自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

泣いてみろ、乞うてもいい 168話 外伝16話 ネタバレ 原作 あらすじ 幸せな家族

168話 外伝16話 レイラはフェリックスと一緒に散歩に出ました。

市街地を抜けて

アルビスへ走っていく間、

公爵を乗せた車の中には

静寂が漂っていました。

 

無理なくスケジュールを

こなしているように見えても

疲れが、かなり溜まっていたのか、

公爵はシートに身を沈めたまま

じっと目を閉じていました。

強行軍を共にして、疲れた

マーク・エバースもまた、

口数が減って、静寂は

普段よりさらに深まりました。

 

領地へと続く閑散とした道に入ると

運転手は、少し速度を落としました。

半分ほど開けておいた窓から

吹き込んでくる風が

鮮やかな樹木の香りを運び始めました。

アルビスの始まりを告げる

木の葉の波の音も加わりました。

 

「えっ?」

のんびりした気分で、

その美しい風景を楽しんでいた

マーク・エバースの目が

大きくなりました。

それとほぼ同時に、運転手も

道の向こうから歩いて来ている

一人の女性を見つけました。

息子を胸に抱いた公爵夫人、

レイラ・フォン・ヘルハルトでした。

 

マーク・エバースは

何と言って

眠っている主人を起こすべきか

考えながら、首を回しました。

しかし、それは

不必要な悩みであったことに

すぐに気がつきました。

彼が口を開く前に、

公爵は、ゆっくり目を開けて

窓の外を見ました。

公爵が一気に妻を見つけたことは

彼の口の端に浮かんだ微かな笑みを

見ただけで、分かりました。

公爵は、概して

微笑を浮かべた表情で

世間と向き合っていましたが、

その微笑に温もりを

吹き込むことができる人は、

彼が知る限り、

あの美しい女性一人だけでした。

 

主人が命令する前に、

マーク・エバースは運転手に

そっと目配せをしました。

状況を把握した運転手もまた、

特に反論することなく車を止めました。

 

彼が急いで後部座席のドアを開けると、

マティアスは、

脱いでおいたジャケットを持って

道の上へ降り立ちました。

 

「お疲れさまでした」と労った

マティアスは、

そのジャケットを再び着ました。

タイの結び目、

ベストを飾る懐中時計の紐、

そしてカフスボタンの形まで

綿密に着飾った後、

ジャケットのボタンを留める手つきは

水が流れるように自然でした。

 

「屋敷で会いましょう」と

一層、柔らかくなった口調で

告げたマティアスは、

このくらいで背を向けました。

彼を発見したレイラが

小さく手を振ると、

母親の胸に抱かれたフェリックスも

一緒に手を振りました。

マティアスは、軽く後ろ手を組んで

妻と息子に近づき始めました。

 

その間に、

車は静かに去って行きました。

人目がなくなると、

レイラの足取りは一層速くなりました。

日に日に重くなる

フェリックスを抱いていても、

歩き方は、羽のように軽やかでした。

 

マティアスは思わず足を止めました。

大木の影が揺らめく道を

歩いてくるレイラが

風が止んだ水面のような瞳に

映りました。

 

レイラが来る。

道沿いを流れる風と共に、

永遠に止むことのない

緑の波の音のように、

レイラが私のもとへやって来る。

 

彼の静かな瞳に、

微かな笑みが広がり始めた頃、

小走りしながら近づいて来たレイラが

突然止まりました。

 

意外な行動に、マティアスの目が

徐々に細くなっていく間、

レイラは子供と顔を合わせながら

いくつかの言葉と笑いを交わしました。

そして、ゆっくりと

懐に抱いていたフェリックスを

下ろしました。

 

「おと~さま~!」

歓声に近いフェリックスの叫びが

けだるい午後の空気を揺さぶりました。

せっせと走り出した子供の足音も

その後に続きました。

 

マティアスは、ニッコリ笑って

その姿を見守りました。

子供がふらつく度に、

セーラーカラーが、羽のように

ひらひら揺れました。

何度かふらついたものの、

最近になって

急に足の力が強くなったフェリックスは

転ぶことなく

彼の目の前まで走って来るのに

成功しました。

 

「お父様、お帰りなさい」

マティアスと目が合うと、

子供は小さな手を振りながら

挨拶しました。

そして、ガバッと、

まるでしがみつくように

彼の足を抱きしめました。

その瞬間も、

にこにこ笑っている顔からは、

母親に似た茶目っ気が

滲み出ていました。

 

「ただいま」

ぼんやりと息子を見つめていた

マティアスの口元に

クスッと笑みが浮かびました。

 

彼は「フェリックス」と呼ぶと

巧みな動作で、子供を

ひょいと抱き上げました。

レイラは、ようやく

二人のそばにやって来ました。

喜びを隠せない顔で、

フェリックスのように

ニコニコ笑っていました。

マティアスは、

子供を抱いたまま妻の手を握り、

晩夏のプラタナスの道を歩きました。

 

この一週間の出来事を

ぺちゃくちゃ喋るレイラの声は、

木の葉の間から差し込む

日差しの欠片のように

明るくて温かでした。

 

少し前まで、

今日勉強した植物学について

話していたレイラは、

早く帰って来てくれて嬉しいと

突然、突拍子もないことを

言いました。

マティアスは、

そばに立っている妻を見下ろしました。

目が合っても、

レイラは慌てることなく、

「たくさん待った」と言いました。

 

欲望の手段として

利用するつもりなのかという

彼の冗談にも、レイラは

「はい」と平然と応酬しました。

そして、

それが全てではないけれど、

そのような面がないわけでもないと

言うと、

澄んで真っ直ぐな眼差しで

彼を見上げながら、大胆不敵に

ペチャクチャ喋り続けました。

だからマティアスは

気づかないふりをすることにしました。

赤みを帯びた耳たぶと、

落ち着きのない手。

子供のような悪戯心さえ隠せない

その恥じらう様子は、

ただ彼だけのものとして

秘めておくのも悪くないからでした。

 

マティアスは、素直に

納得するように頷きましたが、

レイラは、しばらくして

堪えていた笑いを噴き出しました。

母親が嬉しそうに笑うと、

わけの分からないフェリックスも

一緒に笑って

静かだった道が騒がしくなりました。

 

二人は手を繋いで、

つまらない冗談と笑いを交わしながら

プラタナスの道を歩きました。 

 

威圧感を与えるほど大きくて華やかな

アルビスの正門に入る前、

レイラはしばらく足を止め、

「会いたかったです」と

淡々と告白しました。

そして、

何度もあなたのことを思い出し、

考えれば考えるほど

ますます会いたくなった。

それで、とても待ったと

打ち明けました。

率直な気持ちを表すことは

思ったよりずっと簡単だったので

少し虚しかったりもしました。

 

「あなたは?」

すでにその答えを知っていながら、

レイラは催促するように尋ねました。

そして、その答えを聞きたくて

「あなたはどうでしたか?」と

 駄々をこねる子供のように

再び尋ねました。

 

マティアスは短くキスをすることで

代わりに答えました。

望んでいた答えではありませんでしたが

レイラは満足することにしました。

 

唇が優しく触れ合って息が混じり合う

親密で優しいキスを

交わすことができる仲である事実を

レイラは嬉しく思いました。

この男とこんな瞬間を共にできるとは

想像すらできなかったからでした。

 

二人の唇が再び触れようとした瞬間、

「お父様、お父様」と

おとなしく見守っていたフェリックスが

ぐずり始めました。

 

望む反応が得られないと、

フェリックスは、

「お父様、お父様」と、今にも

泣き出しそうな顔になりました。

マティアスは少し眉を顰めて

腕の中でもがいている息子を

見つめました。

 

ものまねでもするかのように

眉を顰めて父親を見ていた

フェリックスは、チュッと

呆れるくらい大きな音を立てながら

マティアスの頬にキスをしました。

そうして堂々と、

あまりにも当然であるかのように

自分の頬を突き出しました。

 

レイラは、

息子があなたを

こんなにたくさん愛していて

良かったですねと言うと、

期待に満ちた目で

二人の男を見つめました。

早く行って

お父様を愛してあげましょういう一言を

このように、

よく理解しているのを見ると、

フェリックスは本当に

賢い子であることが明らかでした。

 

しばらく躊躇っているようでしたが

マティアスは笑みを浮かべた唇で

息子の頬にキスをしてくれました。

報われた愛が嬉しかったのか、

フェリックスは、上機嫌で笑いながら

騒ぎ始めました。

 

自分たちの次の子供も、

フェリックスのように

あなたを愛するでしょう。

きっとそうなる。確信していると、

マティアスの両目を見つめながら

レイラは力を込めて言いました。

公爵一家は、

夏の終わりを予感させる

涼しい風が吹いてくる頃に

アルビスを去りました。

 

一つの季節が過ぎただけなのに

フェリックスは、

ぐんと成長しました。

ラッツ邸に留まっていた使用人たちを

驚かせるほどの成長でした。

 

レイラは一生懸命

次の学期に備える勉強をし、

また水泳を習いました。

学問的な成果は上げたようだけれど

水泳は、はてさて。

しかし、

悲鳴を上げずに水に浮くことが

できたということだけでも、

レイラは十分幸せでした。

 

最後にシュルター川で

水泳を学んだ夕方、

船着き場の端に座って

夕焼けを眺めながら、レイラは

来年の夏は背泳ぎを習うと、

力強い抱負を語りました。

 

そして、

自分もあなたのように、

あんな風に泳いでみたいと

真剣に願うと、マティアスは、

すごい冗談でも聞いたかのように

笑いました。

プライドが少し傷つきましたが、

レイラは許しました。

「ああ」と、

水鳥の羽のように柔らかな声で

彼が約束してくれたからでした。

「そうしよう、レイラ」と言う

その一言だけで、

また幸せな夏を過ごせるようになった

気分でした。

 

では、彼にとっては

どんな時間だったのだろうか。

レイラは疑問のこもった目で

食卓の向かいの席に座っている

マティアスを見つめました。

ちょうどグラスを下ろしたばかりの

マティアスも彼女を見つめました。

取り替えたカーテンの隙間から

差し込んでいる一筋の光が、

何か言いたいことがあるのかと

尋ねるように、

眉を顰めているマティアスを

照らしていました。

 

レイラは、

今日も忙しいのかと尋ねると、

多くのことが変わったようでも、

相変わらず、そのままのようでもある

その美しい顔を見つめながら

ナプキンをそっと握りしめました。

マティアスは、

「たぶん」と答えました。

 

レイラは、

それでは夕食を一緒に食べるのは

難しいかと尋ねました。

「う~ん」と

しばらく考え込んでいたマティアスは

鐘を鳴らして随行人を呼びました。

レイラは、

ナプキンを力いっぱい握ったまま、

二人の短い会話が終わるのを

待ちました。

 

随行人を下がらせたマティアスは

食事の時間が少し遅くなっても

大丈夫かと尋ねました。

レイラは、

何時なのかと尋ねました。

マティアスは、

たぶん、九時頃と答えると、

レイラは、

大丈夫、待っていると、

快く承諾しました。

今、話した方がいいか悩みましたが

やはり、はっきりさせておく方が

良さそうでした。

 

食事を終えたマティアスは

すぐに会社に行きました。

彼を見送ったレイラは、

いつものように庭の手入れをしたり

本を読んだりする代わりに、

応接室の長いソファーに

身を横たえました。

少し目を閉じただけなのに、

目を覚ますと、いつの間にか

学校へ行く時間でした。

 

目を覚ましたフェリックスを

抱いて来た乳母が、

大丈夫か。

もしかして具合が悪いのかと

尋ねました。

レイラは、

具合の悪いところはないと答えると

少し気まりが悪そうに

フェリックスを抱き締めました。

 

しかし乳母は、

最近になって、

めっきり、眠そうにしていて、

疲れているようだし・・・と

言ったところで、

心配そうにレイラを見ていた目が、

一瞬で大きくなりました。

 

「まさか・・・」と驚く乳母に、

レイラは、

今日の夕方頃、

フェラー先生に会えるかと、

フェリックスの頭をなでながら

恥ずかしそうに尋ねました。

乳母は、

もちろん、いくらでもと答えた後、

今、主治医を呼んだらどうかと

提案しました。

ほんのりと赤い公爵夫人の頬を

覗きこんだ乳母の顔に

喜びの色が浮かびました。

 

しばらく考え込んでいたレイラは、

小さく首を横に振りながら

体を起こすと、

夕方、授業が全て終わった後に

会うと答えました。

 

その言葉に驚いた乳母は

まさか学校へ行くつもりなのかと

尋ねました。

驚愕する保母とは違い、

レイラは、落ち着いて

行って来ると答えて頷きました。

 

優しい笑顔とは裏腹に、

その眼差しは断固としていました。

ある面において、

かなり頑固な公爵夫人の性情に

詳しい乳母は、それ以上

引き止めることができませんでした。

 

乳母は、

まさか自転車に乗って

行くつもりではないですよねと

尋ねました。

邸宅の花壇のそばに立てかけてある

公爵夫人の銀色の自転車を見た

彼女の目が鋭くなりました。

レイラは笑いながら頷き、

自転車には乗らないと答えました。

 

乳母は、

すぐに車を用意させると

言おうとしましたが、レイラは、

散歩がてら歩いて行く。

そうしたいと告げると、

明るい笑みを浮かべて、

手に持っていた革のカバンを

肩にかけました。

ビルおじさんがくれた

最後の誕生日プレゼントのカバンは

もうかなり古くなっていたけれど

それでもレイラは、

大学に通う間ずっと、

このカバンと一緒にいるつもりでした。

 

保母とメイドたちは

何度となく驚愕しながら、

神に祈りましたが、

ついに公爵夫人の頑なな意志を

くじくことはできませんでした。

 

屋敷の玄関まで付き添って来た

彼女たちを、ようやく安心させた後

レイラは、

大学へ出かけることができました。

軽やかな一歩を踏み出した公爵夫人は

突然、振り返ると、

公爵には、

フェラー先生と会った後に、

自分が直接話すようにすると

告げました。

戸惑っていたメイドたちの顔にも、

すぐレイラに似た笑みが

浮かびました。

 

「はい、奥様!

ご心配なく、秘密は守ります!」と

合唱のような返事が

秋の日差しの中に染み込みました。

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フェリックスを妊娠していた時は

誰にも、その事実を話せず、

祝福もしてもらえず、

おそらく医師の診察も

受けていなかったのではないかと

思いますが、

今回は、妊娠したかもしれないと

分かった途端に、祝福してくれて、

気にかけてくれる人々が

たくさんいてくれることに、

レイラは、心から

幸せを実感していると思います。

どうか、マティアスが

淡泊過ぎる反応を

示しませんように(笑)

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