449話 ラティルとラナムンは、ついにベッドを共にしました。
◇皇帝からのプレゼント◇
カルドンは、
皇帝がラナムンに、
途轍もなく華やかなプレゼントを
送ってくれたと言いながら、
花を活けているラナムンに
早足で近づきました。
プレゼントはプレゼントでも、
華やかなプレゼントとは何なのかと
ラナムンは眉を顰めながら
カルドンを見ていると、
彼が入ってきた扉から、
大きな箱を抱えた下男3人が
うんうん唸りながら入って来ました。
ラナムンは、
あれは何かと尋ねました。
カルドンは、
華やかなプレゼントだと答えました。
プレゼントの包装紙は
一様に春の花のような色だったので
なぜカルドンが、プレゼントを
「華やかだ」と表現したのか
ラナムンも悟りました。
カルドンは、
ラナムンの言う通り、
皇帝はラナムンのことが
一番好きに違いないと言って
にやりと笑いました。
そして、下男たちに
早く出て行けと手で合図をすると
浮かれた声で、
早く開けて見て欲しい。
中に何があるか
知りたくないのかと促しました。
ラナムンは、カルドンに
箱を開けさせようと思いましたが
ラティルが送って来た
プレゼントだということを思い出して
花を置いて立ち上がりました。
まず、ラナムンは
一番大きな箱を開けました。
その中には、
直接石を削って作った
人の頭蓋を2つ合わせた大きさの
装飾物が入っていました。
持ってきた下男が可哀そうなほど
重そうでした。
次に開けた箱からは服、
最後に開けた箱からは、
華やかなアンクレットが出てきました。
カルドンはニヤリと笑い、
ラナムンを横目で見ながら、
ブレスレットではなく、
アンクレットを送って来たということは
皇帝はラナムンの足首が
気に入ったようだと思い、
一人でクスクス笑いました。
そして、カルドンは、
服はクローゼットに入れるけれど
アンクレットは今するのか、
飾りはどこに置くのかと
尋ねましたが、
ラナムンは返事をしませんでした。
遅ればせながらカルドンは、
ラナムンの表情が
あまり良くないことに気づき
プレゼントが
全部気に入らないのかと
心配そうに尋ねました。
ようやくラナムンは、
適当にどこかに置くようにと
指示しました。
カルドンは、ラナムンが
アンクレットを着けているところを
皇帝が見たがると思うと言いましたが
ラナムンは、
引き出しに入れておくよう
指示しました。
カルドンは、
皇帝が見に来ると思うけれど
大丈夫なのかと心配しましたが、
ラナムンは再びテーブルの前に行き
置いた花を拾っていました。
なぜ、プレゼントをもらって
あんなに機嫌が悪くなったのか。
プレゼントが来る前は
とても喜んでいたのに、
プレゼントが
全部気に入らなかったのかと
カルドンは不思議に思いました。
◇着けない理由◇
仕事をしている間、
幸いにもラティルは、
無意識のうちに
サーナット卿のことを
脇へ置いやることができました。
そして、日が暮れると、
昨夜のラナムンの姿を思い出しました。
ラナムンは、
サーナット卿とは違い、
自分の側室なので、
彼のことを思い出すと、
すぐに夕食を共にしようと思い、
人を送って、
自分を待つようにと伝えさせました。
そして、業務を終えると、
すぐにラナムンの部屋を訪ねました。
ラティルを迎えたラナムンを見て、
彼女は、以前は感じられなかった
ラナムンの多くの部分が
改めて目に入って来たので、
思わず口元が緩みました。
彼の手がどれほど暖かいのか、
彼をギュッと抱きしめた時に
どれほど良い香りがするのか、
彼の目が情欲に染まると
どれだけ見栄えが良くなるのかなど、
実際に夜を共にしなければ
分からないことでした。
下男たちが入ってきて
食事を準備している間、
ラティルはカルドンが持ってきた
おしぼりで手を拭きながら
部屋の中を見回しました。
部屋の片隅に、
自分がプレゼントした
装飾物を見つけると、
ラティルは気分が良くなりました。
服はクローゼットにあるはずだと
思ったラティルは、
料理を全て整えて、
カルドンと下男たちが退くと、
訳もなくラナムンの足を見ました。
ズボンのせいで、
プレゼントを着けているかどうかは
よく分かりませんでした。
ラティルは、昨夜見た
ラナムンの足を思い出し
照れくさそうに笑いました。
彼の足が
とてもきれいだったので、
それを宝石で飾れば、
もっときれいだと思い
アンクレットを送りましたが、
ラナムンに、
その意味が分かったかどうか
気になりました。
アンクレットを着けているかどうか
直接聞いてみようと思いましたが、
ベッドを共にした仲なのに、
こんなことを
口にしなければならないのかと
思ったラティルは腹黒そうに笑い、
わざと靴を脱いで待機し、
ラナムンが向い側に座って
ハンカチを取り出している間に、
そっと彼の足に
自分の足を当てました。
ビクッとしたラナムンは
ラティルを眺めました。
それでもラティルは知らんぷりをして
視線を下ろしながら、
ラナムンの足首付近を足で触れました。
アンクレットがなかったので
反対側にあるのかと思い、
もう片方の足に触れてみましたが、
ありませんでした。
ラナムンは、
がっかりしたラティルを見つめ、
ハンカチを横に置くと、
送ってくれたプレゼントなら
今は着けていないと
無表情で言いました。
ラティルは、
がっかりした表情を隠すことなく
受け取ってすぐに
着けてくれると思ったけれど、
気に入らなかったのかと
尋ねました。
よく似合うと思ったけれど、
今一つだったのか。
他のものにすればよかったのかと
考えていると、ラナムンは、
初夜のプレゼントみたいなので
着けなかった。後で着けると
言いました。
焼き魚を切っていたラティルは
眉をひそめながらラナムンを見て、
そのつもりで送ったプレゼントだと
告げました。
ラナムンは、
やはり、それで送ってくれたのかと
言いました。
ラティルは、すっきりしない気分で
フォークを置きました。
それが何の問題なのか、
ラティルには理解できませんでした。
ラティルは、
側室とは誓約式を行ったからといって
すぐに一緒に寝るわけではない、
だから、一緒に寝たら、
本当の夫婦になった記念として
プレゼントを送ったのに、
それが嫌なのかと尋ねました。
その言葉にラナムンは、
自分はラティルと
愛を分かち合ったと返事をしました。
ラティルは、
自分もそう思うと言いながらも
依然として
訝し気な顔をしていたので、
ラナムンは、
ハンカチを触り続けながら
それなのに、
皇帝がよく眠れたと言って
プレゼントを送って寄こすと、
愛を分かち合ったのではなく
褒められたような気がして
今一つだと言いました。
その言葉を聞いて、
ようやくラティルは
ラナムンの心を少し理解できたので
笑い出しました。
そして、
そんなはずはない。
そのような意味なら、
絶対にプレゼントを送らなかったと
きっぱり言うと、
ようやくラナムンも
緊張した表情が少し和らぎ、
明日は着けると言いました。
そうしているうちにラナムンは
遅ればせながら眉間にしわを寄せ、
先程よりも、
さらにプライドが傷ついた顔で
ラティルを見つめながら
それでは自分が
今一つだったということなのかと
抗議しました。
ラティルは口をポカンと開けて
ラナムンを眺め、笑い出しましたが
外から、誰かが騒いでいる声が
聞こえて来たので、
窓越しに外を見ました。
クラインが
なぜ、タッシールは
毎日夜に出歩くのか。
外で何をしているのか正直に話せと
詰め寄っていました。
しかし、タッシールは、
クラインが、
自分にとても会いたかったようだと
しらばっくれました。
ラティルは
反射的に立ち上がりましたが
遅ればせながら、下を見下ろすと、
ラナムンは冷気を飛ばしながら、
サラダをとても小さく切って
食べていました。
ラティルは、
タッシールは外出していて、
任せた調査があると言い訳をすると
ラナムンは、
自分は平気なので、
一つ一つ説明してくれなくても
大丈夫だと言いましたが
表情は、そうではありませんでした。
しかし、急いで外出したタッシールが
一体何を調べてきたのか
気になったラティルは
ラナムンの顔色を窺いながら、
そっと席に座ると、
速いスピードで食事を始めました。
本当は、もう一日
ここで寝ようと思っていたけれど、
早く食事を済ませて、
タッシールの所へ
行ってみなければならないと
思いました。
◇後悔◇
外に吸血鬼がいて危険なのに、
いつも遅い時間に歩き回って
何をしているのか。正直に話せと、
クラインが詰め寄ると、タッシールは、
クラインは自分の一挙手一投足が
気になっているようだと
指摘しました。
クラインは、その通りなので
話せと詰め寄りました。
タッシールは、クラインが
驚くほど率直だと言いました。
タッシールは、
べったりとくっ付いて
何をして来たのか問い詰める
クラインから逃れるのに
30分近くかかりました。
それから部屋に戻ると、ヘイレンが
今日、皇帝がラナムンに、
とても大きなプレゼントを
送ったけれど、
これは、どういう意味だと思うかと
不機嫌そうに尋ねました。
タッシールは、
ラナムンを愛したようだと
答えると、ヘイレンは
羨ましくないのか、
タッシールも愛されたくないのかと
悔しがりました。
しかし、タッシールは
考えなければならないことが
多かったので、手を振って
ヘイレンを部屋から追い出しました。
今は、彼の小言を聞いてやる場合では
ありませんでした。
ヘイレンが、
小言を並べ立てながら出て行くと、
タッシールは、
大きな紙を取り出して床に広げ、
その上に、ペンで滅茶苦茶に
字を書きながら考えを整理しました。
確かに、トゥーラ皇子は
何かを隠しているような気がしたが、
嘘をついているようではなかった。
けれども、全て
打ち明けてくれたようでもなかった。
彼は、先帝のイメージが
悪くなることを心配して、
皇太女の命を奪えという
先帝の指示が書かれた紙を
処分したと話していたけれど、
アナッチャのように賢い人なら、
先帝が、最後の最後で考えを変え、
トゥーラに皇位を譲ろうとした証拠として
このような理由で、先帝は、
皇太女が気に入らなかったという風に
その紙を利用することもできたはず。
皇位争いの間ずっと、彼らは
それを主張していたから。
しかし、二人はそうする代わりに
その紙を破棄した。
その理由は何なのか。
そこにポイントがあるようでした。
しかし、トゥーラは食餌鬼となった上、
皇位に未練もなさそうなので、
皇子の口を
すぐに開く方法はありませんでした。
何を隠しているのだろうか。
比較的確実になったのは、
先帝側が皇太女暗殺を主導し、
そこにカルレインとサーナット卿が
反応したこと。
先帝には、黒林とは別に、
仕える勢力があったようだ。
それならば、
皇帝を脅迫するメモを残したのは
その勢力だろうと考えました。
タッシールはため息をつきながら
過去のことを嘆きました。
先代の黒林頭首が死亡した後、
タッシールは、
次の頭首になりましたが、
先帝は、
自分の子供と同じ年頃のタッシールを
信用していないようでした。
ちょうどその時期、
タッシール率いる黒林が
黒死神団と対決し、
中途半端な勝利を収めましたが、
そのことが、
若い黒林頭首に対する先帝の不信感を
さらに強めました。
それでも、
様々な機密をどんどん任され、
それを遂行しているうちに
信頼を得られたと思っていましたが
他の部下たちを使っていたということは
ずっと、自分を
信じていなかったのだと思いました。
しかし、タッシールは、
それも、ある意味幸いだったと
思いました。
当時のタッシールは、
皇太女のラティルについて
客観的な情報しか知らなかったので、
そのような状況で、先帝に
皇太女を暗殺するよう命令されたら
どうなっていたのだろうか。
恐ろしい想像に、
タッシールは眉間をしかめました。
いずれにせよ、
今とは全てが変わっているはずだと
思ったタッシールは
頭の中の考えを書き出した紙を
クシャクシャにして
ゴミ箱に投げ込みました。
先帝が、
皇太女の命を奪おうとしたのは
事実のようだ。
それに対して、ロード側が
何か反応したのも事実。
それは高い確率で逆襲のはず。
これをラティルに
言わなければならないのか。
それとも、さらに
調べなければならないのか。
今調べてみたとしても、
すでに証拠と言えるものはない。
しかし、皇帝が先帝の殺害主犯だと
主張する人がいるので、
結局、後でラティルも
このことを知ることになる。
しかし、確かにトゥーラ皇子は
何か隠していることがある。
それは何なのかと悩んでいた
タッシールの耳に
ラティルの来訪を告げる
ヘイレンの声が聞こえて来ました。
すぐに扉が開くと、
ずっと彼を悩ませ続けた皇帝が
そっと部屋の中に入って来て
笑いました。
その笑顔に向き合った瞬間、
タッシールは
側室になったことを後悔しました。
側室でなかったら、
今のように悩む必要がなく、
きちんと整理して、
このことを報告できたはずなのに。
皇帝が、普段どのように
笑っているのかも
知らなかったはずなのに。
皇帝は対外的には厳しいけれど、
私的には茶目っ気があり、
見栄っ張りであることを
知らなかったはずなのに。
皇帝が、このことについて
どれほど心を痛めるか
気にもならなかっただろうと
思いました。
一方、その時刻、
サーナット卿は
真っ暗な窓の外を見ながら、
いっそのこと側室だったら
この状況で思う存分
嫉妬することができただろうと
思いました。
タッシールは仕事に対して
誇りを持ち、私情を挟むことなく、
常に冷静に対処し、
依頼者の期待に応えるべく
任務を遂行して来たと思いますが、
そのタッシールが、
ラティルが心を痛めることを
心配して、自分の調べたことと
そこから推測される事柄を
話せないということは、
タッシールがラティルのことを
愛しているからなのではないかと
思います。
タッシールは
他の女性と付き合ったことはあっても
本気で誰かを好きになったことはなく
愛情がどういうものなのか
よく分かっていないのかもしれません。
もしも、
タッシールが側室になっておらず、
先帝がラティル暗殺の命令を
彼に下していたら、
黒林と黒死神団の間で、
壮絶な戦いが
繰り広げられていたのではないかと
思います。
そして、
密かに嫉妬で喘いでいるよりは
自分の感情を大っぴらにする方が
マシだと考えたサーナット卿は
今回のことがきっかけで、
ラティルの側室になることを
検討し始めたのかもしれないと
思いました。
shaoron-myanmyan様
温かいお言葉を
ありがとうございます。
昨日は、
とにかく、寝ないでは
いられない状態でしたが、
今日も、熱が上がったものの、
身体が熱に慣れてしまったのか
普通に起きていても大丈夫でした。
それにしても、
新型コロナの感染力はすごいです。
娘が新型インフルエンザに罹った時、
家族全員に移るので、
2週間分の食料を買っておくよう
勧められたのですが、
家族の誰にも移りませんでした。
今回、
息子が最初に新型コロナに罹り、
移らないようにと
対策をしたつもりでしたが、
我が家は、
病の巣窟となってしまいました。
もし、家族の誰かが
新型コロナに罹ったら、
高確率で移ることを
覚悟した方がいいかもしれません。