64話 ラスタに赤ちゃんがいるとロテシュ子爵は口にしましたが・・・
◇秘密の暴露◇
最初、コシャールは、
ロテシュ子爵の言う赤ちゃんは
ラスタのお腹にいる
赤ちゃんのことだと思い、
ロテシュ子爵を嘲笑いました。
けれども、ロテシュ子爵は
以前ラスタが産んだ
赤ちゃんのことだと叫びました。
コシャールは
かすかに笑いました。
赤ちゃんがいるという話が
出て来たのは想定外でした。
コシャールは父親が誰か
尋ねましたが、
ロテシュ子爵は
誰だかわからないと言って
しらばっくれました。
ロテシュ子爵は
恐怖に襲われていましたが、
自分の息子を巻き込みたくないので
ラスタの子供の父親が
アレンであることを
明らかにしませんでした。
幸いなことに
コシャールは子供の父親に
関心がなさそうでした。
ロテシュ子爵は
これで、
ラスタはダメになるだろうか、
ダメになったら
どうすれば、
手を引くことができるのか、
必死で考えました。
コシャールは、
他に何かあるか何度か尋ねましたが
その度に、ロテシュ子爵は
何もないと言いました。
ロテシュ子爵の言葉を
信じることにしたコシャールは
ラスタが奴隷だと
確実に知らせるに値する証拠はないか
尋ねました。
ロテシュ子爵は
ラスタの外見が細かく書かれている
奴隷売買証書があると叫びました。
◇別の侵入者◇
カルル侯爵の命令で
ロテシュ子爵の後を追っていた
カルル侯爵の部下が
廃邸宅の中にいて
たまたま、この場面を
目撃していました。
コシャールは優れた騎士で
勘も良かったものの
ロテシュ子爵が悲鳴を上げている間、
入って来た者に気付きませんでした。
最近、皇帝が
完全に取り憑かれているという
平民の側室が、
逃亡奴隷出身である上に
以前、
赤ちゃんまで産んでいたと聞いて
部下は唖然としました。
しばらくの間、
部下は息を殺していると
コシャールが
ロテシュ子爵を置き去りにして
廃邸宅を出て行きました。
部下も、
ロテシュ子爵が助けを求めて
泣き叫ぶ声を無視して、
カルル侯爵の所へ行き
ラスタの秘密を話しました。
カルル侯爵の目が
驚きのあまり大きくなりました。
カルル侯爵を含め
ソビエシュの秘書の何人かは
ラスタが逃亡奴隷であることを
知っているか、確信していたので、
ラスタが逃亡奴隷である事実は
それほど驚くべきことでは
ないけれど、
子供のことは初耳でした。
カルル侯爵は30分程考えた後、
ソビエシュ宛に手紙を書き、
彼の視察先に届けるよう
部下に命じました。
◇カルル侯爵からの手紙◇
真夜中、ソビエシュは
ここ何年間で急速に進んでいる
魔法使いの減少が与える影響について
考えました。
魔法使いがいることで
東大帝国は
圧倒的な国力を誇れていました。
魔法使いがいなくなれば
その隙を狙って
東大帝国と肩を並べようとする国が
現れるはずでした。
軍備を整備し
その予算を増やす必要があると
考えたソビエシュは
すぐに臣下たちに下す指示書を
作成しました。
それを半分書き終えた時
カルル侯爵の部下がやって来ました。
カルル侯爵からの
手紙を読んでいたソビエシュの顔は
どんどん暗くなっていきました。
そして、彼は、カルル侯爵の部下に
ロテシュ子爵を探し出して、
コシャールを家に監禁するように
命じました。
◇赤ちゃんの髪の毛◇
宮殿へ行くと言って
出かけた父親が
1日経っても帰ってこないので
アレンは少しずつ
心配になってきました。
父親に何かあったのかと思い、
アレンは、父親のことを聞くために
ラスタに会いに行くことにしました。
もちろん、
彼女にもう一度会ってみたいという
気持ちもありました。
アレンは出かける時に
ラスタに渡すため、
アンの髪の毛先を切り
柔らかい布で包みました。
宮殿へ行くと、
アレンはこじんまりとした庭の奥へ
案内されました。
ラスタが姿を見せると、
アレンは反射的に笑いましたが
ラスタは険しい顔をしていました。
アレンは、ためらいがちに
持ってきたアンの髪の毛を
ラスタに差し出しましたが
彼女は、アレンの手を
叩きました。
布にくるまれた
ラスタと同じ銀色の髪の毛が
散らばりました。
アレンは、ラスタが
アンの髪の毛をもらえば
喜ぶと思っていましたが、
彼女は、
アンは自分の子ではないから
喜ぶわけがないと言いました。
そして、ラスタはアレンに
他に用事があるのか
尋ねました。
アレンは、ラスタに
父親が来なかったか尋ねました。
彼女は、来ていないと返事をして
下女にアレンを連れて行かせました。
ラスタを訪れるつもりだった
ロテシュ子爵が消えたことで、
彼女は
誰かがロテシュ子爵を
尾行しているという
ソビエシュの言葉が気になりました。
ソビエシュに知らせたいと思っても
彼は不在でした。
ラスタは心の中で悪口を言いながら
その場を離れようとした時
アレンが落としていった
布と髪の毛を見て、はっとしました。
ラスタは髪の毛を拾い集め
布に包んで持って行きました。
◇救出と監禁◇
カルル侯爵の部下は首都へ戻ると
ソビエシュの命を
カルル侯爵に伝えました。
彼は部下に、
ロテシュ子爵を救うように
指示しました。
そして、
コシャールを自宅に監禁することは
近衛騎士に任せることにしました。
皇帝の近衛隊が
コシャールを捕らえるために
トロビー家を訪れた時、
コシャールはパルアン侯爵に
自分が見たり聞いたりしたことを
話していました。
興味深く話を聞いていた
パルアン侯爵でしたが、
外が騒々しくなったので、
口を閉じて部屋の外へ出ると、
近衛騎士がトロビー公爵夫人に
コシャールを自宅に監禁する
皇帝の命を伝えていました。
パルアン侯爵は
急いでコシャールの部屋へ戻り
それを、彼に伝えました。
階段を上ってくる足音が聞こえると
パルアン侯爵は、
ナビエに知らせると言って
窓から飛び降りました。
非常に遅い時間なのに、
パルアン侯爵が
ナビエを訪ねて来ました。
彼女は何かあったのではないかと
思いました。
ナビエは応接室へ行くと
パルアン侯爵が深刻な顔で
中へ入って来ました。
最初、ラスタは、
子供はいないし未婚だと
嘘をついたわけではなく
ラスタが逃亡奴隷であることを
隠すことに必死だったソビエシュが
彼女が奴隷だった時に何があったか
詮索しなかっただけなのではないかと
思います。
けれども、
ロテシュ子爵に
脅されているのではないかと
ソビエシュに聞かれた時に
ラスタが彼を信頼して
全てを打ち明けていれば
ロテシュ子爵の脅迫はなくなり
エルギ公爵に
お金を借りずに済み、
皇后になれなかったかも
しれないけれど、
失意のうち亡くなることも
なかったと思います。
パルアン侯爵は、
コシャールから話を聞いたので
ラスタが逃亡奴隷で
子供がいることを
知っていたのだと思います。
ラスタが皇后になった後も、
パルアン侯爵が
ラスタに媚びるどころか
非難したのは、
彼女を見下していたからなのかなと
思いました。