378話 ギルゴールはカルレインにアニャの所へ行けと言いましたが・・・
◇完全に消えるよりは◇
とんでもない。
カルレインを、あの女性に
捧げることはできないと
サーナット卿は、
断固として反対しました。
ニヤニヤしながらカルレインを
見下ろしていたギルゴールは
不思議そうに横を見ると、
サーナット卿に向かって、
いつからそこにいたのかと尋ねました。
先程、カルレインと一緒に
入ってくるのを見たはずなのに、
ギルゴールが大っぴらに
自分をいない者扱いすることに
サーナット卿は腹を立てましたが
ぐっと怒りを堪え、
皇帝を覚醒させることもできない。
別の方法があるはずだと反論すると
ギルゴールは、
自分の温室は花がいっぱいなので
頭が花園のサーナット卿は
見分けがつかなかったと侮辱しました。
サーナット卿は、
自分を侮辱するなと抗議すると、
ギルゴールは、
彼にも水をかけようかと言ったので
サーナット卿は真顔で
彼を睨みつけました。
ギルゴールは
何がそんなに面白いのか
くすくす笑いながら、
ジョーロの口でサーナット卿を差し、
彼のことを可愛いと言い、
彼の深刻な様子を見てと勧めました。
しかし、この場で
深刻でない吸血鬼はギルゴールだけで
ザイオールでさえ事態の深刻さを感じ
その場に佇んでいました。
カルレインは、
サーナット卿に向かって、
ギルゴールを本気で相手にするなと
首を横に振りました。
サーナット卿は呼吸を整えながら
カルレインの助言に忠実に従い、
キルゴールも彼をからかうのを止めて
にっこりと笑いました。
ギルゴールは、
妻が覚醒することで
性格が悪くなることを
心配しているのではないか。
自分だって、
覚醒して性格が変わるのを見たのは
1人や2人どころではないので
気持ちは同じだ。
けれども、完全に消えるよりは
ましではないかと尋ねました。
サーナット卿は
皇帝を苦しめることはできないと
言いましたが、ギルゴールは
成長痛だと返事をしました。
そして、にっこりと笑うと
今度はジョーロの先でハーレムを差し
大切な人も多いだろうから、
1人くらいは
覚醒に使ってもいいのではないかと
言いました。
サーナット卿は、
ギルゴールの発言に心底驚きました。
愛する人が
傷つくかもしれないのに、
あれだけ遠慮がないなんて、
普通の人と常識が違うと思いました。
カルレインはギルゴールを
裏切り者だと言っていましたが
それでもラティルには
優しく振る舞うので、
その姿は本物だと思いました。
それなのに、
簡単にラティルを覚醒させようとし
かつて友人だった
カルレインを売り払おうとすることに
サーナット卿は怒りを覚えました。
ギルゴールは美しく笑い、
今度はサーナット卿を
ジョーロの先で指すと
「お弟子さんは
あなたを大切にしているのか?」と
囁く瞬間、彼の首をつかみました。
ギルゴールの瞳が
さらに危険に赤く染まりました。
カルレインはギルゴールを止めました。
それでも彼は、
サーナット卿から手を放さないので
カルレインは、
サーナット卿はラティルの騎士なので
止めるように。
彼の命を奪えば、
毎回、皆がギルゴールを捨てたように
ラティルもまた彼を捨てるだろうと
忠告しました。
ギルゴールは
サーナット卿をつかんだまま、
カルレインに向かって笑いながら
ラティルは自分を怖がっていないと
返事をしましたが、
表情はこわばっていました。
その隙に、サーナット卿は
ギルゴールを蹴り、
彼の手中から抜け出しました。
サーナット卿は咳込みながら、
ギルゴールを睨みつけ、
剣を取り出しました。
ギルゴールは冷たい目で、
その姿を見下ろしながら、
鼻で笑って寝室に歩いていきました。
そして、寝る時間なので
客たちを追い出せと
ザイオールに命令しました。
◇サーナット卿の心配◇
サーナット卿は、
ギルゴールの言葉は気にしないようにと
カルレインを慰めました。
彼は頷きましたが、
暗い表情をしていました。
サーナット卿は
ギルゴールのいる温室を睨みつけ
カルレインがいなくなったら、
ラティルはもっと苦しむと
再びカルレインを慰めました。
そして、ギルゴールが言ったように
カルレインが、
あの女のところに行って・・・
と言っている途中で、
顔がだんだん、
赤くなっていきました。
カルレインはサーナット卿に
何を想像しているのかと尋ねましたが、
サーナット卿は何でもないと
答えました。
カルレインは、ラティルの心を
傷つけるようなことはしないので
心配しないようにと言いました。
サーナット卿は、
カルレインの横顔を
心配そうに見ていましたが、
このことを、どうしても
ラティルに知らせなければならないと
思いました。
彼女が断固として
「そのようなやり方は望まない」と
言ってくれなければ、
カルレインはラティルのために
悪い選択をしそうで不安でした。
◇様子がおかしい◇
ザイオールは、
ギルゴールに大丈夫かと尋ねながら
血を混ぜて作った
熱いお茶を持って来ると、
彼は、ベッドに横になったまま
手だけを伸ばしました。
そして、一気に熱いお茶を飲むと
ザイオールに渡しました。
ザイオールは、それを受け取ると、
ギルゴールの様子を窺いながら、
彼が毎回捨てられたと
カルレインに言われたことが
気になっているのかと尋ねました。
ギルゴールは、
別に気にならないと答えました。
しかし、そう答える割には、
かなり気になっている顔をしていると
ザイオールは思いましたが、
それ以上は聞きませんでした。
彼は寝室から出ようとしましたが、
ギルゴールは彼を呼び止め、
自分の方へ来るようにと指示しました。
いつの間にかギルゴールは、
口元に笑みを浮かべていましたが、
その姿にザイオールは
訳もなく暑くなりました。
あの吸血鬼が笑うと、
なぜか不安が増しました。
それでも、ゆっくりと彼に近づくと
ギルゴールは、
眩いばかりの明るい笑顔で
自分の顔を手で指差し、
怖そうに見えるかと尋ねました。
ザイオールは否定すると、
ギルゴールは、
ザイオールの肝は随分太くなったと
言ったので、
ザイオールは、怖いと言いました。
それを聞いたギルゴールが
驚いたので、ザイオールは、
それでは、どうしろと言うのかと
文句を言って、
ギルゴールを見つめました。
彼はぷっと噴き出すと、
彼の背中を叩きながら、
ザイオールが固まっていたので
冗談を言っただけ。
もう寝るので出て行ってと
命令すると、手を振りました。
目を閉じるギルゴールの表情は
穏やかでしたが、
ザイオールは訳もなく気になりました。
彼は温室の外が暗いことを確認すると、
すぐに外に出て行きました。
ロードに、
ギルゴールの様子を見て欲しいと
頼む必要があると思いました。
◇窮地◇
アナッチャは、焦りながら
窓の近くに立ち止まりました。
もう一度、扉を叩く音がしました。
アナッチャは、
どうしたらいいのかと考えながら、
いざという時にすぐに使える
黒魔術の薬瓶をいくつか取り出し、
それをポケットに入れて
扉を開けました。
ルイスは少しイライラしながら
扉を開けるのが遅いと
アナッチャに文句を言いました。
幸い、アナッチャを犯人だと思って
駆けつけて来た様子では
ありませんでした。
アナッチャは、少し安堵し、
お風呂に入っていたので
服を着るのに時間がかかったと
平然と笑いました。
そして、ルイスに
ここへは何の用事で来たのかと
尋ねました。
ルイスは、まだ皇后が戻っていないと
答えました。
アナッチャが驚いたふりをして
目を丸くすると、
ルイスは護衛たちに頷き、
彼らは扉を塞ぐように立ちました。
ルイスは中に入って扉を閉めると、
皇后を見ていないかと
声をひそめて尋ねました。
アナッチャは、先程ルイスと一緒に
皇后を待っていたことを
彼女に思い出させました。
しかし、ルイスは、
それは数時間前のことなので、
その後、ここへ来ていないかと
尋ねました。
アナッチャは、
自分は見ていない。
なぜ、ルイスがそう思うのか
分からないと、とぼけました。
ルイスは、
皇后が最後に会いたがったのは
アナッチャとトゥーラだからと
心配そうに呟くと、
アナッチャは冷たい目で
彼女を見つめました。
アナッチャは、
困ったことになったと思いました。
ルイスはアナッチャを
疑っているわけではないけれど、
アイニがいなくなったことに
アナッチャが何らかの形で
関係していると
思っているようでした。
このような状況では、
アイニが戻るまで、
ルイスはアナッチャを
外に出してくれないと思いました。
ルイスは、
もしかしたら皇后は、
ここにヘウン皇子の首があることを
知っていたのではないかと、
そっと尋ねました。
アナッチャは、
そんなはずはないと答えましたが
ルイスは、
アナッチャとトゥーラを
外に出させて、
首を探そうとしたのではないかと
推測しました。
アナッチャは、
もう首は片付けたので、
皇后がここを探したとしても
問題ないと返事をしました。
しかし、ルイスは唇を噛み、
それでも念のため皇后を探してみる。
アナッチャがお風呂に入っている間に
皇后が忍び込んだかもしれないと
言いました。
アナッチャはルイスの手首を
引っ張りました。
ルイスは不審そうな目で
アナッチャを見て、
なぜ、手を掴むのかと尋ねました。
アナッチャは
しばらく考えていましたが、
笑いながら首を横に振り、
何でもないと答えて、
彼女の手を放しました。
ルイスは、すぐに
地下室に降りて行きました。
アナッチャは、
その後ろ姿を見ながら、
急いで頭を回転させました。
皇后とヘウン皇子の首は片づけたし、
彼女が準備した荷物は
ベッドの下にあるので、
ルイスがそこを見ない限り、
何も見つけられない。
ルイスが
2階まで上がろうとしたら、
どうしようかと考えましたが
とりあえず
様子をみることにしました。
アナッチャは、ルイスの後を追って
地下室に降りていきました。
ルイスは何度見ても
気持ち悪いといった風に
棚の上の物に
わざと気づかないふりをして、
アナッチャがヘウン皇子の首を
時々、置いておく棚に行きました。
ルイスは、
本当に皇后と皇子はいないと言うと、
アナッチャは、
そう言ったではないかと返事をして
にっこり笑いましたが、
ルイスが床に溢れている血を
見下ろしているのを発見しました。
トゥーラがアイニを気絶させるために
頭を叩いた時に付いた血でした。
ルイスが血だと気づいて
頭を上げた瞬間、
アナッチャはポケットに入れてきた
薬瓶を彼女の顔に投げました。
ルイスは悲鳴を上げ、
うつぶせの状態で気絶しました。
アナッチャは彼女を置き去りにして
慌てて1階に上がり、
地下室の扉を閉めました。
彼女は、
今すぐ逃げなければならないと
思いました。
◇予想もしていないこと◇
夕方。
少しお腹が空いたラティルは
浴室に入り、
そろそろ偽の妊娠を
終えなければならないのではないかと
思いました。
安定期に入って流産したと言えば、
みんな大騒ぎするからでした。
ラティルは鏡の前で
ラナムンが軟膏を塗ってくれた傷を
ちらりと見て浴槽に入りました。
ところが、入浴を終えると、
寝室の入口に侍女1人が
慌てふためいた様子で立っていました。
ラティルが、どうしたのか尋ねると
彼女は、応接室でサーナット卿と
ザイオールが待っていると答えました。
ラティルは侍女に
どうしてそんなに
差し迫ったような顔をしているのかと
尋ねると、
侍女は扉をチラッと見ると、
カルレインとギルゴールの
2人の状態が良くないので、
サーナット卿は
カルレインの所へ
一度、様子を見に来て欲しいと
言っていて、ザイオールは
ギルゴールの所へ、
一度、様子を見に来て欲しいと
言っているので
今、応接室の雰囲気が良くないと
声をひそめて答えました。
ラティルは侍女に手伝ってもらいながら
急いで服を着ると、
2人とも具合が悪いのかと尋ねました。
侍女は、
サーナット卿もザイオールも
調子が悪いとしか言っていないと
答えました。
ラティルは、
2人とも吸血鬼なので、
大神官が何かしない限り、
具合が悪くなることはないと
思いました。
ラティルは、一体、何が原因で
カルレインとギルゴールの状態が
同時に悪くなるのだろうと
不思議に思いました。
しかし、侍女が
このように焦っているのを見ると、
何かがあることは明らかでした。
ラティルが楽な服装で
応接室に入ると、
サーナット卿とザイオールは
ピョンと立ち上がりました。
ラティルは侍女たちに
出ていくようにと
目で合図をしました。
彼女たちがいなくなると、
ラティルは、2人に
どうしたのかと尋ねました。
先にサーナット卿が、
カルレインが
悪いことを考えるかもしれないので
ラティルに一度会ってほしいと
頼みました。
ラティルは驚いて
「悪い考え?」と呟くと、
サーナット卿が答える前に、
ザイオールは素早く割り込み、
ギルゴールも今、
良くないことを考えている。
いつも元気な彼が
茹でたほうれん草のように
くたくたになっている。
ラティルに会えば
元気になると訴えました。
ラティルは、
これはどういうことなのか。
なぜ、2人同時に
調子が悪くなったのかと尋ねると、
ザイオールとサーナット卿が同時に
お互いを指差しました。
ラティルは、口をポカンと開き、
ギルゴールとカルレインが
喧嘩したのかと尋ねました。
それで二人とも調子が
悪くなったのかと尋ねると、
サーナット卿は
一刻を争っている。
カルレインが、
いつ出発するか分からないと言うと、
ザイオールも、
一刻も急いでいる。
ギルゴールも
いつおかしくなるかわからないと
訴えました。
予想もしていなかった状況に
ラティルは
どうしたらいいのかと悩みました。
皆がギルゴールを捨てたように
ラティルもギルゴールを捨てるという
ギルゴールの核心をついた
カルレインの言葉。
それが、ザイオールを
不安にさせているギルゴールの
行動につながったのだとしたら
今後、彼が何をしても
それはラティルのためのような
気がします。
ザイオールの前で笑っていたのは
彼の感情を隠すためであり、
眩いばかりの彼の笑顔の裏に
悲壮感が漂っているように
感じました。