187話 イスクア子爵夫妻の想定外の行動とは?
◇偽娘を庇う偽親◇
ソビエシュは
ラスタが
逃亡奴隷であることを
知っていたので
イスクア子爵夫妻が
ラスタの親でないことを
確信していました。
ところが、彼らは、
エベリーのことで
処罰を避けられない
状況にもかかわらず
公開裁判で
ラスタはエベリー襲撃に
関与していないと主張したので
ソビエシュは、
なぜ彼らがラスタの肩を持つのか
わかりませんでした。
その証言のせいで
ラスタは本当にイスクア子爵夫妻の
実子なのではと
言う人まで出てきました。
ソビエシュは、
腹が立つけれども
ラスタが犯していない罪を
加えるわけにはいかないと
言いました。
あえてラスタに罪を着せれば
他の罪も濡れ衣だと
言う人が出てくる可能性も
ありました。
ところが、事態は
思わぬ方向に転がりました。
◇実の娘の真実◇
監獄に閉じ込められた
イスクア子爵夫妻に
ロテシュ子爵が
会いに来ました。
ラスタは、よく
ロテシュ子爵の悪口を
言っていたので
彼らは、ロテシュ子爵と
話をしたことはありませんでしたが
彼のことをよく思っていませんでした。
ロテシュ子爵は
こんなところで会うと
バカで情けない奴らのようだと
彼らをけなしたので
怒ったイスクア子爵は、
自分たちは、エベリーを殺そうとは
していない。
嘘の証言のせいで
濡れ衣を着せられた。
けれども、平民1人が
死ぬところだったという理由で
大きく罰せられることはない。
けれども、ロテシュ子爵は
皇室に自分の血筋を入れて
皇位を簒奪しようとしたので
自分の首を心配した方がいいと
ロテシュ子爵を罵倒しました。
ロテシュ子爵は苦笑いをしながら
自分の子供を守るために
死ぬのは恥ずかしくない。
けれども、イスクア子爵は
偽物の娘のために
実の娘を殺そうとしたと言いました。
ロテシュ子爵が
何を言っているのかわからず、
当惑している彼らに
ロテシュ子爵は、
彼らがかばっている偽の娘が
実の娘のことを隠していた、
その娘の名前はエベリーだと
2人に話しました。
彼らはロテシュ子爵の言葉を
信じませんでしたが
彼は孤児院の書類と
彼自身が集めた
他の書類を彼らに見せました。
イスクア子爵は
今頃、そのことを教えた
ロテシュ子爵を怒鳴りつけました。
彼らが、その事実を知っていれば、
ラスタのためにエベリーを
追い出そうとしはしませんでした。
彼らは、
自分たちが窮地に陥っている時に
ロテシュ子爵が、その話をしたのは
良い意図からではないと思いました。
ロテシュ子爵は
ラスタが自分の娘を殺そうとしたから
これ以上、彼女を
庇う必要はないと思った
と言いました。
その後、ロテシュ子爵は
彼を密かに牢獄に入れてくれた
兵士に大きな宝石を渡し
牢獄を足早に後にしました。
その様子をソビエシュは
見ていました。
◇身辺整理◇
ロテシュ子爵は首都へ行き
持ってきた宝石を
手形や現金に変えました。
そして、すでに解雇されて
使用人のいない
がらんとした邸宅へ戻ると
ロテシュ子爵が若い時から
彼に仕えていた執事に
手形と現金を渡し
それらをロテシュ子爵夫人に
渡すように命じると共に
自分のために使うようにと言って
執事にも
お金がたくさん入った袋を
渡しました。
ロテシュ子爵とソビエシュが
取引をした後
しばらく釈放されていたアレンは
騎士たちに連れていかれて
邸宅にはいませんでした。
ロテシュ子爵は
執事を領地へ出発させました。
彼は、健康だった時の妻と
身体が弱った妻と
やせ細って
ベッドに横たわっている妻を
思い浮かべました。
ロテシュ子爵は
すすり泣きながら
一人寂しく、邸宅の中へ
入りました。
ふと、
アレンがいつも抱いていた子供は
どうなったか気になりましたが
その子が死のうが生きようが
関係ないと思い
その考えを脇へ押しやりました。
孫でも愛していないのですね。
◇愛が終わる時◇
ナビエは、
庭にフカフカの椅子を置いて
夕焼けを眺めていると
ハインリがやって来ました。
浮かない顔のナビエを見て
まだ戦争一代記のことで
悩んでいるのかと
ハインリは尋ねましたが
彼女は、
残酷なところと
子供に聞かせたくないところを
除けば
読んでも大丈夫と言ったはずだと
答えました。
しかし、相変わらず
浮かない顔のナビエに
ハインリは、その理由を
尋ねました。
ナビエは
愛の終わりを見たような
気がしていました。
ラスタのために
コシャールに濡れ衣を着せ
ナビエが無実を訴えても、
ラスタの言うことしか
聞かなかったソビエシュが
ラスタから離れてしまったのは
妙なことだと思いました。
そのような愛のために
自分を捨てたのかと思いました。
けれども、
ナビエとハインリの愛は
始まったばかりなので
あえて愛の終わりを
話す必要はないし
自分たちの愛が
ソビエシュと同じように
愛の結末を迎えるとは限らないので
ナビエは答える代わりに
ハインリの唇にキスをしました。
彼のうめき声を
心地よく感じました。
ハインリは
赤ちゃんがうめき声を聞いている。
胎教に良くないと言うと、
うめき声は飲み込んだし
赤ちゃんは寝ていると
ナビエは答えました。
ロテシュ子爵は悪人ですが
彼の身辺整理の場面は
悲しくなりました。
悪いことをしていたとはいえ
家族への愛は
本物だと思いました。
ソビエシュのラスタへの恋心は
ぱっと火がついたかと思うと
大きく燃え上がり
ナビエを不幸にしました。
けれども、
ソビエシュの恋の炎は
彼が大事にしていたものまで
失わせ
それに気づいたものの
燃えてしまったものは
二度と手に入らず
火の勢いは弱まって
今、残っているのは燃えかすだけ・・・
じっくり時間をかけて
育てている
ナビエとハインリの愛は
簡単に
燃え尽きることはないと思います。