
89話 オリビアは、土地と邸宅だけで、分別のある先生が叔父と恋に落ちると言うのかと尋ねました。
イアンは、「そうだ」と
口角を上げて自信満々に答えました。
彼は、
ホワイトフィールドは、
世界で一番美しい場所なので、
一度でもこの土地を訪れた人は、
ここを愛さずにはいられない。
だから、
この土地を愛するようになれば、
自然と、ここの主人である自分も
愛するようになるだろうと
言いました。
オリビアは、
疑わしげに叔父を見つめると
自分はホワイトフィールドに
よく遊びに来たけれど
叔父を愛していないと反論しました。
しかし、イアンは、
それでは7歳の時に
自分にプロポーズした人は
どこに住んでいる誰なのかと
尋ねました。
オリビアは、
慌てて頬を赤らめました。
イアンは微笑みました。
イアンは、
焦らないように。オリビアの仕事は、
先生を頻繁にホワイトフィールドへ
連れてくることだけ。
ここで一緒に過ごす時間が
多ければ多いほど、先生の心は
自分でも知らないうちに
開いていくだろうから。
オリビアが間に入っているから
警戒心も緩むだろう。
そのように一ヶ月、二ヶ月と
過ごしているうちに、
天気のせいで、この家に
一晩泊まっていくこともあるだろうし
自分の頼みを聞いて、
晩餐会の女主人役を務めてくれたり、
インフルエンザに罹った自分を
看病してくれたりするような状況も
作れるはずだと話しました。
しかし、オリビアは首を傾げながら
晩餐会はともかく、
叔父は今まで、インフルエンザに
罹ったことなんてない。
体質のおかげで、
軽い鼻風邪すら引かないと、
いつも自慢していた。
それなのに、どうやって
看病してもらうのかと反論しました。
イアンは、
具合が悪いふりをすると答えました。
オリビアはしばらく考えた後、
すぐに、分かったというように
両手を合わせました。
そして、叔父は天才だと告げると
畏敬の念に満ちた目で叔父を見ました。
オリビアは、
完璧な計画だ。
先生のように善良な人なら、
病気で苦しんでいる叔父を見て
保護本能が起きるだろう。
そして、叔父が
どれほど孤独な境遇なのかを
実感しながら、深く同情するだろう。
そんな気持ちが、
愛に変わっていくのは簡単だろう。
叔父がすっかり治った頃には
叔父と離れたくなくなるだろうし、
ちょうどそのタイミングで、叔父が
「あなたの看病を受けている間、
私の心に愛が訪れました。
孤独な私のために、
ずっとここにいてください」と
プロポーズしたら、先生は
きっと受け入れてくれるはずだと
言いました。
イアンは「ご名答」と褒めると
賢い姪に微笑みました。
イアンは、
今年の冬、自分は、
10日以上病気になる予定だ。
身動きもできず、
生死の境を彷徨いながらも、
看病する人に
大変な思いをさせない程度に。
病気が治る頃、
自分は先生の手を握って
寝室の窓の前に立つつもりだ。
雪が降った
ホワイトフィールドの風景は、
かなりロマンチックだろう。
自分は彼女の前に跪き、
妻になって欲しいと頼むつもりだ。
承諾せざるを得ないだろう。
自分は食事を抜いて
やつれているだろうし、
涙も何滴か流す予定だからと
説明しました。
感心したオリビアは
黙って親指を上げました。
ローラの演奏が終わりました。
オリビアとイアンは、彼女の演奏に
力強く拍手しました。
二人の間で、
どんな話が交わされたのか
夢にも知らないローラは、
彼らに喜んで謝意を表しました。
すぐに、彼女は
オリビアをピアノへ導きました。
二人はピアノの前に並んで座り、
ヨハン・シュトラウスの
デュエット曲を演奏しました。
ホワイトフィールドホールの
廊下の突き当たりにある
巨大な金色の掛け時計が
5時の鐘を鳴らしました。
ローラは演奏を終え、
ピアノの蓋を閉めると、
オリビアに帰る時間だと告げました。
ローラのそばに立って
伴奏に合わせて歌を歌っていた
オリビアは、名残り惜しそうに
先生の横に腰を下ろすと、
もう一曲だけ弾いてから
帰ってもいいかと尋ねました。
ローラは夕食前に帰ると
母親に約束したではないかと
答えました。
オリビアは、
あそこまで一時間しかかからない。
夕食は六時半なので、
三十分は余裕があると主張しました。
ローラは、
オリビアの金髪を優しく整えると、
ホワイトフィールドから
ダンビルパークまで
一時間なのは確かだ。
でも、叔父に別れを告げて、
家に到着して、
母親に、ただいまの挨拶をして、
服を着替えて、顔を洗うには、
少なくとも30分は必要だと
話しました。
その通りだったので、 オリビアは
ピアノの椅子からお尻を離しました。
ダルトン氏は、
女性たちを見送るために
一緒に出て来ました。
彼は、座席に座ったローラに
窓越しに優しく微笑みかけると
一人で過ごしているので、
かなり寂しかったけれど、
ペンドルトン嬢が来てくれたおかげで
愉快な一日を過ごすことができたと
お礼を言いました。
ローラも、
手厚くもてなしてくれたことに
お礼を言いました。
そして、ホワイトフィールドは
本当に印象的な所だった。
今夜、きっと夢の中で、
ホワイトフィールドの白い白樺の森を
散策することになるだろうと
告げました。
ダルトン氏は、
ペンドルトン嬢の褒め言葉は
いつも格別だ。
あまりにも温かい人柄だから
何に対しても、
褒めない時がないのだろうと
称賛しました。
ローラは真剣に首を横に振ると、
他のことはともかく、
ホワイトフィールドへの称賛は
疑わないで欲しい。
自分はホワイトフィールドに
感動したと話しました。
ダルトン氏は
「本当ですか?」と尋ねました。
ローラは「はい」と答えると、
あまりにも多くの称賛を
耳にしていたし、絵でも見ていたので
実物を見たら、
がっかりするのではないかと
心配していた。
しかし、それは杞憂だった。
自分は、
ここへ来てすぐに魅了されたと話し、
そして、
少しばかり呼吸を乱しながら、
ここの主人と同じくらい
美しく純粋な土地だと感じたと
告げました。
しかし、ローラは失言したと思い
当惑した顔をしました。
当惑したのは彼も同じでした。
彼女の賞賛は、
ホワイトフィールドと共に
自分自身に向けられていました。
純粋で美しい。
ホワイトフィールドも。
そして自分自身も。
ダルトン氏の心臓がドキドキしました。
彼は彼女に手を差し出すと、
ローラは彼の手の上に
そっと自分の手を置きました。
彼は小さなローラの手にぴったりと
口づけをしました。
儀礼的な口づけというには、
不自然なほど長い時間が経った後、
彼は手から唇を離しました。
彼はペンドルトン嬢を
じっと見つめながら、
今日の自分の夢には、
ルビーと絹のドレスで飾った
あなたが出て来るだろう。
気をつけてお帰りくださいと
告げました。
ローラの顔が
ほんのりと熱くなりました。
彼女はぎこちなく微笑みながら
手を引きました。
馬車が出発しました。
去る人。 見送る人。
立場は違いましたが、二人の紳士淑女は
今、あんなことを
言うべきではなかったと、
同じことを考えていました。

ホワイトフィールドを訪問した後、
ローラは一週間も経たないうちに
再びオリビアと共に、
ホワイトフィールドへ向かう馬車に
乗ることになりました。
ホワイトフィールドの牧師の妻である
スター夫人から
招待状が届いたからでした。
彼女は愉快な声が響き渡るような
不思議な文体で、どうか
自分のむさくるしい牧師館を訪問し、
お茶を一杯飲んでほしいと
頼んで来ました。
ローラは、
全身をレースと絹で
グルグル巻いたようなオリビアと一緒に
ホワイトフィールド教会の牧師館へ
お茶を飲みに行きました。
牧師館は、
淑女たちで賑わっていました。
全員が12歳から18歳の少女でした。
彼らは聖歌隊員で、
全員が農場主たちの娘か、
大きな店の主人たちの娘でした。
ローラは内心、お茶の時間に
ダルトン氏との親交について
一度以上は言及されるだろうと予想し
心の準備をして出かけました。
しかし、それは彼女の勘違いでした。
彼女が牧師館に足を踏み入れる前から
彼らは、ローラが、
ホワイトフィールドの地主の
友人であることを、スター夫人から
伝え聞いていたのでした。
ローラは、お茶の時間の間ずっと
終始、上機嫌で、
自分にお茶とケーキを勧めてくる
スター夫人と、
自分に話しかける勇気すら持てず、
その代わりに、
銀河のような輝きを目に宿して、
自分を見つめる
純真な聖歌隊の少女たち、
そして恥ずかしいほど、
自分の先生の外国語能力と
ピアノの実力について
自慢するオリビアの間で、
気楽でない午後の時間を
過ごさなければなりませんでした。
その後、
スター夫人の招待は続きました。
ローラは正直、招待に応じるのが
気が進まなかったけれど
スター夫人に対する礼儀もあるし、
ダルトン氏との友情も
考えなければならなかったので、
招待に応じました。
ローラはそこで、
荒れた手と温かい目をした
農場主の妻たちと、
婦人会に属する誠実な商人の妻たち、
週に一度、聖書を勉強しに集まる
九歳から十一歳の
少年、少女たちに会いました。
彼らは皆、
ローラがダルトン氏の友人であることを
知っていました。
それだけで、ローラは、
尊敬すべき人物として
彼らの目に映っていました。
歓待と笑顔がこぼれました。
愛想のいい中年の女性たちは
彼女の生活に不便はないか
あれこれ尋ねて気遣い、
幼い子供たちは、
美しいローラのそばに座り、
ロンドンについて、
あれこれに尋ねました。
ローラがそこを去る時は、
彼らがくれた素朴なプレゼントを
両腕いっぱいに抱えていました。
ローラはすぐに彼らが皆、
善良で温かい人たちだということに
気づきました。
そして、子供から、
こめかみに白髪が混じっている
この土地の古参住民まで、誰もが
ダルトン氏を尊敬していることにも
気づきました。
誠実で公平で礼儀正しい地主。
これが彼への評判でした。
ローラは、
次第に、牧師館を訪れることに
抵抗がなくなりました。
そこで会う
ホワイトフィールドの住民たちが
好きになり、
スター夫人の快活さにも慣れ、
ダルトン氏のおかげで
間接的に尊敬されることについても
気まずさより、感謝する気持ちを
持つようになりました。
ローラは、自分のせいで
ダルトン氏の評判に傷がつかないよう
正しく振舞おうと努めました。
礼儀作法に気を配り、
善意に対しては
親切と謙虚さで応じました。
彼女の態度は、
非の打ちどころがありませんでした。
ダルトン氏を愛する住民たちが
彼の友人に対して抱くであろう期待は
いつも感嘆と納得で
締めくくられました。
そのように、
ホワイトフィールドを訪れること数回。
牧師館を出ると、次の行き先は
ホワイトフィールドホールでした。
そこは牧師館から
馬車で15分ほどの距離にあるので、
オリビアとしばらく立ち寄るのは、
ごく自然なことでした。
魔法のような白樺の森の間を抜けて
ホワイトフィールドに到着すると、
いつもダルトン氏に
会うことができました。
このように何度も牧師館で
彼に対する肯定的な評判を
直接聞いてくると、ローラは
自分の前に立つダルトン氏に
尊敬の念を
抱かざるを得ませんでした。
彼が責任感のある地主だということは
すでに知っていたけれど、
このように彼の本拠地で
直接、体感してみると、
以前とは比べ物にならないほど
彼が立派に見えました。
彼はオリビアとローラを
いつも温かくもてなしてくれました。
図書室をいくらでも使わせてくれたり
ガラスの温室で、美しい花々を
見物させてくれたりもしました。
天気が良い日には外へ出て、
迷路庭園と、
美しく整えられた庭木を見せ、
時々彼が趣味で育てている
リンゴの木から、
赤く熟したリンゴを摘んで、
淑女たちが広げたスカートいっぱいに
持たせてくれたりもしました。
ローラは、
ホワイトフィールドで過ごす
全ての時間が好きでした。
邸宅の品格ある美しさは
彼女の感性を刺激し、
愛書家である彼女にとって、
数多くの本が治められた図書室は
まさに天国でした。
使用人たちはいつも彼女に親切で、
食事とデザートは
感嘆の声が漏れる程の腕前でした。
しかし、彼女が
ホワイトフィールドホールが好きな
最大の理由は、そこで
ダルトン氏に会えるからでした。
彼と向かい合って話を交わす時こそ
一番幸せで、満たされました。

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ダルトン氏と会って話をする時が
一番幸せで満たされる時間。
それだけ、ローラは
イアンのことが好きだけれど、
ダルトン氏の評判に傷がつかないよう
ホワイトフィールドの住民の前で
正しく振舞おうと思うくらい
気を遣っているので、
もしイアンが彼女にプロポーズしても
自分の出自のせいで、
イアンの評判が落ち、
自分たちの子供も
後ろ指を指されると考えたら
彼のプロポーズを
受入れないと思います。
イアンが仮病を使って、
ローラに看病をさせ、彼女が
イアンの孤独である境遇を実感し
深く同情しても、ローラは
自分ではなく、他の人を
彼の妻として勧めるように思います。
ローラの周囲に巡らせている
内堀は、イアンやオリビアが
思っている以上に深いと思います。