327話 自分たちの離婚は成立していないと、ソビエシュは大神官に訴えました。
大神官は、ソビエシュ皇帝が
この離婚を申請したのを
もしかして忘れたのかと尋ねました。
ソビエシュは、すぐに頷くと、
自分が申請したことを覚えている。
しかし、間違った決定を
下したことに気づいたので、
離婚の申請を撤回すると告げました。
ナビエは、
何か言いたいことがあるのか
唇を動かしていました。
彼女を連れて行くために
ハインリが待っているので
今さら、何をしているのか、
聞きたいのだろうと思いました。
ソビエシュは、
ハインリが隠れている方を
しきりに見そうになるのを
堪えながら、
離婚の申請を却下すると
大神官に伝えました。
大神官は、
ナビエとソビエシュの離婚を
阻止したかったし、
ナビエがハインリを
再婚相手に準備しておいたことを
知らないので、ソビエシュは
大神官が自分の味方になってくれると
確信していました。
予想通り、大神官は不満そうな表情で
離婚は、遊び半分で申請して
一日で却下することではない。
また来てほしいと言われても
自分は来ないが、
本当に却下してもいいのかと
尋ねました。
ソビエシュは、
ナビエが先に答える前に、
「はい」と素早く答えました。
ナビエは作り笑いをしていましたが
ソビエシュは、
そんな彼女の表情も好きなので、
ナビエを眺めながら
照れくさそうに微笑みました。
ナビエはそれを見て
いっそう表情が
冷ややかになりましたが、
ソビエシュは、そんな彼女でも
見ることができて良かったと
思いました。
大神官は、
離婚する前に、
ソビエシュ皇帝が
離婚の取り下げを請求したので、
今回の離婚の件は却下すると
宣言しました。
大神官は小言を浴びせたかったのか、
ソビエシュに近づこうとしましたが、
ナビエが一歩先に彼に近づき、
少し話をしようと
小声で伝えました。
大神官は、自分も言いたいことが
たくさんあるという
顔をしていましたが
再び壇上に上がりました。
人がほとんど通らない
廊下が交差している所へ着くと、
ナビエは、人々がどこから来ても
話を止められるような場所へ行き、
ソビエシュも後に続きました。
ナビエは冷たい声で、
これはどういうことなのか。
離婚を冗談だと思っているのかと
尋ねました。
ソビエシュは、
冗談ではないから、
急いで止めたと答えました。
ナビエは、
ソビエシュは冗談だと
思っているようだと非難すると、
彼は絶対に違うと否定しました。
ナビエは、
ソビエシュが自分と離婚すると
話しているのを聞いて
どれだけ辛くて大変で悩んだのか、
分からないだろうと責めました。
ソビエシュは、それを認めました。
ナビエは、分からないから、
簡単に離婚を申請し、
簡単に離婚を却下するのだろうと
ソビエシュを責めました。
彼は、それを認めましたが、
本当は、ナビエが思っているより
ずっと、よく分かっている。
人生の重要な決定なので、
絶対に簡単に考えたのではなく、
自分たちの離婚も皇后も、
どれ一つ簡単ではないことと、
自分が間違っていることが
分かったから元に戻したと
答えました。
ナビエは、その言葉を
自分が信じると思っているのかと
尋ねました。
ソビエシュは、
プライドを保つために
離婚を続けたりしない。
やめたいことがあるなら、
体面を捨ててでも、
やめなければならないということを
知ってしまったと言いました。
ソビエシュは、
少しも怒りが解けていない
ナビエの表情を見ているうちに
今が現実のように思えました。
しかし、
現実であるはずがないということを
知っているので、
ソビエシュはナビエに会ったら
言いたかったことを、思う存分、
全て言ってみることにしました。
ソビエシュは、
自分の妻は皇后だけで、
皇后の夫も自分だけであることを
願っている。
離婚はしないと告げました。
ナビエはソビエシュを
軽蔑するように見つめましたが
彼は、
自分の気持ちは変わらないと
言いました。
カルル公爵は、
ソビエシュが考え直してくれたことを
何度も喜びました。
ソビエシュは、
数時間前、自分と酒を飲んだ
カルル侯爵の年老いた顔と
今の活力あふれる姿を比べて、
胸が痛みました。
カルル侯爵まで、
このように現実味があると
本当に過去に
戻ってきたような気がしました。
ソビエシュは、
カルル侯爵だけは、
いつも自分のそばにいてくれたので
いつも感謝していると告げました。
カルル侯爵は、
離婚が中止になったことに
感激していたので、
突然のソビエシュの感謝の言葉に
どのように反応すればいいのか
分からないような顔をしていましたが
ソビエシュは笑いながら
彼の背中を叩きました。
寝室に戻ったソビエシュは、
今日処理すべき業務について
カルル侯爵に尋ねました。
彼は、ソビエシュが
このような基本的なことを
尋ねたのを不思議に思いながらも、
離婚法廷に備えて、急用は全て
事前に処理しておいたので
予想できない事件が起きない限り、
3~4日は余裕があると答えました。
ここが夢の中だとしても、
仕事の処理が
全て終わっていると聞いて、
ソビエシュは安心しました。
ソビエシュは気楽な気持ちで
西宮へ行きました。
ソビエシュが応接室に入ると、
数時間前、幻想で見たように、
ナビエの侍女たちが
驚いて挨拶をしました。
ソビエシュは、
ナビエの部屋で見たものが
印象深く残っているために、
こんな夢を見ているのだと
思いました。
ソビエシュは、
閉じた寝室の扉を目で指しながら
ナビエの様子を尋ねました。
イライザ伯爵夫人は
無礼にならない程度に冷たく
苦しんでいると答えました。
ソビエシュは、
寂しげな表情を隠さずに、
自分がナビエと
話したがっていることを
伝えて欲しいと言いました。
ナビエの寝室の中に入り、
しばらくして出て来たローラは
ナビエが、
ソビエシュの入室を許可したことを
伝えました。
ソビエシュは、
ナビエの寝室のドアノブから
感じられる温もりに、
涙が流れました。
驚いたローラは、
ソビエシュに泣いているのかと
尋ねましたが、
ソビエシュは首を横に振って
ドアノブを回しました。
ドアを開けると、
彼がいつも声をかけていた
額縁はありませんでしたが
部屋の中央に、
ナビエがまっすぐな姿勢で立ち、
冷たい目で彼を見つめていました。
ソビエシュはナビエと目が合うや否や
いつも皇后に会いたくて
狂いそうだったと、
胸の内を明かしました。
ナビエは驚きのあまり、
半歩後退するほどでした。
しかし、すぐに
平静を取り戻したナビエは、
ソビエシュが
おかしくなったようだと
指摘しました。
ソビエシュはハンカチで
目元を拭きながら、
頭がおかしくなったのは、
一度や二度ではない。
自分が離婚せずに済んで
どれだけ幸せだと思っているか
ナビエにはわからないだろうと
言いました。
ソビエシュは、
夢から覚めても後悔しないように、
ナビエから冷たく突き放されても
話し続けました。
ソビエシュは、
一度離婚してしまえば、
二度とナビエを
取り戻すことができないと
分かっていたから、
あの場で
離婚に反対するしかなかった。
離婚を防げて良かった。
まだナビエが自分の妻で良かったと
言いました。
ナビエは、
ソビエシュが心変わりしても、
自分と離婚するためにしたこと全てが
消えるわけではない。
彼は再び、
離婚を申し出るかもしれないと
反論しました。
ソビエシュは、
それを否定しましたが、ナビエは、
たとえそうだとしても、
自分は、いつ離婚を言い渡されるか
一生気にしながら
生きていかなければならない。
むしろ本当に離婚していたら、
ラスタへの
ソビエシュの愛情が真実で、
そのせいで、自分が
犠牲になったと思ったはずだと
言いました。
ソビエシュは
自分が愛するのはナビエだと
告げましたが、
ナビエは背を向けると、
自分が望んでいるわけではない。
ソビエシュが望むのが愛の遊びなら、
ラスタと続けるように。
自分はそうしたくないと
きっぱり言いました。
自分たちの離婚も皇后も
どれ一つ簡単なことではないことが
分かった。
つまり、ソビエシュは
離婚も皇后も簡単なことだと
考えていたということです。
ナビエ様が再婚することはないし
ラスタが自分の横で
おとなしく座っているだろうという
考えは、
あくまでソビエシュの考え。
けれども、ソビエシュは、
それまで、自分の思い通りに
事を運んで来たので、
この2人が、ソビエシュの想定外の
行動をすることなんて
全く考えていなかったのだど
思います。
再び自分のものになると
思っていたナビエ様は
ハインリに取られて
ソビエシュがあれだけ欲しがっていた
子供まで産んだ。
おとなしくしていると思ったラスタは
権力を傘に着て、
デリスにひどいことをしたし、
皇后という地位の重みを知らないので
外交問題に発展するようなことを
平気でしでかしたり、
エルギ公爵に港をあげてしまったりと
東大帝国最悪の皇后となってしまった。
ラスタに皇后は務まらないと
カルル侯爵から助言され、
ソビエシュも、
それは分かっていたけれど、
まさか、
ここまでひどいことになるとは
想像もしていなかったでしょう。
大神官の前で
結婚、離婚するということは
それが国家の命運を
分けることもあるので
慎重に執り行う必要が
あるからだということ。
実際、
ナビエ様がハインリと結婚したことで
西大帝国は安泰。
東大帝国は
ソビエシュ1人では
治められない状況に
なってしまいました。
ソビエシュの考えの甘さのせいで
東大帝国は大きな犠牲を
払ってしまった。
ソビエシュが、
必死で離婚を阻止しようとするのは
彼はナビエ様が再婚した直後から
彼女との離婚を
後悔し続けている証拠だと思います。