45話 ハインリは西王国へ帰ってしまいました。
◇辛いパーティの準備◇
親しい友達が去ってしまい
ナビエは寂しくなると思いましたが
ソビエシュが
赤ちゃんの誕生を記念して
盛大なパーティを開くことになり
ナビエは忙しくなりました。
ローラは絶対に参加しないと
怒っていましたが、
皇帝の初めての赤ちゃんを祝う席に
出席しなければ
ソビエシュに
嫌われるかもしれませんでした。
しかし、ナビエも苦しんでいました。
人前で、ラスタの妊娠を
祝いたくありませんでした。
ラスタが
皇帝の赤ちゃんを授かったことを
みんなが祝っている間
毅然として笑っているのは嫌だと
ナビエは思いました。
しかし、すでに決まったパーティを
延期することはできませんでした。
ソビエシュが
パーティを開くと決めて4日後
ナビエは機械的にいろいろ指示して
歩き回りましたが
結局、逃げるように、本宮の
ベンチに座りました。
4日前、秘書に
パーティを開くことを
ナビエに伝えさせた後、
地方に視察に行った
ソビエシュに会った途端、
足を踏んでしまいそうでした。
ナビエは1人で怒りを静めていると
足音が近づきました。
きっと騎士や官吏なので
そのまま通り過ぎると思いましたが、
足音はナビエの前で止まったまま
離れませんでした。
ナビエが顔を上げると
ソビエシュが立っていました。
視察から帰ったばかりのようで
コートを羽織っていました。
ソビエシュと目が合うと
彼は眉間にシワを寄せて
具合が悪いのかと尋ねました。
ナビエは大丈夫だと答えました。
ナビエは立ち上がり
くしゃくしゃになったスカートを
叩きました。
ソビエシュは、再び
大丈夫かと尋ねました。
彼は
ナビエの内面を探るような
視線を送って来ました。
煙たい匂いがすると
ナビエは思いました。
ナビエが
ベンチに座り込んでいたから
心配して質問してきたのではないと
思いました。
彼女は、再び大丈夫と
知らん顔で答えて笑いました。
するとソビエシュは
今度は露骨に
赤ちゃんを歓迎する
パーティを開くのが
気に入らないのかと尋ねました。
ナビエは
出席するのも嫌なのに
主催しなければならないなんて
嫌なのは当然だと率直に答えました。
ソビエシュは
ナビエは相変わらず冷たい、
情がないとナビエを非難しました。
ナビエは、
自分が嫌がるとわかっていて
パーティを開くように指示した
ソビエシュも同じだと反論しました。
ソビエシュは、
小さなため息をつくと
こめかみを押しました。
ソビエシュは
このパーティを開く理由が
わからないのかと尋ねました。
ナビエは
知らないといけないのかと
逆に質問しました。
ナビエは
ラスタに良い印象を与えたいとか
初めて子供ができて嬉しいとか
自分の気分を害するためだろうと
思いました。
ソビエシュは
ナビエは、
ラスタの産んだ赤ちゃんは
皇帝の子ではないと言った。
けれども
自分たちが生きている間は
人々は
生まれてくる赤ちゃんが
皇帝の最初の赤ちゃんだと思う。
皇后が認めても認めなくても
それを見せたかった。
あの赤ちゃんは皇后の子に
なるかもしれないから
生まれる前から
憎まないで欲しいと言いました。
ナビエは、眉をしかめました。
また、その話かと
呆れてしまいました。
彼女は、ソビエシュが
無理な要求をしていると
非難しました。
しかし、ソビエシュは
自分たちの間には子供がいない。
2人共、若いから
いつかはできるかもしれないけれど
できないかもしれない。
今よりもっと若い頃にも
子供ができなかったからと
言いました。
ナビエはショックを受けて
彼を見ました。
ソビエシュは
自分で話をしておきながら
不愉快そうな様子でした。
その姿を見て
ナビエの心臓は
激しく鼓動しました。
最悪の場合
ラスタの赤ちゃんが皇族と
認められるかもしれないから
生まれてもいない赤ちゃんを
憎まないようにと
ソビエシュは言いました。
ナビエは、
ソビエシュが
そんなことを言えば言うほど
子供が憎くなると言いました。
いい子かもしれないという
ソビエシュの言葉に
ナビエは
誰に似ていて、いい子なのかと
尋ねました。
ソビエシュは、
自分とラスタの性格が
悪いという意味かと
反論しました。
ナビエは
2人のうち、どちらに似ていても
その子は自分を
好きにならないし、
2人のうち、どちらに似ていても
自分はその子を
好きにならないときっぱり言った後
急いで挨拶をして
その場を離れました。
後ろからソビエシュが
ナビエを呼びましたが
振り返りませんでした。
鼻と目がジーンとしてきて、
脳のどこかが
ひりひりしているような気がしました。
彼女は仕事に戻ると
できるだけ機械的に
業務を調整しました。
ナビエには、いつになく
クイーンの温もりが必要でした。
◇コシャール◇
ソビエシュは、
子供が生まれる前から
ナビエが敵対心を見せているので
心配だと
ピルヌ伯爵に話しました。
そして、ナビエは
皇后としては
誰よりも優れているけれど
冷たい刀のような性格なので
赤ん坊が自分に逆らうと思ったら
その冷たい性格で
どのように処理するか怖いと
言いました。
早すぎる心配だと思いつつも
ピルヌ伯爵は納得しました。
しかし、ピルヌ伯爵は
皇后よりも
コシャールのことが心配だと
言いました。
ナビエの兄のコシャールは
ナビエに似て眉目秀麗で
武術の腕前も凄いものの
随時噴火する火山のような性格で、
不毛の辺境地のパルメ地方に
ひしめいている
常時泉という危険な盗賊を
第一線で捕まえるのに役立ちましたが
暴力や、ひどい場合には
命を懸けた決闘にまで
発展するのが常でした。
妹をこよなく大切にしていた
コシャールが
妹の恋敵同然のラスタを
黙って見ているだろうか。
ソビエシュは頭痛がしてきて
宮医を呼びました。
◇可愛い妹◇
コシャールの記憶の中では
ナビエは、
まだ小さな妹なので
洋品店で、小さな女の子たちが
着そうなドレスを選ぼうとすると
一緒にいたパルアン侯爵に
ナビエは子供じゃないし
コシャールが出発する頃は
もう背が高かったと反対されました。
パルアン侯爵は、洋裁師に
友達の妹用のドレスを探すのを
手伝ってくれるよう頼みましたが
コシャールは
ナビエのサイズを聞かれても
具体的に答えることが
できませんでした。
サイズが分からなければ、
ドレスを誂えにくいので、
洋裁師は帽子を勧めました。
コシャールは洋裁師に
全ての帽子を持ってくるように
指示しました。
コシャールは、
5つの派手な帽子を選んだ後、
嬉しそうに店を出ました。
パルアン侯爵はコシャールに
そんなに妹が好きなのかと尋ね、
舌打ちしました。
コシャールは
本当に可愛いと答えた後
行列のできているパン屋へ
走って行きました。
パルアン侯爵の忍耐力が
そろそろ底を尽きそうな頃
人々がラスタの妊娠について
噂しているのが耳に入りました。
コシャールは声がした方へ
視線を向けました。
ずっと父親になりたいと
思っていたソビエシュが
初めての子を授かり
浮かれた気分でいるのは
わかりますが、
だからと言って
ただでさえ、
ラスタのことで傷ついている
ナビエ様の傷口に
塩を刷り込むようなことを言うのは
本当にひどいと思います。
未来のことは誰にも分りません。
それなのに、ナビエ様が
妊娠しないかもしれないので、
ラスタの子がナビエ様の子に
なるかもしれないと平気で口にし、
ナビエ様をどれだけ傷つけているか
気付かないソビエシュに
腹が立ちます。
ソビエシュの我が子への固執が
彼自身に悲劇を招くことになり
彼が本当に持ちたいと思っていた
ナビエ様との子を
他の男性が
持つことになったのは
すべて彼の行動が招いたことです。