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181話 バスティアンはオデットを寝室へ連れて行きました。
勢いよく閉まったドアが
反動に耐え切れず、
再び開きました。
慌てて手を伸ばしましたが、
オデットは
目的を果たせませんでした。
すたすたと寝室を横切った
バスティアンは、あっという間に
ベッドに辿り着きました。
ドアを逃したオデットの手が
再び彼の肩に触れた瞬間、
世界が傾きました。
重なり合った2つの体が
ベッドの上に倒れると、
空中に舞い上がった埃が
部屋いっぱいに差し込む
午後の光の中へと
溶け込んで行きました。
ぼんやりと、
その非現実的な光景を見つめていた
オデットの視界は、やがて
バスティアンで埋め尽くされました。
空腹の獣のような渇望を宿した
眼差しが与えた本能的な恐怖が
喉を締め付けました。
後悔することになるだろう。
オデットは、
辛うじて取り戻した理性の警告を
はっきりと聞きました。
しかし、どうでもいいと思いました。
どうせ、数え切れないほどの過ちと
後悔にまみれた仲なのだから。
もう1つ過ちを加えたところで
何も変わりませんでした。
だから、
たとえ間違った選択であっても
構いませんでした。
オデットは、
諦めがもたらした自由の中へ
両腕を伸ばし、力いっぱい
バスティアンを抱き締めて
キスをしました。
それは、
あなたを傷つけるという通告でした。
自分に傷を与えてもいいという
許可でもありました。
一瞬、動きを止めたバスティアンは
さらに荒々しい勢いで
オデットの唇を飲み込みました。
舌が絡まり、
誰のものか区別しにくくなった
熱い息が混ざり合いました。
臨界点を越えた欲望が
急激に高まって行きました。
オデットは押し寄せる
見知らぬ歓喜に囚われながら
バスティアンにしがみつきました。
後頭部を包み込んだ手で
髪をかき乱すと、荒い息が
さらに激しくなりました。
腫れ上がったオデットの唇を
離したバスティアンは、
腰を伸ばして座ると、
サスペンダーを下ろして、
濡れたシャツを脱ぎ捨てました。
引き裂くように取り除いた
オデットのブラウスと下着も
すぐに続きました。
恥ずかしさを感じる間もなく、
貪欲な口づけが始まりました。
オデットは抗う術もなく
巻き込まれたまま、
バスティアンの唇と手の動きを
受け入れました。
興奮すればするほど荒々しくなる
彼に圧倒されましたが
逃げ出したくはありませんでした。
決意を固めている間に、
首筋を伝って下りて来た
バスティアンの唇が胸を噛みました。
オデットは震えながら
彼の肩を掴みました。
固く引き締まった筋肉が蠢く度に
熱を帯びた息が
さらに荒々しくなりました。
泣き出しそうなほど震える自分の声が
ふと見知らぬもののように
感じられた時、スカートが
はがされてしまいました。
最後に残った下着さえも
消えてしまったことは、
繊細な場所に触れる手を感じて
初めて気づきました。
オデットは、
濁った熱気に染まった目を開けて
バスティアンを見つめました。
いつの間にか裸になった
バスティアンが
彼女の上に覆いかぶさりました。
日差しを浴びた傷だらけの体は
まるで荘厳な廃墟のようでした。
裂けたり、
えぐれた傷でいっぱいでも
強靭で美しかったです。
ところで、あなたの目に映る自分は
どうなのだろうか?
オデットは、
ふとそれが気になりました。
獣のように体を交えていた頃には
思い浮かべないように努めていた
疑問でした。
単に、復讐の手段である
子供を得るための行為に過ぎない。
すれ違う視線でさえ耐えがたいほど
憎むべき存在なのだと、
よく理解していたから。
それでも、
バスティアンの視線を追っていた
瞬間がありました。
結局は無視されて、
心に傷を負いながらも
止めることができませんでした。
その瞳の中に何を見つけたいのかも
分からないまま。 まるで今のように。
身を屈めたバスティアンが
再び口を合わせて来ました。
オデットは小さく首を振りながら、
彼の顔を包み込みました。
低く囁く彼の名前が、
しっとりとした、ため息と共に
流れ出ました。
繊細な場所を濡らしていた手を止めた
バスティアンは、
情欲で色濃くなった目を伏せて
オデットを見つめました。
無謀なまでにぶつかってくる
勢いとは裏腹に、
そのあまりに脆く繊細な瞳が、彼に
自嘲気味の失笑をもたらしました
犬一匹の温もり。愛する女。
その女と築く家庭と子供。
切望していたけれど、
永遠に失ってしまったものを呟く
テオドラの声が、耳鳴りのように
耳元をかすめました。
もしかすると、この世で
自分を最もよく知っている者は
まさに、
あの女だったのかもしれないと
思いました。
だからこそ、最も完璧に自分を
壊すことができたのだろう。
ところで、バスティアン、
あなたは何を手に入れたの?
じっと見つめるオデットの眼差しから
その残酷な問いを読み取り、
最後の最後まで辿り着いて見つけた
「何もない」という答えを聞きました。
少なくとも最後だけは、
素敵な男でありたいという願いさえも
泡と消えてしまいました。
そうして残ったのは、
このように哀れになった自分と、
この自分のせいで哀れになる
あなただけでした。
バスティアンは視線を逸らして
日差しが降り注ぐ窓を見つめました。
歯の間から漏れ出た熱い息が、
より濃くなった自嘲と共に
流れ出ました。
こんな時でさえ、
どうすることもできない欲望に
うんざりしました。
むしろ、早く奈落の底へ
落ちたいと思いました。
盛りのついた獣に成り果てて、
何1つ希望など持てぬように。
やめることができなければ、
最後まで、
救いようのないならず者として
残る方が、まだマシなのだから。
「バスティアン」
自分の美しい魔女が歌いました。
彼は激しい口づけを浴びせながら、
力いっぱい握った脚を開きました。
その意味に気づいた時、
彼はすでにオデットの体を
開いていました。
子供たちが走り回る音が
カーテンを揺らす風に乗って
伝わって来ました。
オデットは、その時になって初めて
窓が開いていることに気づきました。
その瞬間、
熱に浮かれて忘れていた世の中の音が
押し寄せて来ました。
通行人たちの会話と笑い。
枝にとまった鳥たちのさえずり。
その隙間から漏れ出す
自分のなまめかしい声が与えた
恥ずかしさで、目の前がぼやけた頃
彼が届くことのできる
最も深い所まで入り込んで来ました。
オデットは、
悲鳴のような声を堪えながら
もがきました。
それと同時に、
隙間なく重なっている体が
揺れ始めました。
名前を呼ぼうとした努力は
無駄に終わりました。
バスティアンは、
オデットの唇を飲み込んで
彼女の息と声を飲み込み、
激しくぶつかって来ました。
隙間なく埋め尽くされた下を
激しく、つき上げる度に、
古いベッドが壊れそうなほど
軋みました。
オデットは陶酔にも似た幻滅の中で
乱暴な光を抱きました。
混乱していました。
正気を保つことができませんでした。

「バスティアン」
昂る吐息と共に漏れた名前が
荒い息遣いの合間に
染み込んで行きました。
オデットは、
汗で濡れたバスティアンの背中を
抱き締めていた手を下ろし、
顔を包み込みました。
そして、かろうじて視線を
自分の方へ引き寄せましたが、
結局、届きませんでした。
乳飲み子のように
胸を口に含んでいたバスティアンが
ゆっくりと背筋を伸ばしました。
快楽に酔いしれた顔とは裏腹に
虚空を見つめる目は
冷たく沈んでいました。
乱れた息を吐き出す度に、
血管が浮き出た喉元が
荒々しく上下しました。
「バスティアン、私を、あっ・・・」
懇願の言葉を終える前に、
嗚咽に近い声が溢れ出しました。
大きく広げた脚を
握り締めたバスティアンが
再び腰を力強く動かし始めました。
動きが一段と自由になると、
オデットを揺るがす力も
一層激しさを増して行きました。
最も遠くまで後退し、
最も深い所へ進む度に、
濡れた肌がぶつかる音が
響き渡りました。
オデットは、押し寄せる感覚に
抗う術もなく巻き込まれました。
唇を噛み締めても、こぼれ出た声が
窓の向こうの騒音を消し去りました。
オデットは、
計り知れない恥辱と快楽の間で
道を失いました。
押し退けながら、しがみつき、
撫でながら、引っ掻きました。
その矛盾した要求の全てに
素直に応じながらも、
バスティアンは最後まで
視線だけは向けてくれませんでした。
これほどまでに無情に
背を向けられる瞬間が訪れると、
かえって欲望が
激しく燃え上がることに
オデットは混乱しました。
まるで、腐った肉の塊に
成り下がってしまったかのような
自己嫌悪に苛まれた、
屈辱と悲しみの夜のように。
夕方を告げる鐘の音が
微かに聞こえて来ました。
カーテンの隙間から
斜めに差し込む日差しが
ベッドの上に降り注ぎました。
金色に染まった2人は、
1つに絡み合いながら
互いを求め合いました。
まるで喧嘩でもしているかのように
激しい口づけを浴びせ合い、
猛烈にぶつかり合いました。
嫌・・・
力いっぱい掴んだバスティアンの顔に
慌てて口づけをしていたオデットが
今にも泣き出しそうな顔で
囁きました。
熱く彼を飲み込んでいる仕草とは
似つかわしくない言葉でした。
バスティアンは、
無意識に視線を下げました。
濡れた青緑色の瞳を見つめて初めて
自分の過ちに気づきました。
そうしないで。 嫌。
目を逸らそうとしたバスティアンを
制止したオデットが首を振りました。
両手でしっかりと彼の頬を包み込み、
まっすぐな眼差しを向けました。
その意味に気づいた
バスティアンの唇から、
ため息混じりの自嘲が漏れました。
私を、あっ・・・!
バスティアンは、
両腕でしっかりと抱き締めた
オデットを一気に抱き上げました。
驚いてもがいていたオデットは
反射的に、
彼の首筋を抱き締めました。
ぐちゃぐちゃに乱れた髪から
抜き取ったピンを投げた
バスティアンは、
壊れんばかりに抱き締めた
オデットを揺らしながら
腰を上げ始めました。
うねる波のように
流れ落ちた髪の毛が
痙攣する白い背中を覆いました。
頑丈な鎧のような肩に
寄りかかりながら、息を切らして
すすり泣いていたオデットは、
力を振り絞って顔を上げて
バスティアンの視線を追いました。
圧倒的な力の差がもたらした無力感も
彼女の粘り強い執念を
挫くことはできませんでした。
やがて出会った冷たい青い目が
もたらした歓喜は、
まもなく怒りに変わりました。
バスティアンは、
オデットのうなじを掴んで押さえつけ
獣のような行為を続けました。
オデットは、なりふり構わず彼を叩き
押し退けながら、
激しく身をよじりました。
どうか、バスティアン、どうか・・
嗚咽の混じったうめき声の間から
かろうじて絞り出した懇願が
バスティアンを止めました。
全く諦めることを知らない女を
じっと見つめていたバスティアンは
ついに諦めて笑ってしまいました。
腕をギュッと掴んでいた手から
すっと力を抜くと、オデットは、
待ち構えていたかのように
バスティアンに襲いかかりました。
肩と胸を打つ拳に、
かなりの力が込められていました。
彼を睨みつける顔にも、
真剣な怒りが色濃く滲んでいました。
その圧制に屈したバスティアンが
ベッドに倒れ込みました。
オデットは狩りに成功した
捕食者のような勢いで
彼の腹の上に座りました。
私を・・・
腰を屈めたオデットが
彼の肩を押さえつけました。
バスティアンは抵抗しませんでした。
私を見て。
オデットは
込み上げる涙を堪えながら、
恨めしさの混じった悲痛な願いを
口にしました。
バスティアンは、
ギュッと閉じていた目を開けて
オデットを見つめました。
赤く染まった目元に包み込まれた
大きな瞳は、溢れ出た涙で
透明に膨らんでいました。
自分の底を映し出す
鏡のような目が嫌でしたが、
もう逃げ道はないように思えました。
暮れゆく光の中で、
静かな見つめ合いが続きました。
自分を湛えている深く青い瞳を
オデットは、
ひたすら見つめ続けました。
穏やかな水の流れを思わせる
その眼差しには、
どこにも軽蔑や憎悪の痕跡は
残っていませんでした。
同情や憐みも見つけるのが
難しかったです。
ただ夏の夕方のように
涼しくて穏やかでした。
まさに、この眼差しを
探し求めていたことを、
オデットは今になって
理解したようでした。
彼女を渇望させた、
まさに、あの砂漠の蜃気楼。
過去の美しい幻想でした。
憐憫と憎悪の前に存在していた
あの感情の名前は
何だったのだろうか。
契約関係に過ぎないと
明確に取り決めていましたが
それでも、時折、
このような眼差しが届く瞬間が
ありました。 一体なぜ?
希望であり絶望でもあった
疑問を抱かせたもの。
つまり、本心のように。
オデットは、
かえって、より大きくなった
混乱の中で体を起こしました。
その瞬間も、視線は依然として
バスティアンに向けられていました。
彼の視線も、
またオデットの両目の上に
留まっていました。
慰める術のない悲しみと
浅ましい喜び。
底知れぬ羞恥心と満たされない欲望。
一つに凝縮された激情が
オデットを目覚めさせました。
遅ればせながら、
自分が何をしたかに気づくと、
すでに赤くなっている顔が
さらに熱く燃え上がって来るのを
感じました。
遠ざかろうとする
オデットの腰を抱き締めた
バスティアンは、
もう嫌ではなさそうだと告げると
音楽のように響く
低い笑い声を漏らしました。
「あ・・・」
バスティアンの視線に追って
目を伏せたオデットは
ため息をつきました。
彼の腹を白く濡らしているものが
何であるかを悟るのは、
それほど難しくありませんでした。
臀部を刺激する硬い熱も同様でした。
続けてもいいですか、従妹殿?
かすれた低音の声が
熱いため息とともに流れ出ました。
オデットは眉を顰めながら、
そんな風に呼ばないでと
彼を叱りました。
バスティアンはニヤリと笑って
彼女を持ち上げました。
オデットが慌てふためいている間に
「それでは、マリー・ベラー嬢?」
と尋ねたバスティアンが、
オデットの体を再び下げました。
彼女は、すすり泣くように
声を上げながら
バスティアンの腕を掴みました。
手に負えない量感を伴う熱気に
意識が遠のいて行きました。
「・・・オデット」と、
彼女は、辛うじて声を絞り出し、
腰を捻りました。
体を深く合わせても、バスティアンは
ただ静かにしていました。
オデットと、
濁った息と共に吐き出した名前と
深みを増した青い目が、オデットを
さらに途方に暮れさせました。
ぎこちなく身をよじっていた
オデットは、小さく首を振って
よく分からないと答えました。
そして、
顔はもちろんのこと、
耳たぶや首筋まで赤くしながら、
どうすればいいのかと
真面目な学生のような
質問をしました。
しばらく、ぼんやりと
彼女を見つめていたバスティアンは
ハハハと声を出して笑いながら
汗で濡れた額を撫でました。
この瞬間の記憶は、
永遠に癒えない傷として残ることを
分かっていました。
しかし、バスティアンは喜んで
その苦痛を
受け入れることにしました。
たとえ、毎朝、目を覚ます度に
敗北感を味わう人生が続いても
良いと思いました。
バスティアンは、この愛の勝者に
なりたくありませんでした。
テオドラが知らなかった、
あるいは、彼ですら知らなかった
最も率直な気持ちでした。
バスティアンは
オデットの代わりに動き、
甘美な官能を追い求めました。
優雅に踊るように揺れる女は
非常に扇情的で美しかったです。
肉がぶつかる音が速くなるにつれて
荒々しい息遣いや、うめき声も
高まって行きました。
ますます強くなる力に
耐えられなくなったオデットは、
ついにバスティアンの上に
倒れてしまいました。
手に巻きつけた髪にキスをした
バスティアンは体を起こして座り、
彼女と向かい合いました。
バラ色の頬を噛むと、オデットは
ビクッと体を震わせました。
どうしていいか分からなくて
戸惑っている愛らしい顔が
最後の自制心を消しました。
今にも崩れ落ちそうなほど
揺れるベッドと、
虫食いの床板の軋む音が、
最高潮に達して高まりゆく声と
混じり合いました。
美しく歌う魔女から、バスティアンは
一瞬たりとも目を離しませんでした。
航路を見失った難破船は
座礁しました。
バスティアンは、
魔女の海の深淵へ沈んで行くことに
決めました。
歓喜の敗北でした。
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ようやくここまで来たかという
感じです。
高貴な血筋を受け継いでいるけれど
お金がないオデット。
古物商の孫であることを
揶揄されて来たけれど、
お金はあるバスティアン。
血統では圧倒的に負けているけれど
生きて行くためには、お金が必要なので
バスティアンは
オデットの支配者にならざるを
得なかった。
けれども、
バスティアンから離れたことで
彼の支配下から抜け出したオデットは
再会したバスティアンに
遠慮をしなくなった。
前回も今回も、
先に行動を起こしたのはオデット。
ようやく自分に対して、
素でぶつかってくれるようになった
オデットに、バスティアンは、
喜んで陥落するしかなかったのでは
ないかと思います。
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いつも、たくさんのコメントを
ありがとうございます。
182、183話も、今回同様、
オデットとバスティアンが絡む
シーンが続きます。
コメントしていただく際は、
言葉を選んでいただけますと
幸いです。
よろしくお願いいたします。
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