454話 家族に裏切られたラティルにサーナット卿は、自分が家族になると言いましたが・・・
◇プロポーズ◇
ラティルは、少しかすれた声で
どういう意味かと尋ねました。
サーナット卿は、
知っているではないかと、
いつもより低い声で答えました。
ラティルは咳払いを2回して
喉の調子をすぐ元に戻してから、
自分の口で話すのは恥ずかしいので
サーナット卿の口から聞きたい。
自分が理解しているので正しいかと
聞きました。
サーナット卿は、依然として低い声で
自分の口から言うのも恥ずかしい。
けれども、自分のとても好きな人が
落ち込んでいるから、と答えました。
その答えに、ラティルは驚くと、
サーナット卿は、
恥ずかしいけれど、
自分は皇帝が好きで、
それは彼女も知っていると
呻くように告げました。
その声は、ラティルの耳を
くすぐるような感じがしたので
彼女はビクッとすると
サーナット卿は、ラティルを
眠らせようとしているかのように
優しく低い声で、
血縁だけで、
家族ができるわけではない。
知らない者同士だって
集まって家族を作る。
自分は皇帝と、
そのような家族になりたいと
告げました。
ところが、ラティルが
「養子?」と呟くのを聞くと、
慎ましい態度を取っていた
サーナット卿は、
空気の抜けた風船のように
変わりました。
サーナット卿は、
恨めしそうにラティルを見つめました。
彼女は唇をかみしめて
彼に謝りました。
サーナット卿は、
ラティルが自分の真剣な気持ちを
冗談に変えてしまったことに
寂しさを感じながらも、
ラティルがあんな風に
いたずらを始めたということは
心が少し
軽くなったということだと思い
安堵しました。
サーナット卿は、
大丈夫。
両親が驚くので、
養子縁組の件は断ると言いました。
ラティルは、
一人で笑っていましたが、
サーナット卿が、
自分をじっと見つめると
恥ずかしくなり、唇を噛みました。
そして、なぜ、彼が
そのように見つめるのかと
尋ねると、サーナット卿は
ゆっくり手を上げて、
ラティルがしきりに噛んでいる唇を
いたわりました。
彼が触れた場所には、
くすぐったくて、涼しい感触が残り、
背中がピクッとしました。
ラティルは、
自分の側室たちが全員出て行くまでは
側室になりたくないと言っていたのに
どうして急に気が変ったのかと
訳もなくぶっきらぼうな態度で、
尋ねました。
サーナット卿は、
知っているはずだと答えました。
ラティルは、
自分が泣いているのが
可哀想だからなのかと
ストレートに尋ねると、
サーナット卿はビクッとしましたが、
心が動かされ、
考え方が変わったという風に
表現してもいいと思うと答えました。
ラティルは手を伸ばして、
サーナット卿の服のタッセルを
指先で軽く叩きました。
けれども、それ以上何も言わずに
ずっとタッセルに触れていました。
彼女の意図が分からない沈黙と行動に
サーナット卿は戸惑い、
ラティルがそうしていると、
自分はもっと不安になると
言いました。
ラティルが、その理由を尋ねると、
サーナット卿は、
ラティルの手を擦りながら、
なぜ、何の返事も
してくれないのか分からない。
自分の家族になるのは嫌なのかと
尋ねました。
ラティルは、嫌ではないと答えました。
それならば、なぜ、何も言わないのかと
サーナット卿が尋ねると、
ラティルは、
良くもないから。
サーナッツ卿が側室になると
今、言い出したのは、
あまりにも即興的な判断だと思うと
答えました。
サーナット卿は、
その言葉を否定しましたが、
ラティルは、彼が雰囲気に酔って
話しているようだと言いました。
サーナット卿は、
それも否定しましたが、
ラティルは、そうだと言いました。
サーナット卿は、
ひどいとでも言いたそうに
ラティルを見つめました。
そして、ラティルも
自分のことが好きだと
言ってくれたではないかと
責めました。
ラティルは、
その通りだけれど、
慎重に考えて欲しい。
どうせ、一度に、
側室をたくさん迎え過ぎて
当分の間、新しい側室を迎えるのは
どうかと思うと話しました。
サーナット卿のタッセルから
手を離したラティルは立ち上がり
彼に向かって笑いました。
サーナット卿は、ラティルの発言を
どう受け止めればいいのか
混乱しているように見えましたが、
すぐに彼も立ち上がり、
ラティルが羽織っていた服を整え
リボンを結び直すと、
ラティルの言っていたことを
よく考えながら、送って行くと
告げました。
◇仲が悪くなりそうな予感◇
ラティルは、
サーナット卿に送られながら、
静かに、慎重に、
彼の提案を考えることができました。
ところが、宮殿へ歩いている間、
彼は悩むのではなく、
側室の数を半分に減らしたらどうか。
そうすれば、
自分の気持ちが楽になると
ラティルに交渉しました。
そんなことをすれば、
自分はとても残念だと
ラティルが返事をすると、
サーナット卿は
5人か6人にするのはどうかと
提案しました。
ラティルは、1人も減らさないと
答えると、サーナット卿は、
自分はラティルの
唯一の男でありたいと言いました。
それならば、他の女性と
付き合わなければならないと
ラティルが勧めると、
彼は、ひどいと嘆きました。
ラティルは、
新しい家族を受け入れようとして、
すでにいる家族を追い出すのは
ひどいことだと言いました。
サーナット卿は、
自分はラティルの家族になるけれど
他の側室たちは違うと
言い返しました。
ラティルは、
家族でなければ何なのかと尋ねると
サーナット卿は
「おもちゃとか」と答えました。
驚きの発言に、ラティルが咽て
咳込んでいると、
自分が話しておきながら、
恥ずかしくなったサーナット卿の鼻が
少し赤くなりました。
彼は、
ラティルには申し訳ないけれど、
彼女の側室たちは皆自分の敵なので
いい言葉が出ないと
言い訳をしました。
ラティルは、
カルレインとは、
少し仲が良いのではないかと
尋ねました。
サーナット卿は、
カルレインは500歳の
古いアオダイショウだけれど
自分はキラキラしたラティルと
同じ年代だと言いました。
ラティルは唇を噛み締めて
大笑いしていると、
寝室に向かう回廊の屋根の下で
眉をつり上げた
カルレインを見つけました。
ラティルは、
これから2人の仲が悪くなりそうだと
嘆きました。
ラティルは何を言っているのかと思い
首を傾げたサーナット卿が
一歩遅れてカルレインを発見し、
口をギュッと閉じました。
しかし、彼の表情を見ると、
500歳のアオダイショウは、
すでにサーナット卿の発言を
すべて聞いたことが明らかでした。
ラティルは、
サーナット卿の背中を叩いて、
この辺で帰った方がいい。
ここからは、
アオダイショウと行くからと
告げました。
しょんぼりしたサーナット卿は
ラティルにお辞儀をすると、
隣の扉につながる道を
歩いて行きました。
ラティルは、その後ろ姿を見た後、
再びカルレインの方を見ました。
彼はラティルの近くに来るや否や、
あのキャベツは、自分がいないと、
いつもあんな風に話すのかと
聞きました。
キャベツと聞いて、
ラティルは唇を噛みしめ、
カルレインの服に顔を埋めました。
◇永遠に信頼できる人◇
ラティルがカルレインの腕にもたれて
部屋に戻ってみると、
クラインが椅子を廊下に置き、
居眠りをしていました。
もう慣れてしまったのか、
警備兵たちは仕事をしていて、
バニルだけが、依然として
恥ずかしがっていました。
そうしているうちに
ラティルを発見すると、
バニルは助かったという表情で
すぐにクラインを起こしました。
彼は、すぐに立ち上がり、
ラティルに向かって腕を広げました。
ずっと居眠りしていた人らしくない
明るい声でしたが、
ラティルがカルレインの腕に
もたれかかっているのを見ると、
クラインは顔を真っ赤にして
「離れろ、この傭兵!」と
叫びました。
クラインとカルレインが
互いに相手を押し合う間、
ラティルは部屋の中に入りながら、
なぜ、応接室で待たないで、
いつも廊下にいるのかと
クラインに尋ねました。
クラインは、ここで待つ方が
印象が強烈だからと答えると、
ラティルは、
強烈でなくてもいいので、
中で待つように。
風邪を引いてしまうと言いました。
しかし、クラインは、
風邪をひいた時にキスをすれば
治るらしいと言いました。
ラティルは、
それならば、宮医たちに、
キスの練習をさせなければならないと
言いました。
何となく寂しくなったクラインは
ラティルの横へ来て
彼女の腕にしがみ付きました。
ラティルは、
そのままクラインを連れて、
寝室まで歩いて行きました。
そこに、
カルレインも付いて来ました。
やがてラティルの寝室は
2人の側室で
部屋がいっぱいになりました。
ラティルは、2人の側室が
互いに相手を嫌がっている間、
なぜ、彼らが、
突然この時間に来たのかと
着替えながら尋ねました。
クラインは、
皇帝が心配だったからと
答えました。
ラティルは、その理由を尋ねると
皇帝の父親が皇帝の後頭部を・・・
と言いかけている途中で、
実際にカルレインは、
クラインの後頭部を押しました。
クラインは、
2、3歩前に押し出されたので、
口を大きく開けて
カルレインを見つめ、
この傭兵は狂っているのかと
抗議しました。
カルレインは、
出て来たものを全部吐き出すために
その口は、
付いているのではないと思うと
言い返しました。
クラインは、
この不躾な奴は一体何なのかと
カルレインを非難しました。
彼は、言葉に気をつけろと
言い返しました。
ラティルは脱いだ上着を
旗を振るように、
そっと振ってみました。
しかし、カルレインとクラインは
互いに相手を警戒しているので、
ラティルが何をしているのかも
知らないようでした。
クラインは、その手から
気をつけたらどうかと
カルレインに忠告しました。
彼は、十分気をつけている。
そうでなければ、
すでにクラインは死んでいると
言いました。
クラインは、
同じ側室になったからといって、
自分とカルレインが、
同じ位置に立ったと、
勘違いしてはいけないと
馬鹿にしました。
カルレインは、
言うことがなくなると、
身分を突き付けて来ると
非難しました。
クラインは、
言うことがなければ、
拳を突きつけて来る人もいると
言い返しました。
ラティルが着替え終わるまで、
2人が喧嘩を続けていると、
ラティルは頭が痛くなってきたので
彼らに外で喧嘩をするよう告げると、
手を振って2人を追い出しました。
そうでなくても
気が動転して死にそうなのに、
目の前で2人が喧嘩するのを
見たくありませんでした。
クラインは、
皇帝をずっと待っていたのにと
抗議しようとしましたが、
カルレインは容赦なく彼を捕まえて
出て行きました。
連れて行かれる姿が
少し乱暴だったので心配でしたが
それも束の間。
ラティルは心配するのをやめました。
カルレインは、自ら
境界線を守るだろうし、
タッシールが
秘密を明かすのではないかと
戦々恐々としながらも、
結局、彼に
手を出さなかったからでした。
ラティルは、
ため息をついてベッドに上がり
目を閉じました。
実は、タッシールが来ると
思っていましたが、
それでもカルレインとクラインが
心配して来てくれて良かったと
思いました。
それに、他の側室がいる限り
側室にはならないと言っていた
サーナット卿も、
自分が家族になって裏切らないと
言ってくれました。
ラティルは、
微かに微笑みましたが、
再び心の中に冷たい風が吹くと
顔を歪めました。
自分のことを気にかけてくれる
側室たちはありがたいけれど、
両親とレアンとも、とても仲が良く
裏切られる瞬間まで
ラティルは家族の裏切りに
気づきませんでした。
今、側室たちとうまくいっても
裏切らないと断定することは
できませんでした。
ラティルは、信じられるのは
自分だけだと思いました。
500年間一人だけを愛してきた
カルレインを見ると、
吸血鬼の騎士は
信じられるのではないかと思うけれど
ギルゴールは騎士でありながらも
ロードたちを裏切ってきた。
今は、なぜか、
ラティルのそばで過ごすことに
興味を持って、
側室でいてくれているけれど、
果たして彼が、永遠に
そばにいようとするだろうか。
やはり、騎士も、
永遠に信頼できないのではないか。
ギルゴールに、
過去の話をもっと聞きたいけれど、
話すのを嫌がるので、
聞くこともできませんでした。
◇クラインの疑問◇
その時刻、
ラティルに追い出され、
やむを得ずカルレインと
ハーレムまで一緒に
歩いて行くことになったクラインは
不安のため、
普段より顔がむくんでいました。
一方、カルレインは、
いつもと変わらず無表情でした。
彼は、歩きながら
クラインに一言も話しかけず、
2人に従う侍従たちも
同様に静かでした。
そうして歩いているうちに、
ようやく、ハーレム区域内に入り、
カルレインが別の道へ
行こうとしたところ、
クラインは彼を呼び止めました。
カルレインは眉をひそめて
クラインを見つめ、
また喧嘩をしようとしているのか、
ここには皇帝もいないので、
大目に見たりしないと警告しました。
ところが、意外にもクラインは
喧嘩を売ろうとしているような
顔ではなく、
少し、もやもやしているような
表情でした。
カルレインは、どうしたのかと思い、
彼をじっと見ていると、
クラインは眉をひそめ、
皇帝とタッシールは、
トゥーラ皇子が生きているかのように
話をしていたけれど、
どうしてなのか。
カルレインも、
何か関係しているようだけれど、
理由を知っているかと尋ねました。
サーナット卿が自分の考えを変えて
ラティルにプロポーズしたまでは、
カッコ良かったのに、
後で、無理なお願いを
するところを見て、再び彼に幻滅。
しかも、色々と助けてもらっている
カルレインのことを、
500年も生きている
古いアオダイショウと呼んだり、
側室たちをおもちゃと呼ぶのは
いかがなものかと思います。
まだ、サーナット卿は
ラティルの側室になっていないので
主君であるラティルの側室たちには
敬意を払うべきではないかと
思います。
いつものサーナット卿が
ラティルをからかうのと同じ調子で
側室たちの悪口を
言っているだけなのでしょうけれど
カルレインが不愉快になるのは
当然だと思います。
カルレインにキャベツと呼ばれ
ギルゴールに頭が花園と言われても
仕方がないと思います。
サーナット卿は、
ラティルにとっての一番に
なりたいのでしょうけれど、
何かと言うと
タッシールのことを
思い出す彼女にとっての一番は
タッシールなのかなと思います。