
100話 ホワイトフィールドで開かれるパーティーが近づいています。
ローラは毎日のように
ホワイトフィールドを
訪れていました。
邸宅の部屋を一つ一つ確認し、
会場を見回り、
使用人の規模と労働力を
推し量りました。
これまで掃除、洗濯、料理以外、
何も知らなかった
純朴な田舎の使用人たちは
気絶しそうでした。
執事のラムズウィックも
慌てているのは同じでした。
ローラはラムズウィックに
一から十まで細かく指示を出し、
具体的な計画表を共有し、どこに、
どのような使用人を配置すべきかを
教えました。
ラムズウィックはローラの指示を熟知し
使用人たちに役割を割り当てました。
まるで軍隊のようでした。
使用人たちは兵士で、
ラムズウィックは参謀、
そしてローラは将軍でした。
ローラは午前10時頃に
ホワイトフィールドに来ました。
そして、
ラムズウィックと邸宅を巡りながら、
招待客の寝室を指定し、
新しく届いた装飾用のカーテンと
ワインを確認しました。
忙しく時間を過ごしているうちに、
いつの間にか
昼食の時間になっていました。
彼女がどこにいても、
ダルトン氏は直接、
彼女をエスコートしに来ました。
二人は並んで食堂へ行き、
一緒に食事をしました。
ホワイトフィールドの風景が
絵のように広がる食堂で、
二人は向かい合って食事をしました。
楽しくて穏やかな時間でした。
食事が終わると、二人は、
しばらくホワイトフィールド周辺を
散歩しました。
そして再び彼は執務室へ、ローラは
彼が提供した業務用オフィスへと
向かいました。
執事のラムズウィックによると、
ここは早くに亡くなった
先代のダルトン夫人の
執務室だったとか。
ローラは備え付けられた高級な家具から
ダルトン夫人の格調高い趣味を
垣間見ることができました。
ローラはそこで料理メニューを考え、
楽士たちの面接をしました。
4時頃になると、ダルトン氏は
茶菓子を積んだカートを押して
ローラの執務室を訪れました。
家主が使用人の仕事をするなんて
気絶しそうでしたが、
彼は気にしませんでした。
彼はローラに直接お茶を注ぎ、
ケーキを切って渡しました。
そして椅子を引いてきて、
そばに座りながら、
おしゃべりを始めました。
ローラは、
ダルトン氏がこんなにおしゃべりだとは
知りませんでした。
そばに親しくする友達がいなくて
寂しかったのだろうと推測しました。
ローラは彼の言葉に耳を傾けました。
そして、自分は、
午後をどのように過ごしたかを
話しました。
彼は一つ一つ丁寧に耳を傾けました。
特別な話ではないのに、
彼の顔には笑みが浮かんでいました。
あれこれ、おしゃべりをしているうちに
あっという間に、
夕食の時間になりました。
二人は再び一緒に食堂へ行き、
食事をしました。
そして彼に送ってもらって
ダンビルパークへ戻りました。
毎日をこうして過ごすうちに、
ローラにとってホワイトフィールドは
ダンビルパークと同じくらい
馴染みのある場所に
なってしまいました。
使用人たちの名前と家の構造が
目の前に鮮明に浮かびました。
ラムズウィックとも仲良くなり、
料理人のフィリップとも
気軽に話せる関係になりました。
そしてダルトン氏の雑談のおかげで、
彼の一日の過ごし方も、
すっかり把握するようになりました。
毎日が、
まるで夢の中を歩いているように
幸せでした。
ホワイトフィールドは美しい所でした。
感受性より理性が発達したローラでさえ
感動するほどでした。
ローラは邸宅の中を歩き回る時間を
楽しみました。
そして、
ダルトン氏と仕事を共有するのが
楽しくて、
永遠にこの瞬間が終わらないことを
願うほどでした。
しかし、時間は一箇所に留まってくれず
すぐに、狩猟の集まりが
目前に迫って来ました。
ローラは一週間の滞在のために
荷物をまとめました。
彼女には、
たくさんのパーティー用ドレスが
できました。
狩猟の集まりの前日、
フェアファクス夫人はローラを
自分の衣装部屋に呼びました。
そしてクローゼットを開けて
シルクのドレスを山ほど手渡しました。
どれも派手ではなく、おしゃれでした。
社交界で数万着のドレスを見てきた
ローラの目にも素敵に映りました。
それは、
先代ダルトン夫人が亡くなる際に
娘に遺した服でした。
フェアファックス夫人は、
間もなく開かれるパーティーで
この服を着るようにと言いました。
ローラは遠慮しましたが、
フェアファックス夫人は
粘り強く説得しました。
さらには母親の宝石までも
貸してあげました。
フェアファクス夫人は
きれいに着飾って、イアンのそばで
しっかり面倒を見て欲しい。
あの子は、先生でなければ
何もできないのだから。
だからといって、
仕事だけをしろという意味ではない。
萎縮せずに、楽しく遊んで来るようにと
言いました。
断り過ぎると
失礼になると分かっていたので、
ローラは、きちんと管理して
きれいに返すという約束と共に
ドレスを受け取りました。
翌日、ローラは馬車に乗り込みました。
そして、ニコニコ笑いながら
ローラを見送るフェアファックス母娘と
一週間も先生と
離れなければならないという事実、
しかも先生が、幽霊より怖い
叔父さんの家へ行くという事実に
泣きわめいている兄弟たちを後にして
ホワイトフィールドへ、
一人で向かいました。

羊の群れが草を食む平原の風景が
窓の外を通り過ぎました。
そちらを眺めていたランス嬢は
微笑みました。
ロンドンを拠点とするランス嬢は、
久しぶりに都市を離れて
田舎へ向かう旅路を
とても楽しんでいました。
彼女は両目いっぱいに
青々とした緑を湛えながら
少しばかり乗り物酔いを引き起こす
列車の揺れさえも
喜んで楽しんでいました。
彼女の耳元に「スー」という音が
聞こえて来ました。
彼女は音のする方へ顔を向けると
彼女の両目に、
ジャネット嬢の頭頂部が映りました。
彼女は疲れているのか、
頭を前に傾けて、ひっきりなしに
スースーと寝息を立てながら、
うとうとしていました。
ランス嬢は笑顔で
フェアファックス氏を見つめました。
彼は、
ランス嬢と目を合わせて笑いました。
ランス嬢は、ジャネット嬢が
とても疲れているようだと
指摘しました。
フェアファクス氏は、
ホワイトフィールドに
遊びに行くことを考えて、
眠れなかったからと答えると、
風に揺れる麦の穂のように揺れる
妹の頭を自分の肩に乗せました。
そしてランス嬢に了解を得て、
窓のカーテンを下ろしました。
本当に優しいお兄さん。
ランス嬢は、妹の肩に毛布をかける
フェアファックス氏を見て、
微笑ましくなりました。
元々、ランス嬢は、
普段一緒に行動する三人の友人と
同乗する予定でした。
しかし、ビクトリア・ウィルクス嬢が
デイジー・オーソン嬢の兄である
ジョージ・オーソン氏と婚約し、
突然、家族となったオーソン家が
一堂に会することになりました。
それならば、
唯一の友人である
スーザン・ドノバン嬢だけでも
彼女のそばにいるべきでしたが、
ドノバン嬢は、
母親と一緒に叔母の家を訪問中で、
遅れて合流する予定でした。
突然一人になってしまったランス嬢に
ジャネット嬢は、恥ずかしそうな顔で
一緒に列車の個室を使わないかと
提案しました。
悪くない申し出でした。
三人は、カードゲームをしたり、
知っている面白い話を順番に聞かせたり
各自が持っている詩集を朗読したりして
とても楽しみました。
しかし半日ほど経つと、それも色あせ、
しばらく沈黙が訪れました。
その沈黙を破ったのは、
まさにジャネット嬢の寝息の音でした。
ランス嬢は、フェアファクス氏が
何年ぶりにヨークシャーへ行くのかと
尋ねました。
彼は、仕事だの何だので、
ほぼ2年ぶりのようだ。
甥っ子たちが、
どれほど大きくなったか分からない。
自分を覚えているかどうか
自信がないと答えました。
ランス嬢は、
妹にも、
こんなに優しくしているのだから
とても優しい叔父さんだと思うと
言いました。
フェアファックス氏は、
恥ずかしそうに
目を細めて笑いました。
美しい顔が笑みを浮かべると、
さらに素敵に見えました。
フェアファクス氏は、
甥っ子たちとは仲が良い。
子どもが好きだからと言いました。
ランス嬢は、
それなのに、
まだ結婚していないなんて不思議だと
言った後で、しまったと思いました。
彼が半年ほど前に
ジェーン・ハイド嬢を追いかけ回して
振られたことを思い出しました。
他愛もないゴシップで、
多くの人の記憶から消えていましたが
当事者は、まだ傷が癒えていないかも
しれませんでした。
しかし彼は、相変わらず、
ニコニコと笑っていました。
フェアファクス氏は、
まだ良い縁に巡り会えていない。
毎晩、良い花嫁を見つけてくださいと
一生懸命祈っていると答えました。
ランス嬢は、
結婚する考えはあるのですねと
尋ねました。
フェアファクス氏は、
もちろんだ。
自分は独身主義者ではない。
ロンドンで事業をしている
若い独身男性であれば、
自由な生活を楽しみながら
結婚の束縛に縛られるのを
できるだけ先延ばしにしたいと
思うだろうと推測する。
しかし、自分はいつも、
今の生活が一時的なものだと
思って来た。自分には家庭が必要だ。
一生を共に過ごす気の合う妻と、
自分を父と呼ぶ可愛い子どもたち。
結婚後、自分の人生は
本格的に始まるだろう。
夫と父親としての人生こそが、
男性が自分の役割を果たす
本当の人生だと思っていると
柔らかい口調で話しました。
本当に堅実な考えでした。
ランス嬢は感嘆しました。
彼女は、
もし結婚するなら、
ロンドンでの生活は
清算するつもりなのかと尋ねました。
フェアファクス氏は、
妻が残りたがるなら、
ずっとタウンハウスに住み続けるけれど
自分は田舎に移り住みたい。
今は賃し出しているけれど、
サマセットに、
小さなカントリーハウスも
購入していると答えました。
興味がないふりをして
隠していましたが、
不動産は彼女の関心事の一つでした。
彼女は、
カントリーハウスの規模について
遠回しに質問しました。
フェアファクス氏は
ランス嬢の意図に気づきましたが、
表には出さず、淡々と答えました。
彼は、今、自分たちが向かっている
ホワイトフィールドホールと比べれば
取るに足らないし、
自分が生まれ育ち、現在は
ロバート兄が受け継いで、
きちんと管理している
ダンビルパークよりも劣っていると
答えました。
ランス嬢は、慎重に
いくつかの質問をしました、
彼の答えから、田舎の家の規模を
推測することができました。
大邸宅とコテージの中間の大きさの
2階建ての石造りの家。
東屋のある広い庭園。
丘と果樹園が向かい合っている
素晴らしい眺望。
近くに大きな市場があり、
物資の運搬も円滑。
ランス嬢は驚きました。
事業で成功したとはいえ、
イギリスの法律上、
財産をほとんど相続できない次男が
29歳の若さで
これほどの財産を築いたのは
素晴らしいことでした。
ランス嬢は
ジェーン・ハイド嬢を
思い出しました。
スリムで個性的な魅力はありましたが
美人とは言えない淑女でした。
彼女は、
フェアファクス氏のプロポーズを断り
タイピストとして就職しました。
ランス嬢には
理解できないことでした。
こんなに良い花婿候補を断って
どうして、単なるタイピストになる道を
選べたのか。
女性が自分の手でお金を稼ぐことは、
結婚市場から淘汰されたことを
意味していました。
家が貧しかったり、
夫に恵まれなかったり、
ひどく醜かったり。
世間の目もそうであり、
ランス嬢も内心そう思っていました。
全く理解できないお嬢さんだと
ランス嬢は心の中で舌打ちをしました。
そして、もしかすると
(いや、間違いなく)
自分と親戚関係になる
フェアファクス氏が、これほど堅実で
有能な紳士であることに
喜びを感じました。
列車は走り続けました。
二人は普段よりも多く会話をしました。
普段、口を休むことのない
ジャネット嬢が眠っていたためでした。
わざわざ話しかけなければ、
黙っている方だったフェアファクス氏は
目の前の女性が退屈しないように
普段より多く話しました。
二人とも人懐っこい性格なので、
会話は退屈しませんでした。
フェアファクス氏は、
明るくおしゃべりするランス嬢を
見つめながら、
楽しい気分になりました。
とても可愛らしい女性でした。
仲良くなる前は、
遠くから見て、かなり美人だなと
感嘆するだけでした。
しかし、
思いがけず彼女と親しくなると
好感が持てるし、一緒にいるのも
嫌ではありませんでした。
無邪気で率直な性格で、明るく
想像力が豊かでした。
20歳は、社交界で
若いとは言えませんでしたが、
まるで少女のようでした。
時折、過度に率直で
未熟に見えることもありましたが、
大きな悪意はないと分かっていたので
純真に感じられました。
ランス嬢は、彼の理想のタイプとは
かけ離れていました。
彼が望んでいる妻は、知的で
信念がはっきりした女性でした。
自分と対等に意見を交わせる
尊敬すべき女性。
しかし、それは
彼が変わった男だからでした。
ランス嬢のような可愛らしい女性こそ
多くのロンドン紳士が夢見る
理想的な妻だと思いました。
彼は、
この淑女の夫になる男性は
一体、どこの幸運な男性だろうかと
考えました。

![]()
ローラとダルトン氏は、すでに
夫婦みたいではないでしょうか。
ローラに全てを任せ、
ダルトン氏の母親が使っていた
執務室を使わせるなんて
ダルトン氏はローラのことを、
すでに妻同然に思っているような
振る舞いだと思います。
ローラは、ダルトン氏の意図を
何も感じていないのでしょうか。
ただの友人にしては、親密過ぎることに
気づいていないとしたら、
ローラの鈍感さは
相当なものだと思います。
ダルトン氏の母親のドレス。
サイズは大丈夫だったのかなと
思いましたが、
きっとフェアファクス夫人は
ローラに合うように
サイズを直したのではないかと
思います。
本当は、新しいドレスを
作ってあげたかったけれど、
(お金はダルトン氏が出して)
絶対にローラが拒否すると
思ったのでしょうね。
フェアファクス夫人とオリビア。
ジョージとダニエルの姿が
違い過ぎて笑えました。
それにしても、
ハイド嬢が美人ではないなんて
ランス嬢は失礼です。