493話 ギルゴールは年寄りだから大丈夫だとゲスターは言いましたが・・・
◇橋を架ける◇
もちろんギルゴールが
世界で一番年上だけれど、
年寄りと呼んで大丈夫なのかと
ラティルは納得できなさそうに
尋ねました。
ギルゴールが、これを聞いたら
とても怒ると思いました。
ゲスターは、
ギルゴールはユーモアがあるので、
こういうのが好きだと思うと
平然と答えました。
その言葉を聞いたラティルは、
ギルゴールが
怒らないような気もしました。
むしろ、年齢を気にしていたのは
カルレインの方で、ギルゴールは、
そんなに気にしていないような
気もしました。
堂々としたゲスターの言葉に
ラティルは半信半疑でしたが、
今は、こんなことを
考えている時ではないと気づき、
首を横に振りました。
ラティルはゲスターに、
あそこをどうやって通過するのかと
尋ねました。
ゲスターは、頭を使うと
簡単に通れると答えました。
ラティルは、
その方法を尋ねると、ゲスターは
口に入らない大きさの橋を造って
行けばいいと答えました。
こんな森の中で
どうやって橋を造るのかと
ラティルは怪しんでいると、
ゲスターはどこかに消え、
細長い梯子を持って現れました。
ラティルは、
なぜ、梯子があるのかと尋ねると、
ゲスターは、
家の倉庫から持って来たと答え、
口を大きく開けて
地面に埋まっている怪物たちの頭の上に
梯子を置きました。
ラティルは、
舌のようなものが
出てくるのではないかと
心配そうに尋ねました。
実際、怪物たちは、
自分たちの頭の上に
梯子が乗せられると、怒ったように
クンクンと鼻息を吐きました。
しかし、ゲスターは
大丈夫だと言って、これ見よがしに
梯子の上を行ったり来たりしましたが
怪物たちは鼻息を吐くだけで
危害を加えませんでした。
ゲスターは、
「簡単でしょう?」と言いましたが、
ラティルには、
簡単に見えませんでした。
身体の小さい人は、
梯子を渡っている時によろけそうで
まともに移動できないと思いました。
しかし、ラティルは
やってみる価値があると思い、
怪物の口を横切る梯子の上に、
足を慎重に乗せました。
ラティルは、
ギルゴールはともかく、
ラナムンは大丈夫だろうか。
ギルゴールがラナムンを
守ってくれるかわからないと
心配すると、ゲスターは、
500年以上生きてきた吸血鬼が
10人も一緒に行ったので大丈夫だと
ラティルを安心させました。
ラティルは鼻息を吐く
怪物の口を
ぼんやりと見下ろしてため息をつき
前に進み続けました。
◇ついに国境の村へ◇
山を越えていた
ラティルとゲスターは、
夜明け頃に再び宮殿に戻りました。
無理をすれば、
ずっと移動することができたけれど、
ラティルは朝になれば、
再び、忙しい国務を
執り行う必要がありました。
夜通し歩いたせいで、
元気がなくてフラフラすれば、
体力管理ができなったり、
国のことがまともにできなかったりと
あれこれ損することばかりでした。
今は残念だけれど、長期的に見れば
切り上げる時は、
切り上げなければなりませんでした。
ラティルが疲れているのではないかと
心配そうに手をつないでくれる
ゲスターを抱きしめて、
ラティルは疲れたように
ため息をつきました。
しかし、ラティルは、
自分は疲れていない。
ただ、タナサンに行った人たちが
皆、無事であることを願うだけ。
昼にでも使節団が
戻ってくればいいけれど、
使節団が、
こちらに来ているという報告は
なかったので、
おそらくそのようなことはないと
思いました。
そんな風にゲスターとラティルは
3日間、少しずつ移動しました。
そして、ついに
怪異の起こった山を抜け出して
国境の村を見ることができるように
なりました。
ラティルは、
丘の下に広がる城壁と
結構にぎやかな町を見下ろしながら、
ゲスターの腕を振り、
早く降りてみようと急かしました。
ゲスターは、
暗いので、急いで降りて
転げ落ちれば、もっと危険だと
注意しました。
そして、狐の仮面を取り出してかぶり
ラティルをしっかり抱き締めると、
何とか彼女は、はやる気持ちを抑えて
頷きました。
急いで降りても
転ばない自信はあるけれど、
前に見たような変なものが
土の下に埋もれて
口を開けているかもしれませんでした。
この時代に
気をつけなければならないのは
山賊だけではありませんでした。
ラティルは、ゲスターに
なぜ、仮面をかぶるのか。
仮面をかぶると、
前が見にくいのではないかと
尋ねました。
ゲスターは、
慣れているから問題ないし、
側室たちの記事が掲載されている
流行していると聞いたので、
もしかしたら顔を見分ける人が
いるかもしれないと答えました。
ラティルは頷きました。
確かに、考えてみたらその通りで、
そのため、ラティル自身も
顔を変える仮面を着けていたのでした。
ラティルは照れくさそうに笑い、
ゲスターに手を伸ばすと、
ゆっくり気をつけて降りようと
言いました。
◇成果なし◇
村は防御壁や丈夫そうな建物、
よく整備された道路などを見ると、
かなり規模の大きい村でした。
真夜中なので、歩き回る人は
ほとんどおらず、
居酒屋街だけが賑わっていて、
一般の商店は
すべて閉まっていました。
ラティルとゲスターは、
一番大きな居酒屋の中に入りました。
ドアを開けて入るや否や、
四方から酒のにおいが
漂ってきました。
ラティルは、
酒を飲み、
酩酊状態の人々を見回しながら、
酔っていない人が
いればいいけれどと、呟きました。
互いに肩を組んで歌を歌う者たち、
ゲームをしている者、
頭をつかんで
喧嘩している者たち、
その間を行き来する店員まで、
雰囲気は盛り上がっていました。
ここに来る間に見た、
怪物たちを思い出すと
本当に妙なことだと、
ラティルは思いました。
ラティルは、
ここにいる人たちは、
まだ自分たちの近くに
怪物が出現していることを
知らないようだと指摘しました。
ゲスターは、
あの森まで入る人は
ほとんどいないと思う。
行ったとしても、
昼間に行くだろうから、
少し備えておいた方が
良いのではないかと
返事をしました。
ラティルは眉をひそめました。
他国のことだけれど、
命が大事なことは同じでした。
しかし、
治安に力を入れろと言うのは、
他国の人間が言うには
曖昧な領域でした。
ゲスターは、
そんなに心配しないように。
吸血蝶が現れたくらいなので
タナサンでも対策を立てていると
言いました。
ラティルは頷くと、
最も騒々しい酔っぱらいに近づき、
色々な事を知っているようだけれど
いくつか質問してもいいかと
尋ねました。
酔っ払いは、
タダで話すのか尋ねました。
ラティルは、
飲み代を出すと提案すると、
酔っ払いは了承し、
何が気になるのかと尋ねました。
別の酔っぱらいが
ゲスターの狐の仮面に付いた髭を
引っ張り始めたので、
ラティルはその光景に困惑しながら
吸血蝶のことを知っているかと
尋ねました。
酔っ払いは、
そのことを知らない人は
いないのではないか。
首都とその近辺で大騒ぎしている。
不思議なことに、まだ、ここには
来ていないと答えました。
ラティルは、
その件で、タリウムから
兵士たちを送ったそうだけれど、
もしかして、
ここを通って行ったかと尋ねました。
今度は、別の酔っ払いが、
ここではなく、
もう一方の国境の村を
通ったという話があったけれど
なぜ、それを聞くのか。
誰か知ってる人がいるのかと
尋ねました。
ラティルは、
その中に友達がいるけれど、
連絡が来ない。
彼らがどのように活躍しているかなど
何か、そのような話はないかと
尋ねました。
酔っぱらいたちは首を横に振りました。
その後、ラティルは、
さらに問い詰めてみましたが、
答えは、皆、似たり寄ったりで、
その後の消息は聞いていないと
答えました。
しかし、自分たちの仲間ではないせいか
ほとんどの酔っ払いたちは、
何かあれば、
むしろ連絡して来るだろうから、
そのような話がないのを見ると、
うまく問題が解決したのではないかと
肯定的に解釈しました。
せっかく村に到着したのに
何の成果も得られませんでした。
わざわざ旅館にチェックインし、
従業員たちに聞いても同じでした。
再び、宮殿に戻る時間になると、
ラティルの暗くなった表情を
見たゲスターが、
自分だけでもここに残り、
1人で首都に移動し続けるかと
慎重に提案しました。
しかし、ラティルは
断固として断りました。
思ったより首都に進むスピードが
遅かったけれど、そんなことは、
考えてもいませんでした。
ゲスターは、
どうせ、昼にやることがないので、
その時間に歩き回っても
大丈夫だと言いましたが、
ラティルは、
突然、敵が現れたらどうするのかと
尋ねました。
ゲスターは、
もちろん自分が・・・と
言いかけましたが、ラティルは
あれだけ強いギルゴールでも
連絡が途絶えた状況なのに、
ゲスターが1人で行って、
連絡が取れなくなれば、
本当に心配で、
国務を見ることもできないと
言いました。
ゲスターは
ラティルの顔色を窺いながら頷き、
余計なことを言ってしまったと
告げました。
◇異変◇
翌日、ラティルの指示通り、
昼間、ゲスターは宮殿に留まり、
ラティルは夕方になると、
ここ数日ずっとそうであったように
ゲスターを訪ねました。
前日もラティルが
夕食を抜いてきたせいか、
ゲスターは、
大きなサンドイッチを紙で包んで
胸に抱いていました。
彼は、移動しながら、
食べればどうかと思ったけれど、
今一つかと尋ねました。
ラティルは、
ちょうどお腹が空いていた。
ゲスターは思いやりがあると
感謝しました。
その後、2人は、
すぐに昨日の村に戻りました。
念のため、あと3、4カ所だけ訪問し
使節団の知らせを聞いたら、
首都の方へ移動するつもりでした。
昨日、チェックインした旅館の部屋に
移動した2人は、
サンドイッチの包みを剥がし、
食べながら部屋の外へ出ました。
チェックアウトして、
周囲を見回したら、
その村から出るつもりでしたが、
階段を下りる前に、
ラティルは何か変だと感じました。
彼女は半分だけ包みを剥がした
サンドイッチを持って
階段を下りながら、
昨日、人々が集まって
ひそひそ話していたテーブルや、
カウンター越しに
うとうとしながら座っていた
従業員のことを思い出しましたが
今は、誰もいませんでした。
皆、どこへ行ったのか。
きれいに片付けた状態で
人がいなければ、
こんなに変だとは思わなかったけれど
灯りが点いていたり、
テーブルの上のいくつかの料理から
まだ湯気が出ていることから、
まるで人だけが消えたようだと
感じました。
外に出ても同様で、
昨日、行った居酒屋にも
行ってみましたが、
本当に人は誰もおらず、
彼らが少し前まで滞在していた
痕跡だけが残っていました。
ラティルはゲスターに
何が起こったと思うかと
尋ねました。
ゲスターは、ラティルの言う通り、
まるで、
人が消えたようだと答えました。
ラティルは、なぜ消えたのか。
理由が分かるかと尋ねましたが
ゲスターも、
分からないと答えました。
わけが分からないまま、
ラティルとゲスターは
周囲を見回しました。
そして、居酒屋から出てきた
2人の目の前に、
15本の剣が同時に向けられました。
人々を探しながら、
扉を開けて出て来たラティルは
これは何事かと思い、
剣を見下ろしました。
剣を向けている人たちは、
この村で見た人たちではなく、
彼らの服装が、
百花やタンベクなどと似ているので、
聖騎士たちではないかと推測しました。
彼らは攻撃するつもりは
なさそうでしたが、
ラティルは「誰だ?」と
断固とした態度で尋ねました。
しかし、返事はありませんでした。
ゲスターは
「逃げましょうか?」と
とても小さな声で囁きましたが、
ラティルは、それを断り、
何か誤解があるようだと言いました。
それに、ここから逃げれば、
本当に変に見えると思いました。
ラティルは、
聖騎士と思しき人々を見回し、
なぜ、自分たちに剣を向けるのか
答えろと言いました。
彼らは、今回も答えませんでした。
その沈黙にラティルが
眉をひそめた瞬間、
聖騎士たちは両側に移動し、
彼らの後ろにいた人が前に出て来ると、
誰だか知らないけれど、
自然に下の者に話すような口調で
話していると指摘しました。
彼は、他の聖騎士たちと違い、
聖騎士団の制服の上に
黒いコートを着ていました。
ラティルは近づいて来た人を見ました。
冷たい雰囲気ではありましたが、
他の人たちと違い、
会話する気はありそうでした。
目が合うと、思いがけず彼は、
適当に謝るそぶりを見せた後、
怪物が襲った村を
ラティルとゲスターだけが
無事に歩き回っているので、
少し疑わしく思ったと
言い訳しました。
そして黒いコートの男は、
ゲスターの方を振り向いて、
彼がかぶった狐の仮面を指差すと、
身分と顔を確認する必要があるので
仮面を脱ぐように。
その仮面のせいで、
余計に怪しく見えると言いました。
念のため、偽の身分証明書は
すでに手に入れて
持って来ていました。
しかし、
世界を放浪している聖騎士たちに
顔を見せるのは気が引けました。
ゲスターが心配していたように
彼の顔を知っている人が
いるかもしれませんでした。
ラティルは心配そうに
ゲスターを見ました。
彼は、簡単に
仮面を脱げずにいました。
その態度に聖騎士たちは
さらに、ラティルたちを
疑っているようでした。
ゲスターは、
ギルゴール程、強くはないけれど
黒魔術が使えます。
だから、彼は、危険だと思えば、
いつでも狐の穴から逃げられるので、
彼に任せても良いのではないかと
思います。
しかし、ラティルはゲスターが
か弱くておとなしいと思っているので
1人でそんなことを
させることはできないと
思っているのでしょう。
いっそのことゲスターは、
自分を軟弱な男ではなく、
タッシールのように、
自分だって1人で
ラティルのために働くことができると
アピールした方が、
ラティルの心を
捕えられたのではないかと思います。
ゲスターのことを可愛い、
愛らしいと思えても、
男性としての魅力は
他の側室たちと比べて
欠けていると思います。