。

 

時計を確認したレイラは、

少し浮かれた声で、

フェリックスと散歩に行って来ると

告げました。

そして、一緒に来なくても大丈夫だと

恥ずかしそうに付け加えた

公爵夫人の命令に、乳母は

とうとう堪えていた笑いを漏らし

「はい、奥様。

行ってらっしゃいませ」と

返事をしました。

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君がいて本当に良かった。

感謝しているし、幸せだった。

この境地に至るまで、

カイルも、本当に、

たくさん苦しんだと思います。

でも、幼少期にレイラと一緒に

体験したことや、

レイラと別れてからの過酷な経験、

そして戦争を通して、

カイルは人間として、

より大きく成長できたのではないかと

思います。

 

マティアスのレイラに対する

行動を見れば、カイルは

公爵が良い人だなんて

今までも、今後も

絶対に思わないと思います。

けれでも、

マティアスが悪い行動をする時は

全てレイラのためだということを

カイルは分かっているので、

マティアスは、良い夫として

生きていけるだろうと

思ったのではないかと思います。

 

今は、まだ難しいでしょうけれど

カイルが医師となって、

病院がもっと大きくなった時、

信頼できる医師として、

カイルがレイラの子供を

診てくれるようになる未来を

望んでいます。

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