自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

問題な王子様 90話 ネタバレ 原作 あらすじ 空砲弾が必要な夜

 

90話 エルナとビョルンはバフォードへ向かっています。

田舎道は永遠に終わらないかのように

長く続きました。

ちらほら見えていた農家まで消えると、

馬車の窓の外に見えるのは

緑の波だけでした。

ビョルンは為す術もなく、

野原と森、そして、その退屈な風景に

夢中になっているエルナを

見ました。

 

エルナと目が合うと、

彼女は「もうすぐです」と

何度も信憑性のない言葉を

繰り返しました。

しかし、ときめきに満ちた

その表情が可愛くて、

ビョルンは、もう一度

騙されてあげることにしました。

まさか世界の果てまで

走らなければいけないわけではないと

思ったからでした。

 

退屈する彼の表情が気になったのか、

エルナは、

あの野原の向こうの湿地には、

キンポウゲが生い茂っているとか、

あの森に行くと

黒いイチゴの木があるとか、

彼には見慣れない外国語のように

感じられる言葉で説明し始めました。

 

ビョルンは、だるそうな目で

窓の外を見つめました。

たんぽぽが咲き乱れる川岸と

カエデの森、

鏡のように輝く静かな池が、

灰色の瞳の上を

通り過ぎていきました。

むしろ寝たかったけれど、

ガタガタと揺れる馬車の騒音のせいで

それさえも容易ではなさそうでした。

 

丘の向こうに日が暮れ始めた頃、

「もうすぐです」と

エルナが再び嘘をつきました。

ビョルンの眼差しから、

強い不信感を見て取ったのか、

今度は本当だと、

エルナは慌てて弁明すると

車窓の外を指差しました。

色とりどりの花が咲き乱れる

野原の向こうに、古い石造りの建物が

見えてきたところでした。

それこそ大自然の中に、

不時着した熱気球のように

ぽつんと建てられた邸宅でした。

 

ビョルンは倦怠感の残る目で

その家を見つめました。

バフォード駅があった村を

人里離れた田舎だと思っていた

自分が情けないと思った瞬間、

馬車はバーデン家へ向かう

進入路に入りました。

 

邸宅の玄関が見え始めると、

「おばあ様!おばあ様!」と

エルナは悲鳴に近い歓声を上げました。

どれだけ浮かれているのか

耳がひりひりするほどでした。

 

やがて馬車が止まると、

エルナは自分の手で

馬車の扉を開けて駆け出し、

迎えに出たバーデン男爵夫人の胸に

抱かれました。

バーデン男爵夫人は、

エルナが淑女らしくないと

わざと厳しく叱りながらも

喜んでエルナを抱きしめました。

 

ビョルンは、

少しきまりが悪い気分で

その姿を見守りました。

まるで愛し合う家族を

無理矢理、生き別れにさせた

悪党にでもなったような気分でしたが

自分が、

その似たような何かではあるので、

特に何も言えない境遇ではありました。

 

後を付いて来た荷馬車たちが

全て到着すると、バーデン男爵夫人は

大変な失礼を犯したと、

驚きながらビョルンの方を

振り向きました。

急いで首をまっすぐに立てて

身なりを整える様子が

間違いなくエルナでした。

 

彼女は笑顔でビョルンに向き合うと

「お久しぶりです、大公」と

挨拶をしました。

遠い後日、

白髪のおばあさんになったエルナは、

こんな姿になるだろうと思うほど

孫娘に似た顔でした。

 

こんなに遠い所まで、

この老人に会いに来てくれて

本当にありがとうと言う

優しい目つきと話し方、

さらに、鈴なりのブローチと

コサージュまで、

自分の妻と同じ老婦人を

じっと凝視していたビョルンの口元にも

いつのまにか優しい笑みが

浮かんで来ました。

 

歓迎してくれたことに、

完璧な礼儀を尽くして

お礼を言うビョルンの上に、

いつの間にか濃くなった夕日が

舞い降りました。

 

「すごいです。本当に王子様だ」と

誰かの驚きに満ちた囁きが、

風に乗って伝わってきました。

本当に大丈夫なのかと、

大公夫妻を見るグレベ夫人の目は

心配に満ちていました。

「はい、十分です」と答えると

ビョルンは満足げな目で

エルナの部屋を見回しました。

 

バーデン男爵夫人は

新たに修理した客用寝室を

二人に譲りましたが、

どうやら、エルナはこの部屋に

未練が残っている様子でした。

多少不便ではあるだろうけれど、

あれほど、ここを懐かしがった

エルナの気持ちを

尊重してあげられない理由は

なさそうでした。

 

グレベ夫人は、

それなら、使用人たちを呼んで、

ベッドを交換する。

あのベッドは狭いのでと言うと、

ビョルンは笑いながら、

大丈夫だと遠慮しました。

そして、本当に大変なら

大公妃を自分の上に寝かせると

平然と言うと、グレベ夫人は驚愕し

エルナは嘆きました。

 

途方に暮れたグレベ夫人は、

小さく十字を切ると

慌てて部屋を出ました。

扉が閉まり、グレベ夫人の足音が

これ以上聞こえなくなってから、

エルナは、ようやくまともに息をすると

あんな冗談を言って、どうするのかと、

ビョルンを怒りました。

しかし、ビョルンは、

自分は、かなり真剣だと淡々と答え、

窓際に近づきました。

古い窓を開けると

涼しい風が吹いて来ました。

夜が更けて

風景は見えませんでしたが、

生い茂った木の葉が揺れる音は

鮮明に伝わって来ました。

 

エルナは、ビョルンに近づくと、

あそこに、りんごの果樹園があるので

明日、日が昇ったら案内する。

その向こうにある丘は、

今頃、花が満開なので、

一緒に散歩に行ってみよう。

あの、あの濃い影は森だけれど

深い谷間に、

自分だけの秘密の場所がある。

誰も知らない所だけれど、

特別にビョルンは連れて行ってあげると

楽しそうに、

ぺちゃくちゃお喋りしました。

ビョルンは、

真っ暗な世界の代わりに、

妻を眺めながら、

そのおしゃべりに耳を傾けました。

エルナが普段と少し違うように

感じられるのは、

おそらく場所が変わったからだと

思いました。

 

一方的に決めた今後のスケジュールを

話していたエルナが、

「本当にありがとう」と

突然、真剣にお礼を言いました。

 

エルナは、

一緒に祖母に会いに来てくれたこと、

邸宅を修理してくれたこと、

家族のために

使用人たちを雇ってくれたこと全てに

心からの御礼の言葉を伝えました。

エルナは感激のあまり

泣きそうな顔をしていました。

 

その大袈裟なお礼を受けるのが

少しぎこちなくなったビョルンは、

心地良い明かりで満たされた

部屋の中の風景に視線を移しました。

この訪問を勧めたのは母親でした。

バーデン家を修理し、

使用人を雇ったことも

母親の決定に過ぎず、

彼は少しも関与していませんでした。

 

エルナは、

ビョルンにとって、この部屋は

不便ではないかと、

彼の顔色を窺いながら

慎重に質問をしました。

そして、

これから客用寝室へ行こう。

自分はそうしてもいい。

本当に大丈夫だからと提案しました。

しかし、ビョルンは、

自分はここが気に入ったと返事をし

心からの笑みを浮かべた顔で

妻を見ました。

 

バーデン家に残っているエルナの寝室は

田舎の少女の好みに合わせて

飾られていました。

家具も小物も全て可愛らしいのが

まるでエルナのようで

悪くないと思いました。

 

「あれは、あなたですか?」

ビョルンは、

古いクローゼットのそばにある

引き出しの上に置かれた

小さな額縁を見て尋ねました。

そして、彼は、

エルナの返事を聞く前に

その前に近づきました。


エルナは、

小さな赤ちゃんを抱いた

若い女性の肖像画を指差すと、

これは自分が赤ちゃんの時に

描いた絵で、

これが自分の母だと紹介すると

照れくさそうに笑いました。

髪の色以外、

すべてが今のエルナと同じ女性を、

ビョルンは、

少し驚いたように見つめました。

エルナは他の額縁に入った絵も

一つずつ説明していきました。

 

途絶えていた肖像画は、

エルナが5歳の時、

離婚された母親と共に、

この田舎に来てから、

幼い子供が成熟した少女に育つまで

再び続いていました。

完成した油絵よりは

荒っぽいスケッチが多く、

正式に依頼した

肖像画であるはずのない

その絵を描いた画家が誰なのかは、

敢えて考えなくても

十分に分かりました。

 

パーベル・ロアー。

そういえば、

同じ故郷で育った友達だと

エルナは言っていました。

これを描いた者の目に映った少女が

どれほど美しくて大切だったかは、

絵を全く知らないビョルンも

感じることができました。

 

それなのに、友達?

心が妙にねじれる瞬間、

絵の説明を終えた

エルナが頭を上げました。

にこっと笑う顔からは、

何の怪しげな様子も

見られませんでした。

その事実が与えた安堵感と

不快感を噛み締めている間に、

エルナはベッドの横に向かいました。

ベッドベンチに用意されている

パジャマと彼を交互に見ていたエルナは

ちょっと後ろを向いていてくれないかと

困惑しながら頼みました。


ビョルンは、

これ見よがしに腕を組んで

壁に寄りかかることで、

一考の価値もない頼みを黙殺しました。

 

しばらくためらった後、

エルナは、結局諦めたように

着替え始めました。

田舎の少女に戻ったような女を

あざ笑ったのも、束の間、

事新しくもない妻の裸の後ろ姿に、

ビョルンは無意識に息を殺しました。

裸になって

ありとあらゆることをした

女性の体の前で、

こんな気分になるなんて

自分は狂っていると思いました。

 

痛烈に自嘲する瞬間にも

視線は依然として

エルナの上に留まっていました。

自分にも、

絵を描く才能のようなものが

あれば良かったのにと、

おかしいほどイライラしました。

もし、そうなら、一番最初に、

あの女性の美しい体を

描いておいたはずでした。

 

パジャマを着たエルナが

化粧台の前に座って

ブラッシングを始めた後も、

ビョルンは、その場を

離れることができませんでした。

細くて、

とても柔らかい茶色の髪の毛が

腰の下に波打つように

流れ落ちました。

その感触が、

指先から蘇るような気分は、

甘美でありながらも、

苛立たしかったです。

今すぐにでも、

手に入れればいいだけの女に対する

奇妙な渇望は、

いくらか当惑するほどでした。

おそらく

見慣れない場所のせいだろうという

結論を下した瞬間、野獣の泣き声が

ぼんやりと聞こえて来ました。

 

ビョルンが眉をひそめると、

エルナはククッと笑って、面白がり

ビョルンの友達だと告げると、

櫛を下ろして、

そっと彼のそばに近づいて来ました。

 

今は餌が多いので、

ここまで下りて来ることはないと

話すと、ビョルンは、

まさか、 あれが

狼の鳴き声という意味なのかと

尋ねました。

エルナは、

まるで子犬や猫の話でもするように

「はい」と尋常な態度で答えました。

妻の野蛮さを、

深く理解できるようになった

瞬間でした。

 

エルナは、

もし狼が近くに来ても、

空砲弾を撃てば制圧されるので、

あまり心配しないように。

1階の書斎に銃があるからと

説明しました。

 

ビョルンは、

エルナが銃を撃つことができることに

驚きました。

エルナは、

空中に撃つくらいはできると、

妖精のように清楚で、か弱い姿で、

殺伐とした言葉を口にしました。

そんな妻を見ていたビョルンは

笑いを爆発させたので、

狼の鳴き声が消えました。

 

妻のために、

気前よくしていようと思っていた

バフォード訪問が、

もしかしたら思ったより

面白くなるかもしれないという

気がしました。

 

窓を閉めたビョルンは、

躊躇うことなく

野蛮な妖精を抱きしめました。

つかつかと歩く足音の後に

二人の重さに耐えるには古すぎる

ベッドの軋む音が続きました。

 

じっとエルナを見下ろしていた

ビョルンが、

自分も一度制圧してみないかと

投げかけた言葉に、

エルナの眉間にしわが寄りました。

 

エルナは、

ここは自分にとって大切な

幼年時代が宿っている所だと

言いました。

ビョルンは、

それがどうしたのかと聞き返すと

エルナは、

自分の耳と精神を汚すような言葉は

遠慮してという意味だと

主張しました。

 

しかし、エルナが真顔で

もがいているうちに

視線の位置が逆転しました。

呆然としているエルナの影の下で

白い狼が笑いました。

どうやら空砲弾が必要なような

夜でした。

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エルナがいつもと違うのは、

シュベリン宮にいる時とは違って

人の目を気にしなくてもいいし、

子供の頃、多くの時間を過ごした家で

緊張することなく

過ごせるからだということを

ビョルンに分かって欲しいです。

けれども、新たなエルナの

一面を知ったことで、

ビョルンの気持ちが、

さらに彼女に傾いたような気がします。

 

バフォードの風景描写を

読んでいる時に、

赤毛のアンという小説に出て来る、

美しい風景のことが

思い浮かびました。

マンガでは、どんな風に

美しく描かれるかが楽しみです。

 

次回は5/3に更新します。

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