229話 ドルシーにはマッケナが青い鳥に見えるのですね・・・
◇青い鳥だとばれている?
青い鳥という言葉が出た時から
マッケナは凍り付いていました。
ナビエは、青い鳥がどこにいるのか
ドルシーに尋ねました。
ドルシーは、マッケナを見て
そこにいるじゃない。
と答えました。
ナビエは、心の中で
ドルシーは本当に青い鳥が見えるのか
それとも、青い頭なので
青い鳥と言っているのか
カフメン大公に尋ねました。
カフメン大公は首を振りました。
以前、彼は、ドルシーの心の中は
読めないと言っていたので
カフメン大公も、
本当のことがわからないのだと
思いました。
ドルシーがマッケナに近づいたので
彼は訳が分からないまま
向きを変えました。
ドルシーは、その後を付いていきました。
数時間後、
ドルシーは正気を取り戻しましたが
ナビエとカフメン大公のいる所へ
戻ってこなかったので
カフメン大公は先に帰りました。
◇聖者の巡礼◇
マッケナは、安全だと判断すると
ナビエの執務室にやって来て
いったい、あれは何だったのかと
彼女は尋ねました。
彼は、まだ青い顔をしていました。
ナビエは、
龍かもしれないし
そうでないかもしれないと答えると
どうして、あの龍が
自分のことを青い鳥と言ったのかと
マッケナは
いっそう青い顔をして
ナビエに尋ねると、彼女は、
恋の妙薬の話はできなかったので
何か悪いものでも
食べたのではないかと言って
ごまかしました。
マッケナは、
青い鳥と言われて
心臓がドキドキしたと話した後で
思い出したように
ナビエに相談をしました。
それは、
名高い聖者が巡礼をしていて
隣国で、大いに歓待したところ
次の世代に、国を復興させる
王族が現れると祝福してくれた。
その聖者は、西大帝国も
通るので
こちらでも歓待したらどうか
というものでした。
ナビエは、
ハインリに話すべきだと
マッケナに言いましたが
彼は
皇帝が帰ってくる前に
聖者は来るようだ。
聖者は隣国で歓待を受けたことを
負担に思ったのか
その後は、気づかれないように
行動している。
西大帝国も、
そっと通り過ぎようとしていたのを
魔石を回収していた鳥一族が
偶然見つけたと話しました。
ハインリが留守の時に
彼の代わりにナビエが
聖者を歓待するのは
問題ありませんでした。
けれども、
聖者がそっと通り過ぎたいのに
盛大な歓迎行事を行えば
聖者は、気分を害するかもしれない、
だからと言って
聖者が来たのに
黙って行かせれば
隣国では歓待したのにと
文句を言う人々が
出てくるかもしれない。
どうすればよいのか
ナビエは悩みました。
◇2人の母◇
エルギ公爵は
ブルーボヘアンの自宅に
帰ってきました。
エルギ公爵は執事に
自分の部屋へ
バッグを置くように指示し
どこかへ歩いて行こうとすると
彼を呼ぶ嬉しそうな声に、
足を止めました。
彼は顔をしかめて
上を見ると
2階の手すりの上に
顔を半分隠した女性が
にっこり笑って立っていました。
女性を見て、エルギ公爵の顔は
強張りました。
彼女は階段を降りてきて
エルギ公爵の前に立ち
愛情あふれる目で彼を見ました。
そして。
お母さんはとても息子に会いたかった。
手紙をくれれば良かったのにと
笑いながら
エルギ公爵の腕を取りましたが
彼は、素早く腕を抜きました。
女性は、
まだ、自分のことを
怒っているのかと
切なそうに尋ねましたが
エルギ公爵は返事をせずに
通り過ぎました。
そして、数歩も歩かないうちに
父親のクローディア大公が
怒った声で彼を呼び止めましたが
エルギ公爵は無視して
アーチ型の扉を通り
屋敷の裏庭へ向かいました。
その後姿を見ていた女性は
エルギは、いつ自分を
許してくれるのだろうかと
心から悲しそうに
すすり泣きました。
エルギ公爵は庭園を通り過ぎて
細い道を進んでいくと
こじんまりとした古風な
建物が現れました。
その門の前に、
小さな菜園があり
そこに、車いすに座った
一人の女性がいました。
エルギ公爵が
「母上」と呼ぶと
微動だにしなかった彼女の顔に
光と生気が戻りました。
彼女のやせこけた手の甲に
自分の頬を当てた
エルギ公爵は
「ただいま、母上」と言いました。
エルギ公爵は
女性の車いすを押して
歩いていると
彼女が激しく咳き込んだので
エルギ公爵は、女性を抱き上げて
ベッドに寝かせました。
エルギ公爵は彼女の枕元に
椅子を運んできて座り
静かに話を始めました。
面白い話を聞いてきました。
今回も、妻を裏切った男と
その男を愛した女の話です。
当然、2人は罰を受けますが
まだこの話は終わっていません。
それでも話しましょうかと
尋ねると、女性は頷きました。
これって、ソビエシュとラスタの話でしょうか ?
◇聖者の言葉◇
ナビエは、聖者のために
歓迎会は開かないけれども
個人的に会いに行って
何か助けることがあるか
尋ねることにしました。
聖者のいる位置を
マッケナに確認してもらい
ナビエはランドレ子爵をはじめとする
側近数人と
通行人のふりをした近衛兵を連れて
マッケナと共に
首都から遠く離れていない野原で
休んでいる旅行客のふりをして
聖者が通り過ぎるのを待ちました。
しばらくすると、ひどく疲れた顔をした
スーツ姿の女性が
とぼとぼと歩いてきました。
彼女はナビエを見上げ、
続いて、マッケナ、ランドレ子爵、
そして他の騎士たちを
見回した後
こっそりやって来たのに
どうして気づかれたのだろうかと
ナビエが身分を
明かしていないにもかかわらず
彼女が誰か気づいたようでした。
ナビエは彼女に近づき、
聖者が歩くのを
邪魔してしまったのかと
尋ねると
彼女は驚いただけと答えました。
ナビエは、大神官に
お世話になったので
彼女を見過ごしにはできなかった、
何か助けがあれば
言って欲しいと伝えると
彼女は、大丈夫と答えました。
そして、ランドレ子爵を見て
生真面目で正直な人だけれど、
正しい志を持って
行動するとしても、それが、
いつも役に立つとは限らないと
囁きました。
そして、彼女はマッケナを見ると
舌をチッと鳴らしました。
舌打ちされただけのマッケナは
どうして自分が、と聞き返しましたが
聖者は、それに反応せず
ナビエの方を向きました。
聖者はナビエにだけ聞こえるように
小声で何かを囁きました。
ナビエは驚き、
彼女の言葉を聞き返そうとしましたが
その間もなく、
彼女は大きな声で
西大帝国の人々は
皇后陛下が
こちらに来たことを幸いだと
考えるべきだ。
血を呼ぶ皇帝陛下が
皇后陛下に会って
本性を抑え込んだからと言いました。
その後、聖者は
ナビエに挨拶をすると
城門の方へ歩いていきました。
マッケナは
自分だけ不吉なことを言われたと
怯えた顔でブツブツ言っていましたが
ナビエは聖者に何を言われたのか
尋ねました。
マッケナは、
青い鳥と言われて
ドルシーに追いかけられたり
聖者に舌打ちされたりと
受難続きですが
もしかして聖者は、
マッケナが鳥だと見抜いたので
舌打ちではなく
鳥のさえずりと
真似しただけなのかもと
思いました。
ナビエ様のおかげで
血を呼ぶハインリの本性が
抑え込まれたというのは
西大帝国の人々に対する
ナビエ様への最高の
誉め言葉だと思います。