407話 ギルゴールがラティルにキスを迫っているところをトゥーラとアイニが見ています。
◇トゥーラも怪物◇
吸血鬼は目を閉じて
キスを待っているけれど、
相手がすぐに応じないので
早くしろとばかりに
指で自分の唇を
トントン叩いていました。
トゥーラは
「狂っている」と呟くと、
アイニにも見えるかどうか
分からないけれど、
あの白い髪の男は
完全に狂っている吸血鬼なので、
別の道へ戻ろうと
アイニに勧めました。
アイニは望遠鏡でそちらを見て、
ギルゴールだと呟きました。
トゥーラはアイニが
彼を知っているなら、
彼が狂っていることも
知っているだろうから、
別の道へ戻ろうと、再び勧めました。
トゥーラは、
ギルゴールがおかしなことを
喚きながら、城門を壊し、
自分を見るや否や、
首を抜いてしまったことなど、
まだ生々しく覚えていました。
その彼が、大人しく座って
キスをせがむなんて、
理解できませんでした。
本来の彼は卑劣で意地悪に
違いないと思いました。
城門を壊しに来た時も、
最初は切実で哀れな声で
許しを請いながら、
何度もドミスの名を呼んでいました。
しかし、
トゥーラが何度も催促しても
アイニは動きませんでした。
代わりに彼女は望遠鏡を下ろし、
わざわざ、
別の道に戻る必要はないので
キスが終わるのを待とうと、
落ち着いて話しました。
アイニは、
ギルゴールから対抗者としての
訓練を受けるために
拉致される前に彼を探していました。
しかし、いくら待っても
彼は来なかったので
とりあえず剣術でも
身につけようとしましたが、
ここで会うことができて、
かえって良かったと思いました。
前回、
彼を吸血鬼だから捕まえろと
命令したことを謝罪し
教えを請うつもりでした。
トゥーラは、
あれを見ろと言うのかと
アイニに抗議しましたが、
彼女は、自分たちが
彼らの寝室に入ったのではなく、
彼らが広々とした野外で
していることなので、
構わないのではないかと
返事をしました。
トゥーラはカッとなり、
あんな怪物のキスシーンが見たいのかと
尋ねると、アイニは
トゥーラも怪物だと指摘しました。
その言葉にトゥーラの瞳が揺れ、
イライラしながら
勝手にしろと言いました。
しかし、いざアイニが
再び望遠鏡を目に近づけると、
トゥーラは嫌そうな顔をして
望遠鏡を押し下げ、
勝手なことをするなと言いました。
1秒もしないうちに
彼の言うことが変わったので、
アイニは当惑して彼を見ました。
◇あなたたち◇
ラティルはドキドキしながら
ギルゴールの唇を見ました。
青白い肌の上にある、
よく熟した赤い果物のような
赤い唇は、
ラティルの目を引きました。
彼の唇は完璧で、誓約式の日の
彼とのキスを思い出させました。
彼が催促するように
指で自分の唇を叩くと、
ラティルは、
涎が溢れ出て来ました。
閉じていた彼の唇の端が
そっと上がるのを見て、
ラティルの心臓は
素早く叩かれているような
感じがしました。
ラティルはゆっくりと、彼の唇に
自分の唇を近づけました。
冷たくても柔らかい、
吸血鬼たち特有の唇に触れると
ラティルは息を吐きました。
彼女は、
少し開いた彼の唇の間を舐めて
笑いました。
ギルゴールは、片手で
ラティルの頬を包み込みました。
ラティルは、自分の手を
彼の手の上に重ね、
彼の手のひらにキスをすると、
私は、あなたたちの
こういう肌触りが好きです。
と呟きました。
その瞬間、
ずっと目を閉じていたギルゴールが
ビクッとして、
ゆっくりまぶたを上げると、
あなたたち?
と尋ねました。
ラティルは悲鳴を上げました。
ギルゴールの手の上に
重ねていた自分の手から力が抜けて
自然と膝の上に落ちました。
ラティルは
言い訳をしようとしましたが
ギルゴールは彼女を寝かせました。
ギルゴールは怒っただろうかと
ラティルは考えました。
自分だって、
カルレインにキスされている時に、
彼がドミスを思い出すような
言葉を言えば怒るだろうし、
ギルゴールはカルレインと
同じ魂ではありませんでした。
ラティルを暗い視線で
見下ろしていたギルゴールは、
ラティルは比較するのが
好きみたいだと指摘しました。
ラティルは、
そんなことはないと否定しましたが
ギルゴールは、
比較しながらやりなさいと
言いました。
誰と比較するのかと
ラティルが戸惑っていると、
ギルゴールは、
くすぐったくなるような
短いキスを、あちこちにしました。
それから、ラティルの唇を
親指でこすりながら
軽いキスは誰が上手なのかと
尋ねました。
ラティルは顔を真っ赤にして
戸惑っていると、ギルゴールは
比較対象が7人もいるので、
順番を決めるようにと言いました。
しかし、すぐにギルゴールは
もう少しやってみないと
分からないだろうと言って、
今度は長いキスをしました。
ラティルは、思わず手を伸ばして
彼の首を抱き、
彼の髪の間に手を埋めて
自分に引き寄せました。
ラティルは気が抜けて
ボーッとしていると、
ギルゴールは、再び唇を離しながら
このようなキスは誰が上手なのかと
尋ねました。
ラティルは顔を真っ赤にして
彼を睨みつけました。
ギルゴールはラティルの瞼に
キスをしながら、ラティルが
「あなたたち」って言ったのは
この話をしたかったからではないかと
尋ねました。
ラティルは、ギルゴールに
嫉妬しているのかと尋ねましたが
彼は否定をせず、
「たくさんするよ」と言って
ラティルのこめかみにキスをして
耳たぶを噛みました。
彼がラティルの方に
上半身をかがめたせいで
彼の鎖骨とその下の部分が
少し見えました。
ラティルは手を伸ばし、
ギルゴールの腰を触りました。
そして、ギルゴールの背中と腰を
少しずつ撫でているうちに、
前にゲスターの大事な所を
つかんでいて、
急に放したのを思い出し、
こっそり視線を下げました。
しかし、なぜがギルゴールは
すぐにそれを察知し、
うちのお嬢さんは腹黒い。
もうそこを見ているのかと
からかいました。
ラティルは、
顔が張り裂けそうな気分で
上半身を起こし、
自分の顔が見えないように
彼の身体をギュッと抱き締めました。
ギルゴールは、
声を出さずに笑っているのか
彼の身体が震えていましたが、
ラティルは構わず
ギルゴールを抱き締めていました。
ところが、遠く離れたところで
苦虫を嚙み潰したような顔の
トゥーラを見つけてギョッとし
ギルゴールを横に押しました。
ギルゴールは、
ラティルの力がとても強いことを
少し考えて欲しいと文句を言い、
フラフラしながらも
バランスを取りました。
そして、ラティルが見ている方を
彼も見ると、
ドミスの真似をしていた子たちかと
嘆きました。
ラティルは、
ギルゴールの言葉を聞いて、
トゥーラの隣に、
アイニがいることに気づき
驚きました。
◇謝るアイニ◇
ラティルは、ギルゴールに
アイニ皇后を知っているのかと
尋ねました。
彼は笑いながらトゥーラを指差し、
自分は、隣のあの男のことを言った。
あの食屍鬼は、ロードのふりをして
狐の城に隠れていたと答えました。
それを聞いたラティルは唸りました。
続けてギルゴールは、
どうやらアイニ皇后も
ドミスの真似をしていたようだ。
お嬢さんが対抗者だと
自分を騙していた時に
ドミスの顔をして、
自分を騙したのが彼女だったのかと
指摘しました。
ラティルは
ギルゴールが知らなかっことを
教えてしまったと思い、
心の中で嘆きました。
そして、当惑したラティルは
突拍子もない方向に目を向けると
ギルゴールは、
お嬢さんが失言したのは事実だけれど
すでに知っていたので
心配しないようにと言いました。
ラティルは、
驚いたではないかと文句を言うと、
ギルゴールは、ラティルが
目を転がすのが可愛いと言いました。
ラティルは唇を尖らせて、再び
アイニとトゥーラの方を見ました。
アナッチャがアイニを拉致したと
思っていたけれど、
なぜ、トゥーラとアイニが
一緒にいるのか。
アイニは、
引きずられているようには
見えないけれど、
逃げても無駄なので、
自分の足で付いて来たのかと
考えました。
ラティルたちが自分たちに
気づいたことを知ったのか、
アイニとトゥーラは立ち上がり
ラティルたちに近づいて来ました。
あの2人は、
自分たちがキスしていたのを
全て見ていたのではないかと思い
ラティルは眉をひそめましたが、
今、自分は偽の顔をしていることに
気づいて安心しました。
ラティルは
彼らがこちらへ来ようとしている
理由について、
ギルゴールと一緒に考えていると
ようやく近づいてきたアイニが
思いがけずギルゴールに
先に謝りました。
なぜ謝るのか、
ラティルは目を丸くして
ギルゴールを見ました。
彼も、アイニがなぜ自分に謝るのか
分からない顔をしていました。
その表情を察したアイニは、
以前、ギルゴールが、
自分を襲撃しようとした
吸血鬼だと言って、
捕まえさせようとしたと告白しました。
ギルゴールは、
あのことかと呟きました。
アイニは自分の非を素直に認め、
ギルゴールは対抗者の師匠なので、
彼から、強くなる方法と
まともな対抗者になる方法を
学びたいと頼みました。
ラティルは
ギルゴールとアイニを交互に見ながら
ちらっとトゥーラを見ました。
アイニは
ギルゴールに会いに来たとしても
なぜ、トゥーラはここへ来て、
アナッチャはいないのか。
絶壁から落ちて、
彼女は助からなかったのか。
先程は、アイニが仕方なく
付いて来たと思ったけれど、
彼女が、すぐにギルゴールに
対抗者の師匠なって欲しいと
頼んでいるのを見ると、
そうではなさそうだと考えました。
トゥーラもラティルを見ましたが
彼は「サビ」には何の関心もなさそうに
すぐに顔を背けました。
彼の関心は全て、
ギルゴールに注がれているようでした。
一方、ギルゴールは、
すでに、自分は
かなり心を痛めているのに
今さら師匠になって欲しいのかと
アイニの頼みを断りました。
ギルゴールは、
アイニを教えると言って
カリセンに行ったはずなのに、
今は考えが変ったのか。
確かに、アイニが拉致されたので
対抗者の剣だけ持ってきたと
言っていたけれどと
ラティルは考えました。
しかし、アイニは
ギルゴールに断わられても、
気にせず、彼に、
一度もきちんと話をせずに、
追い出すべきではなかったと
再び謝りました。
しかし、ギルゴールは、
それでも気が済まないと
言いました。
しかし、アイニは
再びギルゴールに謝ったので、
ラティルは驚きました。
彼女は本当に大変だったのだと
思いました。
トゥーラも驚いた表情で
アイニを見ていました。
そんな中、
1人だけ元気なギルゴールは
じっくり考えた後、
ニヤリと笑いながら
トゥーラを見つめ、アイニに、
それでは、その覚悟と才能を
見せて欲しいと言って、
まず、その食屍鬼の命を奪えと
指示しました。
恋したことのない
トゥーラは誰かとキスをしたことも
ないでしょうから
他の人がキスをしているシーンは
彼にとって刺激的すぎたのかも。
一方、
自分の弱さを痛感したアイニは
本当に強くなるために
ギルゴールの助けが必要なので
良い雰囲気の2人の邪魔をして
彼の機嫌を悪くしたくないし、
別の道へ行って
彼を見失うくらいなら、
終わるまで待つのが一番良いと
思ったのかもしれません。
様々な苦難を経験したせいか、
アイニは肝が座るようになったと
思います。