2025-01-01から1年間の記事一覧
69話 オデットとバスティアンは、ヘルハルト家の昼食会に招待されました。 角を曲がったヘルハルト家の馬車が、 邸宅に続く進入路に 差し掛かりました。 両側に並ぶ背の高いプラタナスが 印象的な道でした。 オデットは緊張感と好奇心が 入り混じった目で、 …
68話 オデットはカルスバルにやって来ました。 首都を出発した列車が カルスバル駅のプラットホームに 入りました。 ティラは、ゴムボールのように ベンチから立ち上がりました。 制服のスカートのしわと ブラウスの襟の形を整えている間に、 停車した列車の…
163話 外伝11話 マティアスと出くわしたレイラは恐怖で固まってしまいました。 子供は彼を見て逃げ出しました。 マティアスは、 逃げるその子を発見すると、 躊躇うことなく追いかけました。 あまりにも、ありきたりで 退屈な出し物でしたが、 そのありきた…
162話 マティアスとクロディーヌがレイラに近づいています。 マティアスは、 その子を見つけました。 というよりは、その子の服、 あるいは髪の毛と言った方が 正確でしょうけれど。 庭師が育てている孤児は、 彼らを発見すると、 慌てて壁の陰に身を隠しま…
161話 外伝9話 クロディーヌの所から帰る途中、レイラはマティアスに出くわしました。 凍りついたまま道の上に立っている レイラを見つけた公爵は、 いくらか離れた場所で馬を止めました。 幸いなことに、あの恐ろしい猟銃は 見当たりませんでした。 その後…
160話 マティアスはバラをどうするのでしょうか? まさか。慎ましやかな期待感に 胸がドキドキしましたが、 一方では信じられませんでした。 まさか、この男、 マティアス・フォン・ヘルハルトが。 考えれば考えるほど 速くなる心臓の鼓動が 耳元に響き渡り…
67話 ピアノを弾いていたオデットのもとへ、バスティアンがやって来ました。 本当に変な男。 いくら考えても、 オデットが下すことができる結論は それだけでした。 ピアノの前に近づいたバスティアンは しばらく黙って 楽譜を見つめているだけでした。 もし…
66話 オデットはサビネ洋品店にいます。 驚いて顔を上げたマリア・クロスは 犬を飼っているのかと尋ねました。 危うく落としそうになった 生地のサンプルを握り直した 手の甲の上の関節が 浮き出ていました。 オデットは、 一口飲んだ茶碗を下ろすと、 「は…
65話 ところで病院に閉じ込められているディセン公爵は・・・ このまま一人で死んだりしない。 ディセン公爵は、 しばらく揺れていた心を引き締めると 長い手紙に終止符を打ちました。 いつにも増して冷徹な理性で書いた 最後通牒でした。 蓋を閉めたペンを…
159話 レイラはマティアスの好きなようにしてと言いました。 舞い上がるように浮かんだ体が ふかふかした何かに触れる感じに、 レイラは力を込めて 閉じていた目を開けました。 一番最初に視界に入って来たのは 星明かりが 白くぼんやりと広がる夜空でした。…
158話 外伝6話 レイラは勇気を出して水の中に入りました。 どれだけ甘く評価しても、 レイラ・フォン・ヘルハルトの 水泳の実力は、 落第を免れないレベルでした。 実際、評価というものが 無意味なような気もしました。 レイラの、あのもがきは、 どうして…
157話 マティアスはレイラに水泳を教えると言いました。 来ないことを願っていた週末が ついに訪れました。 レイラが抱いていた全ての希望が 崩れ去った、絶望的な約束の日でした。 最初、レイラは エリーゼ・フォン·・ヘルハルトに 希望を抱きました。 彼女…
156話 外伝4話 マティアスはレイラに、もう脱げと言いましたが・・・ 驚いて、振り向いたレイラは 何の動揺も見せていない 青い目を見ました。 一体、あの男に、 感情というものがあるのだろうかと 思ったあの頃のように 無情な顔でした。 「何ですって?」 …
64話 バスティアンはピアノがあるサンルームに向かいました。 最後の音の残響の中で 拍手が沸き起こりました。 オデットはビクッとして、 その音が聞こえて来た方に 顔を向けました。 戸口に寄りかかったバスティアンが 手を叩いていました。 「バスティアン…
63話 オデットは野良犬にマルグレーテと名付けました。 マルグレーテは、 オデットの影のようでした。 ただオデットだけを見つめて、 オデットの後だけに付いて行きました。 オデットが他のことに 夢中になっていた時もそうでした。 ふと視線が感じられて、…
62話 ベロップの外交使節団がベルクに来ています。 ベロップの外交使節団は 奇襲的に海軍省を訪問しました。 本来、国会で特別演説を行った後、 居住地の別宮に移動する予定でしたが 皇太子が、 近くにある海軍省に大きな関心を示し 移動経路が急に変更され…
155話 レイラとマティアスはアルビスへ帰って来ました。 鳥たちのさえずりで騒々しい 森の道を通ると、 小屋が姿を現しました。 帽子を脱いだレイラは、前庭の端で しばらく、ぼんやりと その風景を見つめていました。 人が住まなくなってから かなり長い時…
154話 マティアスとフェリックスはパーゴラの下にいました。 その笑い声に導かれるように マティアスは、 ゆっくり首を回しました。 彼のそばに立って 何かを報告していた随行人の視線も、 すぐにレイラに向かいました。 二人の男をかすめたレイラの視線は、…
153話 外伝1話 レイラとマティアスの結婚後のお話です。 夜が更けるまで、書斎のドアは 固く閉ざされていました。 マティアスは目を細めて、 ドアの隙間から漏れる光を 見つめました。 もう何日も、公爵夫人は 書斎で夜を明かしました。 期末試験が終わるま…
152話 レイラは泣き出した子供に駆け寄りました。 ちょこちょこ走り回っていた 子供が転んだようでした。 幸い怪我をしてはいないのか、 レイラの表情は、それほど 深刻ではありませんでした。 母親の首をギュッと抱きしめて しがみついている自分に似た息子…
61話 オデットは雨の中で、何をしているのでしょうか? 必死で穴を掘ったオデットの両手は 濡れた土で覆われ、 滅茶苦茶になっていました。 服と靴の状態も同じでした。 無駄だと分かりながらも、 オデットは落ち着いて 土を払い落としました。 立ち上がって…
60話 オデットは、バスティアンとの食事の席を立ちました。 暗黙の約束の場所である カエデの木の下には、 空っぽのブリキ缶だけが ぽつんと置かれていました。 オデットは、 急いでそこに近づきました。 周りをくまなく探してみましたが、 野良犬は見当たり…
59話 バスティアンが帰って来たら、ジェンダス伯爵がいました。 後に付いて来た乳母に 娘を渡したマクシミンは 急いで残りの階段を降りると クラウヴィッツ大尉に会えずに 去ることになり 残念に思っていたけれど、 本当に良かったと言って 手を差し出しまし…
151話 クロディーヌはリエットのお墓参りに来ています。 墓石に刻まれた名前が、 まぶしい午後の日差しの中で 光りました。 クロディーヌは背筋を伸ばして その墓石を見つめました。 リエット・フォン・リンドマン。 永遠に過去に取り残された その名前を映…
150話 初めてフェリックスに会ったカタリナとエリーゼは・・・ フェリックス・フォン・ヘルハルトが 自分の祖母と曾祖母を虜にするまで それほど長い時間は 必要ありませんでした。 マティアスが、レイラと子供を ラッツの邸宅に連れてきたその日、 二人は子…
149話 レイラとマティアスは再会しました。 その結婚式は、 夏の終わりに行われる予定でした。 戦死したとばかり思っていた ヘルハルト公爵が生きていて 堂々と帰って来たという驚きは、 その信じ難い結婚が与えた衝撃に 隠され、まもなく薄れました。 帝国…
148話 レイラは子供と一緒に公園にいます。 ラッツの都心にある公園は、 湖や森を含むほど広大でした。 レイラは、 湖と森が最も美しく調和して見える 公園の西側が一番好きでした。 そこから眺める風景は 一見アルビスに似ていました。 多くの悲しみと 傷を…
58話 オデットが散歩に出かけようとすると・・・ ギリス女学校の寮にいる ティラ・ベラーから 電話がかかって来たという知らせが オデットに伝えられました。 野良犬のために用意した食べ物が 入っている袋を急いで隠したオデットは 急いで電話機のある書斎…
57話 オデットは、バスティアンがきちんと朝食を摂るよう説得して欲しいと頼まれました。 勝算が全くないわけでは ありませんでした。 深呼吸をしたオデットは、 落ち着いてノックをすることで、 今日の最初の仕事を始めました。 閉じたドアの向こうから、 …
56話 バスティアンはまだ帰って来ていません。 父親は鍛冶屋だったけれど 事故で大怪我をし、最近は 病床に伏せっている。 休むことなく続いたメイドのお喋りは いつの間にか、家族の話にまで 及んでいました。 オデットは化粧台の前の鏡越しに 髪を梳かして…