
48話 ペンドルトン嬢はジェンセン嬢と一緒に馬車に乗っています。
馬車が出発すると、ジェンセン嬢は
まず、自分が名付け親と
ペンドルトン嬢との関係について
干渉したり
説得したりする気がないということを
分かって欲しい。
自分はペンドルトン嬢に
負担をかける気は全くないし、
ペンドルトン嬢の好意に対して、
そんな風に報いるほど、
無礼な人ではないと言いました。
ペンドルトン嬢は、
きっとジェンセン嬢が、努めて
自分の気を変えようとすると思い、
心の準備をして馬車に乗ったので
その言葉に少し驚きました。
ペンドルトン嬢は、
自分の意思を尊重してくれたことに
お礼を言いました。
ジェンセン嬢は、
自分が名付け親を、
どれだけ大事にしているか
ペンドルトン嬢は知っているだろう。
あの人は実の父も同然で、
むしろ実の父より身近で大切な人だ。
だから、自分は今、名付け親が、
年甲斐もなく、
はしゃごうとする危機から
救う責任があると言いました。
ペンドルトン嬢は真剣というよりも
むしろ悲壮感すら漂う
ジェンセン嬢の言葉に
疑問を抱きました。
ジェンセン嬢は、
断じて最後に聞くけれど、
ペンドルトン嬢は名付け親に
何の感情もないのかと尋ねました。
ペンドルトン嬢は
「はい」と答えました。
その言葉に、
ジェンセン嬢はため息をつき、
手で額を押えながら、
一体、あの二人は
何をしでかしたのかと、
ぼそぼそ呟きました。
ジェンセン嬢は、
しばらく黙っていました。
何かを考えているようでした。
ペンドルトン嬢は彼女の言葉を
じっと待っていました。
まもなくジェンセン嬢は、
名付け親が明日の舞踏会で
ペンドルトン嬢に
公開プロポーズをする予定だったと
打ち明けました。
驚いたペンドルトン嬢は
開いた口を手で塞ぎました。
ジェンセン嬢は、
名付け親が、ペンドルトン嬢に適した
華やかでプロポーズの方法を
準備するため、
最近とても忙しくしていた。
花束や素朴なプロポーズでは
ペンドルトン嬢のプライドを
守ることはできないと
名付け親は考えていたからと
話しました。
ペンドルトン嬢が
「なんてことでしょう。
でも、私は・・・」と
反論しようとすると、
ジェンセン嬢は、
分かっている。さきほど、
応接室で話したことを聞いて
ペンドルトン嬢が名付け親に
全く気がないだけでなく、
大変苦しんでいるということを
完全に理解した。
自分は、名付け親が、
何かに一度夢中になると、
闘牛の牛のように
後先見えなくなることを知っている。
ペンドルトン嬢は、
自分の名付け親のために
とても困っていただろうと言いました。
ペンドルトン嬢は、
困ったのは確かだけれど、
プライス氏に悪感情はない。
プライス氏は良い人なので
今までのことさえなかったら
尊敬するように
なっていたかもしれないと
返事をしました。
ジェンセン嬢は、
そう、いい人だ。尊敬される高齢者で
終わらせるべき関係に
男女の問題を持ち込んで
恥をかいただけだ。
ああ、これをどうしたらいいのか。
名付け親に、これを
どうやって伝えればいいのかと嘆くと
再び、額を押さえました。
非常に困り果てて、
苦しそうに見えました。
一方、ペンドルトン嬢は
ジェンセン嬢に感謝しました。
このような困った状況で
彼女が少しでも軽率だったら、
名付け親の肩を持って、自分を
追い詰めることもできたはずでした。
しかし、彼女は状況を客観的に把握し
彼女の味方になって
解決しようとしていました。
ジェンセン嬢は、
ひとまず、明日、
名付け親がしようとしている計画は
最大限、阻止してみると告げると、
ペンドルトン家まで、
あと、どれくらいかと尋ねました。
ペンドルトン嬢が、
1/4くらいまで来たと答えると、
ジェンセン嬢は、
それなら、あと20分はあるだろうから
残りの時間、しばらく自分の話を
聞いてもらえないか。
自分も、
名付け親を大事にする名付け子として
彼の立場を代弁したい。
この件は、
名付け親だけの責任ではないと
頼みました。
ペンドルトン嬢は不思議そうに頷くと
ジェンセン嬢に話をするよう
促しました。
ジェンソン嬢はため息をつくと、
実は自分は、
アメリカから来るかなり前から
ペンドルトン嬢を知っていたと
打ち明けました。
ペンドルトン嬢は、
「私を?」と聞き返すと、
ジェンセン嬢は、
ペンドルトン嬢の名前を
耳にし始めたのは半年ほど前。
その頃、名付け親は、
ジェラルド・ペンドルトン氏と
会ったと、答えました。
ジェラルド・ペンドルトンは、
彼の長男が始めた造船事業の
投資家を探すために、長男ではなく
次男のチャールズを連れて
アメリカへ来た。
ジェンセン嬢も、
後で知ったことだけれど、
回って来る財産のない次男に、
大きな財産がありそうな花嫁候補を
見つけるためでした。
名付け親は
ペンドルトン氏に会った直後から
よく、彼の姪について話していた。
美しくて、教養溢れるペンドルトン嬢。
保護してくれる夫のいない
ペンドルトン嬢。
恥ずかしがり屋のせいで、
まともな結婚相手が見つからなかった
ペンドルトン嬢といった感じだったと
ジェンセン嬢は話しました。
その時点からプライス氏は、
次第にジェンセン嬢に、
再婚についての悩みを
打ち明け始めました。
ジェンセン嬢は、
名付け親が妻に死なれた後、
どれほど寂しい気持ちで
暮らしているかを知っていたので、
その意見に賛成しました。
それから、しばらくして、
プライス氏は
家の内装を一新し始め、
妻が乗るに相応しい美しい馬車まで
購入したとのこと。
ジェンセン嬢は、
まだ結婚する女性がいないのに、
なぜ、そのように準備をするのか
不思議に思いました。
しかし、
すぐにその疑問は解けました。
プライス氏は自分の名付け子に
ペンドルトン親子を紹介し、
ジェンセン嬢は、彼らと
よく食事をするようになりました。
ジェンセン嬢は、その場で、
よくペンドルトン嬢の話を
聞くようになりました。
ペンドルトン氏が、その都度、
ペンドルトン嬢について言及し、
プライス氏の心を
かき立てたのでした。
自分は最初は懐疑的だった。
互いに直接会ったこともない
海の向こうの他人の言葉によって
結婚が実現するはずがないと思った。
しかし、
次第に確信するようになった。
ペンドルトン氏は、
自分が結婚を取り持つことについて
姪から、好意的な返事をもらったと
はっきり言った。
そんな手紙を送ったことはあるかと
ジェンセン嬢は尋ねました。
ペンドルトン嬢は首を横に振りました。
次第に事件の糸口が見えて来ました。
伯父が自分の姪を褒めちぎったという
プライス氏の話。
相手が受け入れるのは
決まっていると言わんばかりに、
厚かましかったプライス氏の求愛。
この全てのとんでもないことの背後に
伯父がいることが明らかになりました。
ペンドルトン嬢は、
ところで、伯父は、
どうしてこんなことをしたのか。
一体このことで、
伯父が得るものは何なのかと
尋ねました。
ジェンセン嬢は、
自分は第三者なので、
状況を完全に把握しているとは
言えないけれど、状況から判断すると
思い当たる節はある。
ペンドルトン氏は、造船事業の件で
アメリカへ来たのですよね?
最初、彼は、
投資可能な金持ちを探してくれと
名付け親に頼んだけれど、
次第に名付け親に直接投資を
依頼するようになった。
しかし、
事業自体が基礎から滅茶苦茶で、
まともに収益が出るはずがないと
判断した名付け親は遠回しに断った。
しかし、現在は投資を決めた状態だ。
それは、なぜなのか。
話に夢中になっているうちに
馬車が
ペンドルトン家の前に到着しました。
ペンドルトン嬢は、
ジェンセン嬢から聞いた情報をまとめて
結論を出しました。
プライス氏が自分に
あれほど突拍子もない求愛をしたのは
ペンドルトン伯父の
そそのかしによるものでした。
自分が、
プライス氏の新しい妻になることで
長男の造船業に対する
プライス氏の投資を得るためでした。
ジェンセン嬢は、
直接ペンドルトン氏に
確認してみるように。
しかし、自分の話と
大きく違わないだろう。
自分は、あの人がペンドルトン嬢を
名付け親に売り渡そうという下心が
あったとしか解釈できないと
言いました。
ペンドルトン嬢は静かに頷くと
ジェンセン嬢の手を握りながら
これほどまでに
率直に話してくれたことに
お礼を言いました。
そして、ジェンセン嬢がいなかったら
明日の舞踏会で、自分もプライス氏も
大恥をかくところだった。
そして自分は、永遠に
プライス氏を好意的に
見ることができなかったと思う。
ジェンセン嬢は、
プライス氏の名誉のために
人としての務めを果たしたと
言いました。
ジェンセン嬢は首を横に振ると、
まだ、やることが残っている。
今すぐ戻って
ペンドルトン嬢の気持ちを伝え、
これ以上、
醜態をさらすのを止めるよう
説得する。
もしかしたら、徹夜を
しなければならないかもしれない。
名付け親は、かなりの頑固者で、
一を知って二を知らない人だと言うと
ため息をつきました。
ペンドルトン嬢は、
ジェンセン嬢が本当に、
プライス氏のことを大事にしていると
指摘しました。
ジェンセン嬢は、
そう、彼は父親のような人で、
自分は、彼の子供たちと
兄弟のように育った。
そして彼らと一緒に、
彼の奥さんである
エレナーおば様の最期も看取った。
エレナーおば様は、
新しい妻ができるまで、
無謀でやんちゃな自分の夫を
そばで見守って欲しいと
自分に特別に頼んだ。
どうやら、彼が亡くなるまで
自分が見守らなければ
ならないのではないかと思う。
こんな馬鹿げた詐欺劇に
巻き込まれるなんて何てことだと
嘆きました。
すぐに御者が馬車のドアを開けて、
踏み台を降ろしてくれました。
ペンドルトン嬢は馬車から降りました。
ジェンセン嬢は、
明日の舞踏会に来て、
名付け親がペンドルトン嬢に
謝る機会を与えて欲しい。
たぶん、彼も
ペンドルトン嬢と話を終わらせれば
現実を受け入れるだろうと言いました。
ペンドルトン嬢は頷き、
二人は窓越しに握手を交わしました。

すぐに、馬車は姿を消しました。
ペンドルトン嬢は、しばらく、
その場に立ち尽くしました。
彼女の両目に、グロヴナー通りの
どのタウンハウスよりも
素晴らしく美しい家が見えました。
誰かにとっては、海を渡る冒険と
愛のない結婚を厭わないほど
欲しい家でした。
しかし、彼女の目には、
この上なく恐ろしい足枷のように
見えました。
ペンドルトン嬢は
ジェンセン嬢との話を通じて
全てを知るようになりました。
今になって、ようやく、
事の全貌が理解できた気分でした。
アメリカから来たプライス氏を
招待してくれという伯父の手紙。
自分に向けられた、
物を探るようなプライス氏の視線。
しつこい求愛。
以前に預けておいた愛情を
取り戻しに来たかのような態度。
すべて伯父が、自分のことを
プライス氏に約束したからでした。
ペンドルトン嬢は身震いしました。
自分を商品のように差し出し
利益を得ようとする行為が
自分でも知らないうちに
行われていました。
当主の権威で、彼は姪を
自分の友人に譲ろうとしたのでした。
伯父がタウンハウスに来た後
自分に言ったことが
一つ二つと思い浮かびました。
自分に持参金がないこと。
偉そうにするなということ。
どれも意図のある言葉でした。
ペンドルトン嬢は
ひどい侮辱を感じました。
一体、自分に、
どこまで、もっとやれと言うのか。
これまでプライス氏のせいで
味わった困難まで加わり、
一瞬にして、
その一つの考えに至りました。
ペンドルトンという名前は、
彼女にあまりにも多くのことを
要求して来ました。
淑女として生きてきた12年間、
数え切れないほどの状況が
彼女を傷つけて怒らせました。
しかし、
ペンドルトンという名前に
閉じ込められ、彼女は痛くても
痛いと言うことができず、
腹が立っても、腹が立ったと
言うことができませんでした。
それなのに、今度は、
ペンドルトン家のために
父親のような男に身を任せろという
要求までされたわけでした。
ずっと昔から全てを耐え忍んできた
彼女の心に、悔しさが蠢きました。
伯父のジェラルド・ペンドルトンは、
子供の頃の自分を
あれほど虐待しておいて、
今度は、彼女があれほど夢見た
「ローラ」としての未来を
ペンドルトン家の肥やしに
しようとしていました。
絶対に、
そうはさせられませんでした。
ペンドルトン嬢は中へ入ると
上の階に上がりました。
そして伯父が来てから、
立ち入ることができなくなった書斎に
突然入りました。
書斎に入ると、強い葉巻の匂いが
彼女の鼻を突きました。
ペンドルトン嬢は
咳を飲み込みました。
書斎の中は、まるで霧に包まれたように
葉巻の煙に覆われていました。
その葉巻の煙の向こうに
ジェラルド・ペンドルトンが
見えました。

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アビゲイル夫人は優しいのに、
その息子であるジェラルドは、
どうして、
ここまでひどい性格なのでしょう。
もしも、ジェンセン嬢が本当のことを
話してくれなかったらと思うと
ぞっとします。
ジェンセン嬢が、
物事を的確に判断できる人で良かった。
きっと彼女は、
偏見に凝り固まった社交界に、
新しい風を入れてくれると思います。
でも、チャールズと結婚するには
もったいなさ過ぎる人だと思います。