
133話 想像を絶するハイド嬢の小説の内容は?
小説の主人公は25歳の女性で、
出版社で事務を担当するタイピスト。
見た目は平凡だけれど、
いつも旅とロマンを夢見る
愛らしい女性。
彼女の前にある日、
一人の女性が現れる。
彼女は、
長い間行方不明のまま亡くなった
夫を持つ未亡人。
黒い喪服を着ているにもかかわらず
衝撃的に美しい彼女は、
ロマンス小説を書きたがっているけれど
右手を事故で失ったため、
執筆に苦労している。
主人公は、副業として
彼女の仕事を手伝うことにし、
毎週末に、未亡人の邸宅へ向かう。
毎週末、
未亡人の専属タイピストになる
主人公。
主人公は、
彼女の唇の間から流れ出る物語を
忠実に紙に書き写す。
しかし、何か変。
未亡人が作り上げた物語は
恋物語ではなく殺人の話。
それも殺人鬼の視点で書かれた物語。
殺人鬼は名射手であり、
皮に対して病的な執着を持つ
奇怪な狂人。
彼は人の命を奪った後、
その皮を剥がして壁に飾る。
タイピストは、衝撃的な展開に
頭がくらくらするほどだけれど
手を止めることができない。
物語が生き生きとしていて、
興味深いだけでなく、すでに未亡人を
愛するようになっていたから。
黒いドレス、黒い髪、黒い瞳、
そして黒い手袋をはめた義手。
それらすべてに魅了された
女性の主人公は
ついに小説の執筆が終わる日に
未亡人に愛を告白する。
すると未亡人は、
これまで主人公が
近づくことのできなかった場所へ
彼女を導く。
驚くべきことに、そこには、
あらゆる動物の剥製や皮が
ずらりと並んでいる。
未亡人は、
幼い頃から皮に執着するようになり
動物を狩って剥製にするのに
多くの時間を費やしてきたことを
告白する。
片方の手も、狩りの最中に
怪我をしたとのこと。
しかし、本当に欲しい皮は
人間の皮だとのこと。
ぞっとするような告白だけれど、
主人公は依然として
未亡人を愛している。
主人公は彼女に、
自分の皮を剥がせてあげるから、
一年だけ一緒に暮らそうと提案する。
未亡人は、ついに
人の皮を剥ぐことができると喜び
提案に同意する。
彼らは夢のように甘い一年を過ごす。
一緒にボートに乗り、料理をし、
毎晩のように愛を分かち合う。
主人公は後悔することなく
幸せを満喫する。
約束していた一年が終わり、
未亡人は
主人公の皮を剥ぐことにする。
主人公は、自分の運命を
淡々と受け止めている。
しかし、未亡人は、どうしても
彼女の皮を剥ぐことができない。
いつの間にか未亡人も、主人公を
愛するようになっていたから。
彼女たちは、
最終的に互いの気持ちを確かめ合い、
アフリカへ旅立つことににする。
二人は幸せに包まれてイギリスを離れ
邸宅はがらんとする。
そして数年後、異例の豪雨が降り注ぎ
邸宅の裏山で土砂崩れが起こり、
何かが家の中へ流れ着く。
皮膚が剥がれた男性の遺体。
それは、
未亡人の行方不明の夫の遺体。
ハイド嬢の朗読が終わりました。
ペンドルトン嬢は、
なかなか口を開くことが
できませんでした。
内容は非常に奇怪でした。
さらに、
主要人物である二人の関係が
型破りなものでした。
ローラはまず、不安そうな表情で
評価を待っているハイド嬢に
良い部分を褒めました。
しっかりとした文章力。
目に浮かぶような描写力。
堅固なプロットと伏線。
全てがプロの作家に匹敵する腕前。
ローラは、
決して嘘をついていませんでした。
ハイドさんの文章力は
素晴らしかったです。
ただし、内容に問題がありました。
「ふう、良かった」
ハイド嬢は、
ようやく安心したかのように
後頭部をかきむしりました。
ハイド嬢は、
自分なりに、
よく書けたと思っているけれど
ただの勘違いかもしれないと思って
怖かった。
ペンドルトン嬢の褒め言葉なら
信じられると言いました。
ローラは、
才能については自信を持っても良い。
あなたは生まれつき、
そうなのだから。
でも・・・と言ったところで
話すのを躊躇いました。
しかし、なんとか言葉を続けました。
ローラは、
内容が・・・
はたして、これを出版することが
できるのだろうか。
そして、もし出版されれば、
ハイド嬢の評判に
傷がつくのではないかと
心配しました。
ハイド嬢は、
正直に言うと、
出版なんて、どうでもいいと思って
これを書いた。
自分の心の中は、この小説を
書かなければならないという思いで
いっぱいだった。
書かなければ、
胸が張り裂けそうだったと答えると
原稿をしっかりと胸に抱きしめました。
そして、
永遠に世間に公表できなくても、
自分にとってこの小説は大切なもの。
この小説は自分自身で、
自分がそのまま投影されていると
答えました。
ローラは、
ハイド嬢に皮を剥ぐ趣味が
あったのかと尋ねました。
ハイド嬢は首を振ると、
殺人や剥製のような要素は
雰囲気を演出するための
仕掛けに過ぎない。
小説に刺激を加えるためだけで
実際にやる気は全くない。
けれども・・・と答えたところで
彼女の顔が再び赤くなりました。
そして、ハイド嬢は、
この物語を構成している要素は
全て自分が愛しているもの。
自分は・・・
手に入れることのできないものを
小説で表現したと話しました。
ローラは、じっくり
小説の内容を辿ってみました。
やがて、彼女は
すぐに何かに気づきました。
黒を身にまとった障害を持つ女性。
狩猟。動物の皮。 アフリカ。
「・・・・ローティス嬢」
ローラは思わずつぶやきました。
ハイド嬢の顔が、
さらに、赤くなりました。
ローラは、
ハイド嬢をじっと見つめました。
そして、すぐに、
彼女が小説を書いた理由に
気づきました。
ハイド嬢は
ローティス嬢を愛していました。
自分の命さえも捧げられるほど強烈に。
その気持ちが、小説を通じて
過激に表現されたのでした。
ローラの脳裏に、
「二人の心が一つになることが
どれほど大きな奇跡か
知らないのですよね?」と言う
ローティス嬢の言葉が蘇りました。
ローラは心の中で、
ローティス嬢、奇跡が起きた。
あなたにも奇跡が起こったと
彼女に言いました。
ローラはハイド嬢の手を
しっかり握ると、
ローティス嬢が今どこにいるのかと
尋ねました。
ハイド嬢が、部屋だと答えると、
ローラは、
今すぐ彼女の所へ行って
これを読んであげてと言いました。
ハイド嬢は目を大きく見開いて、
「ダメです!」と返事をしました。
ローラはその理由を尋ねると、
ハイド嬢は
「これを読むと・・・」と、
最後まで言葉が続きませんでした。
ローラは、
ローティス嬢があなたの気持ちに
気づいてしまうと思うのかと
尋ねました。
ハイド嬢は頷きました。
ローラはハイド嬢に、
驚くべき話をしてもいいかと
了解を求めた後、
ローティス嬢はあなたを好きだと
話しました。
ハイド嬢は、
彼女が自分のことを好きなのは
分かっている。
自分は仕事もよくできるし、
マッサージも上手だし、
忠誠心もあるからと返事をしました。
しかし、ローラは、
それは、ほんの一部分に過ぎない。
彼女は、
ハイド嬢の全てを気に入っていると
話しました。
ハイド嬢は、
信じられないという顔をしていました。
ハイド嬢は、
そんなはずがない。
ローティス嬢がなぜ、自分のような者を
好きになるのかと反論しました。
ローラは、
あなたのような者とは
どんな人かと尋ねました。
ハイド嬢はふくれっ面で
自分は醜いではないかと
答えました。
しかし、ローラは
あなたは全然醜くないと否定しました。
それでも、ハイド嬢は
自分は醜い。
見た目が少し良くなるかと思って
服をたくさん用意してみたけれど
見ての通り全く効果がなかった。
ロンドンでも、バースでも
自分のようにブサイクな人はいない。
自分は、生まれてから一度も
綺麗だと思ったことがない。
母の言葉を借りるなら、
干からびて細長くなった
ジャガイモだと言いました。
とんでもない話でした。
彼女が美人に選ばれるのは
難しかったけれど、
誰かを惹きつけるのに十分な魅力が
ありました。
しかしハイド嬢は、その事実を
全く認めようとしませんでした。
自分の母親は、
お前のような醜い女性に
プロポーズする男性は
盲目の人だけだと。
しかし、お前には
盲目の人の
鋭い聴覚を満足させるような
美しい声もなく、
味覚を満足させる料理の腕もない。
だから、お前を嫁に出すには
お前が荷車から落ちた
ジャガイモだと思って、
農夫がついでに拾っていくよう、
収穫期にジャガイモ畑の近くに
立たせるしかないと
幼い頃から、いつも言っていたと
話しました。
ローラはハイド夫人の辛辣な言葉に
呆れました。
なぜハイド嬢が、
あんなに自分の母を嫌っているのか
理解できました。
ハイド嬢は話を続けました。
女性にだって目がある。
男性の目にブサイクに映る者は
女性の目にもブサイクだ。
もし自分の気持ちを知ったら、
彼女は不快に思い、
自分を追い払うだろう。
そうなったら自分は・・・と言うと
声が詰まりました。
彼女は手で目を擦りました。
ローラはその姿を見て、
とても胸を痛めました。
彼女はハイド嬢の手を
力強く握りました。
ローラはハイド嬢に、
自分を信じていますよね?
自分の判断力を、
誰よりも信頼していますよね?
と尋ねました。
ハイド嬢は頷きました。
ローラは、
それならローティス嬢に
この小説を読んであげるように。
ローティス嬢は、
決してあなたを見捨てない。
自分が保証すると断言しました。
ハイド嬢は何か言おうとしましたが
ローラは断固として首を振ると、
ローティス嬢は、
この小説のヒロインに劣らず、
つまりハイド嬢に劣らず
あなたを切望している。
彼女が自分に示してくれた
親切の半分は、
ハイド嬢への愛情によるもの。
そして一体どこの上司が
自分の秘書の破れた服を
繕ってくれるのかと言いました。
ハイド嬢は、
彼女は親切な人だから・・・と
答えました。
しかし、ローラは、
ローティス嬢は素晴らしい人だけれど
それほど親切というわけではない。
先日、道ですれ違った、ある紳士が
彼女に一目惚れして付き纏った時、
杖の先で彼の腹部を強く打って
気絶させたではないかと話しました。
ハイド嬢は、
その恐ろしい暴力事件を思い出し、
フフッと笑いました。
そして、
あの時のローティス嬢は、
本当にカッコよかったと
感嘆しました。
ローラは、
警官を呼んで解決していたら
もっと素敵だったけれど、
まあ、それは重要なことではないと
言った後、
ハイド嬢の肩をしっかりと掴みながら、
早くローティス嬢の所へ行って
読んであげてと勧めました。
ローラがこれほどまでに
何かを強く勧めるのは、
初めてのことでした。
ハイド嬢は圧倒されて頷きました。
しかし、ほんの少しの恐怖は
まだ残っていました。
ハイド嬢は、
病人に、このようなお願いをするのは
気が引けるけれど、
自分が部屋を出て来る頃に、
リビングで自分を
待っていてもらえないかと頼みました。
ローラは、
もしローティス嬢に断られたら、
すぐに慰めてくれる人が
必要だということですよね?
喜んで待っている。
もちろん、私がしてあげるのは
慰めではなくお祝いだけれどと
答えました。
ハイド嬢はぎこちなく微笑みながら
部屋を後にしました。

2時間が経ちました。
そろそろハイド嬢の朗読が
終わる頃でした。
ローラはネグリジェの上に
厚手のニットを羽織って
リビングへと向かいました。
ローラはソファーに座ったまま、
幸せそうな顔で
ハイド嬢を待ちました。
しかし、1時間、2時間経っても
ハイド嬢は現れませんでした。
もしかすると朗読が、
予想より長くなったのだろうか?
それとも、ハイド嬢が
途中で諦めてしまったのだろうか?
ローラはそっと
ローティス嬢の部屋の前へ
歩いて行きました。
そしてドアに耳を当ててみました。
ドアの向こうから、二人が声を殺して
クスクス笑う声が聞こえて来ました。
何かを囁くような声でした。
そして、布団がバサバサと動く音。
ローラは驚いて
ドアから耳を離しました。
彼女は決して、
純真ではありませんでした。
ローティス嬢の部屋で
何が起きているのか、
十分、分かりました。
ローラは頬だけでなく
耳まで赤くなりました。
彼女は、
リビングのソファーまで小走りして
そこに座りました。
息を整えて心を落ち着かせる中で、
以前、
ローティス嬢が話していたことが
脳裏をよぎりました。
あなたとあの男性のように、
ジェーンが自分と同じ気持ちだと
確信できるなら、
自分は一秒たりとも躊躇わない。
ローティス嬢は、本当に躊躇わないと
ローラは思いました。

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131話で、
ハイド嬢には独特の魅力がある。
周囲では、なかなか見つけられない
希少な魅力と書かれていますが
これは、
今回のお話の伏線だったのですね。
娘のことを萎びて細長くなった
じゃがいもと呼ぶなんて、
何てひどい母親でしょう。
ハイド嬢は男性が好きではないのに
母親から
結婚を強要されそうになり、
苦しんでいたけれど、
それをローラが救ってあげて、
今度は、ローティス嬢との仲まで
取り持ってあげるなんて、
久しぶりにローラは
仲人の腕前を発揮しましたね。
ローラはローティス嬢の言葉に
かなり感銘を受けている様子。
ローラも彼女のように、
躊躇うことなくイアンの胸の中に
飛び込んで欲しいです。