719話 タッシールは先帝の遺言について、トゥーラを問い詰めました。
◇体を取り戻すのが先◇
覚えていても忘れそうだ!
カッとなって叫んだトゥーラは
ラティルを見ながら、
みんなを座らせるか、黙らせろ!
と叫びました。
皆、座るようにという
ラティルの言葉に、
ギルゴールが真っ先に座ると、
トゥーラはとても腹が立ち、
一瞬、自分は人間に戻ったのかと
思ったほどでした。
あいつは出て行かせろ、ラティル!
とトゥーラは再び叫びましたが、
ギルゴールはニコニコ笑いながら
トゥーラに向かってウィンクすると
彼は胸をバシバシ叩きました。
それでも、
あちこち、うろうろしていた
側室たちが、一人ずつ席に座ると、
ラティルはトゥーラを見ながら
話してみろと、再度要求しました。
トゥーラは拳を握り、膝を叩きました。
彼は、他の人たちにも
腹を立てていましたが、
ギルゴールと同じ場所にいることに
腹が立ちました。
ヘウンもまた、
自分をこのような姿にしたギルゴールが
ボールを見るように、
自分を虎視眈々と見つめていると、
あるわけがない背筋がぞっとしました。
トゥーラは、
むしろ早く話を終えた方が良いと思い
自分が遺言状について話す代わりに、
ヘウンの体を元に戻す方法を
教えて欲しい。
自分にできないのなら、
ラティルがやってくれと頼みました。
彼女は目を丸くして、
自分は知らないと返事をしました。
トゥーラは、
あいつが知っているだろうと言って
メラディムを指差すと、
皆が同時に彼を見つめました。
メラディムは
ヘウンの頭を膝の上に置き、
頭を撫でていましたが、
皆につられて目を丸くし、
自分がそう言ったのかと
聞き返しました。
トゥーラは怒りで
血を吐くところでした。
しかし、彼の胸が張り裂ける前に、
幸いにもメラディムは、
すぐに話を続けました。
どのくらい昔だったか、
数代前のロードが
とても大事にしている馬がいた。
ところが、
その馬が死んでしまった。
ロードはとても悲しくて、
食屍鬼として馬を復活させた。
馬も「食餌鬼」として
復活させることができるんだと
思ったラティルは、渋い顔で
トゥーラを見つめました。
そうしているうちに
ロードが敵に追われて
急いで逃げる状況になった。
ロードは、
早く逃げればいいだけのことだけれど
問題は食餌鬼の馬。
ロードほど速くないし、
だからといって、
馬をそのまま連れて行けば、
自分はここにいると
敵に向かって叫ぶのと同じ。
それでロードは、
とりあえず頭だけ持って行ったそうだと
話しました。
側室たちとトゥーラが
ラティルを同時に見つめました。
彼女は、
どうして自分を見るのか。
自分の話ではないと
険しい表情で抗議すると、
ようやく、皆、顔を背けました。
メラディムは頷きながら
とにかく、そのロードは
馬の頭だけ持って逃げた後、
後で体を作ったと話しました。
トゥーラは胸がドキドキしました。
良い出会いではなかったけれど、
それでも、ずっと一緒にいた上、
境遇が似ていることもあり、
ヘウンとの間には
奇妙な友情が芽生えていました。
トゥーラは、
ヘウンを直す方法が
本当にあるかもしれないと聞き、
どうやって体を作ったのかと尋ねました。
メラディムは、
まず条件は、
正気であることと答えて
ヘウンを見つめると、
彼は目を素早く瞬かせました。
メラディムは、
これなら大丈夫。
たぶん、
吸血鬼を作れるロードであれば、
たぶん、
食餌鬼にも体も与えられるだろう。
たぶん、原理が似ているように
見えたからと説明しました。
彼の言葉には「たぶん」が多すぎて
信憑性に欠けたので、ラティルは
「たぶん」ではなく
正確な方法は知らないのかと
尋ねました。
メラディムは肩をすくめると、
ロードが頭を手に持ち、
どうにかこうにかして体ができたと
答えました。
トゥーラは
ラティルを見つめていましたが、
彼女がボーっとした表情をしていると
気力が抜けました。
しかし、ラティルは、
もう自分たちの話は終わりなので
次はトゥーラの番だと
厚かましく要求すると、
トゥーラは勇気が湧いて来て、
ヘウンの体を取り戻してくれたら
遺言状の内容を教えると
断固として言いました。
ラティルは、
話が違うと抗議しましたが、
トゥーラは、
あれが体を取り戻す方法に
聞こえたのか。
ただの過去の話だと言い返しました。
ラティルは、
それでも話してくれたと反論すると
トゥーラは、自分ができなければ、
ラティルが直接やってくれと
確かに言ったと言い返しました。
ラティルは、
何か反論しようとしましたが、
ギルゴールが
のっしのっしと近づいて来て、
トゥーラの髪の毛を
カブの葉を握るように掴むと、
トゥーラの頭も抜いてやると
囁きました。
トゥーラは急いで
彼の腕を払い退けました。
ラティルはため息をつくと、
メラディムに近づいて
ヘウンの頭を受け取り、
分かった、 やってみると言いました。
そして、ヘウンの頭の両側を
力強く押すと、
彼は目を見開いて悲鳴を上げたので
トゥーラは慌てて走って来て
ヘウンの頭を奪いました。
何をやっているんだと
トゥーラが怒鳴ると、ラティルは
力を入れようとしたけれど
うまくいかなかったと答えました。
トゥーラは、
ラティルがヘウンの頭を
壊すところだったと抗議すると、
ラティルは両手を広げて見せたので、
トゥーラは怒って
部屋の隅に行きました。
ラティルは再びため息をついた後、
それでは、今後、度々ここへ来て
修理、いや、体を作ってみる。
ずっと試していれば
できるかもしれない。
だから遺言状の内容から
教えてくれないかと頼みました。
しかし、トゥーラは
ヘウンの治療が先だ。
自分はラティルを信じられないと
拒否しました。
ギルゴールが再び近づいて来ましたが
トゥーラは、
また死ぬことになっても話さないと
断固として拒否し、
目をギュッと閉じました。
トゥーラとヘウンが一緒に
目をギュッと閉じて震えていると、
ラティルの心が少し和らぎました。
彼女はギルゴールに
やめるよう指示しました。
それでも、ギルゴールは
ラティルの指示を聞くかどうか
悩みながら、
トゥーラの髪をつかんだり
離したりを繰り返しました。
トゥーラは恐怖に怯えながら、
ヘウンを抱き締め、
床だけを見下ろしていました。
それでも絶対に
口を開きませんでした。
ラティルは舌打ちして、
近くの木の板を軽く叩きました。
それから、ギルゴールに
やめるよう指示し、トゥーラには
約束は守った方がいい。
自分がヘウンの体を取り戻したら、
必ず遺言状の内容を
話さなければならないと言いました。
◇嘘はつかない◇
トゥーラの住居を離れると、
タッシールは、
自分が別途、調査をしてみようかと
提案しました。
サーナット卿は、
メラディムとギルゴールが
何も言わずに、
肘で殴り合っているのを眺めながら
後から付いて来ました。
ゲスターは、食餌鬼たちに
あまり関心がないのか、
つまらなそうに歩いてました。
ラティルは、
「そうする」と答えようとしましたが
タッシールの目のクマを見て
首を横に振りました。
ラティルは、
大丈夫。 先程も言ったけれど、
何度か試せば取り戻せると思うと、
ヘイレンを
完全な吸血鬼にした時の感覚を
思い浮かべながら呟きました。
直接、噛まずに
その感覚を呼び起こすのがポイントで、
何度かやってみれば大丈夫だろうと
前向きに考えました。
トゥーラは、
隠れている最中に
こんなことで嘘をつく性格ではない。
アナッチャのためでも
嘘はつかないと思いました。
◇遺言状の内容◇
妹が夫たちを連れて出て行くと、
トゥーラは、これでヘウンの体を
取り戻すことができると
嬉しそうに話しました。
ヘウンは静かに微笑みました。
トゥーラが
よく面倒を見てくれているけれど、
このような生活は窮屈だったので、
彼も体を取り戻したかったです。
トゥーラは、
幼い頃から、一度、決心すると、
あくせく飛びかかる妹を
思い浮かべながら
ラティルは、きっとその方法を
突き止めると呟きました。
しかし、
部屋の扉の向こうから、
喜んでばかりいる場合ではないと思うと
声が聞こえたので、
二人は、そちらを見ました。
アナッチャは眉を顰めて
部屋の中へ入って来ると、
どうして、そんな約束をしたのか。
遺言状の内容を聞けば、
あの皇帝は憤慨して、
自分たちに八つ当たりを
するかもしれないと言いました。
ヘウンは
アナッチャとトゥーラを
交互に見つめながら、
遺言状には、
何が書かれていたのかと考えました。
◇突然の訪問◇
翌日、ラティルは
ぎりぎりの時間に起きました。
前日の夕方から夜まで
あまりにも多くのことを
経験したせいのようでした。
ラティルは、
急いで執務室へ行く準備をしながら
昨日のことを、
一つ一つ振り返りましたが、
先帝の遺骨を持って行った人と
遺言状の間に、
特に大きな関連はないという推測は
変わりませんでした。
ラティルは焦らず、
すぐにできることから
じっくり処理することにし、
とりあえず、ヘウンの体を
取り戻すことから
考えることにしました。
対怪物部隊小隊に
他の志願者が集まるのを
待たなければならないし、
父親の秘密の部下たちは、
まだ、しっかり隠れているので
その痕跡を見つけるまで
待たなければならないし、
レアンも、
本人が何かをしないと
捕まえることができないので、
彼が安心する頃に
大きな餌をやることは
あるだろうけれど、
彼が動き出すのを
待たなければなりませんでした。
ラティルは
少し朝食を取るよう勧められましたが
それを断り、
簡単に食べられるパンだけ
執務室に運んで欲しいと頼みました。
さて、ラティルが身支度を
ほとんど整えた頃、
扉の外で、近衛兵が
クラインの訪問を知らせました。
この時間にどうしたのだろうと
ラティルは不思議に思いましたが
タッシールに言われたことを
思い出して
気を引き締めました。
忙しいからといって、
嫌がってはいけない。
よくしてあげないといけない。
クラインが、
カリセンに帰る気にならないように
気を配らなければならない。
ラティルは、
心を一度落ち着かせてから
クラインの入室を許可しました。
そうしているうちに扉が開き、
陛下?お忙しいですか?
と言いながら、
ヒョウのように美しいクラインが
入って来ると、ラティルの口元に
心からの笑みが浮かんできました。
こちらへどうぞ、クライン。
とラティルが両腕を広げると、
クラインはうろうろしながらも
優雅な歩き方で近づいて来ました。
彼が現れると、
ラティルの髪を整えてくれた
侍女たちは顔を赤らめ、
視線を逸らしました。
私の大好きなクライン。
と言うと、ラティルは両腕を伸ばして
クラインの顔をつかみ、
彼の額にキスをしました。
皇帝の歓待に、
クラインの口元がぴくぴくしました。
彼は、自分が来て嬉しいかと
尋ねました。
ラティルは、クラインが来てくれると
いつも嬉しいと答えました。
クラインは、
それでは、毎日来ようかと
提案しました。
ラティルは返事をしませんでした。
次にクラインは、
2日に1度来ようかと提案しましたが
今度もラティルは
返事をしませんでした。
クラインの表情がピクッとすると
ラティルは、再び彼の顔を
両手で包み込み、
どうしてクラインは
こんなにハンサムなのかと囁きました。
しかし、クラインは、
2日に1度は会いたくないのだと
非難しました。
それができないのは、
ラティルが忙しいからで、
クラインだけでなく、
他の側室たちとも、毎朝会うのは
時間的に効率が悪いからでした。
しかし、このような話をして
クラインが
気分を害するのではないかと思い、
ラティルは、
今日の服はいつもと違うと
話題を変えました。
幸いなことに、好きな話題なのか、
クラインは、
今回、新しく仕立てたと言って、
すぐに新しい服を自慢し始めました。
ラティルは楽しく話す彼の顔を
嬉しそうに眺め、
クラインが話を終えて出て行くと
手を振りました。
クラインが出て行ってから、
ところで、彼は、
なぜ、こんな時間に突然来たのかと
ラティルは戸惑いました。
◇スパイ◇
どうして、皇帝の所へ行ったのかと
アクシアンに責められたクラインは
柱に頭を数回打ちつけました。
アクシアンは、
クラインが何ヶ月間か
休暇を取ると言っていたのにと
責めると、クラインは
その話をしに行ったと、
赤くなった額をこすりながら
ブツブツ呟きました。
皇帝が額に2回キスしたせいで
それが吹き飛んだいう話は
プライドが傷つくので、
できませんでした。
彼はメラディムのような
フナではありませんでした。
アクシアンは、
皇帝が他の側室たちを連れて
遊んでいるのを見て、
心を痛めたのは昨日の夕方なのに
もう気が変わったのでは
ないですよねと尋ねました。
クラインは、
分かっているし、
気も変わっていないと答えました。
アクシアンは、
それでは、また行って来るようにと
促すと、クラインは仕方なく
今度は執務室に向かいました。
しかし、堂々としていた歩き方は、
執務室付近に到達すると
急に止まりました。
クラインが柱の後ろに身を隠すと、
アクシアンは呆れて
一言、言おうとしましたが、
意外にも、クラインは
アクシアンにも静かにしろと合図し、
彼を引っ張ると、一緒に柱の後ろに
隠れさせました。
変に思ったアクシアンは、
どうしたのかと尋ねると、
クラインは、
ちょうど執務室の外に出てくる一人を
じっと見つめながら、
彼をカリセンで見たことがあると
答えました。
アクシアンは、誰なのかと尋ねると
クラインは、じっくり悩んだ後、
あの金髪の長髪の人を
カリセンのどこで見たのか思い出して
あっ!
と呟きました。
クラインは確かに
フナではありませんでした。
クラインは、
彼はスパイのようだ。
皇帝に知らせると言いました。
クラインは、
皇帝の役に立てると思い、
喜びながら、
急いで柱の外に出ましたが、
そんなクラインを、
ちょっと待ってください。
と言って、アクシアンが
後ろから捕まえました。
クラインは、なぜ止めるのかと
尋ねると、アクシアンは、
本当に皇帝に知らせるのかと
尋ねました。
この話の最初の頃は、
トゥーラは
国家を転覆させようとした
とんでもない奴だと
作者様に思わされていましたが
話が進むにつれて、
トゥーラは、そんなに嫌な奴ではないと
認識が変わって来ました。
遺言書の内容を教える条件が
ヘウンの身体を取り戻すことだったり
レアンを襲った時も、
兄弟だからと言って、
命を奪えなかったし、
皇位もレアンに
任せようと思っていたようだし、
レアンに、
ラティルという妹がいることを
羨ましく思っていたりと、
母親同士が敵対していたので、
子供同士も親密になる機会が
与えられなかったけれど、
トゥーラは、本当は
レアンやラティルと
仲良くしたかったのではないかと
思います。
ラティルのことが心底憎かったら
彼女に対して、
妹という表現を使わないように
思います。
ゲスターは、
タッシールの住居にいなかったと
思いましたが、
名前が出て来なかっただけで、
トゥーラの所へも行っていたのですね。
自分と不仲のラティルと、
5人の男が同じ部屋にいる状況は
トゥーラには
脅威的だったと思いますが、
決して自分の意見を曲げなかった
彼の精神力は
相当なものだと思いました。