
9話 ついにペンドルトン嬢とイアンが出会いました。
ペンドルトン嬢はダルトン氏に
挨拶をすると、
フェアファクス兄妹を通じて
話をたくさん聞いていると告げました。
ダルトン氏は口元を上げると、
ジャネット嬢とウィリアムが
自分について、
どんな話をしていたのかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
甥っ子たちに対して、
叔父としての役割をしっかり果たし、
お姉様にとっても、良い弟だと
聞いていると答えました。
ダルトン氏は、
自分が良い叔父かどうかは、
彼らに聞いてみるべきではないか。
大人たちが自分の考えで、
立派にやっていると言っても、
子供たちから見れば違うだろうから。
姉についても同じこと。
実はこの点については、
はっきり言えるけれど、
自分は良い弟の役割を
果たしているわけではないと
主張しました。
ペンドルトン嬢は、
その理由を尋ねました。
ダルトン氏は、
聞いていると思うけれど、
姉が自分をこの場に押し出すまで、
どれだけ、たくさん苦労したことか。
普通の良い弟なら、
自分の母と同じくらいの年齢で
しかも、年を取って産んだ子が
一歳にもなっていなくて、
産後の病いで苦しんでいる
姉の言うことを、文句も言わずに
聞くべきではないかと
ややひねくれた返事をしました。
それを聞いたペンドルトン嬢は、
そっとフェアファクス氏を見ました。
彼は困ったように微笑みながら、
申し訳なさそうな表情をしました。
しかしペンドルトン嬢は、この紳士に
何の反感も抱きませんでした。
フェアファクス氏への友情が
ダルトン氏への批判に
ブレーキをかけていましたが、
ダルトン氏の態度は、
普通の紳士たちとは違う
面白い部分がありました。
普通、
お金持ちで礼儀知らずの紳士は
傲慢さや浅はかさに浸っていました。
そのような部類の人々は、
行動と目つき、話し方から
違っていました。
怠惰で浅はかな悪臭が
漂っていたからでした。
ペンドルトン嬢は、
そのような匂いを嗅ぎ分ける
鬼神でした。
しかし、目の前のダルトン氏からは
悪臭は感じられませんでした。
気品があって、さっぱりしていました。
ただ、
先日、エリザベスと結婚した
気性が尋常ではないことは
明らかでした。
果たしてこの男性も
モートン氏のような部類の
紳士だろうか。
ペンドルトン嬢は、
この若い紳士について
もう少し忍耐強く、
調べたくなりました。
しかし、その前に、
このひねくれた態度から
どうにかしなければ。
そう考えた、ペンドルトン嬢は、
しかし、ダルトン氏は、
結局ここへ来てしまった。
姉の影響力がほとんどない
ロンドンでは、全てを無視して
思う存分、自由を
享受することができるはずなのにと
言いました。
ダルトン氏は、
自分の姉を甘く見てはいけない。
手紙一通で、ロンドンに
自分の代理人を作った人だ。
ウィリアムは、彼女の忠実な臣下だと
言い返しました。
フェアファクス氏は、
淑女の前で自分をバカにするのが
面白いのかと
ダルトン氏を非難しました。
しかし、ペンドルトン嬢は、
自分はフェアファクス氏が
馬鹿だとは思わない。
ただ、ダルトン氏は、
自分が褒められるのを
恥ずかしがる人だと
思っているだけだと言いました。
ダルトン氏は眉を顰めながら、
自分が褒められるのを
恥ずかしがっていると思うのかと
尋ねました。
ペンドルトン嬢は「はい」と答え
褒められるより悪者に見られることを
選んでいる人に見える。
そして、自分はそれが
とても立派な態度だと思うと
答えました。
ダルトン氏はペンドルトン嬢に
どの部分で自分が立派に見えるのか。
その逆ならまだしも、
自分は社交界の誰からも、
そのような評価を受けたことがないと
主張しました。
ペンドルトン嬢は楽しそうに笑うと
ダルトン氏は、
質問の中に答えが隠されているという
立派な例を見せてくれている。
あえて聞いてもいない
自分の悪い評判を持ち出して、
自分が悪いということを
強調しているのは、謙遜さ、
あるいは恥じらいから来る
態度だ。
そして、いずれにせよ、それは、
紳士が持つのに立派な美徳だと
思うと答えました。
ダルトン氏は、
謙遜だろうが恥じらいだろうが
自分を偽って騙すのは
悪い態度だと思う。
自分はペンドルトン嬢に対して、
何も偽っていないし
騙してはいないので、
自分を嘘つきだと思うのは
止めてくれないかと訴えました。
ペンドルトン嬢は、
それでは、まず、
自分のことを悪く言って
わざと自分の評判を落とすことから
止めてもらえないかと頼みました。
ダルトン氏は、
甥っ子たちにとって自分は、
良い叔父ではないし、
姉には気苦労をかける弟だと、
ありのままを言っただけだと
反論しました。
しかし、ペンドルトン嬢は、
それは別の意味を持っている。
幼い甥っ子たちが、
自分のことをどう見ているか
勝手に推測する代わりに、
子供たちの考えを
慎重に考慮しているという意味だし
姉に気苦労をかけたくなくて、
こんなに素敵な燕尾服を着て
舞踏会に来ているという
意味でもあると言いました。
「それは・・・」
ダルトン氏は、
何か反論しようとしましたが、
言葉が見つかりませんでした。
ペンドルトン嬢は、
礼儀正しく穏やかな態度で、
世間では、自分の姉が
産後の病を患っていることを
覚えている男性を、
概して良い弟と評価するものだと
最後の一撃を放ちました。
ダルトン氏は、
すぐに口をつぐみました。
黙って二人の言い争いを
見守っていたフェアファクス氏は、
ダルトン氏が言葉を失った姿を見て
ほくそ笑みながら、
ペンドルトン嬢が勝った。
奴は、いつも、他の人たちを
慌てさせるのを趣味にしていたのに、
いざ自分がやられて
面食らっているだろう。
やはりペンドルトン嬢に紹介して
良かったと、
心の中で快哉を叫びました。
彼の考えは正しかったです。
いつものように斜に構えて、
相手を不快にさせた後、
邪魔されることなく、厄介な行事から
抜け出そうとしたダルトン氏は、
意外な反撃に
戸惑ってしまったのでした。
彼は、ぼんやりしながら、
上品な装いをして、
穏やかに笑っている目の前の淑女を
じっと見つめました。
柔らかな眼差しの奥にある
濃い灰色の瞳。
清らかで美しい顔立ち。
繊細な首筋と肩のライン。
清純で、
か弱そうに見える淑女でした。
だから、油断して、先ほどのように
呆気なくやられてしまったのでした。
彼は目の前の淑女に対して、
ちょっとした意地と好奇心が
湧いてしまいました。
彼は意識していなかったけれど、
頭の中から、
さっさと家に帰るという考えが、
洗い流したように消えていました。
ダルトン氏は、
謙遜さであれ、恥じらいであれ
何であれ、自分をけなすのは
止めることにする。
ペンドルトン嬢は、
自分がロンドンに滞在している間、
友達になってくれると聞いているけれど
それで合っているかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
ダルトン氏が望むなら、
喜んでお願いすると答えました。
ダルトン氏は、
自分が親愛なるペンドルトン嬢と
友達になったら、
得られる喜びは何なのか。
ペンドルトン嬢が、
どのように友情を与えるのかが
気になると尋ねました。
ペンドルトン嬢は
優しい笑みを浮かべながら、
自分が持っている全てのものを
与える。
突然、訪ねて来ても、
温かい火のそばに席を用意し、
良質の紅茶と共に、話し相手になる。
交友関係を広げたいなら
自分の誠実な友達を紹介し、
ロンドンのあちこちを歩きたいなら
素敵な散歩道と店を案内する。
遠くへ行っても、いつも手紙を通じて
世の中のどこかに、自分を覚えている
誰かがいるという気持ちを
感じさせてあげる。
これらが、自分が友達に
惜しみなく与えるものであり、
自分が持っている全てのもの。
つまらないものだけれど、
いつも自分に誠実に接すると
約束してくれるのであれば
自分は喜んで提供することができると
話しました。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢の言葉に
ひねくれた返事をする代わりに、
より穏やかな声で、
ペンドルトン嬢も、
謙遜しているのか恥じらいなのか
分からないような話し方をしている。
先ほど話したことは、
交友関係で得られる
最も素晴らしいものばかりだと
言いました。
ペンドルトン嬢は、
自分が持っているものは
素朴で平凡だ。
自分は、友達に多くのをものを
与える立場にはない。
それで、持っているものを
最大限に与えると返事をしました。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢からもらったものに
値札がついていないのは事実だ。
しかし、それは
値札をつけることが不可能だからだと
言いました。
ペンドルトン嬢は、
頬を少し赤らめましたが、
すぐに、それを消しました。
しかし、ダルトン氏は
鋭い観察眼を持っていたので、
その瞬間を捉えました。
そして目の前の、
この賢い淑女の恥じらいに
愛おしさを感じました。
彼は、そっと上がろうとする口元を
素早く押した後、
ペンドルトン嬢と
友情を分かち合う特権を
逃してはいけないという気がする。
どんな貴重なものを逃すより
損するだろうから。
あなたが望む通り、
いつも誠実であるようにする。
もちろん、紳士の名誉にかけてと
真剣に話すと、
彼女に手を差し出しました。
ペンドルトン嬢は彼の手の上に
軽く自分の手を置きました。
彼は頭を下げて、礼儀正しく
彼女の手の甲にキスをしました。
そして少し顔を上げて、
彼女の目を見つめながら、
「よろしくお願いします」と
告げました。
ペンドルトン嬢は、
意味不明な輝きを放つ彼の瞳に
目を合わせながら微笑みました。

「よろしくお願いします」
と告げたペンドルトン嬢は、
今日の友情の第一歩として、
自分の友達の淑女たちを紹介する。
ちょうど、この曲が終わりそうなので
新しい友達と踊ってみてと誘いました。
しかし、ダルトン氏は首を横に振ると
有難いけれど断る。
自分はダンスができないと告げました。
それを謙虚に受け止めた
ペンドルトン嬢は、
心配しないように。
自分の友達は、紳士がリズムを崩しても
文句を言わないほど寛大だと
返事をしました。
しかし、ダルトン氏は
そうではない。
自分は本当にダンスができない。
一度も正式に習ったことがないと
告げました。
ペンドルトン嬢は慌てて
言葉を失ってしまいました。
彼が踊れないなら、
彼に挨拶させるのは、別の機会に
延期しなければなりませんでした。
ただでさえ淑女たちの数が
圧倒的な舞踏会で、
紳士が淑女の方と挨拶だけして
ダンスの申し込みをしなければ、
それは大変な無礼でした。
傍らで話を聞いていた
フェアファクス氏も、
イートンスクール時代に
確かダンスの授業があったけれど、
その時、何をしていたのかと
呆れたように口を挟みました。
ダルトン氏は、
自分がそのような授業に参加すると
思っているのか?
むしろラテン語の作文でもした方が
マシだと答えました。
フェアファクス氏は、
何てことだ。この厄介者を
どうすればいいのかと嘆きました。
ペンドルトン嬢は
何も言いませんでしたが、
フェアファクス氏の言葉に
少しは同意しました。
この完璧な条件に加えて
面白い性格まで備えているのに
社交会が苦手な紳士を
どうすればいいのか。
ペンドルトン嬢が悩んでいる間に
フェアファクス氏は
指をパチッと弾きながら、
それでは、この場で即席で
学ぶのはどうか。
ワルツはそんなに難しくない。
ただリズムに合わせて
グルグル回るだけでいいと
提案しました。
ダルトン氏はフェアファクス氏に
とんでもないことを言うな。
自分が淑女たちの足を
滅茶苦茶にする姿を見たいのかと
尋ねました。
フェアファクス氏は、
お前とダンスができるなら、
それくらいは覚悟する淑女が
結構いると思うと答えました。
ダルトン氏は、
誰だか分からないけれど、
その覚悟は、
きちんとしまっておいた方がいい。
自分のような男に踏まれれば
足がむくんで、今夜は靴も脱げずに
寝なければならないと
言い返しました。
二人の言い争いを聞いていた
ペンドルトン嬢はフェアファクス氏に
ダルトン氏は、
運動神経がいい人かと尋ねました。
フェアファクス氏は、
もちろんだ。大抵の運動は、
お手本を一度見ただけで
真似できると答えました。
ペンドルトン嬢は、
それなら自分が即席で教えるので
自分とステージに行こうと
ダルトン氏を誘いました。
彼は、
冗談のように言ったけれど、
自分は本当にダンスができないので
きっと三回以上は
足を踏んでしまうだろうと
真顔で言いました。
しかし、ペンドルトン嬢は、
大丈夫。今夜は靴を履いて
寝ることにすると告げると
もうすぐダンスが始まるので
早く行きましょうと促すと、
彼の手をさっと握って導きました。
ダルトン氏は戸惑いながらも、
少し、興味が湧いて来て
ペンドルトン嬢に付いて
ステージに出ました。
ペンドルトン嬢は彼の手を取って
肩の高さに上げ、もう片方の手を
自分の腰に当てました。
そして、自分の残った手を
ダルトン氏の肩に乗せました。
彼女は彼をまっすぐ見上げながら
今回のダンスは自分がリードするので
自分の足を見ながら
ゆっくり付いて来るようにと
囁きました。
イアンは小さく頷きました。
まもなく、ロマンチックなワルツが
場内に流れ始めました。
ペンドルトン嬢は、
二人だけが聞こえるような声で
一、二、三、一、二、三と
拍子を取ってステップを踏み、
ダルトン氏は、下を見ながら
彼女に付いて足を動かしました。
最初、ペンドルトン嬢は、
この曲が終わる前に、
本当に彼がダンスを終えられるか
不安でしたが、その心配は杞憂でした。
最初は少しもたもたしていたけれど、
一分も経たないうちにダルトン氏は、
なかなか良い感じに
ステップを真似し始めました。
内心驚いたペンドルトン嬢は、
依然として彼の肩が
緊張で固まっていることを感じ、
笑いを含んだ声で、
足を踏んでもいいので力を抜くように。
緊張すると音楽が
聞こえて来ないではないかと
言いました。
ダルトン氏は、
恐ろしいことを言わないで欲しい。
ドレスの裾から
チラッと見えるあなたの足は、
自分が一度踏んだだけで
壊れそうなくらい小さいと
返事をしました。
ペンドルトン嬢は、
絶対に壊れないので、これからは
頭を上げて自分を見るように。
自分と目を合わせて踊ってみよう。
うまくできるからと言いました。

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真の知性があり
機知に富んだ淑女であるローラと
出会えたダルトン氏。
彼女こそが、ダルトン氏が
待ちに待った運命の女性なのだと
思います。
二人の幸せな未来が待ち遠しいです。