100話 ルーはこれからも生きて行こうと思うなら、皇后として生きていくことはできないと思いました。
ついに聴聞会も終わった。
ベルニの王の陰気臭い顔を見るのが
どれだけ苦痛だったことか。
戦争の話で震えあがっている様子は
とても面白かったけれどと
くすくす笑いながら、
ベルニに対する聴聞会は
本当にこのように終わらせていいのか。
自白したから見逃すなんて
あり得るのかと
ブレイズ(マハ王の弟)は
カルロイに尋ねました。
カルロイは、
今回の聴聞会で、治療に役立つ情報を
たくさん得られたので
皇后が早く治るようにもっと努力すると
宮医が話していたのを思い出しました。
ブレイズは、
この機会に
クロイセンからベルニへ行く道を
開通させれば、通行料を
たくさん取れるのにもったいない。
マハがベルニを骨の髄まで
しゃぶり尽くす
いい機会だったのにと
残念がりました。
カルロイは、
今すぐ使える情報は
得ることができたからと答えました。
それを聞いたブレイズは、
カルロイがベルニに
本当のことを言ったら、
見逃すと言うのは、
真っ赤な嘘だったのか。
ベルニをどうするつもりなのか。
国対国で、
もっと濃い話をする必要があると
思わないか。
今度はカルロイがマハに来い。
姉がマハでカルロイに
会いたがっていると、
目をキラキラさせながら誘いました。
しかし、カルロイは、
反乱が終わったばかりで困るので、
今回はティニャを送ると言いました。
ブレイズは、
反乱は簡単に鎮圧したのだから、
昔のよしみで、
気楽に話してみたらどうかと思い
招待しているのにと文句を言うと、
カルロイはブレイズに、
マハに戻って元気に過ごすようにと
返事をして、立ち去りました。
ブレイズは呆れました。
ルーは明るい太陽の下、湖畔で
顔やエプロンに絵の具を付けながら
母親の絵を完成させました。
ルーがラ・ソルティオへ来てから
いつの間にか2カ月が過ぎました。
彼女は基本的な楽器演奏が
できるようになったし、
マハ語も少しできるようになりました。
キアナのくれた変な本も含めて
本もたくさん読みました。
絵を描くことは日課になりました。
このようなことをすることで
生きる意欲が湧いたかどうかは
分からないけれど、
生きることが大変ではなくなりました。
もう母親の絵を見ても、
涙が出て来なくなりました。
だから、ラ・ソルティオを離れても
大丈夫だと思いました。
できるだけクロイセンから遠い所へ
行きたいと思いました。
そこへオリビアがやって来て、
プルトゥから客が来たことを
伝えました。
やって来たのはティニャだったので
ルーは、彼女が
自分に何かを期待しているのかと思い
戸惑いました。
ルーはティニャに
ここまで来た理由を尋ねました。
ティニャは、
知らせたいことと
説明したいことがあると言って、
まず、デルアから回収した財産の一部が
ルーの所有になったと伝えました。
ルーが驚いていると、ティニャは、
そんなに驚くことではない。
デルアの命を奪った功績がある。
それに、ルーは法的にも
もうデルアではない。
もし、
他の家門の養女になりたければ
自分が手はずを整えると説明すると、
ルーは、そういうのはいい。
あえて姓が必要なら、
母親の名前を姓にすると
言いました。
ティニャは、そのように処理すると
返事をしました。
ルーは彼女の顔を見ながら
ティニャはまだカルロイを
憎んでいるのだろうかと
考えました。
続けてティニャは、
その他のルーに帰属するものについて
話していましたが、彼女の話は
頭に入って来ませんでした。
そして、ティニャに、
他に質問はあるかと聞かれると、
ルーは、もうすぐ、
ラ・ソルティオを出るつもりだと
答えました。
ティニャはルーに
どこへ行くのか聞いてもいいかと
尋ねました。
ルーは、
たぶんマハに行くことになる。
その後のことは、
後で考えてみるけれど、
皇后の席からは退くと答えました。
ティニャは、
カルロイのことを考えると
気が重くなりましたが、
分かったと答えると、
これで自分は帰ると告げました。
ルーはティニャに渡す物があるので
少し待って欲しいと言って、
彼女の日記帳を取りに行き、
それを渡すと、
読んでしまったことを謝りました。
けれども、ティニャが
どうやって全ての苦痛に耐えたのか
知りたかったからと言い訳をすると
ティニャは、
あまり役に立たなかったと思う。
恥ずかしいことばかり
たくさん書いてあるからと
返事をしましたが、
ルーは、そんなことはないと
否定しました。
そして、
ティニャは生きているし、
生きているから、
自分に何かを見せてくれたと
言いました。
ティニャは髪を縛っていた紐を解き
それで日記帳に石を括りつけると
湖へ放り投げました。
驚くルーにティニャは、
今の自分には必要ない。
もう怒りはなくなり、
アデライドが死んだと言う事実を
認められたから。
アデライドのことを
あまりにも長い間、
自分の感情に縛り付けていたけれど
もう解き放つ時が来た。
日記帳に吐き出した感情のせいで
あの子が望まないこともした。
あえて願うなら、いつか皇后が
少しでも元気になって欲しいと
告げました。
ルーは、
最後にもう一つだけと言うと、
ティニャは、
あの方は大丈夫なので、
心配しなくてもいいと
返事をしました。
ルーは、
良くなって良かったと思いました。
そして、ティニャは、
もう、あの人を憎んでいないのかと
尋ねました。
ティニャは、
彼を見ていると、
心は複雑になるけれど憎くない。
実は自分は、
憎む資格もなかったと答えた後、
帰りました。
ルーは1人で湖を見つめ、
ティニャが、
もう怒りがなくなり、
アデライドが死んだという事実を
認められると言っていたのを
思い出しながら、自分は、
まだ母の死のことを思うと
腹が立つだろうかと考えました。
そして、ティニャが
カルロイを見ていると
心は複雑になるけれど
憎くはないと言っていたのを思い出し、
自分はカルロイに対して、
どのような感情を
抱いているのだろうかと考え、
それが、ルーの頭の中を
かき回していました。
一方、ルーの部屋にいるカルロイは
ティニャに、
いっそのこと、一度会いに行けと
言われました。
カルロイは、誰に会いに行くのかと
尋ねました。
ティニャは、
こんな情けないことをしていないで
ラ・ソルティオへ行って、
顔でも一度見て来いということだと
叱りつけました。
カルロイが情けない状態に
なっていることを
ティニャがルーに話せば、
せっかく元気を
取り戻しつつあるルーの精神状態が、
また悪くなる恐れがあり、
それを心配したティニャは、
ルーに嘘をついたのだと思います。
登場したばかりの頃のティニャからは
想像もできません。
デルアが死んだことと、
カルロイのルーを思う気持ちが
ティニャの心の枷を
解き放ったのかもしれません。
ティニャの勧めに従い、
ルーに一度でも会えば、
少しはカルロイも元気に
なれるかもしれませんが、
今のルーがカルロイと会えば
まだ動揺するような気がします。
ルーが完全に
母親の死を乗り越えられたら
カルロイを助けることが
できるのではないかと思います。