230話 ラティルはサーナット卿とクラインの、どちらを選ぶのでしょうか。
◇重要な事◇
クラインは、
この近衛騎士は何なのか。
彼の言葉を聞いたけれど、
すでに勇気は溢れていると
皮肉を言い、
ラティルには、
濡れたままでいると風邪を引くから
中に入ろうと言いました。
しかし、彼女は入りませんでした。
ラティルは、
どうしようかと迷いました。
血人魚がサーナット卿を
騎士と呼んだこと。
騎士はどういう存在なのか、
自分とって、
どういう意味があるのか、
自分がロードなら、
何をすればいいのか、
聞きたいことがたくさんありました。
躊躇っているラティルを、
クラインは切実な声で呼びました。
ラティルは、困りましたが、
ロードに関する問題は、
自分の将来にとって重要なことであり
迅速に情報を把握して、
解決すべきことでした。
しかし、
クラインと温泉で楽しく遊ぶのは
別の日でも問題ありませんでした。
クラインが
大事ではないというわけではなく、
急ぐ必要がないということでした。
ラティルはクラインに謝ると、
翌日、彼の部屋へ行くと言いました。
ラティルは、
彼の怒りを鎮めようと思い、
クラインの腕に軽く触れましたが
彼は、すでに腹を立てていて、
このままでは、
また、荷物をまとめるのではないかと
思いました。
ラティルは、彼の背中を何度も叩いて
着替えるために更衣室に入りました。
そこから出た時、
クラインの姿は見えませんでした。
サーナット卿の話では、
クラインは着替えもせず、
水着の上にマントだけ羽織って
外へ出たとのことでした。
サーナット卿は、
そんなに寒くないから
大丈夫だと言いましたが、
ラティルは、寒いと思いました。
サーナット今日は、
全然、クラインのことを
心配していませんでしたが、
ラティルは、歩きながら
クラインの部屋の方向を見つめました。
◇悔し涙◇
クラインが、
泣きながら部屋に入って来ると、
バニルは、
スリッパの片方が脱げるほど、
急いで、彼の元へ駆けつけました。
彼の顔が、ひどく浮腫んでいたので
どうしたのかと、バニルが尋ねると、
クラインは、
あの者を
本当に亡き者にしないといけないと
言い出したので、バニルは、
彼がもっとひどいことを言い出す前に
足にとげが刺さって痛いと言って
クラインの気を散らし、
部屋の大掃除をしに来ていた
使用人たちを追い出しました。
彼らがいなくなると、
バニルはクラインをベッドに座らせ
目元を冷たいお絞りで拭きながら、
誰かを殴るとか、殺すとか、
ただではおかないという言葉は
他の人がいない時に言うようにと
進言しました。
しかし、クラインは、
今、そんなことを考えている
余力はないと言いました。
けれども、バニルは、
聞いている人は、
そんなことを気にかけないので、
余力がなくても、
言葉は控えるようにと進言しました。
いくら拭いても、
クラインの涙が止まらないので、
バニルは、新しいタオルで
涙を拭いながら、
クラインは、
皇帝と楽しい時間を過ごすと言って
水着を持って走って行ったのに、
皇帝は、クラインの水着姿を見て
何と言ったのかと尋ねました。
クラインは、
皇帝は他のことに気を取られて、
自分の水着姿に
関心を持たなかったと答えました。
次に、バニルは、
どうして泣いているのか。
誰を始末したいのかと尋ねると、
クラインは、
サーナット卿と答えました。
意外な名前ではありませんでした。
クラインが泣いていると聞いた
アクシアンが、
慎重に部屋の中に入ってきました。
目でバニルに「どうしたの?」と
尋ねましたが、
彼は、分からないと首を振りました。
バニルは、
サーナット卿と何があったのか。
彼が何を言ったのかと尋ねました。
クラインは、
皇帝と久しぶりに雰囲気が良かった。
水着姿の素敵な自分に、
皇帝は完全に魅了されていた。
そこへ、サーナット卿が割り込んで
皇帝を連れて行ったと大声で叫ぶと、
狂ったように、
部屋の中をぐるぐる回り始めました。
バニルは、サーナット卿が
温泉に入って来たのかと尋ねると、
クラインは、
彼は待合室で待っていて、
皇帝が飲み物を取りに行くや否や、
甘い言葉で誘って、
皇帝を連れて行ったと答えました。
すると、
空気の読めないアクシアンは、
サーナット卿が
皇帝を連れて行ったのではなく、
彼女が彼の後を
付いて行ったのではないかと
言ったので、バニルは
アクシアンの名前を大声で叫びました。
彼は口を閉じました。
アクシアンは、
お湯の入ったカップを
クラインに渡すと、
彼はようやく立ち止まり、
ソファーに座りました。
そして、クラインは、
これもすべて
ずる賢いサーナット卿のせいだ。
1度だけなら、急用だと思い、
自分も見逃すけれど、
これで3度目だと、
彼の悪口を言いました。
バニルは、クラインの言葉に
同意しました。
クラインは、
サーナット卿を
絶対にただではおかない。
殺そうが生かそうが、
皇帝のそばにいられないようにすると
言いました。
バニルは、
クラインを止めても無駄だし、
彼がサーナット卿に限って
怒るのも当然だと考えましたが、
何をするにしても、
人前ではやらないようにと
クラインに哀願しました。
◇ロードの騎士◇
本宮へ戻りながら、
ラティルは何度も
後ろを振り返ったので、
サーナット卿は、
クライン皇子のことが気になるのかと
尋ねました。
ラティルは、否定しましたが、
サーナット卿に、
後ろを振り向く理由を聞かれたので、
ラティルは、
温泉のことが気になっている。
温かったからと答えました。
すると、サーナット卿は
自分が温めてあげると
嘘をつきたいけれど、
自分には
それができないと言いました。
ラティルが横を見ると、
サーナット卿は笑いながら、
手を差し出しました。
彼女は躊躇いながら、
その上に自分の手を乗せると
カルレインほどではないけれど、
冷たい手でした。
ラティルは、
カルレインとの体温の差について
尋ねると、サーナット卿は
自分は、まだ完全ではないからだと
答えました。
そのままサーナット卿が
歩き出したので、
ラティルと彼は、思いがけず、
手をつないで歩くことになりました。
彼女にその気はなかったので、
自分の手を引っ込めるタイミングを
うかがっていましたが、
容易ではありませんでした。
ラティルは、
完全でないとは、
どういうことなのかと尋ねると、
サーナット卿は、
言葉の通りだと答え、
カルレインは完全だと言いました。
ゆっくり話をしているうちに、
いつの間にか、
ラティルの寝室の前に到着しました。
彼女は、人払いをすると、
サーナット卿をソファへ座らせました。
彼女はわざとサーナット卿と
距離を置くために、窓際に座りました。
ラティルは、
血人魚がサーナット卿のことを
ロードの騎士と呼んでいた。
カルレインは、
ラティルがロードであることを認めた。
だから、返事を避けるのは
止めて欲しいと言って、
ロードの騎士とは何なのかと
尋ねました。
サーナット卿は立ち上がると、
ラティルに近づきました。
そして、騎士たちが
忠誠の誓いをする時のように、
片膝で跪くと手を伸ばしました。
ラティルが、その上に手を乗せると、
サーナット卿は、
彼女の手の甲に
触れるか触れないくらいのキスをして、
こういうことだと答えました。
そして、
すべてのロードは
自分だけの騎士を持っていて、
騎士は、
ロードが生まれる時期に合わせて
生まれる。
同じ年頃だと説明しました。
ラティルは、
生まれる時は人間なのかと尋ねました。
サーナット卿は、
幼い時は、
自分が騎士であることを知らない。
大きくなって、
突然死んでしまうのだけれど、
その時に、自分が誰なのか
自覚すると説明しました。
ラティルはサーナット卿の首元に
手を触れました。
彼の心臓は動いていました。
ラティルは、
自分も死んで覚醒するのではないよねと
サーナット卿に確認しました。
彼は、それは分からないけれど、
ロードを殺せるのは対抗者だけなのに、
覚醒する前に、
自ら命を絶ったロードもいると
答えました。
ラティルは、
自分の部屋の窓から飛び降りたら、
覚醒するのではなく、
そのまま死んでしまうのだと
納得しました。
続けてサーナット卿は、
騎士だということを自覚すると
同時に使命も悟る。
自分は、
ロードのために生まれた存在だと
知るようになると説明しました。
以前、彼が
ラティルのために生まれた存在だと
言ったのは、
本当に言葉通りの意味だったのだと
ラティルは知りました。
彼女はサーナット卿に
血を飲むのかと尋ねました。
彼は、血は飲まない。
自分は完全な騎士ではないから。
ロードが覚醒すると、
自分も完全な騎士になる。
覚醒しなければ、
この状態のままだと思うと答えました。
ラティルは、
兄の友人のいたずらっ子が、
突然、
自分のために生まれた存在だと
打ち明けたことに狼狽し、
それならば、
なぜ、毎日自分をからかうのだと
バカみたいな質問をしました。
サーナット卿が大笑いしたので、
ラティルは顔を手で覆いました。
彼が幼い頃から
大きくなるのを見て来たので、
あんな風に言われると、
ぎこちなくて、
恥ずかしくなりましたが、
サーナット卿に
聞きたいことがありました。
ラティルは、夢の中で、
カルレインが騎士だと言っていたのを
思い出しました。
それならば、彼はドミスの騎士のはず。
今まで見て来た彼女の夢では、
まだ、分からないけれど、
最終的にカルレインはドミスを愛した。
それならば、
騎士はロードを愛するのか。
サーナット卿も自分のことを
愛しているのかと尋ねたいのに、
恥ずかしくて、
それができませんでした。
サーナット卿の瞳を見て、
質問しようとすると、
心臓がねじれるようで、
口を開くことができませんでしたが、
せっかく得た機会なので、
ラティルは恥ずかしさを抑えて
もしかして、騎士がロードに
身も心も捧げるというのは、
愛も含まれているのかと
尋ねました。
ラティルは、
カルレインがドミスを愛したように
サーナット卿も自分を
愛するようになるのかと、
純粋に疑問に
思っただけなのでしょうけれど、
そんなことを当の本人に
聞くものではないと思います。
彼女が、サーナット卿の気持ちに
少しでも気づいていたら、
絶対に、そんなことは
聞けないと思います。
ラティルの愛を得られなくても、
彼女のために生まれたから、
どんなに辛くても、
ラティルを支えると決めている
サーナット卿が、
可愛そうだと思います。
そして、良い雰囲気になりながらも
見捨てられてしまったクラインも、
可愛そうです。
邪険にされると、
ほかの側室たちに
何をしでかすか分からない
怖いゲスターもいるので
ラティルも、
側室たちを利用するだけでなく、
彼らの気持ちをよく考えて、
大切にしてあげて欲しいです。