1話 ラティルは皇位に就きました。
◇ハーレムを宣言◇
皇帝となったラトラシルは
頭に黄金の王冠を被り
肩に荘厳な赤いマントをかけ
大臣たちの視線を受けていました。
誰一人逆らうことのできない
皇帝という地位。
最も高い場所にいるラトラシルは
快感を覚えました。
この感じを受けたいために
ヒュアツィンテは
自分を裏切ったのかと思いました。
ラトラシルは
皇家の安定のため
確かな後継者を得るためにも
早く皇配を迎えるようにという
大臣たちの言葉を
理解していると言いました。
その言葉を聞き
ラトラクシー公爵の口元に
笑みが浮かびました。
ラトラシルを指示したことで
彼女の功臣としての地位を
確立した彼は
彼女の口から
息子のラナムンの名前が出るのを
確信していました。
ラナムンは、
家門、顔、能力まで
すべてが完璧なので
彼以外に皇配になれる者は
いないと思いました。
公爵は勝利に満ちた笑みを浮かべ
公爵派の大臣たちは
嬉しいけれど、少し残念な顔をし
公爵の敵対勢力と中間派は
苦々しい顔をした瞬間
ラトラシルは
側室を迎えることにしたと
宣言しました。
笑っていた公爵も
様々な表情をしていた大臣たちも
一様に呆けた顔で
ラトラシルを見上げました。
皆、彼女の言うことを
理解できませんでした。
しかし、ラトラシルが
まずは5人くらい入れる。
と告げると
ホールは騒々しくなりました。
ラトラクシー公爵は
今までの女帝は
一人も側室を持たなかったと言って
反対しました。
けれども、ラトラシルは
歴代の皇帝の側室の数を挙げて
みんなが置いている側室を
どうして自分は置けないのか。
少なくとも5人は
側室を置く必要がある。
と言いました。
大臣たちは、
堂々とハーレムを作ると
宣言する皇帝を
パニックに陥りながら見ました。
ラトラシルは
せせら笑うように
口の端を少し上げながら
皇后一人だけだと
外戚勢力が力を付けるので
均衡を保つためにも
他の側室を
受け入れなければならないと
主張したのは大臣たちだと
言いました。
大臣たちは皆、口をつぐみました。
彼らだけでなく
歴代の大臣たちも
皆、同じことを言いました。
ラトラシルは
いたずらっぽく微笑みながら
自分が多くの側室を置けば
女帝の婿を置く競争が
できるのではないかと
言いました。
アトラクシー公爵は
顔をしかめましたが
他の大臣たちは
女帝が多くの側室を置けば
自分たちも権力を握る機会を
得られるかもしれないと
思いました。
そして、女帝との間に
後継者が生まれれば・・・
大臣たちの目が
貪欲に輝き始めました。
ラトラシルは
ヒュアツィンテ
あなたの国にも
私の側室を選ぶ使者を送る。
今度は、あなたの手で
私の男になる人を選んでみて。
私が感じた悲惨さを
同じように感じてみる番よ。
と心の中で言いました。
◇ラティルの夢◇
6年前、
タリウム帝国の皇太子は
ラティルの兄のレアンでした。
レアンは全ての貴族が追従し
全ての民が期待するほど
王の素質を持ち
母は大貴族出身の皇后でした。
皇帝になったら
最高の賢君となる。
学者になれば
私の後を継ぐ人材だと
大賢者が感嘆しながら
レアンについて
弟子たちに話したことを
知らない人はいませんでした。
逆に、大賢者に対して
あらゆる質問を
唐突に投げかけたラティルが
覇王の資質を持っていると
大賢者が嘆いた話は
あまり知られていませんでした。
人々にとって
ラティルはレアンの妹であり
数多くいる皇女の一人でした。
ラティルも
大賢者の言葉を気にすることなく
尊敬し、
愛している兄が作る世の中を
期待していました。
兄と皇位を争うなんて
考えただけでも恐ろしいことでした。
それにラティルには
恋人のヒュアツィンテと結婚し
隣国のカリセンの
皇后になる夢がありました。
ある日、ヒュアツィンテは
農民たちの遊ぶ真似をして
草で作った指輪を
ラティルの指に
はめたことがありました。
白い花を見て
ニコニコ笑うラティルを眺め
額に軽くキスをすると
ヒュアツィンテは
愛している。
と言いました。
ラティルは、
自分もそうだと言いました。
ラティルは
茶色の髪と端正な顔立ち、
灰色の瞳を持つ恋人が
大好きでした。
タリウム帝国に
留学に来たヒュアツィンテが
挨拶をしに皇室へ来た日、
彼はラティルと目が合うと
にっこり笑いました。
その笑顔を見て
ラティルは彼に一目ぼれしました。
彼に告白された時は
心臓が荒れ狂うほどの思いでした。
恋人同士になってからは
さらに幸せになりました。
彼とは口喧嘩さえしませんでした。
ヒュアツィンテは
ラティルのために天が用意してくれた
魂の半分だと
彼女は確信しました。
それから2年間、
2人はお互いの気持ちを
強く固めていましたが
ヒュアツィンテのいない隙を狙って
彼の異母弟のヘウン王子が
反乱を起こしました。
留学期間を3年間残して
ヒュアツィンテは
カリセンに帰ることになりました。
彼は帰る前に
離れていても私の心は変わらない。
私の心の中の女性は
一生君だけだ。
と告げました。
一緒について行く、
ヒュアツィンテを助けたいと言う
ラティルに彼は
私も君と別れるのは嫌だ。
でも危険すぎる。
とラティルの涙を拭いながら
何度も繰り返し囁きました。
そして、必ず皇位に就き
世界で最も華やかな使節団を送り
彼女の父親に
正式に結婚の要請をするので
待っていて欲しいと告げました。
ラティルは
ヒュアツィンテの馬車が
見えなくなるまで
手を振りました。
その日以降、
ラティルは毎日神殿へ行き
2時間、
ヒュアツィンテの無事を
祈りました。
彼の愛を信じていたので
ヒュアツィンテが
心変わりをしないようにと
祈ることはありませんでした。
2年後、
ヒュアツィンテが
皇帝に即位した知らせが
伝わって来ました。
◇結婚相手は別の人◇
彼が即位してから
2か月が経ちましたが
結婚を申し込む使節団が来なくても
ラティルは何の心配も
していませんでした。
まず政局を
安定させなければならないので
ラティルは未来の皇后として
この程度は忍耐しなければと
考えました。
2人が並んで立っていると
お似合いだったと乳母に言われ
ラティルは喜びました。
ヒュアツィンテが落ち着くまで
ラティルは
もっと勉強をしておくと言って
帝王学の本を開きました。
乳母は
タリウム帝国にも
ラティルのような
皇后が来るべきだ。
皇太子は女性に関心がなく
本ばかり読んでいると言って
深いため息をつきました。
ラティルは
自分もそうだと言いましたが
乳母は、
ラティルは恋をして
武術も覚えて勉強もしているけれど
皇太子は朝から晩まで
本を読んでいるから
問題だと言いました。
ラティルは
ヒュアツィンテが驚くほど
勉強をしておきたいと思い
気が急いていました。
そんなある日
待ちに待った
カリセンからの使節団が
やって来ました。
ラティルは急いで部屋から出て
謁見室に駆け込みました。
そして、
会話が十分聞こえる距離にある
柱の陰に身を隠しました。
使節団と皇帝が
儀礼的な挨拶をした後
カリセンの皇帝の結婚話が
持ち上がりました。
自分を
花嫁にするという話が出てくると
期待していたラティルでしたが
予想に反して
ヒュアツィンテは
ダガ公爵家の令嬢アイニと
結婚することになったので
祝賀使節を送って欲しいと
カリセンの使節団は
タリウムの皇帝に要請していました。
花嫁は私ではないの?
私の名前がアイニだったっけ?
ラティルは一瞬
頭がおかしくなった気がしました。
確かに自分の耳で聞いたのに
信じられませんでした。
皇帝は祝いの言葉をかけていました。
ラティルは自分の部屋へ急いで戻ると
ベッドに顔を埋めて泣きました。
ラティルを心配する乳母に
彼女はヒュアツィンテが
自分以外の別の女性と
結婚する話をしました。
◇手紙◇
ラティルは危なっかしく
窓辺に座り
ぼんやりと空を見上げながら
ヒュアツィンテの悪口を言いました。
2年前、同じ空の下で
永遠の愛を誓ったのに。
あの時の彼の瞳は
愛情に満ちていました。
タリウム帝国に
知らせたくらいだから
ヒュアツィンテの結婚は
確定しているはず。
気持ちが変わったのか、
私を愛さなくなったのか。
寂しさを感じたラティルは
窓枠に額をぶつけました。
こうなると分かっていたら
ヒュアツィンテが
心変わりをしないように
祈ればよかったと思いました。
ラティルはすすり泣きました。
ヒュアツィンテが
皇位争奪戦でケガをしたと聞くのと
勝利して、自分を裏切ったと聞くのと
どちらの方が心が痛むかと考えました。
乳母がやって来て
そんな所に座っていると危ないと
ラティルに注意しました。
そして、周囲を見渡した後
カリセンの使節団の一人から
こっそり渡された
匿名の手紙を
ラティルに渡しました。
私は、か弱い女性より
自分で運命を切り開いていく
強い女性が好きです。
再婚承認を要求しますの
ナビエも
私の好きな女性の一人ですが
ヒュアツィンテにふられたくらいで
へこたれないラティルも
好きなキャラクターです。
マンガでは7話に出て来た
レアンの話が
原作では、第1話に出てきています。