自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

バスティアン 90話 ネタバレ ノベル あらすじ 母と同じ

90話  バスティアンはオデットの裏切りを知りました。

 

何の気配もなく

ドアが開きました。

窓の前に立って

月を眺めていたオデットは

ビクッとして首を回しました。

 

バスティアン」

オデットは、

安堵の笑みを浮かべながら

反射的に握り締めた

レースのショールを放しました。

 

バスティアンは何の返事もなく

客室に入りました。

もともと、口数の少ない男だけれど

普段とは、少し雰囲気が

違っていました。

おそらく、あまりにも

静かな眼差しのためのようでした。

 

オデットは、

何かあったのかと尋ねました。

そして、バスティアンの顔を

注意深く見ていた彼女の目が

大きくなりました。

頬のあたりに、

鋭い刃物か紙などで切った

小さな傷ができていました。

 

オデットは、

怪我をしたのか。早く薬を・・・

と言いかけたところで、

脱いだ燕尾服のジャケットを

ベッドの端に置いたバスティアンは

そこにいろと、冷たく命令しました。

オデットは、

硬直したまま立ち止まりました。

状況を把握しようと

努力している間に、

バスティアンが客室のドアに

鍵をかけました。 続いて、

すべての窓のカーテンを閉めると

再びオデットの前にやって来ました。

片手には、

くしゃくしゃになった紙の束を

握ったままでした。

 

名前を呼ぼうとしましたが、

オデットは結局、

声を出すことができませんでした。

ただ震える唇だけが

ピクピク動いている間に、

バスティアンが手に持った紙を

差し出しました。

オデットは、ぼんやりと

それを見下ろしました。


本当に不思議なことでした。

確かに列車が

スピードを上げて走っているのに

オデットは、もう何も

聞くことができませんでした。

爆発しそうな心臓の音まで

消えました。

残ったのは、キーンと

耳元に響く鋭い耳鳴りが全てでした。

 

そっと瞬きをしたバスティアンは

受け取れと命令し、

固まっているオデットの手に

直接、紙の束を握らせました。

 

「確認しろ」

 

バスティアン・・・」

 

「早く」

 

バスティアンは、

声を荒げることなく

静かに追い詰めました。

どんな感情も読み取れない瞳が

まるで深くて暗い

深淵のようでした。

 

オデットは、焦点がぼやけた目を

ゆっくり伏せました。

手に持った紙の質感に

馴染みがありました。

タイプライターで書いた字の形と、

その最後にある署名の筆跡も

そうでした。

あえて広げてみなくても、

オデットはこれが何なのか

分かる気がしました。

どうやって、この書類が再び

バスティアンの手に渡ったのかも。

 

バレてしまったのか。

いざ、その事実に気づくと、

これまで心を苦しめてきた煩悶が

姿を消しました。

顎の先まで上がっていた荒い息も

次第に治まって行きました。

 

これは罪であることを、

テオドラ・クラウヴィッツ

取引をすることを決意した瞬間

オデットは、

すでに認識していました。

罪を犯したので

罰を受けることになる。

ただ、その時期を

遅らせることができることを

願っていましたが、

地獄で祈った願いは、

結局、天に届くことは

ありませんでした。

 

だからといって

絶望する資格がないということも

オデットはよく知っていました。

犯した過ちに対する罪の代価は

謙虚に受け入れるべきでした。

しかし、どんな手を使ってでも

守り抜こうとしたティラに対する

未練だけは、

簡単には手放せませんでした。

 

どこまで知っているのだろうか。

オデットは、

指先を見下ろしていた目を上げ、

バスティアンと向き合いました。

目頭が熱くなるのが

感じられましたが、

涙は流れませんでした。

 

「ごめんなさい」

 

単調な謝罪の言葉が

沈黙を破りました。

 

バスティアンは笑顔で

オデットとの距離を一歩縮めました。

ごめんなさい。

刃物で切った跡のように鮮明に残る

その言葉を、よく噛み締める程、

口元に浮かんだ嘲笑が

鮮明になって行きました。

 

「そういうことになりました」

 

かさかさと、

紙がしわくちゃになる音が

驚くほど淡々とした告白の後に

続きました。

 

「そういうことになりました」

 

バスティアンは、

見知らぬ単語を学ぶ子供のように

今回もゆっくりと、

オデットの言葉を真似して

繰り返しました。

 

「何が?」

 

かろうじて怒りを抑えながら

聞き返すバスティアンの息が

荒くなって行きました。

後ずさりしながらも、オデットは

視線を避けませんでした。

大きな瞳は、依然として

憎らしいほど澄んだ光を

帯びていました。

 

まだ確認していないではないかと

非難すると、バスティアンは

カーテンを引いた窓の前まで

追い詰められたオデットの前に

立ちはだかりました。

 

彼は、言い訳を待ちました。

陰謀です。誤解です。 悔しいです。

信じて欲しいです。

卑怯な嘘でもいいので、

どうか否定して欲しい。

そうすれば、

目をつぶってあげられるような

気もしました。

それさえ難しければ

矢の向きだけでも

変えて欲しいと願いました。

 

すべて、あの女の過ちだ。

自分は騙された。 被害者だ。

バスティアンは、

どんな詭弁にも耐える準備が

できていました。

 

ごめんなさい。

そんなクソみたいな言葉でなければ

何でもいい。いくらでも。

 

バスティアンは、

再び奪い返した書類を広げて

オデットの顔の前に突き付け、

もう一度、きちんと見ろと

命令しました。

 

赤くなった両目いっぱいに

涙が込み上げて来ても、

オデットは泣くこともなく、

過ちを詫びることも、

許しを乞うこともなく、

じっと彼を見つめて、

「ごめんなさい」と、

もう一度囁いたのが全てでした。

 

「なぜ!」

 

バスティアンは、

くしゃくしゃになった書類を

投げ捨て、大声で叫びました。

彼は、

なぜ、あなたが、あの女の

猟犬みたいな真似をするのかと

問い詰めました。

オデットは、

悪寒がしたように

全身が震え始めましたが、

知られてはならない弱点を

掴まれたと、

あえて落ち着いて返事をしました。

 

バスティアンが知っているのは

この書類を盗まれたという事実が

全てでした。

全てが暴露されたのでなければ

少なくともティラを

守ることができました。

その微かな希望が

オデットの最後の心の拠り所でした。


オデットは、

父親の体を不自由にしたのが自分だ。

自分がそうしたと答えました。

 

「何だって?」

 

バスティアンの眉間が、

ひどく歪みました。

オデットは、覚悟を決めたように

深呼吸をすると、

父が密かにあなたに会ったという

事実を知った日、

あなたに謝りに行ったけれど

留守だったので会えなかった。

そうして、また家に帰ると、

酒に酔った父が

生活費を盗んでいたので、

それを防ごうとして喧嘩になったと

話しました。

 

バスティアンは、

「それで?」と尋ねました。

オデットは、

父を階段から突き落とした。

その後は、

あなたが知っている通りだと

答えました。

 

バスティアンは、

明らかにディセン公爵は、

酒に酔って

階段を踏みはずして起きた事故だと

証言したはずなのにと

反論しました。

 

オデットは、

事故で大きな衝撃を受けた父は

あの日のことを

きちんと覚えていなかった。

だから、

ただ真実を隠すことにした。

まさか父の記憶が戻って来るとは

思わなかったと説明すると

そっと目を閉じて涙を堪えました。

再びバスティアンと向き合うと

涙のような笑みが溢れました。

良かった日々が、たくさんありました。

よりによって、

このような瞬間に訪れた気づきが

無意味な悔恨を深めました。

 

テオドラ・クラウヴィッツ

スキャンダルを起こすつもりは

ありませんでした。

そのつもりなら、

このような選択をするはずが

ありませんでした。

しかし、決して

目的のない行動をする

部類ではないので、

別の意図があるに違いない、

例えば、この結婚を

破綻させるようなものでした。

 

それならオデットとしては

むしろ幸いなことでした。

ティラを守り、

バスティアンが苦労して

積み上げた名誉が

スキャンダルで汚されることを

防げれば、それで十分でした。

 

オデットは、

結局、記憶が戻った父は

自分を刑務所へ送りたがり、

そんな脅迫をする手紙を書いた。

ところが、その手紙が

クラウヴィッツ夫人の手に渡ったと

話しました。

 

バスティアンは、

「どうやって?」と尋ねました。

オデットは、

それは、よく分からない。

自分が知っているのは、ただ

そうなったということだけ。

クラウヴィッツ夫人は

その秘密を守る代わりに、

あなたの書類をいくつか

持って来る取引を提示し、

自分は受け入れたと答えました。

バスティアンは、

その理由を尋ねました。

オデットは、

監獄へ行きたくなかったと、

極めて超然とした顔で

かましい返事をしました。


バスティアンは、

自分に言うべきだと

思わなかったのかと尋ねると

呆れて失笑しました。

 

オデットが引き起こした事故は

何の問題にもなりませんでした。

娘を売って賭博をする

ゴミのような父親ではないか。

バスティアンはこの女が

意図的に人の命を奪っても

理解することができました。

納得できないのは、ただ一つ。

その事実を隠したまま

スパイ行為をした

オデットの選択だけでした。

 

その事実を知る人が増えるのが・・

怖かったと言い訳をすると

涙ぐんだ目でバスティアンを

見つめていたオデットが

頭を下げて謝りました。

 

バスティアンは、

まさか自分が、その程度のことを

解決できないとでも思ったのかと

非難すると、

乾いた笑みを浮かべながら

オデットの顎をつかみました。

力いっぱい引っ張って

目を合わせると、オデットは

今にも消え入りそうな

うめき声を漏らしました。

 

バスティアンは、

それとも自分のことが、

眼中にもなかったのかと尋ねると

首を逸らそうとしたオデットを

制圧し、

手を下ろして首筋を掴みました。

 

バスティアンは、

バレようがバレまいが、

どうせ、あなたの

思い通りにできそうだから。

そうだろう?と尋ねました。

 

オデットは、

バスティアン!どうか・・・」と

懇願しました。

オデットの瞳いっぱいに

血の気が引くほどの恐怖の光が

浮かび上がりました。

バスティアンは無情な目つきで

その顔を見つめました。

 

オデットが持ち出した書類の中には

会社の執務室に

保管しているものもありました。

この女が、それを

どのように手に入れたのか

はっきり描かれるという点が

バスティアンの虚無を

さらに深めました。

 

女に狂って、スパイをしているのも

見分けられなかった

馬鹿野郎のくせに。

フランツが口にした、

あの言葉が正確でした。

振り返ってみると、

あまりにも、お粗末だったのに

そんな手口に振り回されました。

もっと滑稽なのは、

もしテオドラ・クラウヴィッツ

盗んだ書類を

突き付けて来なければ、決して、

この女を疑わなかっただろうと

いうことでした。

実は、すでにそうでした。

 

今朝の電話で、

トーマス・ミラーは

ジェフ・クラウヴィッツの側が

急に用心深く振る舞い始めたと

はっきり言いました。

もしかしたら

情報が漏れているかもしれないと

思った瞬間も、オデットのことを

思いつきませんでした。

一番近くで

一番怪しいことをしたのが

明白な相手なのに。

 

スパイが邸宅と会社にある書類を

盗んだという事実が

明らかになったとしても、

変わることはなく、

最後の最後まで、

この女を信じたはずでした。

目隠しして耳を塞いだまま

盲目的に。

知っていながらも

知らないようにしたはずでした。

自分があなたを・・・

あなたを愛しているから。

 

バスティアンは、

虚ろな笑みを浮かべながら

オデットを放しました。

手の跡が赤く残った首を

手で押さえた女は、

崩れるように、

その場に座り込みました。

すすり泣くように喘いでいる

息づかいの間に、

長い間忘れていた母の記憶が

浮かび上がりました。

 

母の美しい目は、

いつも赤くただれていました。

自分を裏切った夫のために

流した涙が乾く日が

なかったためでした。

むしろ離婚をしろと、

周囲の勧めが殺到しても、

母親は決して、

意地を曲げませんでした。

父を信じ、

ひたすら愛していました。

そして最終的に、その愛が

母の命を奪いました。

 

バスティアンは

自分の存在の起源としての母を

尊重しているけれど、

あまり憐んでいませんでした。

愛する価値のない相手への愛で

自らを破壊した人生。

ある程度は

軽蔑したりもしたようでした。

しかし、結局、

自分は母の息子でした。

苦労して頭を上げた

オデットに向き合った瞬間、

バスティアンは、

それほどまでに痛ましい真実に

気づきました。

 

愛する価値のない女に恋をした。

自分の母のように。

自分を裏切った女を信じていた。

結局、自分の母のように。

 

よろめきながら立ち上がった

オデットは、

バスティアンの袖の裾を掴むと

必ず罪の償いはする。

監獄に行けと言われたら行く。

他の罰を与えたければ

それも受け入れる。

だから、自分たちが契約した

期間だけ待って欲しい。

そうすれば、

ティラも卒業して成人になるので、

どうか、それまで・・・と

懇願しましたが、バスティアンは

「卒業?」と聞き返すと、

汚れを落とすように

袖を握ったオデットの手を

振り払いました。

 

彼は、

気を確かに持て。

あなたが及ぼした損害が

いくらなのか知っているのか。

その金と歳月を無駄にしておいて

自分があなたの家の

後始末をしてくれるとでも

思っているのかと尋ねました。

 

オデットは、

再び手を差し出す勇気がなく

ぼんやりとした目だけを

瞬かせました。

 

自分は一体、あなたの何なのか。

時々思い出した、

その愚かな疑問に対する答えを

バスティアンは

もう分かったような気がしました。

最初から今まで、何でもない。

そしてこれからも永遠に。

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オデットは、

バスティアンを裏切ることで

契約を破りました。

だから、バスティアンに

契約を全うして欲しいと頼むのは

かましいお願いですし、

そんなことを頼む権利もないと

思います。

しかし、ティラの罪までかぶり

自分はどうなってもいいから

ティラを守ろうとするオデットは

一度、こうと決めたら、

必ずやり遂げる芯の強い女性なのだと

思いました。

だから、バスティアンに惹かれていても

契約結婚という間柄を壊さないよう

その気持ちを抑えているのではないかと

思いました。

 

一方、バスティアンは

オデットに裏切られたことで

彼女への愛を自覚してしまった。

しかし、オデットは噓をつくことも

自分をかばうこともなく

素直に罪を認めてしまったことで

自分は愛されていないと思った。

バスティアンの苦しみと怒りは

計り知れません。

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