
32話 ペンドルトン嬢は祖母亡き後の人生を考えています。
プライス氏が滞在している
ナイズリー夫人の家に
ペンドルトン家の晩餐会の招待状が
舞い込みました。
続いて「喜んで応じる」と、
見事に走り書きした筆跡で
書かれた返事が
ペンドルトン家に届きました。
ペンドルトン嬢は、ジェルマン氏と
晩餐会のメニューについて相談し、
ダイニングテーブルをセットし、
彼を楽しませてくれる
別のゲストについて考えました。
祖母は出席するのが難しそうだし、
自分だけで、
彼に社交の楽しさを与えるのは
難しそうだったからでした。
噂によると、主賓のプライス氏は、
気さくで性格がおおらかで
おしゃべりとのこと。
彼女は、彼に相応しい友達を
探しました。
傾聴の達人である
フェアファクス兄妹と、
新しい話なら何でも興味津々の
ハイド嬢が浮かび上がりました。
続いて、何組か開放的な
新興富裕層夫妻を思い出しました。
彼女は彼ら全員にも招待状を送り、
彼らは喜んで応じてくれました。

晩餐会の日、
予想通り祖母は寝室に留まり、
ペンドルトン嬢だけが
きちんと身支度を整えた後、
応接室で客を待ちました。
当日、一番先に到着したのは
ハイド嬢でした。
彼女はシンプルな白いブラウスに
黒いジャケットと
飾りのない栗色のスカート姿で
応接室に入ってきました。
社交界で生活する中、
仕方なく身に着けるしかない
華やかな装身具が一つもない
一般女性事務員の
さっぱりした服装でした。
彼女は先日、出版社に就職しました。
彼女が働き始めてから、今日で
ちょうど半月が経ちました。
彼女は書類カバンを下ろすと、
膝を曲げる社交的な挨拶を放り投げ、
すぐにペンドルトン嬢の首に
抱き着きました。
ペンドルトン嬢は、
その激しい愛情表現を
喜んで受け入れました。
彼女の最近の生活が
幸せだという証拠だったからでした。
ハイド嬢は、
数日間、オフィスに出勤しながら
経験したことを
根掘り葉掘り話し始めました。
彼女は編集部の末端タイピストでした。
書面契約書を作成し、
依頼をしに来た作家たちを迎え、
お茶を出すことが表向きの業務でした。
しかし、彼女は1週間で
本当の自分の仕事が何かを悟りました。
愉快な愛煙家である編集者が
作家たちの陰口を言うのを聞きながら
一緒に彼らの文章について
悪口を言うことでした。
ちょっと面白くて変な職場だと
ハイド嬢は言いました。
しかし、そう話すハイド嬢の顔は
キラキラと輝いていました。
ペンドルトン嬢は今まで、
これほど楽しそうなハイド嬢の顔に
向き合ったことがありませんでした。
きっと始めたばかりの新しい人生が
気に入っているようでした。
ペンドルトン嬢は、
自分よりずっと
早く新しい人生を始めたハイド嬢を
誇らしく見つめました。
時間通りにプライス氏が到着しました。
彼はきれいにアイロンをかけた
燕尾服を着て、口笛を吹きながら
使用人に案内されて
応接室に入って来ました。
そして応接室にいる2人の女性に、
「はじめまして。
トム・プライスと申します」と
腰を屈めて、
礼儀正しく挨拶しました。
二人は静かに立ち上がり、
膝を曲げて挨拶しました。
ペンドルトン嬢は、
「お越しいただき、
ありがとうございます」と
優しく挨拶すると、
自分はジェラルド伯父の姪の
ローラ・ペンドルトンだと
自己紹介をし、ハイド嬢のことも
ハイド家の次女である
ジェーン・ハイド嬢と紹介しました。
プライス氏は、
もう一度頭を下げた後、
愛想よく淑女たちに近づき、
彼らの手の甲に
それぞれキスをしました。
プライス氏は、
ジェラルドから、
つまりペンドルトン伯爵から、
たくさん話を聞いているけれど
本当に立派な家に住んでいる。
そしてハイド嬢は、
ロンドンの淑女らしく
眩しいほど美しい。
こんなに眩しい淑女たちと向かい合って
食事をしなければならないので、
今日の夕食が喉を通るかどうか心配だと
お世辞を言った後、
ハイド嬢の服のスタイルが少し独特だ。
とても実用的で、さっぱりしていると
指摘しました。
ペンドルトン嬢は彼に、
ハイド嬢がオフィスに勤める
タイピストだという話をしました。
彼は、その話を聞くと
からから笑って拍手をしました。
プライス氏は、
アメリカでも経済活動をする女性が
たくさん登場しているけれど、
イギリスでは、
その数は少ないと聞いている。
ところが、この場で
立派なキャリアウーマンに出会えた。
もしかして、結婚する計画はあるかと
尋ねました。
ハイド嬢は、
全くない。結婚を避けるために、
この道に入ったと答えました。
プライス氏は、
素晴らしい分別力だと感嘆しました。
ハイド嬢は、
彼の豪快さに好感を抱きながら、
プライス氏が、自分のどこに
そのような点を見たのか。
自分は、今まで生きて来た中で、
その反対の話だけを聞いて来た。
年を取るほど、
ますます、そうなったと言いました。
プライス氏は、
それは、人が決して
淑女たちに教えない秘密を、
ハイド嬢が知っていたから。
皆が共謀して、ハイド嬢を始めとする
結婚適齢期の女性たちを騙していると
返事をしました。
ハイド嬢は、
その秘密について尋ねました。
プライス氏は、
女性にとって
夫は厄介者だということだと
答えました。
ペンドルトン嬢は微笑みながら
失礼かもしれないけれど、
プライス氏は、長い間、
結婚生活を送っていたと聞いていると
指摘しました。
プライス氏は、それを認めた後、
これは自分の長い経験から生まれた
自己分析だ。
自分の周りのすべての男は、
妻にとって厄介なだけだった。
良い夫であれ悪い夫であれ、
皆同じだと返事をすると、
大げさにため息をつきました。
そして、
自分は妻をとても愛していたので、
自分が妻にとって
価値のない男になることが
とても怖かった。
それで妻にとって良い夫になるために
一生、努力しながら暮らした。
彼女が星を取って来いと言えば
星を取って来て、
月を取って来いと言えば
月を取って来た。
もちろん、2人は、毎晩、
星と月を見ただろうけれど、
それは、自分が夜になる前に、
さっさと
元の場所に戻しておいたからだ。
しかし、妻がこの世を去る瞬間、
彼女の手を握って泣いている
自分を放って、彼女は、
神様、早くこの厄介者から解放して
自分を連れて行ってくれと言ったと
話しました。
ハイド嬢は我慢できずに、
腹を抱えてケラケラと笑いました。
ペンドルトン嬢は、
彼の自虐的なユーモアのセンスに
困惑した笑みを浮かべるだけでした。
まもなく
フェアファクス兄妹を始めとする
貴賓が到着し、
本格的な晩餐会が始まりました。
とても良い雰囲気でした。
プライス氏は前菜からデザートまで
フルコースが出る間、
魅力的な漫才師の役割を
しっかり果たしました。
彼は30年以上、アメリカ社会で
実業家として暮らしながら
数多くの経験をし、
それによって豊富な話題のネタを
持っていました。
特に彼は、
ニューヨークの社交界について
よく知っていました。
妻と一緒に20年間出入りした、
彼にとっての、
本拠地のような所だったからでした。
この話題は、
晩餐会という場所の特性にも合い、
彼の話は、晩餐会に参加した
全ての人を魅了しました。
彼は食事の間中、
貴族のふりをする
アメリカの商工業者の子孫たちが
どれほど熱心に
ヨーロッパの社交界を模倣することに
熱を上げているのか、
隅々まで話してくれました。
彼は鋭い観察力の持ち主であり、
また風刺の達人でもありました。
彼の口を通じて、
容赦なく暴かれました。
プライス氏は、
彼らがヨーロッパの文化を
真似するために、
インテリア、使用人の服装、
ドレス、社交界のマナー、
さらには不倫の方法さえも
真似していると嘲笑しました。
彼の話は、
いつも度を超えていましたが
平然として明るい
プライス氏の口調のおかげで、
不快に感じる者は
誰もいませんでした。
たとえ彼の話が不快だったとしても、
彼の話は、
ヨーロッパ人としての誇りを
満足させてくれたので、誰も彼を
止めなかったはずでした。
食事が終わり、
彼らは応接室に席を移しました。
ジャネット嬢とペンドルトン嬢は
交互にピアノを弾き、
残りの人たちはピアノの演奏を聞いたり
カード遊びをしたりして
時間を過ごしました。
特にハイド嬢は、
夕食を共にしている間に、
すっかりプライス氏に
夢中になってしまい、
彼にずっとアメリカの話を
聞こうとしました。
プライス氏は、
淑女の関心を嫌がっていないようで
応接室にいる間、ハイド嬢に
自分が滞在したアトランタと
ニューヨークについての話を
聞かせました。
その日の晩餐会は大成功でした。
客たちは皆、満足したし、
特に主賓のプライス氏は
ペンドルトン家の料理と
手厚いもてなしと、
魅力的な客たち面々に感嘆しました。
彼は帰る直前、
とても満足そうな表情で、
今日のような晩餐会は
アメリカでもなかったと言って、
ペンドルトン嬢の手の甲に
キスをしました。
ペンドルトン嬢は、
たとえ彼の騒がしい口調と
大げさなユーモアのセンスが
彼女の神経を刺激し、
ディナーが終わる頃に
偏頭痛に襲われたとはいえ、
主賓を満足させたという事実に
大いに安堵しました。

その日以来、ペンドルトン嬢は、
プライス氏を、
頻繁に晩餐会に招待しました。
その時間は、いつも賑やかで
愉快な雰囲気に満ちており、
彼はいつも帰る度に
ペンドルトン嬢の手の甲にキスをし、
最高の晩餐会だと、
口が乾くほど褒めたたえました。
彼女はプライス氏が、
自分のもてなしに満足していると感じ
それがプライス氏の気持ちの
全てだと思いました。
しかし、交流が続くにつれ、
ペンドルトン嬢は
何か変な気配を感じ始めました。
その最初の予感は、
彼がペンドルトン家での
4回目の晩餐会に招かれた日でした。
その日は、
祖母の体調がいつもより良く、
久しぶりに晩餐会に出席しました。
祖母は彼の愉快な気質を
とても気に入り、プライス氏は
体調の悪い貴婦人を楽しませるために
彼の持つ機知とユーモアを全て使って
雰囲気を盛り上げました。
メインディッシュが出る頃、
祖母とプライス氏は、
心を開いて率直な会話を交わすほど
親しくなりました。
プライス氏は、
ペンドルトン嬢はアビゲイル夫人の
素晴らしい慰めだ。
ペンドルトン嬢が結婚したら
本当に悲しいだろうと言いました。
アビゲイル夫人は、
それは仕方のないことだ。
自分の幸せを求めようとしている娘を
どうして、
止めることができるだろうかと
返事をしました。
プライス氏は、
娘と、その親にとって、
別れは避けられない必然だ。
親は娘を愛おしいがゆえに、
常に心の奥で、別れの悲しみを
準備しなければならない。
さもなければ、
いざ別れが迫った時に、
娘を引き止めて、
彼女自身の幸せを諦めろと
哀願することになるだろうから。
自分も、まさにそうだった。
娘がウェディングドレスを着た時、
その子を引き止めて、
どうか、あと1年だけでも
自分の娘でいて欲しいと
頼みたかったと話しました。
アビゲイル夫人は、
やはり、プライス氏は、
娘を嫁がせた人だけあって
そのような気持ちを
理解してくれているようだ。
もしローラが去ることになれば、
自分は心臓の一部が
引き裂かれるような
気分になるだろうと言いました。
プライス氏は、
しかし、その苦痛を
我慢しなければならない。
親が苦しむ分、娘はそれによって
幸せになるのだからと
返事をしました。
ペンドルトン嬢は、黙って
彼らの会話を聞きました。
プライス氏が、祖母の
良い話し相手になってくれていると
思って、気分が良くなりました。
ところが、しばらくして
アビゲイル夫人がめまいを感じ
結局、使用人たちに助けられて
再び、上の階に上がりました。
ペンドルトン嬢は、その晩、1人で
プライス氏を、
もてなさなければなりませんでした。
食事が終わるまで、
彼の話をまじめに傾聴し、
笑顔を絶やしませんでした。
彼はこの家の大切な客だからでした。
食事が終わると
彼の頼みで応接室へ行き
ピアノも一曲、弾いてあげました。
プライス氏はそのまま座って、
ピアノを弾くペンドルトン嬢を
じっと見つめていました。
ペンドルトン嬢は
彼の視線が気になりましたが、
そんな素振りは見せずに
指を動かし続けました。
プライス氏は、
ロンドンの社交界に
初めて足を踏み入れた時、
ペンドルトン嬢を探したと
言いました。
ペンドルトン嬢は、
伯父から、自分の話を
聞いていたのかと尋ねました。
プライス氏は、
あいつが、いや、失礼、
親愛なる
ジェラルド・ペンドルトン伯爵が
自分の姪がどれほど美しくて
賢くて貞淑な淑女なのか
絶えず自慢していた。
誰よりもイギリスの淑女らしい女性だ。
アメリカの淑女1ダースとも
交換できないと言っていたと
話しました。
伯父さんが自分の自慢をしたなんて。
10歳以後、
一度も会ったことのない姪が、
美しくて、賢くて、貞淑なのが
どうやって分かるというのか。
それよりも、ジェラルド伯父が
純粋な意図から、
自分を褒めたとは思えませんでした。

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怪しい匂いがプンプンする
ジェラルド伯父の誉め言葉。
ペンドルトン嬢を卑下して、
あれだけひどいことをした伯父が
自分を褒めるなんて変だと
彼女が思うのも当然だと思います。
ペンドルトン嬢にとっては
おそらく苦手なタイプのプライス氏を
何度も晩餐会に招待しなければならず
しかも、1人で話し相手に
ならなければならなかったのは
とても辛かっただろうなと
思いました。