
87話 ダルトン氏はローラに、料理は口に合ったかと尋ねました。
ローラは、
はい、とても。
立派な料理人を置いていると
答えました。
ダルトン氏はローラの賛辞に
優しく笑うと、
ロンドン出身の淑女を
満足させたということを知れば、
フィリップも光栄に思うだろうと
言いました。
ローラは、
こんなことを言うのは
おこがましいかもしれないけれど
もし自分がダルトン氏だったら、
毎年、料理人の給料を上げるだろう。
この辺りの資産家たちは
フィリップ氏を引き抜きたくて
機会を伺っているだろうからと
言いました。
ダルトン氏は、
よほどの大金を支払わない限り、
フィリップをホワイトフィールドから
引き抜くことはできないだろう。
彼が以前働いていたのは
リチャードソン子爵家の厨房で、
彼は12人の料理人を顎で使い
フランス出身の料理人と
同じくらいの給料をもらっていた。
しかし、良い待遇には理由があった。
そこの主人は、月に12回も舞踏会を催し
晩餐会を365日欠かさず開く
社交狂だった。
1日も休まずに、30品のコース料理を
準備しなければならなかった彼は、
年に500ポンド出すからと言って
ズボンの裾にしがみつく主人を蹴って
ホワイトフィールドの厨房へ来たと
話しました。
ローラは、
確かに、ダルトン氏なら、
頻繁に開かれる舞踏会や晩餐会で
使用人を苦しめることはないだろうと
言いました。
ダルトン氏は、
面接の時、フィリップは、
ホワイトフィールドの主人が
ミス・ハヴィシャム
(小説「大いなる遺産」に登場する
邸宅に閉じこもった幽霊のような人物)
のような人だと聞いて、
ここで働くことを決心したと
話していたからと返事をしました。
ローラはフフッと笑うと、
ミス・ハヴィシャムだなんて、
ひどい比喩だ。
ヨークシャーでは、
ダルトン氏の評判がいいと
聞いていたのにと言うと、ダルトン氏は
面と向かって、
自分に悪口を言われた人たちが
広めた噂だろう。
自分は気にしていないと答えました。
ローラは、
それで、フィリップ氏は
仕事に満足しているのかと尋ねました。
ダルトン氏は、
フィリップに聞いたことはないけれど、
最初に会った時、
乾いた薪のようだった彼が、
ここへ来て5年で、
可愛がられているハムスターのように
丸々と太ってしまった。
非社交的な独身男性の主人1人と
使用人27人の食事さえ
用意すればいいので、
とても楽な生活だろうと答えました。
するとオリビアは、
フィリップおじさんは
本当に移るつもりはないのか。
うちの邸宅に来れば、
ここの2倍の給料を
父が払ってくれるはずなのに。
父がフィリップおじさんの
バーベキューの腕前に
すっかり魅了されていたからと
話に割り込みました。
ダルトン氏は、
移らない。 彼は、この前、
ホワイトフィールドにある農場を買って
ハーブ栽培を始めた。
ここで年老いて、
死ぬまで暮らすつもりらしいと
答えました。
食事が終わると、彼らは、
お茶と一緒に
デザートを食べることにし、
席を移りました。

ダルトン氏が案内したのは、
庭のすぐ隣の1階のテラスにある
広いティーテーブルでした。
石造の手すりのすぐ前に
瑞々しいバラの木々が立っていました。
緑の葉から漂う草の香りと
甘いバラの香りが暖かい空気と混ざり
だるくてロマンチックな雰囲気を
醸し出していました。
お茶を飲むのに最適な空間でした。
彼らが座ると、制服を着た使用人が
銀細工が煌めくカートを引きずって
テーブルに近づいて来ました。
白い手袋をはめた彼の手により、
フリルで
縁を丸く飾ったような形のお皿と
白いナプキン。
鳥かごの形をしたティースタンド。
金色のケーキスタンド。
ライラックが描かれた
陶器のティーポット。
銀製の食器が次々と運ばれました。
ティースタンドにぎっしり並べられた
ラズベリーミルフィーユと
イングリッシュマカロン。
バターミルクスコーン。
ケーキスタンドの上に置かれた
分厚いクルミのコーヒーケーキの
香りが、
テーブルの周りに漂って来ました。
使用人が黙礼をして退くと、
ダルトン氏は手慣れた様子で
ティーポットを持ち上げ、
ローラとオリビアに
順番にお茶を注ぎました。
そしてローラのカップに
適量の牛乳を注ぎました。
ローラは微かに微笑みました。
彼女は胃が弱くて、
いつも紅茶に牛乳を注いで
飲んでいたのですが、
それを彼は覚えていたようでした。
続いて彼は、
オリビアのティーカップに
レモンを浮かべてあげた後、
ナイフを手に取り、
2人の淑女の皿にケーキを切り分けて
置きました。
ミス・ハヴィシャムらしくない
無駄のない接客でした。
ケーキを味わいながら
感嘆していたローラは、やがて、
先ほどの話を続けて欲しいと
ダルトン氏に頼みました。
彼は肩をすくめながら、
何の話をしていましたっけと
とぼけました。
ローラは、
オースティンの小説が
気に入らない理由だと答えました。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢がオースティンのことを
忘れてくれるよう
食事中、ずっと祈っていたのに、
神は自分を見捨てたと嘆きました。
ローラは、
神様が自分に、
良い記憶力を与えてくれたと言い返すと
オースティンの小説のヒロインたちの
どんな面が、ダルトン氏には
物足りなく見えたのかと尋ねました。
ダルトン氏は、
オースティンについて
率直に話して欲しいという願いを
どうか撤回して欲しい。
自分はあなたの要求を
拒否することはできないと
ローラに頼みました。
ローラは、自分の願いが
ダルトン氏を苦しめているのなら、
当然、撤回すべきだろうけれど、
自分が求めている話題は、
自分たちの午後の時間を
楽しく過ごすのに十分なものだと思う。
一体、何がダルトン氏を、
この話題から逃げ出したいと
思わせているのか
教えてもらえないかと頼みました。
ダルトン氏は、
第1に、自分のミスが
自分に恥をかかせたからだ。
自分は、善良さや繊細さといった
美徳を備えていないけれど、
面と向かって、他人の好みを
踏みにじるほど
無神経な人間でもない。
そのような態度は、
自分がいつも軽蔑してきた
非常識な人々の特徴だから。
しかし、自分は何も考えずに
他でもない、自分の特別な友人である
ペンドルトン嬢に対して、
そんなことをしてしまった。
正直、先ほどのことを考えると
今でも顔が赤くなる。
自分は軽率だった。
おそらく、しばらくは
オースティンという名前を
聞いただけでも、
今日のことを思い出して
恥ずかしくなるだろうと答えると、
レモンを浮かべた紅茶で
喉を潤しました。
続けてダルトン氏は、
第2に、ペンドルトン嬢の機嫌を
損ねたくないからだ。
小説を楽しむ人々にとって、
愛する作品の主人公は
友人と変わらない。
エリザベス・ベネット、
エマ・ウッドハウス、
ダッシュウッド姉妹、
ファニー・プライス、
キャサリン・モーランド、
アン・エリオット、
彼女たちは、長い間、
ペンドルトン嬢の愛情を受ける特権を
享受してきただろう。
自分が彼女たちについて
コメントすることは、
まるでロンドンに残して来た
ハイド嬢やモートン夫人の悪口を
言うのと同じくらい、
ペンドルトン嬢を不快にさせるだろうと
話しました。
彼の話に耳を傾けたローラは、
優しく微笑むと、
先ほどのミスが、ダルトン氏の心に、
それほど大きな恥ずかしさを
残したのは残念だ。
ダルトン氏が備えていないと言った
まさにその美徳が
ダルトン氏の心の奥底に
隠れているからだろう。
そして、
自分がいくら大丈夫だと言っても、
しばらくは、そのことを思い返して
恥ずかしがるということを
分かっている。
心がきれいな人ほど、
そうでない人たちに比べて長く、
より深く苦しむから。
しかし、自分は自分の大切な友人が
自分のせいで苦しんでいるのを
見ていられない。
自分がダルトン氏のミスを
軽く流せるように、
少し喋らせてくれないかと頼みました。
彼はローラを見てにっこり笑いました。
茶目っ気の混じった、
友人同士にふさわしい笑いでした。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢が望むことは、
どんなことでも許さざるを得ないと
答えました。
ローラはダルトン氏にお礼を言うと、
まず第1に、先ほどのことは
自分にとって、本当に
大したことではなかった。
実を言うと、あれは、
今日の訪問で起こったことの中で
最も面白い出来事だと思う。
ダルトン氏は隙のない完璧な紳士で、
決して簡単にミスをする人ではない。
自分はダルトン氏のミスを経験できて
嬉しいし、特に自分に対して
ミスをしてくれたので、
さらに嬉しいと話しました。
ダルトン氏は、その理由を尋ねました。
ローラは、
自分たちの友情が続く限り、
折に触れて、
今日の出来事を持ち出し、ダルトン氏を
からかうことができるから。
ダルトン氏がこの出来事を思い出す度に
苦しむのなら、
自分は貴重な冗談のネタを
失うことになる。
ダルトン氏の前では、できるだけ
オースティンに関する話題を
避けなければならなくなる。
自分は、
いくら機知にとんだ冗談だとしても、
相手を苦しめるなら、
ただの暴力に過ぎないと思っている。
でも、今日の午後、
このように美しいテラスで、
1、2時間オースティンについて
議論すれば、先ほどの出来事は、
愉快な午後の記憶に隠されて、
一瞬のハプニングとして
残ることになるだろうと
答えました。
しかし、ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢の好みを、
あのように無礼な口調で否定されて、
本当に大丈夫なのかと尋ねました。
ローラは、
自分の好みと自分自身を
分離できる程度には成長したと
信じている。
そして、
小説の中の主人公をいくら好きでも、
血と肉を持った友人の方が、
もっと大切だということを
分かる程度にはなっていると信じたい。
本当の友人であるダルトン氏が、
100年前、
1人の女性のペン先から生まれた
人物たちについて、
いくつかの不愉快な言葉を
口にしたからと言って、
なぜ不快になるだろうか。
むしろオースティンの小説について
一緒に語り合うことができる
紳士の友人がいる幸運に
感謝するだろうと答えました。
ダルトン氏は、
すぐにオリビアに目を向けて、
こんなに説得力のある女性を
見たことがあるかと尋ねました。
ぼんやりとした顔で
2人の紳士淑女の会話を聞いていた
オリビアは首を横に振り、
イギリス中、探してもいないだろうと
答えました。
ダルトン氏は降参するかのように
両手を広げて肩まで上げると、
降参する。
何でも言われた通りにする。
ペンドルトン嬢の思慮深さには
刃物より恐ろしい力がある。
あなたの言葉に従えば、どんなことでも
良くなるという確信が湧いて来ると
言いました。
彼の賛辞に、
ローラの頬が少し赤くなりました。
友人同士にふさわしい
いたずらっ子のような笑みを
浮かべていたダルトン氏は、すぐに
ティーカップに視線を落としました。
紅潮したローラの顔を見ると、
彼の顔も自然に赤くなりました。
彼はしばらくお茶を飲みながら
感情を落ち着かせた後、
再び胸に友情と好意だけを抱く
青年紳士の仮面をかぶり、
なぜ自分が、オースティンの小説を
好きではないのかを
話す時間になったと告げました。
ローラは、
無条件に正直にと付け加えました。
ダルトン氏は、
そうですね、無条件に正直にと
呟きました。
ローラとオリビアは
期待に満ちた視線を交わした。
彼は足を組んで、腕を組みました。
オースティンの小説の主人公は
皆、バカだ。
まともな人間がいない。
模範となるような立派な人物は
長編6作品の中で10人にも満たず、
彼らの出番なんて、ひどく少ない。
オースティンの目は、
世の中のバカたちだけを拡大する
顕微鏡だ。
そして、それは自分とオースティンの
共通点でもある。
自分もまた、人間の醜い姿が
とてもよく見える人間だから。
しかし、自分との違いは、
オースティンには、
それを笑い飛ばせるほどの度量があり
自分はそうではないこと。
自分はバカに耐えられない。
バカたちは大嫌いだ。
オースティンが持ち前の機知で
風刺する登場人物たちの顔ぶれは、
どいつもこいつも情けなくて、
自分は笑うどころか
眉を顰めてしまうと話すと、
ダルトン氏は首を横に振りました。
続けて彼は、
それでも、それが、
周辺人物に限った問題であったなら
我慢することができただろう。
しかし、オースティンの小説は
周辺人物だけでなく、
主人公たちさえもバカだ。
エマ・ウッドハウスと
エリザベス・ベネットは
自分たちが賢いと思っている
バカたちで、
キャサリン・モーランドは
小説と現実の区別ができないバカで、
マリアン・ダッシュウッドは
自分を悲劇のヒロインと勘違いして
姉の評判まで台無しにした。
主人公たちが愚かなことをする度に
自分は本を、
暖炉に投げ込みたくなったと
話しました。

![]()
昼食も結構、豪華だったのに
デザートも超豪華。
イアンはローラのために
フィリップに腕を振るってくれと
お願いしたのでしょう。
また、ローラが
紅茶に牛乳を入れるところを
しっかり覚えていて、
ローラのために、
それをやってあげるなんて。
ローラは、
とても感動したと思います。
ChatGPTは
ホワイトフィールドの使用人の数は
50~100人と答えたのですが、
27人だなんて少な過ぎです。
あっ、でも、もしかしたら、
パートタイムの通いの使用人がいて
賄い料理を
食べない人がいるのかも・・・
と思うことにします。