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183話 オデットとバスティアンは最後の夕食を取っています。
最後の晩餐は、
真夜中が近づいた頃に
幕を閉じました。
散々な料理ばかりでしたが、
バスティアンはいつも通り
きれいに皿を空にしました。
オデットも、
黙々と食事を続けました。
空腹のおかげで、乾いたパンと水も
美味しく食べることができました。
バスティアンが分けてくれたリンゴも
残しませんでした。
果汁がついた手を見つめる
オデットの困った顔をチラッと見た
バスティアンは、
自分が持って来ると言って
席を立ちました。
化粧台の前に行った彼は、
引き出しから取り出したハンカチを
持って戻って来ました。
オデットは、
感嘆しながらハンカチを受け取り
どうして分かったのかと尋ねました。
自分の意図を見抜いたことよりも
驚くべきことは、
一瞬でハンカチのある場所を
見つけたという事実でした。
バスティアンは、
オデット嬢のハンカチは、
いつも化粧台の引き出しの左側に
しまわれていたと思うと答えると
大したことではないかのように
笑いながら、
最後の一つのリンゴを分けました。
オデットは頷きながら、
彼が差し出した半分を受け取りました。
たとえ偽物だったとしても、
一つの家で家族のふりをして
暮らしていたという事実を
改めて実感しました。
それなのに、なぜ自分はあなたのことを
よく知らないのだろうか。
オデットは、
ふと浮かんだ疑問を込めた目で
バスティアンを見つめました。
彼は窓の向こうの夜空を見ながら
リンゴを食べていました。
この男は
リンゴが好きだったのだろうか。
記憶を隈なく探してみても、
確かな結論を出すのは
難しかったです。
特に食べ物を選り好みしなかったので
特に好みを気にしたことは
なかったように思いました。
他のことについて考えてみても
同じでした。
オデットは赤くなった目で
手に握ったリンゴを見下ろしました。
好きな果物でした。
トレーの上に置かれたチョコレートも
同様でした。
振り返ってみると、バスティアンは
いつもこうだったように思いました。
些細な習慣や好みまで
細かく覚えていて気遣ってくれました。
単に共に過ごした時間が
あったからといって、
できることではなかったはずでした。
父は一生を共にした自分の娘のことを
全く知りませんでした。
ティラも同様でした。
さらには母でさえも。
誰もオデットを
世話してくれませんでした。
それはオデットの仕事だったから。
それなのに、なぜあなたが?
同時に互いに向けられた二人の視線が
月明かりの中でぶつかりました。
ぼんやりと彼を見つめていたオデットは
震える唇を開いて、
彼は自分に会いたかったと言った。
だから、ここへ来たと
言っていたことを確認しました。
そうだ、その通りだと
バスティアンは淡々と同意しました。
オデットは、
なぜ悪夢となった哀れな女を
恋しく思ったのか。
もし自分があなたを許していたら、
悪夢の中で生きようとしたのか。
一体、なぜここまでやるのか、
よく分からない。
だから嘘のように感じると、
断固とした表情で、
もはや隠し切れなくなった本心を
伝えました。
背もたれに深く寄りかかって
座っていたバスティアンは、
静かな眼差しで
彼女を見つめていました。
オデットは、
取り戻したいほど恋しかったなら
悪夢ではなかったはずだと
主張しました。
そして、もしかしたらと
思ったオデットは、
再び閉まったドアの前に立ち、
悪夢になるほど心を苦しめたのなら
恋しくはなかったはずだと、
力いっぱい、そのドアを叩きました。
そして、低く囁いていた声に
力を込めて、
どちらが嘘なのかと尋ねました。
ドアを開けたい。
そのドアの向こうへ行きたい。
そこで一人で血を流している
男を知りたいと思いました。
バスティアンは、
オデットをじっと見つめていた
青い瞳の上に、
寂しげな笑みを浮かべながら
苦しくてもティラを手放せなかった
あなたの心と同じだろう。
人生を捧げて献身するほど
ティラを愛していたではないか。
しかし、
翼を与えて飛び立たせてみたら
せいせいした。
自分は、それら全てが
あなたの本心だと思っているけれど
違うか?と尋ねました。
バスティアンの声は、
偽りなく落ち着いていて穏やかでした。
オデットは、
ただぼんやりとした目を
パチパチさせました。
バスティアンは、
自分の心もそうだと答えました。
揺れていたドアに
掛け金が掛けられました。
バスティアンは、
あなたのことを考えると辛いけれど
それでも、あなたが恋しかった。
自分の過ちに責任を取りたかった。
しかし、実際に自分から離れて
幸せになったあなたを見て
気持ちが軽くなった。
もう悪夢から覚められそうだ。
これらすべてが本心だと話しました。
鍵のかかったドアに、
ガンガンと釘が打ち込まれました。
オデットは、伝えきれなかった言葉を
飲み込みながら顔を背けました。
ティラ。
ナイフで切った傷跡のように残った
名前を繰り返しているうちに、
頬が赤くなりました。
生涯の課題であり枷であり、
また愛でもあった存在。
愛おしいけれど重荷でもあり、
大切でありながらも
うんざりするほどでした。
自分の幸せを求めて旅立つ
ティラとの別れは
確かに悲しかったけれど、
一方で不思議な安堵感も
与えてくれました。
あなたにとって自分は
ティラだったのですね。
そのたった一つの名前が、
数多くの疑問の答えとなりました。
まるで、再び裸にされたような
気分になりましたが、オデットは
それを表に出しませんでした。
手に持っていたリンゴを
しっかり噛んで食べ、
チョコレートの包装紙を
剥がしました。
静かに立ち上がったバスティアンが
オデットの前に来て、
片膝をついて座ったのは、
ちょうどチョコレートを
一口かじった瞬間でした。
オデットが戸惑っている間に、
ネグリジェをまくり上げた
バスティアンが
右足首をつかみました。
オデットは、
大丈夫。 もうすっかり良くなったと
答えましたが、
彼女の返事は無視されました。
包帯を外したバスティアンは
慎重に足首の状態を確認しました。
腫れがすっかり引いたのを
直接確認すると、
安堵の気持ちが混じった自嘲が
口元をよぎりました。
闇を深く宿した瞳が、
青白い光を放つ脚を遡りました。
ふくらはぎに刻まれた赤い痣と
噛み痕は、膝の裏を過ぎて
脚の付け根へと続いていました。
傷つきやすい女でした。
知りながらも
止めることができませんでした。
今も同じでした。
体を離そうとしたオデットが
うめき声を漏らしました。
深く頭を下げたバスティアンは
彼女の足首に口を合わせました。
足首からふくらはぎへ、
そして再び膝へと。
温かい唇が通った道に沿って
大きな手が動きました。
優しく撫でながら
オデットの脚を開いたバスティアンが
太ももの内側に唇を押し付けました。
慌てたオデットは、
急いで彼の肩を掴みました。
しかしバスティアンは微動だにせず
目的を達成しました。
荒い息遣いと叫び声が
急激に高まっていきました。
大きな男と椅子の間に閉じ込められた
オデットは、為す術もなく
そのみだらな感覚に耐えました。
彼を押し退けようと努めていた手は
いつの間にか
彼を引き寄せようとしていました。
極度の羞恥心を伴う官能が
理性を麻痺させました。
腰までまくり上げられた
ネグリジェの裾を握ったオデットの手が
痙攣するように震えました。
その瞬間にも、もう一方の手は
バスティアンの髪をかきむしりました。
泣きそうな顔は、
もはや闇さえも隠せないほど
鮮やかなバラ色に染まりました。
バスティアンは、
激しい水流のように押し寄せて来る
快感に耐えられなくなった
オデットが、すすり泣き始めた後に
ようやく顔を上げました。
びっしょり濡れた唇と鼻筋が
月明かりの中で輝いていました。
目が合うと、バスティアンの口元が
わずかに傾きました。
オデットは、下品に笑う
その優雅な顔を見つめながら
ネグリジェを脱ぎました。
品位とプライドは、
すでに無意味なものとなりました。
今さら、虚勢を張るのは滑稽でした。
じっとその様子を見守っていた
バスティアンの目が細くなりました。
オデットは震える手で
彼の顔を包み込みました。
風で膨らんだカーテンの影が、
互いに深く見つめ合う二人の頭上で
揺らめきました。
オデットは、
他人の目に映った自分の姿が
どのようなものかを知っていました。
それが儚く無意味なものであることも。
時には人生をより過酷なものにする
足枷のように
感じられることさえありました。
しかし、今この瞬間だけは
虚しい虚栄心を
満たしたいと思いました。
あなたの目に映る自分が
どうか美しいものでありますように。
オデットは
恨みを含んだ願いが込められた目で
バスティアンを見下ろしました。
美しい女として
記憶されたいと思いました。
そうしてでも、
過ちで汚れた過去を美化してみたいと
思いました。
愚かだけれど切実な欲望でした。
真夜中を告げる鐘の音が、闇の彼方から
微かに聞こえて来ました。
静かに沈んでいた青い瞳に
亀裂が生じ始めました。
勇気を振り絞ったオデットは
身を屈めて、バスティアンの額に
口づけをしました。
そうしてもらえますか?
ため息に乗せて
投げかけた質問への答えが
返って来るまでに、それほど
長い時間はかかりませんでした。
歪んだ笑みを浮かべたバスティアンが
オデットを抱き上げて
立ち上がりました。
その荒々しい動きに押されて
椅子が倒れる音が、
ベッドに向かう荒々しい足音の間に
響き渡りました。
オデットは、
力いっぱい彼を抱きしめました。
水曜日は、
互いを激しく求める口づけと共に
始まりました。

バスティアンは、オデットの全身に
口を合わせました。
頭のてっぺんからつま先まで。
再びつま先から頭のてっぺんまで。
獲物を捕食する猛獣のように、
野蛮であると同時に
神の祭壇を崇拝する狂信者のように
誠実でした。
やがて彼がオデットの体を開いた時
彼女は胸を濡らしたまま
息を切らしていました。
バスティアンは、
疲れ切った彼女をなだめるように
ゆっくりと深く繋がりました。
ベッドの上でだらりと垂れていた
細い腕が首に巻きつくと、
満足感が一層増しました。
バスティアンは体重をかけないように
慎重に動き始めました。
その瞬間も、途切れることなく
口づけが続きました。
小さく開いたオデットの唇から
新たに漏れた唾液を口に含み、
花茎のように繊細な首筋を
撫でました。
再び唇に口を合わせると
ぐったりとしていたオデットが
目を開けました。
体をうまく支えられないほど
疲れ果てていても、
彼をまっすぐ見つめる瞳は
依然として澄んでいました。
楽園の海が美しく輝いている。
バスティアンは、
その海の深くに沈んでいく自分と
向き合いながら、
抑制された動きを続けました。
しかし、オデットは
それすらも辛そうでした。
それにもかかわらず、
必死にしがみついて来るその姿を
愛おしいと思いました。
極限の歓喜と苦痛が
同時に押し寄せて来ました。
バスティアンは、
ベッドの上にぽとんと落ちた
オデットの手を握り、
もはや抑えきれない欲望を
露わにしました。
絡み合った指のように
固く組み合わさった体が
激しくぶつかり始めました。
離れないで。
すすり泣くように囁くオデットの声が
荒い息遣いの間に流れました。
バスティアンは血走った目を伏せて
下で揺れているオデットを
見つめました。
どうせ、
もう不可能なことだから・・・
今にも泣き出しそうなオデットの顔が
その謎めいた言葉の意味を
教えてくれました。
だから離れないでと言うと、
オデットは、
細い腕で閉じ込めるかのように
バスティアンの背中を抱きました。
そのようにしても力は微弱でしたが
逆らうことはできませんでした。
バスティアンは情熱的な
口づけを浴びせて、
絶頂に達しました。
最後が近づくと、
空中で揺れていた細い両足が
腰に巻きつきました。
バスティアンは、
為す術もなく屈服したまま
オデットを抱きしめました。
狂ったように笑いたくなりました。
泣きたいような気分にもなりました。
「オデット」
途方に暮れて囁いた名前が
濁った息と共に流れ出ました。
浅くて早い息を吐き出していた
オデットの顔の上に
微かな微笑みが浮かびました。
バスティアンは体を回して
オデットと向き合って
横になりました。
額を合わせたまま
静かにお互いを見つめ、
口づけをし、
汗で濡れた体を優しく撫でました。
オデットが気絶するように
眠りについた後も、
バスティアンの口づけは
止まりませんでした。
胸の奥深くに抱き締めたまま、
ただ見つめて
口づけを交わしました。
整った額に。 優雅な鼻筋に。
美しい唇に。
まるで記憶の奥深くに
刻み込むように。
ふっと眠りについても、
すぐに、また目を覚まして
オデットを目に焼き付けました。
どうしていいかわからず、
撫でたり口づけを
繰り返しているうちに夜が更け、
夜明けが訪れました。
オデットの懐に潜り込んだまま
うたた寝をしていたバスティアンは
鶏の鳴き声で目を覚ましました。
いつの間にかベッドは
青い夜明けの光に染まっていました。
バスティアンは
現実を否定するかのように
オデットの首筋に顔を埋めました。
そうすれば
朝を避けられるかのように。
しかし、
止まらない時計の針の音は
次第に大きくなって行きました。
再び夜明けの鶏が鳴きました。
バスティアンは諦めたように
目を開けました。
眠っているオデットを
ぼんやりと見つめている間に、
朝焼けが広がりました。
これで欺瞞の夜は終わりました。
オデットの額に長くキスをした
バスティアンは、
ついに体を起こしました。
じっと閉じていた目を開けた
彼の顔には、もはや迷いは
残っていませんでした。
呼吸を整えたバスティアンは
躊躇うことなく
ベッドの下に降りました。
朝の光の中へと踏み出す足音が、
差し込み始めたばかりの
水曜日の光の中へ、
静かに溶け込んで行きました。
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バスティアンの言動の全てに
オデットへの愛が滲み出ていて
彼女もそれに
何となく気づいているのだけれど
確信を持つことはできない。
だから、思い切って
バスティアンの本心を尋ねたのに
オデットのティラへの愛と
同じだと言うなんて・・・
でも、オデットを騙すのに
最適な嘘だと思いました。
バスティアンは
オデットを妊娠させないため、
絶頂に達する前に、オデットから
離れたのでしょうけれど
オデットはそうして欲しくなかった。
だから、オデットは、
こんなことを言うのは
悲しかったかもしれないけれど、
もう不可能なことだから、
すなわち、
子供ができないからと言うことで
バスティアンを安心させてから
最後まで離れないでと
頼んだのだと思います。
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