自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

バスティアン 147話 ネタバレ ノベル 原作 あらすじ 胎動

147話 オデットの誕生日を祝う晩餐会が寝室で行われることになりました。

奇妙な晩餐でした。

 

オデットは当惑した表情で

寝室に設けられた、

質素な食卓を見ました。

患者のための流動食の間に置かれた

華やかなケーキが

かなり異質に見えました。

奇妙な夢を見ているような光景でした。

 

世話をしていたメイドたちまで退くと

冬の夜のように深い静寂が訪れました。

オデットは、

罰を受けているような気分で

気まずい食事を進めました。

ただ義務的に口に入れて

飲み込むことを繰り返すだけで、

食べ物の味を、まともに

感じることは困難でした。

 

バスディアンが

椅子から立ち上がったのは、

スープの器が半分ほど

空になった頃でした。

 

オデットは、

食事を一時中断したまま

バスティアンを見守りました。

彼は飾り棚から取り出した

レコードを持って

蓄音機の前に近づきました。

オデットが大事にしている

レコードでした。

 

蓄音機から再生された音楽が

密度の高い沈黙の中へ

流れ始めました。

オデットが息を整えている間に

バスティアンは振り向きました。

彼はネクタイを締めていない

シャツの上に、

紺のセーターを着ていました。

まだ体が完全に回復していないため

動きが普段より遅かったけれど、

まっすぐな姿勢と節度のある歩き方は

相変わらずでした。

オデットの胸に抱かれて眠っていた

昨夜のあの男とは思えない姿でした。

 

食卓の前に戻って来たバスティアンは

何も言わずに食事を再開しました。

それでも、幾分雰囲気が和らいだのは、

音楽のおかげのようでした。

ラインフェルトホテルの

ラウンジで聞いた、

まさに、あの幻想曲でした。

 

感傷的な音楽は好みではなかったけれど

あの春の日の午後に聞いた

旋律の余韻は、長い間、

記憶の中に留まっていました。

そして、オデットは結局、

契約結婚の初月給で、

このレコードを買いました。

ピアノを使ってもいいという許可を得て

一番先に購入した楽譜も

この曲でした。

 

「・・・トリル」

低く沈んだバスティアンの声が

その無常で美しい旋律の中へ

流れ込みました。

オデットは、

ハッと驚いて顔を上げました。

 

「違うのか?」

じっと音楽に耳を傾けていた

バスティアンが

落ち着いた口調で尋ねました。

ようやく彼の意図を理解した

オデットの瞳が微かに揺れました。

 

バスティアンにトリルを教えた

あの夜も、この曲を演奏しました。

まさに、この部分。水面に立つ

さざ波を表現した旋律でした。

 

オデットは頷きながら、

淡々と「そうです」と答えると

顔を上げました。

暖炉の炎は、

数日でやつれたバスティアンの顔に

深い影を落としていました。

 

じっと見つめ合っている間に

幻想曲の最後の楽章が始まりました。

先に視線を逸らしのは

オデットでした。

空中を彷徨っていた視線は、

食卓を飾っている花瓶の上で

止まりました。

 

虚しい期待を抱かせて傷つけた。

しかし、それでも忘れられない

美しい偽りの瞬間が

青いアヤメの上に

浮び上がっては消えていきました。

 

本心を見せなければ傷つくこともない。

その信念は依然として有効であり、

だからこそオデットは、

自分たちが互いを、

あれほど苦しめた理由は何なのか

分かったような気がしました。

繰り返したくない過ちでした。

 

「バスティアン」

迷いや苦しみを消し去ったオデットが

唇を開いたのと同時に

キャンキャンと

犬の吠える声が響き渡りました。

 

オデットはビクッとして

テーブルの下をのぞき込みました。

バスティアンの足元に忍び寄った

マルグレーテが、

ピョンピョン跳ねながら、

愛嬌を振りまいていました。

その行動の目的は明らかでした。

 

「ダメよ、メグ」

厳しく言い聞かせましたが、

マルグレーテは動かず、

ただバスティアンだけを

見つめました。

 

オデットが、適切な対処に

頭を悩ませている間に、

バスティアンが、

かごに残っていたパン一切れを

手に取りました。

興奮したマルグレーテは、今や

彼の足に前足をかけて立ったまま、

夢中で尻尾を振っていました。

 

その様子を見守っていた

バスティアンは、

小さくちぎったパンの欠片を

椅子の下に置いてやりました。

それをペロリと飲み込んだ

マルグレーテは、

その場でグルグル回りながら

喜びを表しました。

 

パンが半分に減ったころ、

オデットはバスティアンを制止し、

メグは、もう食事を済ませたので

そんなことをすると悪い癖がつくと

犬を叱る時とあまり変わらない態度で

バスティアンを諭しました。

 

顔色を窺っていたマルグレーテは

そっと自分の主人のそばに

戻りました。

役目を終えて、

捨てられた身となったバスティアンは

素直に残ったパンを置きました。

 

2人の病人と怪我をした犬が

共にする誕生パーティー。

 

改めて現実を自覚すると、

虚脱感が混じった笑いが

ふっと漏れました。

たかが過労で寝込むという

情けない姿を見せましたが、

そのおかげで享受できた

安息と平安は甘美でした。


バスティアンはオデットに

ローザンへ行くように。

そこに別荘があるので、

子供が生まれるまで、

そこで過ごすようにしろと

悩んだ末に下した結論を

落ち着いて伝えました。

 

まずは、

与えられた責任を果たすための

最後の一歩に集中すべき時でした。

新しい人生のスタート地点に

立てるようになるまで、

オデットと子供を、

この地獄から遠く離しておくのが

正しい選択でした。

泥沼のような彼の人生が、

これ以上、この女を汚さないように。

 

バスティアンは、

必要な人材と物資は、

あなたが望む通りに、

ロビスと相談して決めるようにと

付け加えました。

 

暖かい南の海が見える家。

オデットは、そのような場所で

新しい人生を始めたいと

思っていました。

バスティアンが所有する邸宅の中で

その条件に最も合致するのは

ローザンにある別荘でした。

その家が気に入らなければ、

新しい場所を

探し出せば良いことでした。

オデットの気持ちを

変えることができるまで、何度でも。

 

オデットは、

「バスティアン、私は・・・」と

何か言おうとしましたが、

ドアの外から聞こえて来た、

デザートの準備ができたという声が

オデットの震える声を消しました。

 

バスティアンは、

その幸運を厭うことなく

入室を許可しました。

11回目の鐘の音が止みました。

窓際をうろうろしていたオデットは

足を止めて、

バスティアンが眠っているベッドに

近づきました。


そっと触れた額には

微熱が残っていました。

心配するほどではありませんでしたが

それでもオデットは

体温を測りました。

正確な数値を確認すると、

ようやく、すっかり

安心することができました。

何より悪夢に苦しむ

気配がないという点が良かったと

思いました。

 

義務を果たしたオデットは

ベッドのそばに置かれた椅子に座って

バスティアンを見つめました。

 

誕生日の晩餐会は夜が更ける前に

幕を閉じました。

バスティアンの状態を考慮した

主治医の決定でした。

まだ看護が必要な状態のバスティアンは

今夜も、

この部屋に泊まった方が良いという

助言も添えられていました。

 

冷や汗で濡れた

バスティアンの顔を見ていたオデットは

諦めたように立ち上がり、

濡れタオルを握りました。

 

クラーモ博士が処方してくれた薬を

飲んだバスティアンは、

まもなく眠りにつきました。

疲れた状態で無理をしていたことに

オデットはようやく気づきました。

 

どうか子供が、この愚かな忍耐心を

受け継がないようにと

オデットは切に願いながら

バスティアンの顔を拭いてやりました。

それを発見したのは、

後片付けを終えて振り返った

瞬間でした。

 

山のように積まれていた

誕生日プレゼントは、

全て片づけられましたが、

アヤメが入った花瓶と

チョコレートの箱は、依然として

テーブルの上に残っていました。

それを置いていった

メイド長の意図が何なのか理解するのは

それほど難しいことでは

ありませんでした。

 

ぐっすり眠っているバスティアンを

再度確認したオデットは、

静かな足取りで、

暖炉のそばのテーブルへ向かいました。

花びらを撫でていた手は、

すぐに柔らかいベルベットの箱に

触れました。

バスティアンからのプレゼントでした。

実は初めて見た瞬間に

すでに気づいていたことでした。

 

オデットは躊躇っていましたが

結局、箱を開けました。

甘い香りが鼻先をかすめると、

突然、空腹になり唾が溜まりました。

原始的な欲求に

流されたくありませんでしたが、

子供が望んでいると思うと、

どうしても、

無視することができませんでした。

 

テーブルの前に座ったオデットは、

金貨の形をしたチョコレート一つを

慎重に取り出しました。

金色の包み紙を剥がす

カサカサという音が、

夜の闇の中に染み込みました。

小さく一口かじる音も、

すぐ後に続きました。

 

オデットは、まるで生まれて初めて

チョコレートを食べるかのように

慎重に、甘くてほろ苦い風味を

味わっていきました。

お腹の中で、

微かな震えが感じられたのは、

ちょうど2つ目のチョコレートを

食べ始めた時でした。

 

オデットは恐怖に震えて

お腹を包み込みました。

幸いなことに、

見知らぬ感覚は消えましたが、

不安に高鳴る心臓の鼓動は

なかなか収まりませんでした。

 

どうやら呼び鈴を鳴らした方が

良さそうだと思った瞬間、

蝶の羽ばたきのような動きが

再び感じられました。

痛みとは違いました。

 

ぼんやりした目を瞬かせていた

オデットは、

花びらを触るように柔らかい手つきで

膨らんだお腹を撫でました。

 

ティラの胎動を感じた瞬間の記憶が

ふと思い浮かびました。

母親のお腹の中で踊っていた子。

その不思議な動きと同じでした。

 

「・・・こんにちは、赤ちゃん」

オデットは潤んだ声で

ぎこちない挨拶をしました。

子供を否定し、無視し、

危害を加えようとした

過去の時間に対する和解を

求めるように。

そして、子供は、それに応じるように

愛らしい仕草を返してくれました。

胸が張り裂けそうなくらいの痛みを

与えた記憶が、

胸いっぱいの幸せに変貌しました。

オデットは、

急いでチョコレートを手に取りました。

バスティアンは、

暗闇の一部のように静かな眼差しで

オデットを見つめました。

彼女は、

お腹を撫でながら独り言を呟くと

慌てて、

チョコレートを食べ始めました。

テーブルの上に散らばった

金色の包装紙が増えるほど、

オデットの笑顔は

明るくなって行きました。

いつもとは違う行動でした。

 

起き上がろうとしたのを

止めたバスティアンは、

一層深まった眼差しで

オデットを見守りました。

 

濡れタオルが額に触れた時に

目を覚ましましたが、

そんな素振りは見せませんでした。

おそらく、この平穏を

壊したくなかったからでした。

情けない未練でした。

 

短い挨拶で始まったオデットの独り言は

だんだん長くなって行きました。

そして、オデットの顔の上に

明るい笑みが浮かんだ瞬間、

バスティアンは、

「赤ちゃん」という単語を

認識しました。

 

うず高くなった金色の包装紙と

お腹を撫でる白い手。

そして花のように笑うオデット。

 

それを見て、下した結論が、

一瞬、バスティアンの頭の中を

真っ白に染めました。

 

バスティアンは

無意識に息を殺したまま、

お腹の中の子供と話をする

オデットを見つめました。

そっとお腹を撫でる手が

とても慎重でした。

まるで、そこから何かを

感じ取ろうとしているかのように。

 

オデットが立ち上がったのは、

真夜中を間近に控えた頃でした。

バスティアンは、再び目を閉じて

呼吸を整えました。

 

バスルームから戻って来たオデットは

ショールとガウンを脱いで

ベッドに横になりました。

 

暖炉の薪が燃え上がる音と

時計の秒針の音が、

深い夜の静寂の中に

染み込んで行きました。

 

このまま眠るつもりだった

バスティアンは、

衝動的に目を開けました。

オデットが、彼に背を向けたまま

眠っていることに気づいたのは

か細い背中が

目に入ってきた後でした。

バスティアンの口元に

自嘲的な笑みが浮かびました。

それでも捨てられない未練は、

オデットに残っている

チョコレートの香りのように

甘くてほろ苦いものでした。

 

結局、バスティアンは

オデットの方へ体を向けて

横になりました。

背中と胸が触れ合い、

足が一つに絡み合いました。

最後に腰を包み込んだバスティアンは

ふっくらしたお腹の上に

そっと手を置きました。

温かかったけれど、それだけでした。

 

バスティアンは、

もう少し下に手を下ろしました。

それから横に移動させました。

指先に感覚を集中させながら

子供の気配を探しましたが

無駄でした。

 

もう諦めようとしたその時、手の甲に

ひんやりとした柔らかい体温が

感じられました。

微かなため息をついたオデットが

彼の手を握りました。

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逃げたオデットが

バスティアンに捕まった時に

コートのポケットからこぼれた

金貨型のチョコレート。

それ以外にも、みすぼらしいものを

バスティアンに見られてしまった

オデットは、

金貨型のチョコレートを見て、

その時の屈辱的な記憶が蘇り、

バスティアンは自分を嘲るために

これをプレゼントしたのではないかと

疑ったかもしれません。

でも、バスティアンは、

金貨型のチョコレートは、

オデットを連れ戻すことができた

喜びの記憶であり、

逃げようとした時にさえ

オデットが持っていたことから、

彼女が本当に食べたかった物だと

推測して、

プレゼントしたのではないかと

思います。

 

それが当たっているかどうかは

ともかくとして、

いわくつきの金貨型のチョコレートが

赤ちゃんのおかげで、

嬉しい記憶に塗り替えられたのは、

本当に良かったと思います。

バスティアンも、おそらく、

父親としての自覚が

芽生えたのではないかと思います。

このまま平穏な生活が続けば

2人の関係が修復しそうですが、

バスティアンの不幸を願っている

テオドラの存在が恐ろしいです。

 

ところで、何度か出て来ている

オデットとバスティアンの

思い出の幻想曲の曲名について

AIに聞いてみたところ、

アレクサンドル・スクリャービンの

ピアノ・ソナタ第2番 嬰ト短調

作品19『幻想ソナタ』の

第1楽章である可能性が高いという

答えでした。

早速、聴いてみましたが、確かに、

トリルの部分が、

水面のさざ波のように聞こえました。

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