外伝37話 子供を探しに来たという貴婦人の言葉を聞いたモテは・・・
◇見習い騎士になりたい
シーシーは銀髪で14歳だと
モテは思いました。
以前、富川主が酒を飲んでいた時
モテがあまりにも可愛いから
シーシーの両親は
わざと似た子を連れて来たと
冗談めかしで
言ったことがありました。
モテはどうしようか悩みましたが
貴婦人が追い出されたので
彼女は両親の所へ行きました。
モテはテントの入口を叩いて
両親を呼ぶと
富川主の妻が驚いた表情で
飛び出しました。
モテは母親にどうしたのかと
尋ねましたが
彼女は戸惑いながら
ぎこちなく笑いました。
何かあったような顔をしている。
外で、貴婦人が騒いでいたけれど
そのせい?
と尋ねると、富川主の妻は
暗い顔をしました。
モテは、そのせいだと思いました。
けれども、あの人はあの人、
自分は自分の用事を
済ませなければと思いました。
モテは富川主とその妻に
自分も見習い騎士になりたいと
言いました。
妻は、その話か
というような顔をして、
肩の力を抜いたので
モテは、
その姿に勇気づけられました。
彼女は仮面を脱いで、
きちんと昇進できる道を進みたい。
自分より実力の劣る子が
どんどん昇進しているのに
自分は同じ場所にずっといる。
と2人に話しました。
けれども、彼らの顔は固まり
互いに心配そうに
見つめ合いました。
その表情は、
反対と言っているようでした。
けれども、モテは
今日こそ、答えを聞くつもりで
退きませんでした。
半年経てば見習い騎士になれない。
それは嫌だ。
と訴えました。
◇それぞれの不満◇
モテは一晩中、茂みの前で
膝を抱えていました。
隣にシーシーがやって来ました。
シーシーは
モテの両親が
モテのきれいな顔を隠させて
優れた実力も隠させていることを
非難しました。
何か理由があるのだろう。
とモテが言うと
シーシーは、
それを言ってくれないから
いつもモテは隠れる必要があり
辛い思いをしていると言って
腹を立てました。
モテはふくれっ面をして
膝に顔を埋めました。
前の晩、思い切って
騎士見習いになりたいと
両親にお願いしたのに
結局反対されました。
彼らはいつも
あなたのため。
と言うだけで、
本当の理由を話してくれないので
モテにはさっぱり
わかりませんでした。
シーシーは
早く私のお婿さんになって。
そうすれば翼をつけてあげる。
と言いました。
モテはニヤリと笑いながら
シーシーの頬をつねりました。
彼女は、
私のことが嫌いなの?
他に好きな人がいるの?
と尋ねました。
モテは心の中で
誰も好きではないよ。
私は女だから。
と素直に答えました。
モテはわざと話題を変え
銀髪で14歳の娘を探しに来た
妙な貴婦人の話を
シーシーにしました。
その娘は
シーシーのことではないかと
言うと、
彼女は目を見開きました。
シーシーもどこかで拾われてきた
貴族の娘でした。
モテは育ての親を愛しているし
剣術も好きだったので
自分の出身を
知りたいと思いませんでしたが
剣術に興味のないシーシーは
養父母が自分を拾ってきたことに
常に不満を感じていました。
今は、皇后の個人騎士団に
編入されているけれど
常時泉の半分は
盗賊出身であることは
有名でした。
剣術の腕が優れていれば
騎士の叙任を受けて
出世できるし
誰にも無視されないけれども
それができないと
平民でありながらも
白い目で見られました。
剣術に才能のない人は
とても損をする構造だと
シーシーはいつも怒っていました。
シーシーは
実の母親が自分に会いに来たのかも。
今度、その人が来たら会ってみる。
と言いました。
君のお母さんだったら
ここを出て行くか?
とモテが尋ねると
シーシーは
どんなことをしてでも
出て行くと言って
明るく笑いました。
その貴婦人は
少し正気でないかもしれない、
シーシーは本当の娘では
ないかもしれないと
モテは言いましたが
その貴婦人は娘が必要で
私は盗賊ではなく
親が必要だから
私が本物であれ偽者であれ
両方にとっていいんじゃない。
とシーシーは言いました。
◇貴婦人を待つ◇
モテは、どうやって
その貴婦人と会うのか
シーシーに尋ねましたが
彼女は、モテが富川主夫妻に
話すかもしれないからと言って
詳しく話してくれませんでした。
モテは、シーシーの両親に
話さなくても良いのかと
尋ねましたが
彼女の両親は自分に関心がないと
言いました。
シーシーの養父母は
彼女が幼い頃は
可愛がってくれたものの
実子が生まれると
次第にシーシーを
おろそかにするようになり
彼女が剣術に興味を示さないと
養父母は完全に
シーシーへの関心がなくなり
衣食住だけ満たしてくれる
程度でした。
その後、モテは
ケルドレックと猟へ出かけたので
村を離れましたが
シーシーは、
毎晩、村の入口付近にうずくまり
冷たい夜風に震えながら
貴婦人を待つようになりました。
実の母なら、弟ができても
無関心にならないだろう。
夜中に帰って来なくても
心配しない親だから
自分が貴族になり急に離れても
悲しまないだろうと
シーシーは思いました。
数日後、見慣れない馬車が
町の入り口にやって来ました。
顔色の悪い女性が馬車から降りて
常時泉の警備兵に
一度だけ見逃して欲しい、
子供の顔を見せて欲しい、
私の娘がいるかもしれない。
哀願していました。
けれども警備兵は
冷たく断りました。
シーシーは
まとめていた髪をほどき
毛布を纏って
森の中へ入って行きました。
そして、馬車の通り道に
ぼんやり立ったまま
毛布を脱ぎ
ブルブル震えながら
馬車を待ちました。
ついに馬車が近づきましたが
シーシーに気付かず
そのまま行ってしまいました。
彼女はショックを受けました。
私が見えなかったのかな?
暗くて銀髪が
見えなかったのかな?
シーシーは走って
馬車を追いかけましたが
石に躓いて
転んでしまいました。
その瞬間、馬車が止まり
中から一人の貴婦人が
下りてきました。
このチャンスを逃したらダメ!
シーシーを心配する女性の胸に
彼女は抱きついて
お母さん、
私を探しに来たんでしょ?
と言いました。
◇子供に甘い父◇
屋内か屋外か区別のつかない
温室の中を、
楽しそうに金色の鳥が
羽ばたいていました。
鳥が近くの木に止まると
ナビエは近づき
ハインリ、
ちょっと話があるのだけど。
と言いました。
その瞬間、
鳥がナビエの方を向きましたが
その目の色を見てナビエは
クイーンクイーン?
と慌てて名前を呼びました。
すると、後ろから不機嫌な声で
クイーン、私はここにいます。
そろそろ区別してください。
と、しょんぼり立っていた
ハインリが言いました。
その姿を見て、ナビエは
申し訳なくなりました。
ハインリに
小言を言おうと思っていたのに
こんなことになってしまい
ナビエは困りました。
ハインリは
何の話がしたいかわかるといった
視線で
ナビエを見ていましたが
表情を和らげ
どうしましたか?
とナビエに尋ねました。
ナビエは、
子供たちを
可愛がってばかりいないで
少しは厳しくして欲しいと
ハインリに頼みました。
彼は、
ラリはナビエに顔が似ていて
カイは、
ナビエと言うことが似ているので
怒るのが難しいと
言い訳をしました。
だからといって
いつも甘やかしてはいけない。
とナビエが注意すると
ハインリは、ラリがまた
問題を起こしたのではないかと
尋ねました。
ナビエは、ラリが
天井に上っただけだと
答えました。
ハインリは意気消沈して
ナビエの頭に自分の頭を
もたせかけました。
けれども、彼は
きちんとラリを叱ると言う言葉は
言いませんでした。
ナビエは、ハインリが
どのような気持ちでいるか
知っていました。
そして、ナビエもラリが
問題を起こす度に
呆れて腹が立つものの
幼いハインリだと思い
我慢していました。
おまけに、猫を被るところまで
ハインリにそっくりで
ラリは他の人の前では
性格を露わにするけれども
ナビエの前では目を丸くして
無邪気なふりをしました。
やはりあなたが諸悪の根源ね。
とナビエはハインリに言いました。
そして、彼の腰をギュっと握ると
ハインリはくすぐったいのか
身体をよじりながら
ナビエにくっつきました。
ナビエはハインリの耳元を
痛くないように
何度も噛んでいるうちに
こんなことをしている場合では
ないことに気付きました。
◇東大帝国の後継者◇
ナビエはソビエシュから
親書が来たことを
ハインリに話しました。
ソビエシュと聞いて
ハインリは眉を吊り上げましたが
手紙の内容は
東大帝国の後継者についてでした。
ソビエシュは
ナビエの両親を通して
ラリとカイのどちらかを
後継者にしたいと
伝えてきていましたが
ソビエシュ自身が
ラリとカイに
東大帝国の後継者の座に
関心があるか聞いて欲しいと
本格的にナビエに頼んできたのは
初めてでした。
来るべきものが来た。
覚悟はしていたものの
いざ手紙を受け取ると
ナビエは驚きました。
その日の夜、
一緒に食事をしようと
ナビエは2人を呼びました。
食事が半分終わったところで
彼女は
ソビエシュ皇帝が
あなたたち2人のうち1人を
後継者にしたがっています。
と話しました。
驚く子供たちに
あなたたちは
どう思いますか?
と尋ねました。
子供たちが大きくなっても
相変わらず仲の良い
ナビエとハインリを見られて
良かったです。
ハインリは
クイーンクイーンと一緒に
踊ることで
ナビエを慰めることに成功したので
きちんと約束を守り
クイーンクイーンを
一番奥の部屋の鳥かごの中から
大きな温室へ
移してあげたのですね。
ハインリは猫かぶりで
残酷な面がありますが
誠実で
嘘をつかない人だと思います。