
11話 ペンドルトン家のお茶会はペンドルトン嬢が主催しているのかと、ダルトン氏は尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
公式的には、祖母が
主催していることになっていると
答えました。
ダルトン氏は、
それならペンドルトン嬢は
抜けることが多いのではないかと
尋ねました。
ペンドルトン嬢は、それを否定し、
祖母の健康のために、全般的な進行は
自分が担当している。
抜けたくても抜けられないと
答えました。
ダルトン氏は
「そうですか」と静かに呟くと
すぐに、より明瞭な声で、
近いうちに訪ねることにする。
明日は大丈夫かと尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
彼の意外な積極的な態度に驚き、
すぐに首を横に振ると、
明日は祖母の主治医が来るので
明後日辺りがいいと思うと答えました。
ダルトン氏は、
それでは、明後日訪問すると
告げると、
ペンドルトン嬢は頷きました。
そして、手を差し出し、
次に会えるのを楽しみにしていると
伝えました。
ダルトン氏は、
しばらく彼女の手を握って
見つめていた後、
ゆっくりと頭を下げて、
手の甲に口づけをしました。
そして、彼は手を握ったまま
響き渡る声で
「気をつけてお帰りください」と
別れの挨拶をしました。
そして、彼は、
手を放すべきタイミングから
2、3テンポ遅れて、
彼女の手を自由にしました。
ペンドルトン嬢は不思議に思いましたが
すぐに、彼が社交界の作法に
慣れていないからだと思い、
彼に軽く微笑みかけた後、
馬車を出発させました。
彼女は、馬車が去れば、
彼もすぐに舞踏会に戻ると思ったので
馬車が出発するや否や、
彼から完全に目を離しました。
そのため、後に残されたダルトン氏が
自分が消えるまで
その場に立ち尽くしたまま、
馬車を見つめていたという事実を
知りませんでした。
その夜、ペンドルトン嬢は、
寝る前に、いつものように
ベッドの横にひざまずきました。
そして、
今日、新しい友人のダルトン氏に
会えたことに感謝し、
彼がロンドンで良き伴侶と出会い
家庭の幸せを享受できるように
祈りました。
いつものように、
彼女の祈りは本気でした。
しかし、後日、
その祈りがどのような形で叶うのか、
彼女は知りませんでした。

ランス夫人の執拗な努力のおかげで
舞踏会の翌日の夕方、ダルトン氏は
ランス家のタウンハウスの
ダイニングルームで、
ランス嬢と向かい合って座り、
夕食を共にすることになりました。
ランス準男爵家の晩餐会は、
かなり前から
ロンドンで有名になっていました。
表向きは、豪華な晩餐メニューと
美しい娘ドーラ・ランス嬢の笑顔が
楽しめるという利点のおかげでした。
しかし、公然と噂が立っているのは、
さらに大きな理由がありました、
ランス準男爵が
徹底的に客を選り分けることで
悪名が高かったためでした。
ランス準男爵は、
自分の爵位と家門に対する愛着が
格別な人でした。
そのため、
ランスという姓を持つ自分たちと
一回、食事を共にするためには、
少なくとも、同等の地位か
準男爵以上でなければならず、
爵位がなければ、
それに見合う家門の名でも
持っていなければなりませんでした。
そのため、ランス氏は前菜が出る前から
ダルトン氏の領地と、
その家門がどれほど古いかを
根掘り葉掘り聞き始めました。
自分があれほど重視していた礼儀に
反する行為であるのを、
意識することもできませんでした。
彼の執拗な努力のおかげで、
メインメニューが出る前に
すでにホワイトフィールドの
本来の地名が、
ベイロン修道院であり、
宗教改革があった1500年代からずっと
ダルトン家の所有だったことが
明らかになりました。
ランス準男爵は、ようやく、
自分の妻が客を間違って
招待しなかったことに安堵しました。
彼は、由緒ある家門の
家長という切ない仲間意識を込めて
ダルトン氏に、
自分の家門で初めて準男爵の地位を得た
曽祖父の話をし始めました。
ランス嬢は、
延々と続く父親の自慢話に
顔が熱くなりました。
ランス家が爵位を得てから、
200年も経っていない上に、
大した功績をあげたわけではなく
ただ政治状況によって
偶然、得ただけでした。
ところが、あえて
400年近くヨークシャー地方の
大地主であるダルトン家の家主に
家門の自慢をするなんて、
恥ずかしいを通り越して
無礼極まりない行為でした。
しかし、ダルトン氏は、
彼が何と言おうと、静かに耳を傾け
ランス嬢とランス夫人に対しても
それ相応の丁重さで振舞いました。
そのため、食事が終わり、
葉巻を勧めるランス氏の提案を
丁重に断って急いで家に帰った彼が
脂っこい料理と、
ランス氏の傲慢さに嫌気がさして
さっさと逃げたということに
彼らの誰も気づきませんでした。
ランス氏は、
久しぶりに気に入った若者に
会えたことを喜びながら、
書斎へ向かうと、ランス夫人は、
同年代の淑女たちに
イアン・ダルトンを
晩餐会に招待したことを
自慢するつもりで、嬉々として
自分の部屋に上がろうとする
ランス嬢の手をつかんで
居間に連れて行きました。
そして自分の美しい娘を
隣にしっかりと座らせ、
手をいじくりながら、
ダルトン氏は、
とても素敵ではなかったかと
それとなく尋ねました。
娘は熱烈に相槌を打ち、
ロンドンで、
あれほどの美男は初めて見たと
答えました。
ランス夫人は、
自分もそう思う。
あの人物で、あの財産があれば、
すでに、彼を奪おうとして
襲いかかった娘たちが
数10ダースはいるはずなのに、
まだ未婚だなんて、神からの贈り物だ。
やはり、
いくらお金の使い道が多くても
十分の一の献金は、
欠かしてはならないものだ。
今回の社交シーズンが終わる前に
彼にプロポーズしてもらおうと
ランス嬢をそそのかしました。
まだ、そこまで考えられなかった
ランス嬢は、
目を丸くして母親を見ました。
彼女は、
ダルトン氏には、
二度しか会っていないし、
彼は爵位がないので、
父親が嫌がると思うと返事をしました。
ランス夫人は、
世間で名の知れた貴族の中に、
最近、資金繰りが上手く行っている
貴族がいると思うのか。
不況のせいで、資金の流れは
ますます枯渇しつつある。
最近、ロンドンで
捕まえる価値のあるような
未婚の新郎候補の中から、
自分の土地を抵当に入れたり、
邸宅を賃貸していないケースを
探すのも難しい状況だ。
この前、あなたとよく踊っていた
あの、バードン侯爵の長男は、
ダンスが上手で紳士的だと
話していたけれど、田舎の領地が
丸ごと競売にかけられたのを
知っているか。
一体、どのようにお金の管理をすれば、
先祖代々受け継がれて来た土地を
奪われることになるのかと、
ランス夫人は舌打ちしました。
続けてランス夫人は、
それに比べると、ダルトン氏は
どれだけ素晴らしいことか。
ホワイトフィールド自体も
荘園付きの正真正銘の領土だけれど
その森は、
狩猟地として最高だそうだ。
その上、父親が亡くなって
家を譲り受ける否や、
売るべきものは売り、
整理すべきものは整理すると、
鉱山、鉄道債券、株式、建物など、
金になるものへ悉く投資した。
そのように家長がしっかりしてこそ
家門が生きる。
イギリスで、
最後まで破産しない家門を
一つ挙げるとしたら、
それはダルトン家だと言いました。
ランス嬢は、半分気が抜けた状態で
今日、ダルトン氏は、
そんなことを一言も言わなかったのに
どこで、そんな情報を、
全て探り出して来たのかと
尋ねました。
ランス夫人は、一言の恥じらいもなく
ヨークシャーに嫁いだあなたの叔母が
近所の人たちに聞き回って調べた。
あの町にも、
お嫁に行かなければならない娘たちが
多いので、集まれば、必ず
イアン・ダルトンの話になると
答えました。
ランス嬢はため息をつきながら
母親の顔を見つめました。
父親が爵位を崇拝しているなら、
母親は、それよりも
現実的な物質の信奉者でした。
ランス嬢は、
自分が両親に似ていない点が
どれほど幸いかを改めて実感し、
自分の高尚な立場を表明しました。
彼女は、
自分はダルトン氏が魅力的で
紳士的なところが気に入っている。
それ以上のことは考えていない。
お金や土地などの現実的なことを
無視できるわけではないけれど、
それでも自分は、
本当に惹かれなければ結婚しないと
主張しました。
能力もないくせに、
浪費癖だけがひどい夫のせいで
生涯、節約して生きてきた
ランス夫人は、
娘の分別のないところが
可愛いらしくもあり、
その分、情けなくもありました。
ランス夫人は、
ダルトン氏に対する、
その本当に惹かれる気持ちとかいう
何かを、いつ頃、
感じられると思うかと尋ねました。
ランス嬢は、
まだダルトン氏と
2回しか会っていないと答えました。
ランス夫人は、
2回でも20回でも、
彼が美男で金持ちで、
未婚だという事実は変わらない。
一つだけ変わるとしたら、
その本当に惹かれる気持ちを
待っている間に、他の娘が
ダルトン夫人になるかもしれない。
たぶん、その娘は、
公爵や侯爵、伯爵くらいの家柄の
娘だろうし、持参金も
4倍くらいになるだろう。
今のように、花婿候補の干ばつ時代に
ダルトン氏は、
自分たちより条件の良い娘を
いくらでも、ロンドンで
選んで行くことができる。
結婚しなければならない娘たちは
溢れているのに、
財産を受け継ぐのは
一握りしかいない長男だけだと
延々と語りました。
しかし、ランス夫人が話している間に
ランス嬢の頬が、
だんだん膨れて行きました。
ランス夫人は、
「しまった」と思いました。
いつもポンドの値動きに合わせて
考える自分のやり方が、
娘には全く通用しないことを
忘れていました。
ランス夫人は
娘の虚栄心を煽るという
より効果的な方向に
すぐに方針を変えました。
ランス夫人は、
そんな顔をしたらダメ。
顔が歪んで見える。
あなたのようにきれいな娘は
いつも笑っていなければならない。
昨日の舞踏会で笑っていた時のように
笑ってみて。
その笑顔に、ダルトン氏が
魅了されたのだからと促しました。
ランス嬢は、
魅了って、どんな魅了なのか。
あの人は、ただ自分を
礼儀正しく扱っただけだと
反論しました。
しかし、ランス夫人は、それを否定し
あの人は、あなたを見ながら
何度も目を輝かせた。
最初は、
この天使のような顔に魂が抜け、
あなたが、しばらく他の所へ
目を向ける度に、
あなたの魅力的な部分に全て
目を通していた。
あなたのきれいな髪。白い肩のライン。
小さくて可愛い手。そして、
あなたが持っているものの中に
美しくないものが、
一つもないということに気がついたら、
あなたから、どうしても
目が離せなかったみたいだと
話しました。
母親の話を聞いているうちに
ランス嬢の表情が和らぎました。
しかし、まだ彼女の分別は
虚栄心に麻痺していませんでした。
ランス嬢は、
自分に魅了された人が、
どうして、あの日、自分に
ワルツを申し込まないなんてことが
できたのか。
ペンドルトン嬢が家に帰ってから、
あの人も挨拶だけして
帰ってしまったではないか。
自分は、あの人と踊ろうと思って
他の紳士たちの申し出も断って
待っていたのにと反論しました。
ランス夫人は、
ダルトン氏がペンドルトン嬢と
踊っているのを見たのに、
そんなことを言うのかと尋ねました。
ランス嬢は、
確かに、あの人は、
ワルツを踊るのがとても下手だった。
自分はダンスが下手な男は嫌いだと
答えました。
ランス夫人は、
可哀想に、彼は母親を早くに亡くして
年の離れた姉に育てられた。
若い女性に慣れていないので、
ペンドルトン嬢のように
董が立った年増の令嬢でないと
緊張が解れないからだと言いました。
ランス嬢は、
ペンドルトン嬢のことを
年増の令嬢と呼んではいけないと
言っていたではないかと責めました。
ランス夫人は、
他人の前では言うなということ。
自分たち同士なら大丈夫だと
返事をしました。
ランス嬢は、
いつも自分を世間知らず扱いする
母親が、悪口を言う時だけは、
周りの奥さんたちのように
自分に接するのが、
とても変だと思いました。
その後、ランス夫人は、
彼は明らかにあなたに恋をした。
すでに精神的に、
あなたの僕になっている。
何度か可能性を与えれば、
あなたはこの夏が来る前に
ダルトン夫人になっているなど、
30分以上、
舌に蜂蜜を塗ったように甘い言葉で
ランスさんの理性を麻痺させ、
感情を煽りました。
芯が固く、
明晰な判断力を持った人でも、
精神が朦朧とするような
洗脳である上に、
すでに社交界で注目されていることで
精神のあちこちに、虚栄心が
雑草のように根付いた娘には
致命的にならざるを得ない
そそのかしでした。

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ダルトン氏がペンドルトン嬢に
恋をしたのは確実。
そして、ダルトン氏の結婚相手が
ペンドルトン嬢だというフラグが
しっかり立っていたので、
2人は結婚することに
なるのでしょうけれど、
このようなお話に付き物の
お邪魔虫が登場したことで、
すぐに結婚というわけには
いかないのでしょう。
しかし、どんなにランス夫人が
娘をけしかけたところで、
全くランス嬢に興味のないダルトン氏が
彼女を好きになることは
あり得ないです。
それなのに、ランス夫人は、
思い込みなのか、
娘をけしかけるために、
そんなことを言っているのか
分かりませんが、
ダルトン氏が自分に恋していると
思わされたランス嬢が
可哀想だと思いました。