409話 タッシールは百花から、一緒に純粋な魂を探して欲しいと頼まれました。
◇何に見えるか◇
慌ただしい1日を過ごしたラティルは
足湯に浸かりながら、
明日は、もっと忙しくなるだろうと
考えていました。
アイニから、もっと話を聞き、
ヒュアツィンテに、
彼女がここへ来たことを手紙に書き、
使節団も送って、
正式に知らせなければならないし、
逃げたトゥーラがどこに行ったのかも
確認しなければならないと、
ぼんやりと考え込んでいたラティルに
侍女がタッシールの来訪を
告げました。
ラティルは、
お湯に入れた足を抜くかどうか
悩みましたが、
そのままにしておくことにしました。
中へ入って来たタッシールは、
足湯をしているラティルを見て
笑い出し、
彼女が休んでいるところへ
来てしまったと謝りましたが、
ラティルは首を横に振り、
タッシールを見ることが、
自分にとって休息だと
返事をしました。
タッシールの口元が
満足そうに上がりました。
ラティルはタッシールに、
遅い時間に何の用かと
尋ねましたが、
彼が用事がない時以外には
ほとんど訪ねてこないことを
思い出すと、
「何の用事で来たのか」という質問は
外せばよかったと後悔しました。
しかし、タッシールは気にせず
懐から、絵が描かれた紙を取り出し
これは何に見えるかと尋ねました。
ラティルは、
突然の質問に眉をひそめて
タッシールを見ました。
ふざけているのかと思いましたが
その紙を広げて
ラティルの答えを待っている
タッシールは、
いつものふざけている様子とは
違いました。
ラティルは遠巻きに、
絵とタッシールを交互に見ながら
犬ではないかと答えました。
それを聞くや否や、タッシールは驚き
どんな犬に見えるかと聞きました。
ラティルは「パグ」と答えると
タッシールの表情が
さらに困惑したため、
ラティルは怪しみました。
タッシールは、
もう少し詳しく見て欲しい。
他の種類の犬に見えないかと尋ねると
ラティルは、よく見ると、
蛇みたいだと答えました。
タッシールは今度も
さえない表情をしました。
ラティルは、
どうしたのかと思っていると
彼はため息をつき、懐から、
単語を書き連ねてある
リストを取り出して、
何をどうすれば、この絵が、
犬に見えて蛇に見えるのかと
尋ねました。
ラティルは、
タッシールこそ何をしているのか。
一体、この絵とリストは何なのかと
尋ねると、彼はリストを見ながら
蛇に見える人は征服欲に満ちた人だと
答えました。
ラティルは、
これは心理テストなのかと
尋ねました。
タッシールは否定しました。
ラティルは、
心理テストはともかくとして、
なぜこの時間に、あえて、
それをするのかと尋ねました。
ようやくタッシールは、
百花に関する話、
純粋な魂を持った人に関する話、
カルレインに頼まれたことまで
話しました。
彼が、なぜこんなことをしたのか
理解したラティルは、
タッシールのことが可愛く思えて
笑いました。
そして、彼に、
自分が純粋に見えると
思ったのかと尋ねながら、
彼を抱きしめようとして
手を伸ばしましたが、
タッシールが「まさか」と答えると
再び手を引っ込めました。
タッシールは、
きちんと絵が作動しているか
確認したかった。
ラティルほど確実に
誤答を出す人はいないからと、
ニコニコ笑って話すのを見て
ラティルは彼を睨みつけました。
タッシールは、
冗談だと言いましたが、
ラティルは彼を許す代わりに
最初は誤答を出す人に聞いたけれど
次は誰に聞くつもりなのかと
尋ねました。
タッシールは、
真っ先に思い出すのはザイシンだけれど
彼はいつも百花といるので、
すでに百花が
試しているのではないかと思うと
答えました。
ラティルは、ザイシン以外に
思いつく人はいないのかと尋ねました。
そして、ラティルは、
裏切られる前なら、レアンの所へ
行けと言っただろうと思いました。
しかし、今のレアンは、
それほど純粋ではありませんでした。
けれども、純粋だというのは
必ずしも善良だという意味だけでは
ないのではないか。
解釈次第では、
実の妹を裏切るほど一途なのも
純粋なのではないか。
考えてみれば百花も
そんなに善良な性格ではないと
思いました。
ラティルはタッシールに
レアンはどうだろうか。
意外とクラインが
そうかもしれないと言いました。
しかし、タッシールは
微妙に笑いながら、
自分が探してみるけれど、
少なくともその2人ではないと思うと
返事をしました。
ラティルは、
確かに純粋な魂といえば、
ほとんどの人が、
清くきれいなイメージを考えると
思いました。
ラティルは肩をすくめて
勝手にするように。
タッシールが引き受けたことだからと
言いました。
タッシールが出て行こうとした時に
サーナット卿がやって来ました。
ラティルはタッシールに
サーナット卿に絵を見せるよう
指示しました。
絵を見たサーナット卿は
剣だと答えました。
タッシールは、剣が見える人は
本音を隠した陰険な人だと
サーナット卿を騙そうとしましたが、
ラティルは、すでに
剣が見える人は忠実であると
書かれたのを見た後だったので、
タッシールの嘘を指摘すると、
彼はウィンクをして
逃げてしまいました。
ラティルは、
今、何が起こったのかという表情で
ぼんやりと立っているサーナット卿が
可愛くて笑ってしまいましたが
彼と別れる直前、
彼が、とても気になることを
言っていたことを思い出し、
今は、こうしている場合では
ないことに気づきました。
彼女は、急いで真顔になり、
咳払いをして
サーナット卿を見ると、
アガシャはどうしてるか。
きちんと案内ができたかと
尋ねました。
サーナット卿は
「はい」と返事をしました。
ラティルは、アガシャに
失礼なことをしたことを
謝りましたが、サーナット卿は、
彼女は、とても楽しかったと
言っていると答えました。
ラティルは、それを聞いて
驚きましたが、
サーナット卿は
それ以上、何も言いませんでした。
ラティルは、アガシャが
楽しかったという言葉以外にも
何か言ったように思いましたが、
サーナット卿は、
残りの言葉を省略したようでした。
ラティルは、
それを聞いてみたいと思いましたが
絶対にサーナット卿は
答えないと思い、黙りました。
その代わりラティルは、
サーナット卿を注意深く観察しながら
アガシャとはどうなると思うかと
尋ねました。
サーナット卿は、
思っていたより可愛い令嬢だと
答えました。
それを聞いたラティルは、
サーナット卿がアガシャのことを
好きになったのかもしれないと思い、
心臓をドキドキさせながら,
しばらくサーナット卿を
じっと見つめました。
彼は、いい友達になれると思うと
付け加えると、
ラティルは再び心臓がドキドキし、
偽の婚約から始めて友達になり、
本当に恋愛をするのかと尋ねました。
サーナット卿は
自分がそんなことを言ったかと
尋ねました。
ラティルは首を横に振り、
そうではないけれど、
一度会っただけで気が合ったなら
二度会えば、
もっとよく合うのではないかと
思ったと答えました。
そして、ラティルは、
これは上司として
祝ってあげるべきことだと思いながら
姿勢を変えましたが、椅子に座って、
足をたらいに浸している
自分の姿が気に入りませんでした。
こんな深刻な話をしているのに、
なぜ、自分はこんなことをしているのか。
なぜ、タッシールとサーナット卿は、
足湯をしている時に入ってくるのかと
思いました。
◇駆け引き◇
サーナット卿は、
ラティルが休む間もなく
唇と頬を動かす姿を眺めて
かすかに笑いました。
ラティルが、
自分の偽婚約の知らせに
不満を抱いているのを見ると、
そんなはずがないと思いながらも、
もしかしたらラティルは、
自分を男として
見てくれているのではないかと
僅かな期待が、
しきりに湧いてきました。
ラティルが
ヒュアツィンテと別れた後、
サーナット卿は、度々、チラッと、
自分の気持ちを表に出したけれど、
ラティルは真剣に受け留めるどころか
驚愕するばかりだったので、
サーナット卿は、
いくら努力しても、絶対に
彼女の兄の友達以上にはなれないと
思っていました。
そうは思っても、
どうしても未練が残ったので、
サーナット卿はラティルに
アガシャと
うまくいっているかのように
話したくなりました。
そう言えばラティルは
どう反応するだろうか。
嫉妬してくれるなら、
自分を男だと思ってくれる気持ちが
ほんの僅かでも
あるという意味ではないか。
それとも、ただ親しい友達が
自分よりもっと親しい相手が
できることを寂しがる
嫉妬なのだろうかと考えました。
しかし、サーナット卿は
ラティルがあんなに戸惑う姿を
見たくなかったので、
彼は躊躇いながらも、
アガシャは一人娘で
伯爵の後継者でなので、
絶対に婿養子を迎えると言っていたので
彼女と恋愛することはないと
話しました。
ラティルが「伯爵万歳!」と言って
口元を上げるのを見て
サーナット卿は、
正直に話して良かったと思いました。
彼は、ラティルが
自分のことを心配して
不安に思っているよりも
安心して笑っている方が好きでした。
しかし、いくら彼でも
ラティルの妄想を止めることはできず、
彼女はサーナット卿に、
逆境を乗り越えて
婿に入ろうという気持ちはないのかと
尋ねました。
サーナット卿は、
口を閉じたまま笑いました。
ラティルは、自分で言っておいて
恥ずかしくなったのか、
彼に早く出て行くよう
手で合図しました。
◇恥知らずなこと◇
翌朝、ラティルは目を覚ますと、
自分の頭はおかしくなってしまった。
なぜ、サーナット卿に
あんなことを聞いてしまったのかと
激しく自責し、
布団の中に潜り込むと
蛇のようにうごめきました、
しかし、サーナット卿は
すでに話を聞いてしまったし、
ロードには
時間を戻す能力はないので、
ラティルは苦しくて
一人で泣き叫びましたが
時計を確認して起き上がりました。
昨夜の失言を恥ずかしく思っても
仕事はしなければならないし、
サーナット卿の顔を
ずっと見なければならないけれど、
恥ずかしくても、
知らないふりをしなければならないし、
サーナット卿も自分を
からかわなければいいと思いました。
ラティルは風呂に入って
身支度を整えると、
できるだけサーナット卿に
会う時間を引き延ばすため、
アイニと一緒に朝食を取ることを
彼女に伝えるよう、
侍女に指示しました。
ラティルは、アイニから
トゥーラやアナッチャ、
拉致の話などを聞いているうちに
サーナット卿の婚約に
嫉妬したことも
忘れてしまうだろうと考えましたが、
側室を8人も置いている自分が、
今になって、
偽の婚約をするサーナット卿に
嫉妬するという
恥知らずなことをしてしまったのかと
驚きました。
すでに側室と側室候補(メラディム)が
8人もいるので、
側室が1人増えたところで、
周りの人たちは、呆れはしても
何も言わないでしょうし、
すでにラティルには
男好きというレッテルが
貼られているでしょうから
彼女は何も気にしなくても
いいと思います。
もっとも、サーナット卿は、
すぐには側室にはならないので、
ラティルが彼のことを
男として見ても、
今後、ラティルが側室たちと
ベッドを共にするようになれば
サーナット卿は苦しいだけなのでは
ないかと思います。
サーナット卿は
それが分かっていても、
自分を男として見て欲しい気持ちが
止められないし、
ラティルを
愛することが止められないのは
騎士としての定めが、
そのようにさせている部分も
あるのではないかと思います。
ラティルは、
なぜ足湯をしているところへ
タッシールとサーナット卿が
来たのかと嘆いていますが、
入室を断れば
彼らが入って来ることはなかったので
足湯をしている姿を
見られてしまったのは
彼女の責任だと思います。