自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

バスティアン 96話 ネタバレ ノベル あらすじ 全てが元の位置に戻るはず

96話 バスティアンは出征しました。

郵便配達員は、

今日も2時に邸宅を訪れました。

午後の日差しがアルデン湾全体を

金色に染める時でした。

 

メイド長は、

直接受け取った郵便物を持って

小さな書斎に向かいました。

予想通り、オデットは、

海の見える窓の前の机に

座っていました。

最近、一日のほとんどの時間を

過ごしている場所でした。

 

山のように積まれた書類を見た

ドーラは、

あとはロビスに任せたらどうかと

それとなく勧めました。

 

オデットは

最終段階に差し掛かった

邸宅の室内装飾と造園工事を

指揮するのに

忙しい日々を送っていました。

不具合の確認はもちろん

帳簿の整理もしていました。

 

数年に渡って行われた

大規模工事だっただけに、

仕事量は相当なものでした。

夏の間ずっと屋敷に閉じこもり、

その仕事だけに

没頭しているといっても

過言ではありませんでした。

 

署名を終えて書類をとじたオデットは

ドーラに、大丈夫だと優しく返事をし、

心配してくれたことに

お礼を言いました。

 

ここまで。

優しい笑顔の裏に込められた意味を

よく知っているドーラは、

そのくらいで、一歩、退きました。

そして声を整えて、

「奥様への手紙です」と

本論を伝えました。

 

オデットは、

郵便物の入った箱を渡されました。

一番上に置かれた封筒には、

ベルク帝国領トロサ諸島の消印が

鮮明に押されていました。

毎月中旬になると必ず届く

バスティアンの手紙でした。

 

まず、オデットは

夫を愛する妻の役割にふさわしい

表情を見せました。

手紙を大切に撫でる仕草を

添えるのも忘れませんでした。

 

夕食のメニューと

食料品の代金決済に関する

簡単な報告を終えたメイド長は、

急いで小さな書斎を後にしました。

やがて、お互いを深く愛する

主人夫妻に対する噂が、

邸宅全体に広まることを

予感させる様子でした。

最も目ざといドーラを騙したので、

他の使用人は、それほど

心配する必要はないはずでした。

 

ようやく一安心したオデットは

淡々と封筒を開けました。

きちんと折りたたまれている

白紙を広げると、

その真ん中に置かれた小切手が

現れました。

これもまた、

今では慣れた日常の一部でした。


何の添える言葉もなく、

ただ小切手一枚。

海外戦線に赴任した最初の月から

今に至るまで、

バスティアンは、毎月同じ方法で

お金を送って来ました。

オデットは、

トロサから届いた3度目の手紙を

受け取る頃になって、ようやく、

その意味を理解しました。

 

ラブレターを装った賃金の支払い。

変わらぬ愛を世界中に誇示しながら

実務を処理する戦略と見るのが

最も妥当なようでした。

 

裏切られても給料を止めない真意は

何なのだろうか。

何度も悩んだけれど、オデットは、

結局、その答えを

見つけることができませんでした。

どうしても聞くことができないので

ただ受け入れるだけでした。

それでも、もう少しお金を

稼げるようになったという事実には

ただ感謝するだけでした。

 

影のように落ちている自責の念は

振り返らないことにしました。

オデットは、

しばらくじっと見ていた小切手を

机の引き出しの一番下の段にある

金庫の中へ入れました。

 

バスティアンと契約を結んだ時間分の

貯まった金額が、

かなり大きくなりました。

これくらいなら、

目標値に到達したと見ても

無理はなさそうでした。

 

やはりティラを

新大陸へ送るのがいいだろうと

オデットはふと思いました。

ここで起こることの余波が

届かないほど遠く、とても遠く。

遅くともこの秋が終わる前には

バスティアンが戻って来るので、

できるだけ早く、決断を

下さなければならないはずでした。

 

オデットは、

じっくり計画を整理すると

しばらく中断していた業務を

再開しました。

まず補修が必要な部分を整理した後、

インテリアコーディネーターとの

電話を終えました。

温室の建築家と画廊の主人にも

連絡を済ませると、いつの間にか

西側の空が赤く染まっていました。

 

オデットは

日が沈む風景を眺めながら

冷たいお茶を飲みました。

これなら、

バスティアンの帰国に合わせて

邸宅を完成させられそうでした。

あえて自分がする必要がないことは

分かっていたけれど、

それでも自分で仕上げをしたいと

思いました。

もしかすると、

深く没頭できる何かが

必要だったような気もしました。

 

徐々に夕闇が迫る頃になると、

ティーカップの底が露わになりました。

短いティータイムを終えたオデットは

バスティアンへの返事を

書き始めました。

愛の手紙をやり取りする

仲睦まじい夫婦に見せるための

必要な手続きでした。

 

何の知らせもないのを見ると、

バスティアンは、まだ離婚を

公にする気がなさそうでした。

それなら、オデットは

妻の役目を果たせば良いのでした。

遅かれ早かれ訪れる

この契約の終わりは、

心の片隅に残る自己嫌悪と共に

忘れました。

長い間悩んだ末に見つけた

最善の方法でした。

 

しばらく息を整えている間に、

ペンの先に溜まっていたインクが

手紙の上に落ちました。


オデットは、

静かにため息をつきながら、

急いで吸い取り紙で

インクを拭き取ってみましたが、

もうシミになってしまった後でした。

 

元に戻すことができなくなったという

事実を淡々と受け入れたオデットは、

きちんと畳んだ手紙を持って

暖炉の前に近づきました。

炎の中に投げられた紙は、

すぐに灰になって消えました。

 

オデットは、

手紙が完全に消えたことを

再度確認した後、机の前に戻りました。

新しいペンを握り、

適量のインクを着けて、

最初から手紙を書き始めました。

それで良いのでした。

北海艦隊の将校の官舎は

本島の中心部に位置していました。

市街地と公園を過ぎると現れる

静かな住宅街でした。

 

クラウヴィッツ少佐を乗せた軍用車

その町の入り口で止まりました。

急いで助手席のドアを開けた運転手は

まもなく後部座席に積まれた荷物を

降ろしました。

大小の海戦が頻繁に起こったため

艦艇勤務期間が

かなり長かったにもかかわらず、

少佐の荷物は簡素でした。

制服をきちんと身に着けた姿もまた

今ちょうど、

海から戻って来たばかりだとは

信じられないほどでした。

 

直接トランクを持ち上げる

クラウヴィッツ少佐を見た運転兵は

目を丸くし、慌てて

自分がやると申し出ました。

 

バスティアンは運転兵に

そろそろ帰るようにと短く命令すると

運転兵をかすめて通り過ぎました。

もたもたしながら、

彼の数歩後を付いて来た運転兵は

力強く挨拶した後、退きました。

バスティアンは、簡単な敬礼で

答えを代わりにしました。

視線は依然として

道の端に向ったままでした。

 

青灰色の雲が低く垂れ込めた空から

冷たい霧雨が降ってきました。

ようやく8月が

終わろうとしているだけでしたが

緯度の高いトロサ諸島は、

すでに、すっかり秋へと

移り変わっていました。

 

官舎の前に到着するや否や

「こんにちは、

クラウヴィッツ少佐!」と

活気に満ちた挨拶が

聞こえて来ました。

 

バスティアンは声が聞こえて来た方へ

ゆっくりと首を回しました。

買い物かごを持った若い婦人が、

足早に近づいて来ていました。

隣に住むケイロン少尉の妻でした。

彼女は、

艦艇勤務を終えたようですね。

海が荒れた季節で

苦労が多かっただろうと言って

バスティアンを労いました。

 

バスティアンは、

儀礼的な笑みを浮かべた顔で

当然すべき任務を遂行しただけだと

謙遜し、彼女の気遣いに

お礼を言いました。

非の打ち所のない親切さが、

かえって、

冷淡に感じられる態度でした。

 

気後れしたケイロン夫人は、

ぎこちない笑みを浮かべながら

傘を握り直すと、バスティアンが

疲れているのではないかと気遣い、

中へ入って休むようにと勧めました。

そして、彼がベルクに帰る前に、

彼のための送別会を開きたいけれど

大丈夫かと尋ねました。

 

バスティアンは、

ありがたい提案だけれど、

自分のために無理をする必要はないと

断りました。

しかし、ケイロン夫人は、

無理ではない。

家族の恩人である少佐を

このまま行かせるわけにはいかない。

ささやかだけれど、

少佐をもてなす機会をもらえれば、

とても光栄だと申し出ました。

 

彼女は、おずおずと

バスティアンの顔色を窺いながらも、

なかなか退きませんでした。

その頑固な顔を

じっと見つめていたバスティアンは、

このくらいで招待を受け入れることで

不必要な言い争いを避けました。

 

ケイロン少尉は、

妻と幼い子供を連れて赴任しましたが

独身者の宿舎を割り当てられました。

新任の下級将校で下流階級の出身という

優先順位から、

大きく外れている条件のためでした。

一方、バスティアンには

家族連れの将校のための官舎が

提供されました。

妻を連れてくると早合点した

上層部が下した決定でした。

 

その事実を知ったバスティアンは、

ケイロン一家に

自分の官舎を譲りました。

使い物にならないから渡しただけ。

それ以上の意味はありませんでした。

しかし、そのおかげで、

すごい人格者にでもなったような

評判を得ることができたので、

結果的に、大きな利益を

得ることになりましたが。

 

子供のように喜ぶケイロン夫人と

別れの挨拶を交わしたバスティアンは

このくらいで、

官舎の階段を上りました。

一番端に位置する15号室が

バスティアンの選んだ場所でした。

 

玄関に入ったバスティアンは

濡れたレインコートと将校帽を

脱ぎました。

明かりが灯った家の中には

食べ物の匂いが漂っていました。

前もって家政婦が

訪れていたようでした。

 

まず、バスティアンは

狭い階段の上にある寝室へ行き、

トランクを片付けました。

長いシャワーを浴びた後、

再び1階に下りてくると、

いつの間にか日が暮れていました。

 

バスティアンは

温めたブランデーを1杯注いで

応接室へ向かいました。

ソファーの前のテーブルには、

きちんと整理した郵便物が

置かれていました。

一番上に、あの女の手紙を置いたのは

おそらく家政婦の

細やかな心遣いのようでした。

 

バスティアンは、

これといった感情のない顔で

オデットの手紙を開きました。

工事の進捗状況と家計の運営状況、

それに添えられた味気ない挨拶。

多分に事務的な内容で

満たされた手紙は、

毎月執事が送ってくる報告書と

大差ありませんでした。

 

オデット・テレジア・マリー・ロール

シャルロッテ・クラウヴィッツ

きちんとした文字で残された

最後の署名を確認した

バスティアンの口元に

嘲笑が浮かびました。

 

高潔で優雅な

クラウヴィッツ夫人の名声は、

依然として、よく保たれていました。

お互いを深く愛する夫婦という評判も

そうでした。

精一杯へりくだり、

這いつくばるようにして

生き延びる道を図っている

オデットの努力のおかげでした。

 

お金に人生を売り、信義を売り、

結局、

あの偉そうな自尊心まで売り払った

安っぽい俗物。

たかが、このような女に

惑わされた過去が、

今はただ滑稽なだけでした。

どうせ近いうちに片づける女。

墓碑に刻まれた名前と同じだと言っても

過言ではありませんでした。

 

そのくらいで、

オデットの手紙を下ろした

バスティアンは、

ソファーのひじ掛けに

斜めに寄りかかって座ったまま

残りの郵便物を確認しました。

中には

サンドリンからの手紙もありました。

 

愛する私の恋人バスティア

露骨な呼び名で始まった

サンドリンの手紙は、

熱烈な愛情を込めた言葉で

満たされていました。

 

元々、

火花のような女ではありましたが、

離婚に成功してからは、

さらに奔放で大胆になりました。

ラビエル令嬢に戻っても

変わらない気持ち。

バスティアンとしては

拒む理由のない幸運でした。

 

時間に打ち勝つ気はない。

ここで過ごした2年間が

証明してくれた事実でした。

 

空のグラスを下ろしたバスティアンは

葉巻に火を点けました。

深く吸い込んだ煙を吐き出す間に

濡れた髪の先に溜まっていた水滴が

ぽとんと鼻の上に落ちました。

 

バスティアンは、

額を覆っている髪をかき上げながら

ソファーから立ち上がりました。

ゆっくりと流れ落ちた水滴は、

開いたガウンの前立ての間に落ちて

姿を消しました。

 

バスティアンは

雨に濡れた窓の前に立ち、

ゆっくりと葉巻を吸いました。

今月は、

クラウヴィッツ夫人の給料の小切手を

発行する必要はなさそうでした。

来週には、本国へ行く輸送船に

乗ることになるからで、

残っているのは、契約終了のための

後片付けくらいでした。

先送りしておいた精算を終えれば

全てが元の位置に戻るはずでした。

 

バスティアンは、半分吸った葉巻を

指の間に挟んで、振り返りました。

それほど急がない規則正しい足音が、

寂寞とした北海の夜の中に

染み込み始めました。

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長い間、バスティアンは、

オデットの顔を見ずに

過ごして来たので、今は、

彼女を馬鹿にし嘲笑っているだけで

済ませていられるけれど、

ベルクに戻って、

オデットの顔を見たら、

自分を裏切ったことへの恨みが

再熱するでしょうし、

それにオデットは

おそらく、バスティアンが

初めて愛した女性だと思うので、

そう簡単に愛が消えることはないと

思います。

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