
80話 フェアファクス夫人はローラを悪く言うオリビアを叱責しました。
オリビアは、
母が何を言いたいのか分かっている。
自分は少し、俗物的な
言い方をしているのかもしれない。
でも現実は現実だ。
ダルトン家の子供たちが
後ろ指を差されることになる。
現実を見て欲しい。
アンダーソン判事の娘たちの境遇を
見てと言いました。
オリビアの言うアンダーソン判事は、
150年近く続くジェントリの家の長男で
代々尊敬される家族の一員でした。
しかし、彼の放縦な性格が、
受け継いだ評判を
地に落としてしまいました。
彼は近所に愛人を囲い、20年間
二重生活を送っていました。
彼は愛人との間に
3人の娘をもうけましたが、
その家の母娘たちは町で有名でした。
そして、
このような不名誉な知名度は
人気にはつながらないものでした。
どの家でも彼ら家族を
招待しませんでした。
どの家も彼らと交流せず、
手紙の一通も送りませんでした。
労働者でさえ、その家に
仕事に行きたがりませんでした。
それだけでなく、
教会でも、彼らの家の人たちは
立ち入り禁止でした。
アンダーソン家の娘たちは
社交界に出る年になりましたが、
家の中で幽閉されているかのように
過ごしていました。
フェアファクス夫人は、
アンダーソン判事が
神の前で交わした誓いを破り、
妻を裏切った。
そして親の不道徳の代償を
アンダーソン家の娘たちが
払っていると言いました。
オリビアは、
誰もあの家の娘たちと
結婚しようとしない。
あの家の不道徳な不名誉が、
明らかに、自分たちの評判に
影響を及ぼすことを
知っているからだ。
そして、産まれて来る子供まで、
後ろ指を差されることが明らかだ。
町の小さな精粉所の息子でさえ、
生まれに難のある女性は
妻にするのを避ける。
それなのに、なぜ、叔父のような人が
私生児と結婚するのか。
叔父に何が足りないと言うのかと
訴えました。
フェアファクス夫人は
じっと自分の娘を見つめながら、
あなたが現実を語っているなら
あなたの言うことは
ある程度は正しい。
おそらく、
イアンとペンドルトン嬢が結婚したら
しばらくヨークシャーは、
騒がしくなるだろう。
彼女の血統問題で
噂が飛び交うだろうし、
子供が生まれたら、その子供たちも
噂を聞くことになるだろう。
しかし、自分は以前から、
そのように人を排除するのが正しいと
思ったことはない。
アンダーソン家の娘たちもそうだし
ペンドルトン嬢もそうだけれど
親の罪が子供にまで受け継がれるのは
不合理なことだ。
そして、その考え方こそ、
イアンと自分が共有している
数少ない共通点と言えるだろうと
話しました。
オリビアは、
先生との結婚で、
叔父が後ろ指をさされても
母は大丈夫なのかと尋ねました。
フェアファクス夫人は肩をすくめ
自分が本当に望むものを得るためには
代償を払わなければならないと
答えました。
オリビアは言葉を失いました。
時々母が、他の婦人たちと
違う点があることは知っていました。
他の婦人たちのように、
社交行事や子供の教育に
命をかけることもありませんでした。
何かに執着して焦っている時は、
ただ、叔父の結婚問題や
カード占いのような、
変な趣味の生活においてだけでした。
しかし、そんな母親から感じられる
最も不思議な点は、
このような現実とかけ離れた
考え方でした。
オリビアは、
自分を取り巻く共同体で交わされる
言葉に対して敏感で、
それらを素早く収集して
即座に受け入れる傾向にありました。
そのため、母親と話をしていると、
呆気にとられることが
しばしば起きたりしました。
その時、居間の方から
足音が聞こえました。
物静かな足音は、聞いただけで
誰だか分かるような気がしました。
フェアファクス夫人は、
占いのために
テーブルに敷いておいた
ベルベットの布を急いでまとめて、
ソファーの後ろへさっと投げました。
ローラは居間に入って来ると、
オリビアに、
帰っていたのですね。
友達との時間は楽しかったですかと
優しく尋ねました。
オリビアは、
しゃっくりを我慢するような表情で
頷きました。
ローラは、
夕食の前に、少し外へ出て
話を聞かせて欲しい。
フェアファクス嬢の友達が
どんな人なのか気になると
言いました。
それは、
今日パーティーに出かけていたせいで
できなかったフランス語の授業を
補いたいという意味でした。

オリビアは、
静かにローラの後をついて庭に出ると
いつものようにベンチに座り、
今日の出来事を、一つ一つ丁寧に
フランス語で話しました。
もちろんローラに関する話は
抜きにして。
ローラはそんなオリビアの話を傾聴し
彼女の文法に誤りはないと
拍手をしました。
オリビアは照れくさがっていましたが
とても気分が良かったし、
胸がいっぱいでした。
ローラがダンビルパークに来た後、
オリビアのフランス語の実力が
飛躍的に上達したことを
ローラとオリビアの二人とも
感じていました。
オリビアは、
いつ、そんなにフランス語が
上手になったのかと、
今日は友達が皆驚いていた。
ひょっとして、
しばらく会わないうちに
フランスへ行って来たのかと
聞かれたと話しました。
ローラは、
「嬉しかったでしょうね」と
尋ねました。
オリビアは「はい」と答えました。
ローラは、
全てはフェアファクス嬢が
頑張ったおかげなので、
いくらでも自分を褒めて欲しいと
言いました。
オリビアは、しばらく沈黙した後
「先生」とローラを呼びました。
「はい、フェアファクス嬢?」
と返事をしたローラは、
穏やかで優しい目を細めて
オリビアを見つめました。
オリビアは、
ローラがロンドンで人気があったのかと
尋ねました。
ローラは「そうですね」と
考え込むように返事をすると、
オリビアは、
ローラにプロポーズをする男性は
いなかったのかと尋ねました。
ローラは、
それが気になるのかと聞き返しました。
オリビアは「はい」と答えました。
ローラは、
しばらく物思いに耽りました。
実際、彼女は、誰にも負けないほど
多くの求愛を受けてきました。
しかし、それは、
概して不純なものでした。
自分を愛人にしようとする浮気者たちが
果てしなく誘惑して来たり、
それより純粋なプロポーズさえも、
自分の不利な状況に気づいて
機会をつかもうとする
老紳士たちだけでした。
あまり名誉があるとは言えない
関心でした。
ローラは、
自分が、あまり社交界で
人気がなかったと答えました。
しかし、オリビアは、
先生はとても美しいのにと
反論しました。
ローラは、
オリビアがそう言ってくれたことに
礼儀正しくお礼を言いました。
しかし、オリビアは、
ローラから感謝の言葉を聞くために
話を切り出したわけでは
ありませんでした。
オリビアは、
先生が決心さえすれば
いくらでも結婚できるのではないか。
自分が紹介してあげようか。
うちの家族たちが具合が悪くなった時
度々、往診に来てくれる
医者がいるけれど、
とても優しくて賢い人だ。
あるいは、母が、
たまに服を作りに行く洋品店の
若い仕立て屋さんもいる。
とてもハンサムで、
女性たちの間で大人気だ。
先生にぴったりだと思うと勧めました。
ローラは、なぜ突然オリビアが
自分の結婚に対して
こんなに関心を持つのか
不思議に思いました。
その不可解な感覚は、すぐさま
彼女の鋭い勘を作動させました。
ローラはオリビアに、
もしかして自分について、
何か話を聞いたことはあるかと
尋ねました。
オリビアは口をつぐみました。
狼狽の色がありありと見える顔でした。
ローラは、
大体の状況を把握しました。
社交界にいた時に、
自分のことを知っていた人に会ったか
フェアファクス夫人から
聞いたのかもしれませんでした。
おそらく、自分の出生について聞き
気の毒に思って、
自分に相応しい花婿候補を
次々と挙げたのだろう。
大して役には立たない話でしたが
ローラは、オリビアの気持ちだけは
ありがたく感じました。
オリビアは、
先生には色々な話があることは
知っている。 それでも、
先生に相応しい人がいるはずだと
主張しました。
ローラは、
自分も結婚というものをしてみたら
素敵だろうと思う。
愛する男性に出会い、子供を産む。
でも、自分は今、この生活を
もう少し続けたいと返事をしました。
オリビアは、その理由を尋ねました。
ローラは、
今の境遇にとても満足していると
答えました。
オリビアは目を見開きました。
貴族の家で、
不自由なく暮らしていた人が
家庭教師をしながら
満足感を得ていることが、
オリビアには理解できませんでした。
ローラは、
こんなに気楽で充実した生活を送るのは
本当に久しぶりだ。
しばらくは、この状態を維持したいと
話しました。
オリビアは、
もしも、誰かが先生に
プロポーズして来たとしても?
たとえば、とても条件の良い紳士が
先生にプロポーズして来たら?
と尋ねました。
ローラは、
そんなことはないだろうけれど
たとえ、そうだとしても
断らなければならない。
そのような人と結ばれるような
身分でもないし、自分の血統のせいで
良くない結果を招いてしまうのは
目に見えているからと答えました。
オリビアは、その言葉を簡単に
信じることができませんでした。
正直に言って、オリビアは
ローラが、
叔父のような金持ちの紳士に
求愛されたら、
当然、結婚すると信じていました。
それこそ先生が、再び、
昔の立派な地位と豊かな生活に戻る
唯一の方法だからでした。
オリビアは、
ローラに本音を吐かせるつもりで
それとなく彼女を煽り始めました。
先生は、とても美人で、
とても教養のある人なので、
そんな男に愛される可能性が
いくらでもある。
世の中の全ての男性が
現実的な価値だけで
妻を選ぶわけではない。
数多くの本や記事で、
身分が同等でない人同士の結婚を
たくさん見てきた。
持っている魅力だけで
裕福な配偶者を手に入れる。
先生も、できるのではないかと
オリビアは尋ねました。
ローラは惑わされるどころか、
どこか冷めた表情で
オリビアを見つめました。
しかし、オリビアはそれに気づかず、
自分の想像力を振り絞って、
最もロマンチックな幻想を
描いてみました。
オリビアは、
広大な領地を持つ男性が、
先生に一目惚れし、
先生にあらゆる宝石や花を贈り、
侍従付きの白い馬車で
先生を迎えに来る。
そして南フランスや
イタリアのビーチにある美しい別荘へ
連れて行く。
そこで、永遠に評判なんか気にしないで
暮らそうと言う。
外国へ行けばいい。
外国なら後ろ指を指されることなく
暮らしていけるではないかと
提案しました。
しかし、ローラは、
素晴らしい想像ではあるけれど、
もう話すのは止めた方がいいと
勧めました。
オリビアは、
その理由を尋ねました。
ローラは、
そんな想像は何の役にも立たないし
そんな夢想に耽るのは、淑女にとって
何の助けにもならないと
答えました。
オリビアは驚いて言葉を失いました。
先生がこんなに断定的な口調で
話したのは初めてでした。
ローラは、
もし自分が結婚するならば、
自分の身の程から、
1インチたりとも離れることはない。
貴族や地主の人々は、彼らに相応しい
欠点のない貴族の娘たちと結婚し、
自分のような者は
中流階級の男性と結婚するのが正しい
と告げました。
オリビアは、
でも、愛してさえいれば・・・
と反論しましたが、ローラは。
いいえ、そうではないと答え、
断固として首を横に振りました。
ローラは、
結婚は人間と人間との結びつき。
それがどういう意味なのか、
オリビア嬢はまだ知らない。
人間にとって、愛とは
それほど強い感情ではない。
差し迫った経済的苦難や
社会からの非難。
さらには異なる環境で育った2人が
一緒に暮らせば、
避けられない些細な衝突さえも
防げない。
人間の感情は、甘くはあっても
きちんと保存しなければ変質しやすい
カスタードクリームのようなものであり
現実的な問題と戦うのを助ける
剣と盾ではない。
おそらく、フェアファクス嬢も、
自分の年齢になったら、
自分よりも、それを、
よく理解するようにになるだろうと
話しました。
オリビアはローラの言葉を
当惑した気持ちで傾聴しました。
誰かが、こんなに結婚について
冷静に話すのは初めてでした。

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イアンとフェアファクス夫人の
共通点は、
本当に少ないのでしょうか?
結構、2人は
似ていると思うのですが・・・
何はともあれ、
親の罪が子供に受け継がれるのは
不合理だと考える良い点が
似ているのは喜ばしいことだと
思います。
オリビアは、母親が
他の婦人たちと違っていることに
呆れているけれど、
こんな素敵な母親を持っていることを
誇りに思っていいと思います。
ローラの結婚に対する考えが
シビア過ぎます。
もしかして、ローラは結婚に対して
ある種の幻滅を
抱いているのかもしれません。
この考えを改めさせて、
彼女を結婚に導くのは、
かなりの至難の業だと思います。