
2話 披露宴会場でエリザベスとエドワードが探しているローラとは誰?
エドワードは、ざっと
披露宴会場を見回しました。
多くの婦人や淑女たちの中から
ペンドルトン嬢を見つけるのは
容易なことではありませんでした。
特に女性の華やかな服装に慣れていない
船乗りのエドワードにとっては
なおさらでした。
しかし、彼は、そばで、
やきもきしている妻のためにも
ペンドルトン嬢を
見つけなければなりませんでした。
彼は普段のペンドルトン嬢の特徴を
思い返してみました。
ヘアネットにきちんと固定された
赤毛の髪。
自分の妻と同じくらい白い肌、
質素で端正な服装。
そして、いつも首にかけている
真珠のペンダント。
いつも片隅で友達と話をしていたり、
静かに人々を見つめていた姿。
彼は披露宴会場の目立たない場所を
注意深く見ると、
すぐに、彼の視界に
ペンドルトン嬢が入って来ました。
やはり、いつものように
ヘアネットできれいにまとめた髪型で
あまり装飾がない絹のドレス姿でした。
彼女は自分と同じように
地味な服装のお嬢さんと
真剣に話を交わしているところでした。
エドワードは、
すぐにエリザベスを連れて
彼らのテーブルに近づきました。
夫妻が自分たちに近づいてくることに
気づくと、二人の淑女たちは
話をぴたりと止めて
その場から立ち上がりました。
淑女たちは
膝を曲げて挨拶をしました。
いくつかの格式ある挨拶と
お祝いの言葉が交わされました。
しかし、
ペンドルトン嬢のそばに立った淑女が
空気を読むように
食べ物を持ってくるという言い訳をして
ビュッフェテーブルの方へ消えると、
エリザベスは、すぐに
格式ばった態度を捨てて
飛びかかるように、
彼女を抱きしめました。
エリザベスは、
なぜ控え室に来なかったのか。
自分のドレスの状態を
チェックしてくれることに
なっていたのにと
ペンドルトン嬢を責めました。
彼女はエリザベスの頭を
優しく撫でると、
申し訳なかった。
祖母のめまいがひどくなったので、
午前中、ずっと
そばにいてやる必要があったと
謝りました。
エリザベスは抱擁を解いて、
心配そうな表情で
ペンドルトン嬢を見つめました。
エリザベスは、
あまり良くないのかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
いいえ、深刻ではない。
安静が必要な程度、
主治医の先生に休むように言われて
祖母は、とても怒っていた。
よりによって、ベスの結婚式に
こんなことになるなんてと、
答えました。
エリザベスは、
今日、出発する前に、
少し、寄って行こうかと言いましたが
ペンドルトン嬢は、
絶対に止めて欲しい。
祖母のせいで、
あなたの出発が遅れたりしたら、
もっと怒るだろうし、その怒りは全て
哀れな主治医の先生に
向けられると言って断りました。
エリザベスは、少し悩んだ後
それでは、ウェブスター先生のためにも
我慢しなければならない。
代わりに、自分からよろしくと
伝えて欲しい。
そして、イタリアに到着したら、
すぐに手紙を出しますということも
伝えて欲しいと頼みました。
そして、
おばあ様へのプレゼントを
買って来るけれど、
何がいいと思うかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
祖母は、いつものように
イタリアの最新楽譜と小説だと
答えました。
エリザベスは、
ペンドルトン嬢にも尋ねました。
彼女は、
イタリアで起こった話の数々と
ヘアピンを一つと答えました。
エリザベスは、彼女が
そのように言うことを
知っていたかのように、
首を横に振ると、
いえ、お姉様には必要なものがある。
イタリアで最も高価で最も華やかな
雪のように真っ白な
レースのショールが必要だと
主張しました。
ペンドルトン嬢はクスッと笑うと
自分の答えは、
もう決まっていたのかと尋ねました。
エリザベスは
「もちろんです」と答えました。
ペンドルトン嬢は濃い灰色の目で
温かくエリザベスを見つめながら
他の人へのお土産だけで
山ほどあるだろうから、
余計な荷物を増やさないでと
頼みました。
しかし、エリザベスは
とんでもないことを言わないで。
他の人たちへのプレゼントはともかく
お姉様へのプレゼントは
抜かすわけにはいかない。
お姉様がいなかったら、
エドワードと自分が
新婚旅行へ行くこともなかったと
言うと、エドワードの方へ顔を向けて
「そうでしょう」と
同意を求めるように尋ねました。
エドワードは、
普段の面白みのない表情が許す限り、
最大限の同意を込めて頷くと、
他の人はともかく、
ペンドルトン嬢には、プレゼントを
差し上げなければならないと
答えました。
エリザベスは、
ほら、うちの夫もそう言っていると
言うと、ペンドルトン嬢は
困ったように微笑みました。
彼女は、
それなら、 小さなヘアピンにしてと
頼みましたが、エリザベスは
ダメ。お姉様が巻いているショールは
黄色っぽくて、全然、お姉様の肌の色と
合っていない。
ずっと、そうして断り続けるなら、
お姉様の家の使用人を買収して
お姉様が一番大事にしている
緑色のタータンチェックのドレスに
そのショールを
しっかり縫い付けてしまうと
脅しました。
その言葉に
ペンドルトン嬢は大笑いしました。
いつも青白い彼女の頬が
赤くなりました。
彼女は、愛情たっぷりの眼差しで
エリザベスを見つめ、すぐに
彼女のまっすぐできれいな額に
キスをしました。
ペンドルトン嬢は
喜んで受け取ると返事をしました。
エリザベスはペンドルトン嬢に
キスを返しました。
そして腰をギュッと抱き締めると
しばらくの間、
ペンドルトン嬢の首筋に
顔を埋めました。
エリザベスは、
まるで幼い頃に亡くなった母親の膝に
顔を埋めているかのように
安心するのを感じました。
まもなく、
ペンドルトン嬢の胸から抜け出して
夫のそばに立ったモートン夫人は、
ハネムーンの間、イタリアのどこで
どんな時間を過ごすかについての
近い予定から、子供を何人産んで
どのように育てるかについての
長い人生計画まで、
彼女に話しました。
ペンドルトン嬢は、いつものように
灰色の目で、相手をじっと見つめながら
話を聞き
温かい言葉で励ましました。
数十分が過ぎ、
一つのテーブルに長く留まることが
礼儀に合わないことを意識した夫婦は
それぞれ抱擁と握手で
ペンドルトン嬢と別れを告げ
彼女の席を離れました。
ペンドルトン嬢は、
腕を組んで立ち去る
モートン夫妻の後ろ姿を
長い間見つめていました。
先ほど式場で、
デイヤー子爵の腕をつかんで
ウェディングロードを歩いていた
エリザベスの姿を見た時のまま。
胸の中で満足感が
満ち溢れていました。
胸がいっぱいにならないわけが
ありませんでした。

彼女が初めてベスに会ったのは、
もう12年も前のことでした。
12年前、寄宿学校を出て
祖母と一緒に
デイヤー子爵家を訪問した時、
ベスはわずか七歳でした。
ベスは初めて会った自分を
プレイルームへ連れて行き、
自分の全ての人形を紹介してくれて、
自分で作った砂糖茶を
振る舞ってくれました。
その後、ずっと
ベスとペンドルトン嬢は友達でした。
友達というより、
姉妹のように仲良しでした。
そんな子供がもう大人になって
立派な夫候補と出会い、
姓まで変わるなんて。
彼女は感慨深く、
不思議と悲しくもなりました。
彼女は、
なぜか涙が出そうになったので
首を横に振りながら席に座りました。
そして、
そばに置いてあったコーヒーを
数口飲みました。
冷めてしまっていて、
風味はありませんでした。
その時ちょうど、
先ほど席を外してくれた
ジェーン・ハイド嬢が
熱いコーヒーを一杯と
ケーキのお皿を持って
テーブルに戻って来ました。
ペンドルトン嬢は、
ハイド嬢のスカートに
先程までなかった謎のシミを見て、
ハイド嬢が、
また何かを食べこぼしたのだと
直感しましたが、
何も言いませんでした。
ハイド嬢は
ペンドルトン嬢の冷めたコーヒーを
熱いコーヒーに交換した後、
ペンドルトン嬢と自分の中間に
ケーキを置きました。
ハイド嬢は、
さきほど、ペンドルトン嬢と
話していた時のように、
落ち着かない表情のままでした。
ペンドルトン嬢は、
心の中でため息をついた後、
中断していた話を続けました。
それでは、フェアファクス氏が
今週中に
プロポーズするということなのかと
ペンドルトン嬢は尋ねました。
ハイド嬢は頷きながら
「はい」と返事をすると、
額を手で押さえました。
ハイド嬢は、
おそらく、明後日あたりに
訪ねて来ると思う。
遠回しに言うような人ではないので、
自分の応接室で跪いて、
自分の手を握りながら
自分と結婚して欲しいと
単刀直入に言って来ると思う。
こんなに困ったことがあるだろうか。
あの人が自分を好きだったなんて。
誰が想像できただろうかと
嘆きました。
二人のことを知っている
ロンドンに住む全ての人々が
そんな想像をしていたという事実を
ペンドルトン嬢は
あえて言いませんでした。
ペンドルトン嬢は、
確かにハイド嬢としては
本当に戸惑っているだろう。
実際、プロポーズというものは
する側は、何十回も悩んで、
準備してから行うものだけれど、
受ける側は、
突然、事故に遭うようなものだ。
それでもフェアファクス氏は
手紙を書いて予告をしてくれたので、
幸いといえば幸いだ。
ところで、自分の目には
ハイド嬢が驚いているだけでなく
他の理由でも
苦しんでいるように見えるけれど、
何が問題なのか聞いてもいいかと
尋ねました。
ハイド嬢は唇を噛み締めながら
ペンドルトン嬢を見つめると、
どうしていいか分からないと
答えました。
ペンドルトン嬢が
「分からないって?」と
聞き返すと、ハイド嬢は、
フォークを手に取り、
ケーキにブスッと刺しました。
そして、
フェアファクス氏は立派な方だ。
自分が何を言っても
よく聞いてくれるし、
関心を持ってくれるし、
たまに間抜けなミスをしても
絶対に眉を顰めない。
この前、自分が落馬して、
乗馬服が泥だらけになって現れても
フェアファクス氏は全然動揺もせず、
自分を公爵夫人のように扱ってくれたと
話しました。
ペンドルトン嬢は、
「そうです。本当にいい方です。
でも?」と聞き返しました。
「でも・・・」と呟いた
ハイド嬢は、淡褐色の瞳を
きょろきょろさせながら、熱心に
言葉を見つけようとしているように
見えました。
しかし、結局、何も言わずに
唇を噛み締めながら、
無関係なケーキを、
ただ押し潰すだけでした。
ペンドルトン嬢は、
ハイド嬢のこのような態度に
疑問を感じざるを得ませんでした。
フェアファクス氏は
素晴らしい求婚者でした。
由緒正しい郷士家門の次男。
貿易業で成功して
一代で財を成した事業家であり、
長身で端正な顔立ち。
そして、彼自身の所有地と
カントリーハウスまで持っていました。
ロンドンに住む未婚のお嬢さんが、
フェアファクス氏のように
条件の良い男性に求愛される状況で
ここまで苦しむ可能性は一つだけ。
すでに結婚の約束をしている男性がいて
その男性より新しい求婚者の方が
条件が良い場合でした。
こういう時、女性たちは
婚約者への貞節と
新しい求婚者に鞍替えしようとする
誘惑の間で激しく悩みました。
さらに、その悩みがあまりにも深く、
死に至るほどでした。
しかし、ペンドルトン嬢は、
ハイド嬢が、
そのような悩みを抱えるはずがないと
断言できました。
道徳性の問題ではなく、
ハイド嬢は、恋愛に対して
全く興味がありませんでした。
彼女の関心は、クリケットと乗馬、
分厚い装丁に包まれた本だけでした。
彼女と出会ってから十数年が経つ
ペンドルトン嬢は、
彼女が情熱を注ぐ対象が
いつも同じだったことを、
神の前でさえも、
証言することができました。
ペンドルトン嬢は
静かにコーヒーを飲みながら、
ハイド嬢が何か言ってくれるのを
待ちました。
しかし、ハイド嬢は
フォークでケーキを押し潰して
一つの醜い塊にすることだけに
没頭していました。
彼女の頭の中では、依然として
分からないままの考えが
行き交っていました。
確かに自分自身でも分からないけれど
だからといって無視することもできず
無視することが不可能な
ある感情の正体を明らかにするために
苦心しているところでした。
普段から語彙力が優れていて、
どんな言葉でも、
すらすら口にするハイド嬢には
なかなか見られない姿でした。
ハイド嬢は、
すぐに自分の地に旗を立てるように、
塊にフォークを突き刺すと、
自分がプロポーズを断ったら、
フェアファクス氏は
とても悲しむだろうかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は、その質問に
持っていたグラスを
落とすところでした。
彼女はハイド嬢に、
断るつもりなのかと尋ねました。

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ペンドルトン嬢は、
とても優しくて、親切で、
穏やかで、慎ましやかで、
つい相談事をしたくなるような
女性なのでしょうね。
見る目のある男性だったら、
絶対に彼女のことが
好きになるはずです。