408話 ギルゴールはアイニに、対抗者になる覚悟と才能を見せろと言われましたが・・・
◇合格の条件◇
ギルゴールはアイニに
対抗者の剣を鞘ごと
差し出しました。
アイニは剣を抜き
トゥーラを見つめました。
ラティルはきょとんと立ったまま
状況を見守りました。
アイニはトゥーラの命を
奪うのだろうか。
彼が抱えている
あの大きな荷物は何なのかと
考えていました。
アイニは剣の柄を握ったまま
しばらく何も言わずに、
ただトゥーラを見つめていました。
トゥーラは予想外の状況に
身動きもせずに、
アイニを見つめました。
隣にギルゴールがいるので
逃げることもできませんでした。
ラティルは、
アナッチャがアイニを拉致したので
彼女はトゥーラを刺すと思いました。
しかし、アイニは悩んだ末、
剣を下ろして、
そんなことはできないと言いました。
ギルゴールが
その理由を尋ねると、アイニは、
自分はトゥーラが嫌いだけれど、
ここまで無事に連れて来てくれた。
後に、再び敵として会い
戦うことになっても、
助けてもらった直後に、
命を奪うことはできないと
答えました。
ラティルは、アイニがイヤリングを
わざと落としたことから、
単純な拉致ではなかったと推測し、
後でアイニに事情を聞いてみようと
思いました。
そして、ラティルは
ギルゴールを見ました。
彼は眉をつり上げて
アイニをじっと見つめながら
自分は彼女を教えることができないと
きっぱり言いました。
アイニは、まだ対抗者の剣を
握り締めたまま、
対抗者は正義の味方だと聞いた。
しかし、強くなるために
自分を助けてくれた相手を殺すのは
正義の味方のすることではないと
抗議しました。
かなりもっともらしい話でしたが
ギルゴールはにっこり笑いながら
今のアイニの行動こそ
対抗者らしくない。
トゥーラは食屍鬼だから、
対抗者は命を奪うものだ。
それでも、
彼の息の根を止めないと言うのかと
尋ねました。
アイニは答える代わりに
剣を握り続けたまま、トゥーラに
逃げるようにと言いました。
意外にもトゥーラは、
一緒に行こうと言ったので
ラティルは首を傾げ、
アイニとトゥーラを交互に見ました。
トゥーラは
なかなか逃げることができず
アイニを見つめ続けましたが、
ギルゴールが、
自分は対抗者の師匠だから、
あの皇后の命を
奪わないと言うのを聞いたり、
アイニが何度も行けと言うと、
結局一人で逃げました。
仮面を被ったラティルの方には
視線すら向けませんでした。
トゥーラが抱えていた大きな荷物は
自分だけが気になるのか、
誰もその話をしませんでした。
ギルゴールは、
トゥーラが去った方を見ていたアイニに
対抗者なのに対抗者らしくないので
教えてやると、
意外なことを言いました。
驚いたアイニはギルゴールを見て
それはどういう意味かと尋ねました。
ラティルも驚き、彼は
急に心変わりしたのかと思いました。
ギルゴールは、
今度の戦争には融通性が必要だと思う。
従来通り、対抗者が
むやみに闇の存在を排斥すれば、
絶対に教えなかった。
あの食屍鬼の命を奪わないことが
合格の条件だったと説明しました。
アイニは依然として
混乱しているように見えましたが、
あらゆる種族と黒魔術師、
聖騎士たちが皆集まっている
タリウム宮殿の内部状況を
知らないので、無理もないと
ラティルは思いました。
ラティルは、
アイニを宮殿に連れて来るように。
きちんと接見申請をして
自分に会いに来なければならないと
ギルゴールの耳元で指示しました。
◇大臣たちの驚き◇
その後、ラティルは、
アイニとギルゴールと一緒に
宮殿に入った後、
仕事があると言い訳をして、
1人で別の部屋へ行きました。
そこで仮面を脱いで着替え、
自分の部屋に戻り、
ウロウロしていましたが、
しばらくして、副騎士団長が、
ギルゴールが
カリセンの皇后を連れて来て、
皇帝に会いたがっていると
告げに来ました。
ラティルは驚いたふりをして、
2人を謁見室に連れて来るよう
指示しました。
ラティルが接見室に行くと、
近くにいた大臣たちや役人たちが
ラティルに挨拶をしました。
彼女は頷いて玉座に座ると、
しばらくして、
ギルゴールと服を着替えたアイニが
現れました。
ラティルは、
アイニが途中まで
歩いて来るのを待ってから、
わざと驚いたふりをして、
彼女が拉致されたと思い、
とても驚いていたこと。
皇后が残していった
イヤリングを発見したので
片方はカリセンに送ったことを
話しました。
アイニは、自分と一緒に帰ってきた
あの茶髪の女性が
ラティルだとは思わないので、
ギルゴールに手伝ってもらって、
ここに来ることになったと説明し
ラティルがもてなしてくれたことに
感謝しました。
ラティルは、
彼女の健康状態について、
ギルゴールと出会った
いきさつについて、
犯人について知っていることなど、
普通の皇帝のように尋ねました。
その間にも、話を聞いた大臣たちが
次々と謁見室に入って来て、
カリセンで拉致されたという
アイニ皇后を見守りました。
やりとりすべき挨拶が
一通り終わると、
ラティルは、わざとアイニに
もう行って休むようにと
言おうとしました。
ところが、その前にアイニが、
しばらくタリウムに滞在して
対抗者の師匠であるギルゴールに
強くなる方法を学びたいと
ラティルに願い出ました。
ラティルは、
その言葉を初めて聞くような声を出し
眉をつり上げながら、
自分の側室に何を学びたいのかと
聞き返しました。
それを聞くや否や、
大臣たちはざわめき、
アイニも慌てた表情をしました。
彼女は、ギルゴールを振り返り
皇帝の側室なのかと尋ねました。
ギルゴールは、
一番最近、側室になったと
平然と答えました。
アイニは開いた口が
塞がりませんでした。
大臣たちは、
平民出身で、
唯一顔で側室になったと思っていた
ギルゴールが
対抗者の師匠だと知り、驚き、
皇帝が対抗者とその師匠を
両方とも側室にしていることに混乱し、
皇帝は、
どこまで先を見据えているのか
分からないと、
話をするのに夢中になりました。
◇どういう意味?◇
ギルゴールが対抗者の師匠であり、
別の対抗者である
カリセンの皇后が拉致されていたのを
救ってきたというニュースは
あっという間にハーレム内に
広がりました。
カルレインは、
その話を聞くや否や不快になり、
ギルゴールを訪ねました。
彼は久しぶりに
温室に戻ったところでした。
カルレインは、
ギルゴールが
対抗者を連れて来たという話は
本当なのか。
アニャドミスは、
自分とアイニを狙っているのに、
2人ともここに置くなんて、
正気なのか。
アニャドミスを、
ここに引き入れるつもりなのかと
抗議しました。
ギルゴールは、ザイオールが、
きちんと花を世話していたかどうか
確認しながら、
ここに全員集まっていれば、
アニャドミスがこちらへ来ても
力を合わせて防御することができると
返事をしました。
カルレインは冷たく笑い、
対抗者1人ですら統制できない状況で
対抗者を2人ここに置くのか。
彼女が、ここに吸血鬼だとか
黒魔術師が
集まっていることを知ったら、
どうするのかと尋ねました。
ギルゴールは、
彼女がどのように反応するか、
すでに一度探りを入れて連れて来たと
無表情で答えました。
その後、突然、
何かを思い出したように
カルレインと自分は、
キスする感じが似ていると
皇帝が言ったけれど、
どういう意味だと思うかと尋ねました。
◇一枚の絵◇
その頃、タッシールも、
アイニの噂を聞きましたが、
できるだけ彼女のことは
考えないようにしました。
彼女が直接、
パヒュームローズ商団の
頭の命を奪ったわけではないけれど
彼の死に関連があることは
確かでした。
しかし、今すぐ彼女に
復讐することはできないので、
彼女に対する恨みを
表に出さないようにする必要が
ありました。
その代わりタッシールは、
カルレインに頼まれた、
百花の融通性を確かめるという
任務についてだけ考えました。
タッシールは、
どうやって、彼の融通性を
確かめたらいいのか、
考えながら歩いていると、
ちょうど百花が
聖騎士たちと何かを話しながら
歩いて来るのが見えました。
タッシールを見た百花は、
挨拶して通り過ぎようとしましたが、
タッシールは彼を呼び止め、
聞きたいことがあると告げました。
百花は怪しそうな目で
タッシールを見ましたが、
彼は笑いながら百花に近づき、
ここの湖を一周している間に
話を終わらせると告げました。
百花は頷き、
そばにいた聖騎士たちにも頷くと、
彼らは引き下がりました。
湖に向かって歩き始めたタッシールを
追いかけながら、百花は彼に
何を聞きたいのかと尋ねました。
タッシールは、
カリセンにも自分の商団があるので、
あそこに現れた吸血鬼2人について、
個人的に調査をしていたと
答えました。
百花は、商人のタッシールが
吸血鬼に関する話を
持ち出すとは思わなかったのか
意外そうな表情をしました。
タッシールは、
カリセンの宮殿では、
そのうちの1人が
ロードではないかという噂が
密かに広まっていたようだけれど
それを知っているかと尋ねました。
百花の表情が微妙に変わりましたが、
タッシールは、
気づかないふりをして、
もし、タリウムの宮殿でも
同じようなことが起こったら
百花は、どのように対処するかと
どの程度、安全かにより、
商団をどのように運営するか
変わると言いました。
百花は首を傾げ、
僅かに微笑みながら、
そんなことは
対抗者がすることなので、
むしろラナムンに聞いてみるように。
聖騎士たちも、
対抗者を助けて戦い続けたからと
返事をしました。
しかし、タッシールは肩をすくめ、
ラナムンは、
とてもハンサムだけれど
頼りになるタイプではないと
こっそり言いました。
そして、タッシールは
対抗者がロードを倒しても、
500年後に、また戦争が起こるのは
損な気がする。
この輪を完全に断ち切ることは
できないのかと尋ねました。
ずっと微妙な顔で
タッシールを眺めていた百花が
初めて驚いた表情をし、
すぐに満面の笑みを浮かべると
タッシールは自分と同じ考えだと
言いました。
タッシールは知らないふりをして
百花も同じ考えなのかと
一緒に喜びながら尋ねると、
百花は頷き、
先程よりも興奮した声で、
ロードを生きたまま封印すれば、
その輪を断ち切ることができると
答えました。
タッシールは、
どうやって封印するのかと
尋ねました。
百花は、どこか浮かれた声で
最も純粋な魂があれば可能だと
答えました。
タッシールは、
そんなものを探す方法があるのかと
尋ねました。
百花は、「ある絵」を見て、
そこに「あるもの」を
見ることができる人が
純粋な魂だと答えました。
カルレインに
百花を探って見ろと言われましたが
まさか、彼がこんなに詳しく
話してくれるなんて
意外だと思いました。
百花は熱に浮かれた目で
胸の中に手を入れ、
一枚の絵を取り出すと彼に差し出し、
もしかしたらタッシールが
その純粋な魂かもしれないと
言いました。
タッシールは、
これはどういう意味かと思い
首を傾げると、
百花はさらに興奮し、
絵を見せながら
これは何に見えるかと尋ねました。
タッシールが札束だと答えると、
百花は、露骨にがっかりした
表情をしました。
タッシールは、
笑いが出そうになりました。
彼は、百花に、
自分はどんな魂かと尋ねました。
百花は、やつれた魂だと
きっぱりと答えると、
タッシールは笑いを堪えました。
そもそも、普通の商人ではない彼が
純粋な魂であるはずがないことを
彼は知っていました。
絵をしまいかけていた百花は
しばらく考え込んでいた後、
その絵を、
思いがけずタッシールに渡しながら、
このような絵が50枚ある。
すべて答えが違う絵だ。
純粋な魂は、この50枚全てに
通過しなければならない。
タッシールは、
自分が探していた人ではないけれど
考えが似ている。
この絵を1枚タッシールに渡すので
純粋そうな人たちに
この絵を見せながら、純粋な魂を
一緒に探して欲しい。
自分が接近できる人と
タッシールが会う人たちは
数自体も違うからと言いました。
タッシールは、
もう一度絵をじっと見つめました。
彼の目には、
本当に札束に見えました。
タッシールは、
これがお金でなければ
何だというのか。
他の人には、
これが違うものに見えるのか。
この絵の正解は何なのかと
尋ねました。
百花は、正解はない。
しかし、純粋な魂なら、
この絵を見て、
と答えると言いました。
タッシールは、
もう一度絵を見下ろし、
あまりにも気になったので、
我慢できずに尋ねました。
犬に見えても、
犬の種類を知らないと
どうなるのかと。
フランスのミディ地方原産の
セントハウンド犬の一種で
猟犬だそうです。
こんな素敵な名前の犬がいることを
初めて知りました。
この名前の音の響きも、
とてもきれいだと思います。
タッシールが
パヒュームローズ商団の頭の
敵を取るシーンが
なかなか出て来ませんが、
賢いタッシールは、
復讐するタイミングを窺いながら
自分の手を汚すことなく、
アイニが一番打撃を受ける
復讐方法を考えているのではないかと
感じました。