外伝30話 エベリーが実の妹だと知ったダルタは・・・
◇真実は知らせない◇
エベリーが自分の妹で
イスクア子爵夫妻の下の娘で
彼女はその事実を
知らないと聞いたダルタは
外へ出た後
花壇に座り込みました。
絶対に違うと思いながらも
性格は違うのに
初めて会った時から
話が合って
訳もなく惹かれたあったこと、
エベリーが
孤児院出身であることを
思い出しました。
そして2人とも、
珍しい癒し系の
魔法使いだということも。
それでは、私の妹が
おかあさんを殺したのか。
ダルタの目から涙が
溢れそうになりました。
どうして、物事は
順調に運ばないのか。
妹を探すように言ったビンセルが
その妹に
殺されてしまったのだから。
真実を調べれば
エベリーは衝撃を受ける、
この複雑な衝撃を
あえて2人が
受ける必要はないと
ダルタは思いました。
イスクア子爵夫妻が
真実をエベリーに隠したように
自分も真実を隠して
消えればいいと思いました。
けれども、ダルタはエンジェルが
エベリーを消すと言っていたのを
思い出しました。
ダルタは急いで宮殿へ行くと
宮殿の訪問者を管理する役人に
エベリーに会いたいと言いました。
彼は、
文字がぎっしりと書かれた紙を
ダルタに渡し
そこへ名前を書くように言いました。
そこには、
エベリーに病気を癒してもらうために
多くの人の名が書かれていました。
自分の妹は
本当にすごい人だと
ダルタは思いました。
そこに自分の名前を書いても
数か月待たなければならないので
今すぐに罠に落ちるという時に
名前を書く意味はありませんでした。
焦っているダルタを見て役人は、
皆、同じような状況だから
あなたを特別扱いはできない、
それに、エベリーは旅行へ行った。
荷物をたくさん持って行ったから
すぐには帰ってこない。
と言いました。
エンジェルが罠をしかけて
待ち受けていると思ったダルタは
役人にお金を差し出して
紙とペンを貸して欲しいと
頼みました。
◇社会に戻る橋◇
常時泉が暮らす村内の訓練場で
ケルドレックは
木の人形を相手に
剣を振っていました。
改めて考えても腹が立つ!
俺たちを何だと思っているのか。
近くで娘にミルクを与えていた
富川主は
悪い奴だと思っています。
ダルタのために、
そのような提案をしたんです。
と言いました。
ナビエからの手紙には
そのことが露骨に書かれていたので
ケルドレックもわかっていました。
富川主は、手紙には他に
何が書かれていたか尋ねました。
このような状況は
二度と起こらないかもしれない。
これは俺たちが社会に戻れる
唯一の橋だと思う。
と答えました。
富川主は
この橋を渡らなかったら
孤立させて殺すぞと
脅迫しているようだ。
と言いました。
彼は深刻な顔で
モテを見下ろしました。
その子は人ではなく
天使かと思うほど
日に日に美しくなっていきました。
富川主は
ナビエの提案に
少し惹かれると言いました。
ケルドレックは
木の人形を蹴とばして
ビンセルのことを考えろ。
と言いました。
富川主は
ビンセルが生きていたら
ダルタのために
提案を受けたと思う。
首長は独身で子供もいないから
わからないかもしれないけれど
子供がいれば
その子の将来を考えざるを得ません。
と言いました。
そして、
この子の顔に
賢い、貴い、絢爛と輝く
偉いと
書いてあるじゃないですか。
この子は国を建てる
運命にあるかもしれない。
それを私のせいでダメにしたら
どうしますか?
ケルドレックは呆れた顔で
富川主を眺めました。
けれども、
彼は真剣な顔をしていました。
富川主は
すぐに断らないで会議をすることを
提案しました。
◇エベリーが危ない◇
常時泉は
提案を受け入れるでしょうか。
今まで好き勝手に
生きて者たちが
今さら法の枠内に
入るかどうかわかりません。
と副官から聞かれたナビエは
辞めたくても辞められない人は
いるだろうと答えました。
泥棒になりたくて
泥棒になった人もいるけれど
ダルタのように
常時泉が拾って育てたり
産んで育てた子供たちがいる。
ダルタのように
魔力が発現して
他の道を探すことができれば
良いけれど
身分がないので
他の子供たちは
そのような機会すら
持つことができない。
そして、奴隷になるよりは
群れの中にいて
自由に暮らせるほうが良いと
考えるだろう。
そして、その子たちが
大きくなったら
他の人をいじめることになる。
悪循環だ。
とナビエは思いました。
今までは、みんなで
わあわあ駆け回って
うまくやって来たけれど
ダルタのようなケースが
これからも
出てくるかもしれないことを
彼らは知ってしまったので
不安に思っているでしょう。
とナビエは言いました。
このままでいたい人たちと
変化をしたい人たちの間で
内紛が起こるだろうと
ナビエは思いました。
物思いに耽りながら
届いたばかりの手紙を
確認していると
ダルタからの手紙が
ありました。
エベリーとマスターズが
絡んだ事件以来
約束の期限を過ぎても
ダルタは戻ってきませんでした。
エルギ公爵の件で
彼女はエンジェルの方へ
行ったかもしれないと
ナビエは思っていました。
彼女は手紙を読むと
すぐにクロウを呼ぶように
副官に指示しました。
ナビエは
エンジェルがエベリーに
危害を加えるために
わなを仕掛けた、
と書かれたダルタからの手紙を
クロウに見せました。
ナビエとクロウは
半信半疑でしたが
ナビエは
全てを信じることは
難しいけれど
無視はできません。
と言って、クロウに
ブルーボヘアンへ行って
様子を見て来て欲しいと頼みました。
エベリーとダルタが
とても仲が良かったのは
知っていましたが
エベリーのせいで
ビンセルが死んでしまったので
ダルタが、
エベリーを生かそうとすることに
ナビエは疑問を感じました。
けれども、ダルタが
エベリーに復讐しようとしたら
あえて、このような手紙を
書くこともないと思いました。
ナビエはハインリにも
知らせることにしました。
◇息子は産めばいい◇
浮気者の息子が
女性と一緒に帰ってきたと
下女から聞いたアレイシアは
明るく笑いました。
彼女は、その女性に
挨拶をしようと思い
支度をして階段を下りると
ちょうど執事がいたので
アレイシアは
息子と彼が連れて来た令嬢は
どこにいるか尋ねました。
しかし執事は
アレイシアの質問に
視線を避けました。
息子が連れて来た女性は
すでに結婚しているのかと
アレイシアが尋ねると
執事は否定しました。
それなのに、どうして?
とアレイシアは言うと
何人かの使用人たちが
大きなスーツケースを持って
外へ出て行くのを見ました。
なぜ荷物を運んでいるの?
返事に窮している執事に
話を聞くのは諦めて
アレイシアは別棟へ行きました。
元々、そこは存在しないかのように
誰も住んでいないかのように
彼女は足を運ぶことも
見ることもしていませんでした。
アーチの下に立って
別棟を見ると
召使たちが荷物を運び
エルギ公爵が女性と一緒に
立っていました。
女性の話を聞いていた
エルギ公爵は
視線を感じたのか
アレイシアの方を振り向きました。
彼は彼女に近づくと
ここはあなたの来る場所ではない。
と冷たく言いました。
その女性は誰なのかと
アレイシアが尋ねると
エベリーは彼女に
東大帝国の魔法使いのエベリーだと
言って、挨拶をしました。
エルギ公爵が連れて来た女性が
有名な癒しの魔法使いだとわかり
アレイシアは表情を硬くしました。
大公妃を
外へ連れ出そうとしていると思い
アレイシアは悲しそうに
息子よ、どうしても、
このようにしなければならないのか。
と尋ねました。
状況がよくわからないエベリーは
席を外しました。
彼は車いすに乗っている女性を
お母さんと呼んでいるし
別の女性が
エルギ公爵のことを息子と呼ぶ。
色々な事情がありそうでした。
エルギ公爵は
アレイシアに何も言わす
エベリーと一緒に
別棟の中へ入りました。
アレイシアは拳を握りしめて
その場を離れました。
エルギは
命を助けてもらったという罪悪感と
母親の名前の評判、
母親の健康状態など
色々なことが絡んで
ここから抜け出すことが
できなかった。
でも、ここから出たら
どうなるのか?
アレイシアはわかりませんでした。
エルギは黙っていても
治療を受けて元気になった
大公妃は?
彼女は結婚して以来
親戚と付き合いがなかったけれど
ここを出て行ったら
探すかもしれない。
身分の高い大公妃が
手を差し出せば
近づいて助ける人が
いるかもしれない。
アレイシアは急いで
大公の元を訪れましたが
彼はすでに
執事から話を聞いていました。
アレイシアは、
このまま行かせるのかと
大公に尋ねました。
執事は、エルギ公爵と
話をしたらどうかと
大公に提案しました。
しかし、大公は首を振って
あれ以来、
あの子は私の言うことを
一度も聞かない。
と答えました。
しばらくの間、3人は
それぞれ自分の考えに
没頭していましたが
大公は、
息子はまた産めばいい。
とゆっくりと口を開きました。
子供は物ではありません。
自分の言うことを聞かない息子を捨て、
新たに息子を持てばいいと言う
大公はひどいと思います。
アレイシアが来たばかりの時は
愛情に溢れた目で息子を見ていたのに
体面を重視するあまり
問題ばかり起こす息子は
必要ないと
思うようになってしまったのですね。
そして、父と息子の
いさかいの原因となった
アレイシアは
エルギ公爵の命を救ったという枷で
彼を縛り付けている。
気持ちのやり場のない
エルギ公爵が
ソビエシュに復讐し
アレイシアの代わりに
女性を傷つけている理由も
分かる気がします。