自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

バスティアン 94話 ネタバレ ノベル あらすじ 喝采を浴びるに値するフィナーレ

94話 船上パーティーは、まだ続いています。

音楽的な笑い声が

夜風に乗って伝わって来ました。

バスティアンは、隣に立っている妻に

ゆっくりと視線を落としました。

年配の海軍の将軍たちの前でも、

オデットは、

あまり緊張している様子は

ありませんでした。

この女の社交術は、

むしろ難しい相手に対する時に

さらに光を放ちました。

 

こんな妻を残して、1人で去るなんて。

クラウヴィッツ少佐は、

やはり意志が並外れている軍人だと

ある銀髪の提督が、

つまらない冗談を言いました。

バスティアンと会話する瞬間も

視線はオデットを離れませんでした。

他の将軍たちの事情も

大きく違いはありませんでした。

 

バスティアンが、

尊くて大切な人だから大事にしたいと

いけずうずうしく答えると、

ワハハと愉快な笑いが溢れ出ました。

 

確かに、トロサ諸島は

若い婦人が住むのに良い場所ではない。

 

愛妻家になったという噂が広まっても、

まさかと思っていた。

生きていれば、君のこんな姿を

見るなんてことがあるんだね。

 

機嫌よく、新婚夫婦をからかっていた

将軍たちは、グラスが空になると

ようやく腰を上げました。

やっと一息ついた瞬間にも

バスティアンは、

妻の腰を抱きしめた手を

離しませんでした。

酒に濡れた唇もなお、

確固たる笑みを浮かべていました。

人生最高の日を過ごしていると

信じて疑わない様子でした。

 

「笑え」

表情が消えたオデットの顔を

見下ろしていたバスティアンが、

低い声で命令しました。

 

魂が抜けたまま

虚空を凝視していたオデットは、

ようやくビクッとして

顔を上げました。

目が合うと、熱を帯びた頬が

さらに赤くなりました。

改めて純真なふりをする女が憎らしく

バスティアンは少し笑いました。

 

バスティアンは、

妹のためなら、

命も捧げる勢いだったのに、

いつの間に、気が変わったのか。

もし、そうなら話すように。

喜んで、その意思を尊重すると

言いました。

オデットが黙っていると、

バスティアンは、

返事をするよう要求しました。

彼の声は、今や陰鬱なほど

低く沈んでいました。

 

視線を避けるのに必死だったオデットは

ようやく、まともに、

バスティアンを見つめました。

女は、まるで、ひび割れた

ガラスの人形のようでした。

指先が触れるだけで、

粉々に砕けてしまいそうでした。

 

ふと、バスティアンは、

むしろオデットが泣いてくれることを

願いました。

1分1秒も我慢できないほど

うんざりするくらい、

必死に涙を流しながら、

哀願する姿を見たかった。

そうすれば、

まだ残っている取引を忘れて、

この女を捨てることもできるような

気がしました。

そうしてはいけないということを

知っている、

理知の管轄外にある衝動でした。

 

細い腰を包んだ指先に

そっと力が入り始めた頃、

オデットは震える唇を開いて

謝りました。

 

バスティアンは熱を帯びたため息を

静かに飲み込みました。

涙を流したオデットの目は、

再び深い水のように

冷たく静かになりました。

頑なに閉ざされた唇と、

まっすぐに伸ばした長い首が、

孤高な印象を一層際立たせました。

 

オデットは素晴らしい俳優だ。

独りよがりの妄想にとらわれて

忘れていたその事実を

バスティアンはふと思い出しました。

それは、オデットを

契約結婚相手に選んだ

最大の理由でもありました。

 

それでも、この女を信じていた自分が

どれほど愚かだったかを

改めて悟った瞬間、

オデットが笑いました。

甲板を飾る色とりどりの灯りの中で。

虚しい夢を見させた日々と同じくらい

美しく。

 

結局、すべての瞬間が嘘だった。

バスティアンが、

これ以上、否定できない現実を

直視したのと同時に、

ゆっくり航海していた軍艦が

停まりました。

祭りの最後を飾る花火大会が

行われる時間でした。

クラウヴィッツ少佐夫妻の席は、

船首の上部甲板に用意されました。

英雄のための皇帝の配慮でした。

 

オデットは、

雲の上を歩いているような

非現実的な気分に襲われたまま、

人混みの中を通り過ぎました。

降り注ぐ力強い拍手の音が、

ブーンと耳鳴りのように

耳元を駆け巡りました。

 

もう限界でした。

どうにかして耐えてみようと

必死になりましたが、

疲れ果てた体は、すでに

意志の制御を離れていました。

両足から感覚が消え、

視界が、ぼやけてきました。

欄干の前に立ち止まった頃には、

まともに目を開けることさえ

大変になっていました。

 

もう少しだけ。

オデットは、口の中の

柔らかい肌を引き寄せて

噛み締めながら

自らを奮い立たせました。

長く見積もっても1時間。

花火が終わって艦艇が帰港するまで

耐えればいいことでした。

 

バスティアンは約束を守る。

オデットは、

その事実を疑いませんでした。

自分がした約束は

必ず守った男でした。

その方法が卑劣で低俗であろうとも

確かにそうでした。

初対面から今に至るまで、

共に歩んで来た過去の時間が

証明してくれた事実でした。

 

乱れた息を整えたオデットは

手を伸ばして

デッキの欄干を掴みました。

それと同時に

最初の花火が上がりました。

その爆音と共に沸き起こった

群衆の歓声が、

街全体を揺るがし始めました。

 

連続的に打ち上げられる

色とりどりの花火が織りなす

壮観な眺めが広がっていましたが、

虚ろになってしまった

オデットの瞳には、もはや何も

映し出すことができませんでした。

一瞬、世の中の音が消えました。

続いて光が消え、足元が崩れました。

 

どうか。

もう全てが終わってしまったという

無力感の中でも、オデットは、

最後の未練を断ち切ることが

できませんでした。

その罰のような希望が恐ろしく、

泣き出しそうになった瞬間に

バスティアンが近づいて来ました。

 

長い海岸線に沿って

設置されていた花火が

一斉に打ち上げられました。

空の高い所に到達した花火が

開くと、ローザンの夜が

煌めく金色に染まりました。

 

バスティアンは、その黄金の雨の下で

オデットを抱きました。

見物人たちの耳と目は

気にしませんでした。

オデットの抵抗も同様でした。

 

必ず裏切りの代価を払わせてやる。

バスティアンは

明快な計算から導かれた結論で、

数日間続いた煩悶に

終止符を打ちました。

失神したかのようなオデットを

胸に抱いて隠しました。

誰もこの女の状態に気づかないように

深く、さらに深く。

 

まだだ。

この女の人生に終りを告げるのは

彼でなければなりませんでした。

だから、その日が来るまで、

オデットは決して

崩れてはなりませんでした。

 

バスティアンは、

怯えた獣をなだめるように

オデットの背中を撫でながら

周囲を探りました。

花火よりも、

スリルのあるものを見つけた

船上パーティーのゲストが

彼らを注視していました。

皇帝も例外ではありませんでした。

 

オデットは、

花火大会の終わりが近づいて

ようやくパニック状態から

抜け出しました。

まだ、体をきちんと支えることは

できませんでしたが、息遣いは、

一段と落ち着いていました。

 

バスティアンは、

手袋をはめた手を上げて

オデットの額を濡らしている

冷や汗を拭いてやりました。

首を絞めてしまいたい衝動が

大きくなるほど、

口元に浮かべた微笑みは、

さらに優しくなって行きました。

 

盛大なお祭りは、いつの間にか

大詰めを迎えていました。

五色に輝く花火が、

夜が深まるローザンの空と海を

彩りました。

儚く消えてしまうことを

知っているからこそ

より一層美しい瞬間でした。

 

バスティアンは

視線を斜め下に落として

オデットを見つめました。

見物人たちが何を望んでいるのかを

見抜くのは、それほど

難しいことではありませんでした。

叶えられない願いでは

ありませんでした。

 

「我慢しろ」

バスティアンは愛を囁くような

甘美な声で厳しい命令を下しました。

オデットが、その意味を推し量ろうと

努力している間に、

大きくて硬い手が顔を包み込みました。

 

本能的な恐怖が襲ってきましたが、

オデットは抵抗できませんでした。

すでに皆が彼らを注視していました。

視線が作り出した監獄に

閉じこめられたオデットにできるのは

ただ予定された苦痛を

待つことだけでした。

 

どこからか、

口笛の音が聞こえて来ました。

冷やかしの歓呼も、

その後に続きました。

今この瞬間、彼らは道化師でした。

 

ふと、その事実に気づいた

オデットの視界が、

恥辱の涙で曇ってしまいました。

バスティアン。

思わず囁いた名前が、

火薬の匂いがする風に乗って

広がりました。

 

バスティアンは落ちついた目で

オデットを見つめました。

青白い瞳には、

冷たい嘲笑が浮かんでいました。

最後の希望さえ失ったオデットが

力を入れたのと同時に、

彼が口を合わせて来ました。

オデットは諦めたように

目を閉じました。

海軍省創設以来、

最大規模で行われた祭りは

成功裏に幕を閉じました。

 

勝利を記念する行進や特別進級式、

帝国艦隊の威容を満天下で披露した

海上観艦式に至るまで、

そのすべての栄誉の瞬間に、

トロサ海戦の英雄である

バスティアン・クラウヴィッツ

いました。

 

花火大会の最後を飾ったのは

妻に捧げる英雄のキスでした。

皇帝は、満足げな眼差しで

その光景を見守っていました。

処世に長けた野心家だということは

とっくに知っていたけれど、

これは期待以上の成果でした。

なんと劇的な場面だったことか。

脚本を書いた張本人の彼さえも

騙してしまうほどの名演技でした。

 

結婚は今年が終わる前に

執り行われるだろう。

ベロップ使節団の動態を窺う

皇帝の顔の上に、

確信に満ちた笑みが浮かびました。

 

ニコライ王子は、

誰よりも熱心な観客となって

歓呼していました。

もう誰も、あえてイザベルの不貞を

疑うことができないはずでした。

 

はたして彼は、

約束した期間が過ぎた後も

オデットとの結婚を

続けるのだろうか?

不敬でありながらも忠直な英雄を

見つめる皇帝の眼差しが

深まりました。

それが最善だろうけれど、

たとえ離婚するとしても

喜んでその選択を

尊重するつもりでした。

皇帝の名前と名誉を交わした約束を

むやみに

破ることはできないのだから。

 

一幅の絵のように美しい恋人のキスは

最後の炎の下で終わりました。

皇帝は力強い拍手で彼らを称えました。

 

イザベルとニコライの結婚は、

すでに実現したも同然でした。

両国の同盟は、これによって

さらに堅固になるはずでした。

これなら、喝采を浴びるに値する

フィナーレでした。

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テオドラは、海軍祭が始まる前に

バスティアンにオデットの裏切りを

伝えることで、

バスティアンの晴れの舞台を

台無しにしようとしたけれど

子供の頃から様々な経験をし、

トロサ海戦の英雄にまでなった

バスティアンの強靭な精神を

侮り過ぎていたと思います。

 

ここまで、息子が立派になったのに

ジェフがバスティアンのことを

少しも誇りに思わないのが

不思議です。

バスティアンが祖父に引き取られ

厄介払いできた時点で、自分に

バスティアンという息子がいた事実を

自分の中で、

葬ってしまったのかもしれません。

 

オデットは、

自分がバスティアンを裏切ったことへの

報いを受けていますが、

体も心もボロボロになりがらも、

彼の名誉を守るという決意を

はたせることができたのは

良かったです。

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