86話 何も考えられなくなったルーでしたが・・・
執務室で何をしているのかと
カルロイに尋ねるティニャ。
もうすぐ政務会議なのに、
何も知らずにいたらおかしいと
答えるカルロイ。
会議に出席するのかと
尋ねるティニャ。
カルロイは、
そうしなければならないと
答え、ティニャに
感謝の言葉を伝えました。
書類を見たカルロイは、
ベルニが、
姫の私生児が勝手にしたことだから
自分たちは全然知らないと
主張しているのを知り、苦笑すると、
本当に気楽でいいと皮肉を言いました。
ティニャは、
ベルニ王室でも、王族として
扱われたことがないようなので、
使いやすい手駒だったのではないか。
遺憾の意を表して、
ある程度の補償を提示して来たけれど
自分たちに責任があるという
表現ではなかったと言いました。
カルロイはため息をつくと、
それとは別に、
休戦協定を無視して、
勝手に軍隊を移動させた責任は
負わせる必要がある。
ラルトアと共に、
ベルニに補償を求めるべきだと
言いました。
ティニャは、すぐにラルトア大使に
連絡を取ると返事をしました。
続けてカルロイは、
クロイタンの目から
出たものではなく、
デロア公爵邸に、
特別なものはなかったのかと
尋ねました。
ティニャは、
特別なものは出ていないし、
デルアの側近だったという
侍女長の息子の行方も分からないと
答えました。
カルロイはため息をつきました。
ティニャは、
カルロイが来たついでに、
この書類も確認して欲しいと言って
皇妃の離婚請求書を差し出しました。
その内容は、
クライド・アンセンとの艶聞説が
皇室の品位を傷つけたので、
その責任を認め、
皇妃の座から退くというものでした。
カルロイは、
キアナの評判が落ちることを
心配しましたが、ティニャは、
どうせ、追い出されるように
マハに行かなければならない
状況なので、
クロイセンの評判など、
何の役にも立たないと言われたと
キアナの言葉を伝えました。
カルロイは、より多くの
お金をあげる必要があると言うと
ティニャは、
キアナはお金ではなく、
クライド卿の爵位を求めていると
言いました。
カルロイは、
先ほど、マハへ行くと
言っていなかったかと尋ねました。
ティニャは、
いつかは戻って来ると
考えているのではないかと答えました。
カルロイは、
書類にサインをしながら、
クライド卿のおかげで、
私生児の立場が変われば、
リリアンの立場も
変るのではないかと考え、
クライド卿のことは
何とかしてみると告げました。
そして、
静かにドニスの葬儀が行えるよう、
3日後までに、
東宮の3館全てを空けるよう
指示しました。
そのためにカルロイは
執務室に来たのかと
ティニャは考えましたが、
不都合のないようにすると
返事をしました。
カルロイは、
デルアの死体について尋ねると、
ティニャは、彼の指示通り、
人前で四肢を切り落として
獣の餌とし、
首は広場の中央にさらしたと
答えました。
カルロイは、
デルアが5回くらい生き返り、
その度に命を奪えば、
怒りが収まりそうだと言いました。
ティニャは、
同感だけれど、
未来を剥奪されることほど、
大きな罰もないと言いました。
カルロイは、
罰を受けなければならない人は
デルア1人だけなのかと考えました。
そして、ルーがカルロイに
死なないで、楽になってと
言っていたのを思い浮かべ、
リリアンはすでに
約束のない未来という罰を
自分に与えたと思いました。
大雨の降る日、
ルーの母親は火葬されました。
カルロイは、
よろけたルーの腕をつかみながら
彼女がお酒を飲んでいることを
指摘すると、ルーは
その手を払い退け、
少しくらい飲んでも死にはしないと
言い返し、こんな日にも
雨が降るなんて呆れると呟き
笑い出しました。
ルーが笑うのを止めると、
カルロイは、
彼女を呼びましたが、
ルーは彼の手から傘を叩き落とすと
顔も見たくないと言いました。
雨の中に立ち尽くすルーに
カルロイは傘を差し出し、
謝りながら、
それでも、雨に濡れてはいけないと
言いました。
ルーは、
この宮殿で、唯一頼れたのは
カルロイ1人だけだったのにと
考えながら、
今さら、
こんなことをしないでと言って、
彼の胸を叩きました。
包帯の下から、
血が滲んでいるルーの手を
カルロイはつかみ、
このままでは、
ルーがケガをするので、
自分で自分を殴ると言いました。
こんなに簡単に
自分の存在を受け入れながら、
一体どうして、以前は、
それができなかったのかと
ルーは疑問に思いました。
そして、
カルロイが苦しむ顔を見ると
気持ちがすっきりするけれど
息苦しくもあるのが、
おかしいと思いました。
ルーは、
今さらどうして、
自分がケガをするのを
見ていられないのかと尋ねながら、
自分1人が辛くて、
頭がおかしくなりそうなので、
恐怖を感じ、
腹を立てていました。
ルーは、
以前のカルロイは、
自分に死んで欲しいと
言っていたけれど、今は、
言うのを我慢しているのかと
尋ねました。
そして、
ルーはカルロイに、
自分のように、
もっと苦しんで欲しいと思い、
カルロイに背を向け、
雨の中、裸足で駆け出しましたが
彼はルーの前に立ちはだかり、
手を震わせながら、
彼女の肩に自分の上着をかけ、
そんなことはやめるように。
むしろ自分を苦しめるようにと
言いましたが、ルーは、
何を言っているのか、
今、そうしていると
返事をしました。
ルーがデルア領に
帰りたいと言った時に、
カルロイが、ルーを帰してあげても
母親は、すでに
亡くなっていたかもしれませんが
彼が自分を信じてくれたことに対して
ルーは彼に感謝したかもしれません。
けれども、今のルーは、
カルロイが帰してくれなかったら、
子供の頃、彼を助けたから、
母親が亡くなってしまったと
考えているように思います。
ルーが以前のような彼女に戻るには
時間がかかりそうな気がします。