261話 思いがけず、ソビエシュと出会ったナビエでしたが・・・
◇愛する人に似ている子◇
しばらくの間
ナビエとソビエシュは
黙ったまま、
見つめあっていましたが
同時に、互いの身体を
気遣う言葉を発しました。
ソビエシュは
ラリをずっと見ていました。
ナビエは、
ソビエシュの話し方から
彼の記憶が戻ったと感じました。
ソビエシュは
西大帝国の皇女は
私が愛した女性に
良く似ている。
その子には、
いつも、笑うことだけが
たくさんあるように。
とラリをチラチラ見ながら
言いました。
ナビエは、
ラリをしっかり抱きかかえ
後ろを向きました。
ソビエシュが
自分は別の所へ行くから
もう少し、ここにいるように。
自分はいつでも
ここに来られるから。
と言ったので
ナビエは頷きました。
何の音もしなくなったので
後ろを振り返ると
ソビエシュはいませんでした。
◇ナビエの望むこと◇
出発する前
ナビエは3時間机に向かい
手紙を書いては破るを
繰り返していました。
ジュベール伯爵夫人から
出発の準備ができたと聞き、
もう時間がないと分かった瞬間
ナビエは心を決めて
自分の望むことを
スラスラと手紙に書きました。
馬車に乗り込むときに
両親が見送りに来てくれました。
ナビエは、父親に
ソビエシュ宛の手紙を
渡しました。
◇ナビエからの手紙◇
密封もされていなかった
ナビエからの手紙を読むと
ソビエシュは
空を見つめていました。
トロビー公爵とカルル侯爵は
手紙に何が書かれていたのか
気になりましたが
その内容をソビエシュに
尋ねませんでした。
ソビエシュは外へ出て
とめどなく歩き回った後
噴水台の前で立ち止まり
上がっては落ちて砕ける
水の流れを見つめました。
幸せに生きてくださいとは
言えません。
しかし、無事に
良い皇帝になりますように。
とナビエの手紙に書かれていました。
ソビエシュは、今になって
自分が傲慢であったことを
悟りました。
国を統治するように
ナビエの人生を統治することは
できなかった。
ナビエと離婚をした時
彼女を取り戻す道はなかったのに
それを知りながら
彼女への未練が
果てしなく自分の身を苛んだ。
後悔が、さらに後悔を生み出した。
そのようなことを
してはいけなかった。
とソビエシュは思いました。
カルル侯爵がやって来て
後ろからソビエシュに
声を掛けました。
ソビエシュは、噴水を見つめながら
自分はバカだった。
すでに、
ナビエを取り戻す方法はなかったのに
1年前から最悪の選択だけをしていた。
けれども、この事実に絶望しない。
最悪の選択をした結果だから。
いくら後悔しても
その後悔を捨てられなければ
これからは後悔を抱いて先に進む。
そうすれば、今後
この瞬間を思い出して
後悔しないから。
とカルル侯爵に言いました。
カルル侯爵の目元に涙が浮かびました。
◇愛の奇跡◇
馬車が西大帝国へ到着すると
ナビエは、
家に帰って来たと言う気がしました。
朝食後、ナビエは
しばらく自分の机に座り
スケジュールを確認すると
自分の誕生日の表示が
目に入りました。
これからは、連合や国家の仕事や
家庭を守ることなど
全てのことを熱心に
やらなければと思いました。
ナビエはゆりかごに近づき
自分とハインリに似ている
赤ちゃんたちを見て
胸がいっぱいになりました。
人と人との愛が
人間を創造したなんて
それ自体、奇跡だと思いました。
◇コシャールの決心◇
国政会議の準備をしながら
ハインリとマッケナと
楽しく話をしていると
コシャールが訪ねてきました。
シャレット姫とのことで
まだ意気消沈しているのか
彼は暗い顔をしていました。
どうしたのかとハインリが
コシャールに尋ねると
彼は、東西連合に所属する騎士として
東西連合の名の元に
常時泉を掃討してくると
言いました。
シャレット姫とマスタスのことは
気にしなくてよいと
ハインリは伝えましたが
コシャールの決心は固く
自分にできるのは、この道だけ、
新しくできた連合には
目に見える成果が必要、
と言いました。
コシャールが出て行った後
マッケナにどうするのか
尋ねられたナビエは
兄が行きたいと言えば
行けと言います。
と答えました。
◇助けに行きたい◇
ナビエは、侍女たちに
コシャールのことを話すと
マスタスは
弱弱しいコシャールが
険悪な盗賊の群れの所へ行くのは
危険だと言いました。
マスタスは、
まだ幻想から覚めていないと
思ったローラが
彼女をあざ笑いました。
マスタスは不機嫌になりました。
ナビエは、
コシャールは本当に強い人、
彼は昔から心が乱れるたびに
常時泉を相手にして
怒りを晴らしていたから大丈夫。
とマスタスに伝えました。
マスタスは苦笑しながら頷き
コシャールが出発する時も
毅然として見送りました。
その1週間後
東大帝国からアルティナ卿が来ると
突然、マスタスは彼女に
決闘を申し込みました。
決闘直後、マスタスは
ナビエの前に跪き、
侍女として彼女に
仕えることができたことを
感謝した後で
自分は地下騎士団の団長に戻り
常時泉の討伐に行った
コシャールを助けに行きたいと
ナビエに願い出ました。
ソビエシュに
幸せになって欲しいと言えないほど
ナビエに対するソビエシュの裏切りと
ひどい仕打ちは
彼女の深い傷と
なっているのかもしれませんが
それでも、東大帝国やその国民が
困らないように
ソビエシュに
良い皇帝になって欲しいと
手紙に書いたのかなと思いました。
長い時間がかかりましたが
ナビエの言葉で
ソビエシュが自分の過ちを
認められて良かったと思います。