464話 まだ新年祭は続いています。
◇緊張感と恐怖◇
木に吊るされた照明を
ぼんやりと眺めていたタンベクは、
近づいて来た百花に
聞きたいことがあると言われ
ドキッとし、素早く立ち上がると、
彼の方を振り向きました。
百花は、
どうして、そんなに驚くのかと
首を傾げました。
タンベクは、
議長があっという間に3人を
木に変えるのを見たせいだ。
そんなところを見れば、皆こうなると
言いたいところでしたが
首を横に振りました。
そして、皆、食べたり飲んだりして
新年祭を楽しんでいるのに、
なぜ、百花はここに来たのかと
尋ねました。
彼は、先にここへ来た人が
そんなことを言うものではないと
言いました。
タンベクは、
自分は1人になりたかったから
ここにいた。
もしかして、百花も1人になりたくて
ここへ来たのかと尋ねると、
百花は、タンベクと話をしに来たと
答えました。
タンベクは大きな岩に座ると
百花に、自分を訪ねて来た理由を
尋ねました。
百花は、
議長と一緒に3人の聖騎士団長が
来ると聞いていたけれど
タンベクしか来ていないからだと答え
彼女の反応を注意深く観察しました。
彼女は真顔で、見ただけでは
表情に大きな変化はありませんでした。
しかし、彼女が何か知っていると
思った百花は、
もう少し確認してみるために
「あの植木鉢は・・」と付け加えると
タンベクはビクッとしました。
百花は片方の眉をつり上げました。
彼は、タンベクに、
確かに、何か知っていそうだ。
議長が、その2人の聖騎士たちに
何かしたのかと尋ねました。
タンベクは、
なぜ、植木鉢のことを持ち出すのかと
尋ねました。
百花は、ギルゴールが、
その植木鉢から聖騎士の匂いがすると
言ったから。
2人の聖騎士の姿は見えず、
ギルゴールが妙なことを言ったので
だから話を聞きに来た。
しかし、タンベクが分からないなら
仕方がない。
直接、議長に聞いてみるしかないと
言って百花が立ち上がるや否や、
タンベクは急いで立ち上がり、
素早く首を振りました。
それが、どういう意味なのか
分からないかのように
百花がタンベクの名前を呼ぶと
彼女は躊躇いながら彼に近づき、
とても小さな声で
聞かない方がいいと囁きました。
百花が去った後、タンベクは、
先程の岩に座りました。
しかし、依然として
全身の緊張は解けておらず、
議長に対する恐怖は
消えていませんでした。
むしろ議長ではなく、
敵の仕業だったら、
こちらも勇気と闘志を
掲げることができるのに、
議長がしたことなので戸惑いました。
だからといって、
こっそり大神官に話して
助けを求めたとしても、
議長と大差のない言葉を
言うかもしれませんでした。
2人の聖騎士団長は、
私的な感情を前面に出して
闇に染まった仲間を庇った。
でも、後で助けるという話までした。
それにザリポルシ姫は、
聖騎士の仕事をしていて
そうなったわけだし、
友達ではなくても同僚だったら
話を聞くこともできる。
それがそんなに変なことなのか。
タンベクと彼女が率いる聖騎士団は
怪物狩りを主にしてきたので、
このようなことに
慣れていませんでした。
しばらく悩んでいたタンベクは
立ち上がりました。
自分たちよりも
世俗的な位置にいる皇帝が、
このような問題を
解決した方が良いかもしれないと思い
彼女に話を聞くことにしました。
◇お邪魔虫◇
ラティルは回廊を歩いていると
手すりにもたれかかっていた
ラナムンに、
どこか楽しい所へ行ってきたようだと
聞かれました。
ラティルは首を傾げました。
夜、一人で照明を浴びて立っている
ラナムンは美しかったけれど
あまりにも、とんでもない場所に
1人でいるので、
不思議に思ったラティルは爆笑し、
何をしているのかと尋ねました。
ラナムンは、
皇帝が1人でどこかへ行くのを見て、
付いて行ったけれど
途中で見逃したので、ここにいた。
待っていれば、また来ると思ったと
答えました。
ラティルは、
大声で呼べばよかったのにと言うと
ラナムンは、
そうすれば、ラティルは
元々行こうとしていた所に
行かなかっただろうからと
答えました。
ラティルは、
彼は、何を言っているのかと思い
ラナムンを見ると、
彼は身体をまっすぐに伸ばし、
皇帝は、自分に色々と隠すことが
多いからと言いました。
的を射た言葉に、ラティルは
しばらく胸が熱くなりました。
数日前、クラインにも
ラティルが彼以外の数人とだけ
集まって、話をしているのを
知っていると、
言われたばかりでした。
ラティルが、ポカンと口を開くと、
ラナムンは口元をかすかに上げ
非難しているのではないと
言いました。
ラティルは、
本当に違いますよねと確認しました。
ラナムンは、
非難しても仕方がない。
皇帝は、
片方の耳で聞き流すと思うからと
返事をしました。
ラティルは、
ずっと非難されているような
気がすると反論しましたが、
ラナムンは、
ラティルが気にしてくれるように
言っているだけだと返事をしました。
ラティルが
不審そうにラナムンを眺めると、
彼はラティルに近づき、
彼女の腰に軽く手を当てました。
そして、ラティルが側室の中で
自分を一番好きだということは
信じているので大丈夫だと言いました。
ラティルは、
自分でさえ、
自分の気持ちが分からないのに、
自分が、そんな素振りを見せたのかと
思いながら、
なぜ急にそんなことを信じるのかと
尋ねました。
ラナムンは
「愛していますから」と自然に答え、
抗議するかのように
ラティルの脇腹をくすぐると、
彼女は反射的に体をひねり、
さらにラナムンに
くっ付いてしまいました。
ラティルは
ぼんやりと彼の顔を見ながら、
今のそれは何かと尋ねました。
ラナムンは、ラティルが
愛しているという言葉が
好きなようだからと答えました。
ラティルは、
ラナムンはそんなことを
あまり言わないと抗議すると、
ラナムンは、
喉がかれるまで言ったので、
言いやすくなったと返事をしました。
ラティルは、
自分をギュッと抱きしめたまま
疲れた声で「愛しています」と囁いた
あの夜のラナムンを思い出すと
背中を引っかかれたように震えました。
しかし、ラティルは、
それに気づかないふりをして
なぜ、皆、お世辞で
愛していると言うのかとぼやくと
ラナムンはかすかに笑い、
お世辞さえ言ってくれない人もいると
返事をしました。
その状態でラナムンと目が合うと、
ラティルの心が少し動きました。
他のことは分からないけれど、
ラナムンの顔だけは
一番好きなような気がしました。
そうしているうちに
音楽が聞こえてくると、
ラティルは、先程アニャが
一人で踊っていたことを思い出して
笑いました。
いたずらに、
彼女をからかったのではなく、
本当にアニャの踊りの腕前は
ラナムンと匹敵するほど
今一つでした。
ラティルはラナムンに
冗談めかしながら
一緒に踊ろうかと誘いました。
しばらく、ラナムンは
考えていましたが、
なぜか片手を差し出しました。
ところが、ラティルが、
その手をギュッとと握ろうとした瞬間
遠くないところで
ガサガサいう音がしました。
ラナムンとラティルは手を離し、
ほぼ同時に音がする方を見ました。
謝りながら現れたのはタンベクでした。
彼女は顔を真っ赤にして
当惑した表情で
ラナムンとラティルを交互に見た後
話があって来たのだけれど、
また後で来た方がいいかと尋ねました。
しかし、すでに良い雰囲気が
壊れた後だったので
ラティルはため息をつきながら
大丈夫だと言うと、
タンベクは戸惑いながら
ラナムンを見つめました。
すでにラナムンは
ラティルに挨拶して
別の場所に向かっていましたが、
その後ろ姿から
冷気が漂っていました。
皇帝と楽しい時間を過ごすのを
妨げた侵入者に腹を立てているのは
明らかでした
ラナムンが
かなり怒っているようだと
恥ずかしくて、恐縮している
タンベクに、ラティルは
付いて来るよう言いました。
◇500年前と変わらない◇
百花が扉を開けて中に入ると、
一人でテーブルに着いて
サラダを食べている議長が見えました。
あちこち探し回った末、
ついに、きちんと彼を
見つけることができました。
百花が入って来ると、
議長はちらっと彼を一度見て頷き、
再びサラダを口に入れました。
近くへ行ってみると
テーブルに並べられているものは
多かったものの、全て野菜でした。
その姿に百花が微妙な表情をすると
議長は肩をすくめて笑い、
他の所で食べようとすると
肉の匂いが気になると言いました。
百花は食事中に訪ねて来たことを詫び、
外で少し待った方がいいか尋ねました。
しかし、議長は
その必要はない。
座って話そうと言って
目で向かいの椅子を指し示すと
百花はそこに座りました。
議長は話せと言わんばかりに
百花に温かく微笑むと
また食事を始めました。
百花は、先ほど
タンベクの言ったことを思い出しながら
500年前、
自分が盟約の仲立ちをし、
ロードを封印したけれど、
そのロードが再び目覚めたと
話しました。
しかし、議長は驚いた様子もなく
それを確認したのかと尋ねました。
百花は、直接確認したところ、
間違いなく500年前のロードの
ドミスだったと答えました。
しかし依然として議長は
驚いた様子を見せませんでした。
けれども、議長は
大抵、このような様子なので、
百花は議長の反応を気にせず、
もしかして対抗者が3人になったのは
ロードがそれだけ
強くなったからなのか。
盟約がうまく機能せず、
ロードが初めて
500歳も生きることになったのが
影響しているのではないかと
尋ねました。
実は、これは
ドミスが目覚めた後、
百花が一人で悩んでいたことで
まだ誰にも打ち明けたことが
ありませんでした。
しかし、議長は、
大丈夫。
何らかの変化が起こったということは
効果があったということでは
ないかと答えました。
百花は、
ロードが以前より強くなったなら
どうしたらいいかと尋ねました。
議長、
変化は良い兆候だ。
そうすれば終わりが
来るかもしれないと答えました。
百花は
再び純粋な魂を探している。
今回もドミスを封印したらどうかと
尋ねました。
ずっと平然としていた
議長でしたが、
その質問を聞くとフォークを置き、
ナプキンで口元を拭きながら
目だけで笑いました、
百花は、
議長の態度を見て心配になり、
悪い計画だと思うかと尋ねました。
議長はしばらく考え込んだ後、
百花は百花の望むままに、
純粋な魂を探してみるようにと
答えました。
しかし、その答えは
百花が望む答えではありませんでした。
百花は、
もう一度試してみるのもいいとか
これ以上、
事態が悪化すると困るので
やめた方がいいなど、
確かな答えを望んでいました。
百花は、
このまま進めても良いのかと
再び尋ねると、
議長は首を横に振り、
それは分からないけれど、
万が一に備えて、
純粋な魂をもう一つ探すのも
悪くはないと思う。
自分は自分なりに
もっと調べることがあると答えました。
そして、議長は言葉を止めて
百花の瞳を覗き込みました。
内心を見透かされるような
議長の視線を、百花は
少し負担に感じましたが、
議長の目を避けませんでした、
議長はしばらく百花を見つめた後、
突然、笑ったかと思うと、
ドミスが封印から目覚めた時、
百花は変だと思わなかったかと
尋ねました。
百花は、
変だと思った。
盟約によれば、
絶対に目覚めるはずがなかったのに
目覚めてしまった。
それに目覚めたドミスと
しばらく話してみたけれど、
以前と違って、
盟約を受け入れそうになかったと
答えました。
ところが、議長は
そうではなくて、他のことだと
言いました。
百花が、他のこと?と聞き返すと、
議長は、
ロードが生きていて、
対抗者は死んだけれど、
世の中は以前と同じ。
500年前に暴れ回った怪物たちは
結局、姿を消し、
500年後、再び魔物たちは現れた。
ロードがずっと生きているのに、
なぜロードが死んだ時と
同じことが起こるのかと尋ねました。
百花は、このような話題を
議長と分かち合うために
来たわけではないので、
彼は、ロードは生きているけれど
封印されたからではないかと、
無愛想に答えました。
議長は、
テーブルの上の手にあごを乗せて
笑うと、
ロードと怪物が関係ないか、
それとも、ロードが生きたまま
封印されたのではなく、
以前のように死んで、
この時期に、
新しいロードが生まれたかの
どちらかではないかと言いました。
お邪魔虫のタンベク。
ラティルとラナムンが
良い雰囲気になっているのを
見たのなら、気を利かせて
その場を離れ、
後でラティルと話をすれば
いいものを、
議長に対する恐怖心を
早く何とかしたいし、
これを逃せば、
いつラティルと話せるか
分からないと思い、
その機会を窺っているうちに
見つかってしまったのかなと
思いました。
百花は何も悩んでいなさそうに
見えましたが、
アニャドミスが
目覚めてしまったことで
責任を感じていたなんて
いいところがあると思いました。