
21話 ダルトン氏とハイド嬢が水切りの勝負をすることになりました。
そばにいたフェアファクス氏は、
自分とハイド嬢が勝負をした時、
淑女の味方は淑女だと
言っていなかったかと
話に割り込みました。
ペンドルトン嬢はほほ笑みながら
自分はダルトン氏の運動神経を
よく知っている。
自分も、どうしようもなく
有利な方に付く俗物だからと
言い訳をしました。
フェアファクス氏は、
やはりペンドルトン嬢も、
自分の実力を見くびっていた。
ハイド嬢が自分を
打ち負かすと思っていた。
おい、イアン。
自分の名誉を回復してくれと
ダルトン氏を催促しました。
ダルトン氏は、面白いと呟くと
地面に落ちている石を一つ拾いました。
そして、ハイド嬢のように
石を上に投げたり受け取ったりしながら
ハイド嬢に「先?」と尋ねました。
彼女は「お先にどうぞ」と答えました。
ダルトン氏は、
かなり久しぶりだと思いながら、
体を片側に傾けました。
そして腕を振り回して
川に向かって石を投げました。
ポン、ポン、ポン、ポン、ポン。
しばらくの間、
石が水面を跳ねる音が続きました。
彼らの中で視力が最も良い
ペンドルトン嬢が
目を細めて数字を数えました。
彼女は、
「・・37、38・・わあ、38です!
38回は最高記録です!
地域代表ではなく国家代表です!」と
拍手しながら、
彼に向かって叫びました。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢の拍手に、
かなり得意げな気分になりました。
一方ハイド嬢は、手を腰に当てたまま
水面を見つめていました。
38。 これまでの公式記録の35より
3つも多いではないか。
普段1人で練習する時、たまに
40を超えたこともありましたが、
それは文字通り、たまにでした。
人前で水切りをするときは、
普通、そのような奇跡が
起きたことはありませんでした。
しかし、
このように強力な挑戦者が現れると、
彼女の中にある
勝負欲が燃え始めました。
あえてヨークシャーの田舎者が
自分の記録に挑戦してくるなんて。
自称国家代表の名誉にかけても、絶対に
負けるわけにはいきませんでした。
彼女は悲壮な表情で右肩を回し
手首をほぐしました。
そして今までとは違い、
慎重に石を選びました。
石の中で最も平らな石を選んで
手に取ったハイド嬢は、
ペンドルトン嬢を見つめながら
たとえ、あなたが自分ではなく
ダルトン氏に可能性を賭けたとしても
自分の勝利の栄光は、いつも
ペンドルトン嬢のものだと告げました。
ペンドルトン嬢は慌てて、
そんなに深刻にならなくても・・・と
言いましたが、言葉が終わる前に、
ハイド嬢は、素早く腕を動かして
石を投げました。
ペンドルトン嬢は、その気迫に
驚かざるを得ませんでした。
すぐに、ポン、ポン、ポンと
石が水面上を跳ねました。
しばらく彼らは何も言わず、
数字を数えるペンドルトン嬢の声だけが
響いていました。
腕を組んだまま、
水面上を見つめていたダルトン氏は、
そろそろ不吉な予感がして来ました。
ハイド嬢の石は、まるで
バッタにでもなったかのように、
止まることを知らずに
水面を疾走していたからでした。
「33、34、35、36、37、38!
わぁ!39、40、41、42・・」
ペンドルトン嬢は嘆声を抑えながら
数字を数え続けました。
彼女の声は、
その後、しばらく続きましたが、
52になったところで止まりました。
石が止まったからではなく、
ある瞬間、水平線の向こうに
消えてしまったからでした。
彼らの間に、
しばらく沈黙が訪れました。
そして、すぐに、
呆然とした2人の紳士と1人の淑女が
勝利感に浸りながら水平線を見ている
水切り国家代表のハイド嬢へ
静かに拍手をしました。
拍手が終わると、ダルトン氏は、
自分の敗北を素直に認めて
退きました。
先ほどの大勝利に魅了された
フェアファクス氏は、ハイド嬢に、
その能力を伝授してほしいと
せがみ始めました。
ハイド嬢は、
すっかり得意になっていたので、
素直に石を手に取り、
彼に技術を伝授し始めました。
彼らが、
あまりにも熱心だったので、
そばにいる2人は
目に入らないようでした。
ダルトン氏は
ペンドルトン嬢に頭を傾けながら
2人は忙しそうなので、自分たちは
近くで散歩でもしないかと
囁きました。
ペンドルトン嬢は肯き、同意しました。

ペンドルトン嬢はダルトン氏に
付いて行きました。
ダルトン氏は、ペンドルトン嬢と
歩調を合わせるために
ゆっくり歩きながら、
今、自分が歩いて来た森の道へ
彼女を案内しました。
ダルトン氏は、
もしかして、今社交界に出ている
ハイド嬢は2人いるのかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は
「いいえ」と答えました。
ダルトン氏は、
それでは、ウィリアムのプロポーズを
断ったのは、あの女性なんですねと
確認しました。
ペンドルトン嬢は
その通りだと答えました。
ダルトン氏は、
それなのに、2人は一緒に
水切り遊びをしているのかと
尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
分かっているかのように笑うと、
ハイド嬢と散歩をしていたら、
偶然フェアファクス氏に出くわして、
一緒に川辺を歩くことになった。
歩いている途中、ハイド嬢は、
ここから抜け出せるなら、
川にでも飛び込むつもりだと
こっそり耳打ちした。
フェアファクス氏が、
水切りを提案してくれて良かった。
そうでなければ、ハイド嬢は本当に
水に飛び込んでいたかもしれないと
話しました。
ダルトン氏は、
プロポーズを断った人と一緒に
散歩をしなければならないなんて
自分でも飛び込んだだろう。
でも、ゲーム数回で、あんなに
また気兼ねのない関係に戻れるなんて
驚きだと言いました。
ペンドルトン嬢は
2人は親しい友人関係だったから。
2人の関係は、恋人より友達の方が
はるかに似合っている。
もしかしたら、ウィリアム氏は、
この友情を一生維持したくて、
ハイド嬢に求愛したのではないかという
気もすると話しました。
ダルトン氏は、
友情と愛を区別できないなんて
ウィリアムがいくら純真でも、
それほど馬鹿ではないと思うと
反論しました。
ペンドルトン嬢は
自分もそう思う。
フェアファクス氏は、友情と愛を
見分けることができる人だろう。
でも、フェアファクス氏が、
友情に近い気持ちで
プロポーズをしたとしても、
それは、馬鹿げた選択ではない。
実際に友情で結ばれて
夫婦生活を送っているカップルは多いと
話しました。
ダルトン氏は、
夫婦が友情で結ばれても
幸せになれると思うのか。
自分のパートナーを、
ただ一緒に暮らす友人であるかのように
見るということかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は
「はい」と答えました。
ダルトン氏は首を横に振ると、
夫婦が友人関係だなんて、
自分には理解できない。
同性同士で結婚するのと
何が違うというのか。
夫婦は愛情を基にした協力関係だ。
友情ではなく愛情だと主張しました。
しかし、ペンドルトン嬢は、
時に愛情は、
あまりにも多くの争いを
引き起こしたりする。
自分は友達に近い夫婦関係を
よく見てきたけれど、
その生活は不幸に見えなかった。
むしろ互いに失望するよりは理解し合い
要求するよりは配慮し合う関係だった。
夫婦は長く連れ添うものだし、
お互いの魅力が消えても
一緒にいるためには、
欲望よりも相互の信頼の方が
もっと重要だ。
夫婦が一生、
ソウルメイトとして生きるためには、
情熱よりも、
友情の方が重要かもしれないと
話しました。
ダルトン氏は、
愛情が相互の信頼を妨げると
思っているのかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
少し、そう思っている。
愛情は欲望を生み出し、
それが満たされない時に、
憎しみや失望に拡大しやすい。
友情は、極端よりは
調和を求める感情なので、
夫婦にとっては、
はるかに安全だと言えると答えました。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢が誰よりも
愛を大事にする人だと思っていた。
あれほど多くの友達に、良い縁を
結ぼうとしていたではないかと
言いました。
ペンドルトン嬢は、
自分があまり、ロマンチックな人では
ないということに
まだ気づいていないようだ。
どういうわけか、自分は、社交界で
仲人の役割をしている状況だけれど
そもそも、このようなことを
することになったのは
友達が不幸な状況に
陥らないようにするためだった。
自分の友人の中には、
狂おしいほどの恋に落ちて、
男性と夜逃げをしようとした
淑女もいた。
自分はその人に、
結婚には愛が重要だけれど、
愛は全てを解決してくれないと
話したと、言いました。
ダルトン氏は、
貧しさが戸口から入って来ると
愛は窓から飛び出して行くという
ことわざのように?と尋ねました。
ペンドルトン嬢は、
貧乏が招かれた家に
愛は生き残れない。
絶え間ない争いと欠乏感に満ちた
家庭にいる身にとって、
愛という感情は、
あまりにも高尚なものだから。
貧乏だけでなく、
克服しにくい環境的な違いや性格の違い
知識の違いも、
愛を追い出す招かれざる客たちだ。
愛は全てを克服するという言葉は
美しいけれど、美しさは現実の中で
簡単に枯れる性質があると言いました。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢の言葉は賢明だけれど
やはり自分は同意できない。
自分は、愛が、戦いと不幸さえも
甘受する価値がある感情だと思う。
友情を分かち合いながら暮らせる人を
配偶者候補の基準にするのは、
寮のルームメイトと結婚式を挙げるのと
変わらない。
一つの家で生活し、
一つの食卓で食事をし、
さらに一つのベッドを
使わなければならない夫婦が
互いに情熱がなければ、
その生活がいくら調和が取れていて
楽だとしても、
生ぬるくて無感覚な生活に過ぎないと
反論しました。
ペンドルトン嬢は、
熱烈な声で話すダルトン氏を
優しく見つめました。
自分はダルトン氏と考えが違うけれど
ダルトン氏を説得するつもりはない。
あなたの考えは理想的だけれど
一方では本当に正しい。
一生を共にする男女にとって、
愛というのは不可欠な要素だ。
むしろ自分があまりにも
計算的かもしれない。
しかし、いくら愛の価値を信じても、
情熱としての愛に有効期限があることは
認めてくれるだろう。
もう昔のように
情熱を感じられない異性と、
ずっと生き続けなければならない時に
2人に残されるのは、冷静になるか、
友達になる道だけではないか。
結局、夫婦の始まりは愛でも、
終わりは友情ではないでかと
言いました。
ダルトン氏は、
時間が経って色あせて、感情が薄れても
一時、愛があったという事実だけで
ずっと夫婦の縁を結んで
生きていく価値があるだろう。
そして、愛の感情に
有効期限があるという仮定にも
同意しない。
永遠の愛があるという主張ではない。
世の中に永遠のものなどないから。
しかし、ある愛は有効期限が長すぎて
死ぬ前に終わらないことがあると
反論しました。
ペンドルトン嬢は、
もはやダルトン氏の言葉に
異議を唱えませんでした。
彼の恋愛観は純粋でした。
彼女は妖精を信じる子供の想像を
壊したくない気持ちで
一歩退きました。
ペンドルトン嬢は、
ダルトン氏に、必ずそのような縁が
現れることを祈っている。
そんな愛に、きっと出会えるはずだと
言いました。
彼らはしばらく沈黙したまま、
静かに土の道を歩きました。
ダルトン氏は黙っていました。
心臓の微かな震えが、
彼女と一緒に歩いているうちに、
激しい鼓動へと変わってしまいました。
彼はペンドルトン嬢と
一緒にいる間ずっと、彼女の存在を
絶えず意識していました。
辛抱強く自分の話に耳を傾け、
時には納得し、時には否定し、
会話の縦糸と横糸を紡ぎ、
何も言わずに、
自分のそばで歩調を合わせて歩きながら
平和な沈黙を共有する彼女は、
いつものように
思慮深く真剣な姿でした。
普段の彼だったら
彼女と一緒にいるだけで満足して
この散歩を楽しんだはずでした。
しかし彼の心は
以前とは変わっていました。
彼の心の中には、
先ほど一人で散歩をしていた時、
頭の中で描いていた想像が
広がっていました。
彼女を抱きしめ、目を合わせ、
彼女の悲しい顔を見つめながら
口を合わせる想像を。
その想像は、次第に
とんでもない方向へ流れ、
彼女の頬と首に口を合わせながら
下へと流れて行くところまで
至りました。
彼は視線をそらして
彼女の横顔を見つめました。
いつものように、
頬に垂れた髪の毛一本を除いて、
全てヘアネットに
しっかりと固定された髪形に
鎖骨を露わにした夏の外出着姿でした。
そして、彼女の首にあるのは、
いつも身に着けている
真珠のペンダントだけでした。
彼の目の前には、
彼女の白いうなじがありました。
柔らかくてしなかやで
触ってみたい・・・
口づけしたいと思う・・・
彼は顔を背けました。
突然、腹の奥から、重い圧迫感が
押し寄せ始めました。
彼は心の中で、
イアン・ダルトン、
頭がおかしくなったのか。
しっかりしろ。
何もしていないペンドルトン嬢に
一体、なぜ、こんなことをするのか。
しかし、体というものは
考え方と別に動くものだし、
男の体というものは、特にそうでした。
彼はペンドルトン嬢の足音と
ドレスが擦れる時のサラサラいう音にも
十分に刺激されていました。

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水切りのすごい記録を
打ち立てたことで、ハイド嬢は、
自分も男性に勝つことができるという
大きな自信を持てたと思います。
今後、
彼女が男性に頼らず生きて行く上で
この自身は大きな励みとなると
思います。
ペンドルトン嬢は
両親の情熱的な愛が
どのような結果を招いたか
身に染みて分かっているので、
愛情を抱くことに
臆病になっているのだと思います。
そんなペンドルトン嬢に
愛情の大切さを教えられるのは
ダルトン氏だけだと思います。
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メロンパン様、パンダコパンダ様
あいちん様、つぶグミ様、midy様
コメントをありがとうございます。
マンガに比べて進み方が遅いですが
その分、登場人物の心情が
詳しく描かれているのではないかと
思います。
外伝も含めて、全222話ありますが
よろしくお付き合いのほど
お願いいたします。