590話 ラティルが浄化されるかどうか試すために、ラティルとザイシンは口づけをすることにしました。
◇誕生日のプレゼント◇
ロマンチックな雰囲気は
どこへ行ってしまったのか。
ザイシンの答えは
とても健全で雄々しいものでした。
ラティルは、
彼の明るい返答に笑い出し、
ザイシンが、とても元気いっぱいに
答えていると指摘しました。
ザイシンは、
少しも恥ずかしがっていないように
見えました。
ラティルは笑ったおかげで
緊張感が和らぎましたが、
ザイシンは、
さらに熱くなっていました。
しかし、その一方でザイシンは
ラティルの唇の横に
軽くキスをしながら、
口づけをした途端、
皇帝がいなくなったら
どうしようと心配しました。
ラティルは、
また、先ほどの話を繰り返すのかと
尋ねました。
ザイシンは、不安だと答えました。
ラティルは、なぜ、ザイシンが
そんなにクラインの言葉を
信じているのかと尋ねましたが
それでも、やはりザイシンは
まだ心配していたので、ラティルは、
消えそうになったら、
すぐに口を離せばいいのではないかと
提案すると、ザイシンは、
そんなことして、
ラティルが半分だけ残ったら、
それも変だと言うと、ラティルは、
何をそんなに具体的に
悩んでいるのかと聞きました。
それからザイシンは
自分が消えてしまったら?と
心配し出したので、
このままではきりがないと
思ったラティルは、
ザイシンの両頬を抑え
唇の上に判子を押すように
自分の唇を当てました。
それから、少し離れて見ると
ザイシンは、
そうでなくても大きな目が
さらに大きくなっていました。
ラティルは、
ザイシンの唇の周りを撫でながら
消えていないようだと言いました。
そして、ラティルが顔を離すと、
ザイシンは手を唇に当て、
きちんと唇があるかどうか
確認しているかのように
動かしました。
それからザイシンは手を下ろし、
浮かれた目で、
もう少しやってみないかと
提案しました。
ラティルは、
今、確認したばかりだと
返事をしましたが、ザイシンは
3回は確認するべきではないかと
主張しました。
その言葉にラティルが笑っている間、
ザイシンは
ラティルをさっと持ち上げて
長いソファーに降ろしました。
そして、頭を下げて、
ラティルと軽く口を2回合わせた後、
もっと深く口づけしようと
慎重に試みました。
不器用でくすぐったいキスに
ラティルはザイシンと
鼻先をこすりながら笑いました。
ザイシンはそこで止まらず、
虎のようにくっつきながら、
もっと先のことも教えて欲しいと
懇願しました。
ザイシンが大きな体で押してくるので、
ラティルはあっという間に
後ろに倒れてしまいました。
しかし、ザイシンの行動は
そこまででした。
彼は、もっと何を
どうすればいいのか分からず、
ただ、ラティルの腰だけを
つかんでいました。
たとえ俗世に染まってはいるものの、
それでも大神官は大神官なのか、
そういう方面のことは
何も知らないように見えました。
ラティルは笑いながら
ザイシンを抱きしめました。
彼が慌てている姿が
可愛いと思いました。
しかし、その姿勢で時計を確認した
ラティルはため息をつき、
ザイシンを軽く叩いて
彼から離れたあと、
続きは後でやろうと言いました。
ザイシンは、その理由を尋ねると、
ラティルは、
もうすぐ会議があるからと答えました。
ラティルはザイシンと
短い愛を交わした後に、
何食わぬ顔で会議室に入る自信が
ありませんでした。
長い間、禁欲生活をしてきたので、
きっと、どんな形であれ
バレてしまうと思いました、
すでに自分は好色なイメージが
ついていましたが、
あえて大臣たちに、
先ほど、側室の1人を
抱いて来たということを
知らせたくありませんでした。
ザイシンは、真っ赤な顔で
ラティルの肩に頭を埋めながら、
「会議ですか?」と尋ねました。
ラティルは
彼の柔らかい髪を撫でながら
「うん。」と答えました。
ラティルも、久しぶりに手に入れた
このような雰囲気を手放すのは
残念でしたが、
仕方がありませんでした。
それでも、ラティルは、
そのまま立ち去るには
未練が残ったので、ザイシンに
一段と柔らかくなった声で
誕生日プレゼントは何が欲しいか。
まだ考え中かと尋ねました。
ザイシンは、
本当に必要なものはないと答えました。
ラティルは、
ザイシンに何でもあげたいと
言いました。
ザイシンは
しばらく考え込みました。
彼があまりにも
長く考えていたせいで、
腕と肩がしびれて来たラティルは
後で教えてもらおうかと
思うほどでした。
結局、ラティルが
そうしようと思っていると、
ついに、ザイシンは、
神殿では、様々な事情で
保護者がいなくなった子供たちを
代わりに養育しているので、
その子供たちの誕生日を
代わりに祝って欲しいと頼みました。
ラティルは意外な言葉に驚いて
すぐに答えることが
できませんでした。
ようやく数秒後に、ラティルは、
それはザイシンの
誕生日プレゼントではないと
言いました。
しかし、ザイシンは、
自分が嬉しいことなので、
自分のプレゼントだと返事をしました。
ラティルは、
しばらく黙っていましたが、
結局、ザイシンの言うことを
聞いてあげることにしました。
その後、
ラティルはザイシンと別れて
執務室に戻りながら、
ザイシン本人は
皇配の席に座ろうという
気はないけれど、
いざ座らせてみれば、
うまく行くのではないかと思いました。
貴族との社交活動は
最初から学ばなければ
ならないけれど、
ザイシンは他の平民とは
立場が違いました。
どんなに気難しい貴族でも、
ザイシンが
宮廷作法を知らないと言って
あざ笑うことはできませんでした。
ザイシンがぎこちなく振舞っても
皆、「大神官だから」と
勝手に理解してくれるだろうと
思いました。
歩きながら
じっくり考えたラティルは、
侍従長に、
タリウムにある神殿で
養育中の子供たちが何人いるのか、
名前と年齢、誕生日などを
調べるように。
そして誕生日を迎えた子供たちに
毎年ザイシンの名前で
誕生日プレゼントを贈るよう
指示しました。
侍従長は
「毎年ですか?」と
驚いて聞き返しました。
ラティルは「はい。毎年私費で。」
と答えました。
侍従長はラティルの最後の言葉に
力がないことに気づきました。
しかし、ラティルは
他に何も言わずに、
今日の会議の議題を
まとめたものを手に取りました。
侍従長は、ラティルの突然の命令に
何か事情でもあるのかと
気になりました。
◇怒りと無関心◇
数日後、皇帝がザイシンの名で
タリウムのすべての神殿に
贈り物を送ったという話は、
側室たちにも伝えられました。
側室たちは
「お誕生日」というキーワードと
「ザイシン」という
名前の組み合わせから、
それは皇帝がザイシンに与える
誕生日プレゼントだということに
気づきました。
側室たちは、
その知らせを聞くや否や、
それぞれ違う感情を露わにしました。
クラインは、
ザイシンのことを
熊だと思っていたけれど狐だったと
憤慨しました。
バニルは、
もともと熊は賢いものだと言うと、
クラインは、ザイシンが
少し純真だと思っていたと
非難しました。
バニルは、ザイシンが
十分、純真に見えると
反論しましたが、クラインは、
自分を裏切ったくせに
何が純真なのかと怒りました。
バニルとクラインの言葉を
静かに聞いていたアクシアンは、
どうせ、ザイシンは
味方ではなかったので
裏切ったとは言えないと、
今日も穏やかに、
クラインの感情を害しました。
普段のバニルなら、
アクシアンの背中を叩きながら
口を慎めと言うところでしたが
今日はバニルも、クラインが
大神官を裏切り者扱いすることが
よく理解できなかったので、
クラインの顔色を窺いながら
黙っていました。
その間もクラインは、
自分は誕生日プレゼントに
皇配の席をくれと言ったのに、
ザイシンが、こんな風に出てきたら
自分は皇帝にどう思われるかと
息巻いていると、アクシアンは、
皇子は、いつもそうだったので、
皇帝は気にしないと思うと
笑いながら言うと、
クラインは我慢できなくなり、
枕を投げながら
「出て行け!」と叫びました。
ラナムンは、クラインほど
怒ってはいませんでしたが
やはり、この知らせに驚き、
ザイシンは皇配の席には
関心がなさそうだったのに意外だと
ぼやきました。
ラナムンと
チェスをしていたカルレインは、
人は見た目だけでは
わからないということだろうと
無愛想に返事をしました。
カルドンは、
それはカルレインのことだと
心の中で唸りました。
彼は、すぐそばで
カルレインとラナムンを
見ていましたが、
2人が親しいかどうかは
分かりませんでした。
その傍らでゲスターは
レッサーパンダを抱きしめながら、
大神官は、
ただの善意からやったのではないかと
小さな声で大神官を庇いました
しかし、ラナムンは
善意からなら、わざわざ彼の名前で
プレゼントしてくれとは
言わなかっただろうと
きっぱり、否定しました、
カルドンは、ゲスターの空のグラスに
お茶を注ぎながら、
あえて自分の名前を前面に出したのは
国民に自分の名前を知らしめるためだと
すぐにラナムンの味方をしました。
ゲスターは、あの間抜けな大神官が
そのように頭を働かすだろうかと
思いましたが、
さらに彼の肩を持つ代わりに、
レッサーパンダの毛だけを
いじっていました。
そのようなゲスターを
見守っていたカルレインは、
ゲスターもクライン皇子も
誕生日プレゼントを選んで
ご主人様に伝えなければならない。
うまくやらないと、
大神官と比較されると言いました。
ゲスターはカルレインの声が
かすかに嘲笑混じりであることに
気づきましたが、忍耐強く、
気づかないふりをしました。
しかし、すべての側室が
この知らせに
大きな衝撃を受けたわけでは
ありませんでした。
この知らせを聞いても
メラディムは無関心で、
湖の底で昼寝ばかりしていたし、
タッシールは話を聞いても、
滞った商団の仕事を処理するのに
忙しくて、
深く考える余裕がありませんでした。
ギルゴールは、
セルの魂が入った剣を、
温室の地面に埋めたり取り出すのを
繰り返していたので、
他のことを気にしませんでした。
◇投票の結果◇
ラティルは側室たちが
このような状態であることを
知らないまま、
ゲスターに何をあげればいいのか
悩み始めました。
前回のゲスターの誕生日の時は、
偽皇帝事件のせいで、きちんと
プレゼントを用意できなかったし、
今回はアニャドミスの事件のせいで
プレゼントを用意できませんでした。
2回も、適切な時に
プレゼントを用意できなかったので、
きちんとプレゼントを渡したいのに、
ゲスターへのプレゼントを
選ぶのは難易度が高く、
プレゼントをあげるなら、
まだ、欲望剥き出しの
クラインの方がましでした。
欲のないザイシンやゲスターに
プレゼントするのは難しく、
厄介でした。
ところが、
そのように、うだうだ悩んでいる
ラティルの後ろから
色鮮やかな雑誌が
さっと突き出されました。
ラティルが振り返ると、
サーナット卿が雑誌を持って
立っていました。
ラティルは、
それは何なのかと尋ねると、
サーナット卿は、前にラティルが見た
皇配投票結果が出たと答えました。
ラティルは「もう?」と聞き返すと
サーナット卿が印を付けた部分を
すぐに開きました。
人気投票では、
僅差でカルレインが1位、
ギルゴールが2位、ザイシンが3位、
タッシールが4位、ラナムンが5位、
メラディムが6位、ゲスターが7位、
クラインが8位となっていました。
一方、皇配候補投票では、
ラナムンが1位、ザイシンが2位、
カルレインが3位、タッシールが4位
ゲスターが5位、クラインが6位、
ギルゴールが7位、
メラディムが8位になっていました。
タッシールは、
最も評価が安定しており、
ギルゴールは人気が高いものの、
皇配としては、国民からも
期待されていないようでした。
逆にラナムンは、
人気順位は真ん中より後だけれど、
皇配投票では、
最も多くの支持を得ていました。
ラティルは、
この順位は常に固定的なのかと
尋ねました。
サーナット卿は否定し、
何かが起こる度に、
順位の変動が大きいと答えました。
今回の投票で
順位がこのようになったのは、
アニャドミスを倒した時に、
カルレインとギルゴールと大神官が
大きな役割を果たしたと、
人々が推測したからだと思いました。
ラティルは、
「かわいそうなゲスター」と
思わず呟きました。
彼は、とても苦労したし、
たくさん功績も立てたのに、
これほどまでに、
彼の認知度が低いことを
ラティルは嘆きました。
真実を知るラティルは、
とても残念でなりませんでした。
ラティルは、
やはり仮面が問題なのか。
仮面を脱いで
名前を出して行動しないと、
ゲスターが優秀なことを
人々に知ってもらえないと言うと、
サーナット卿は同意しました。
その後も、しばらくラティルは
人気投票について、
サーナット卿と話をしていると、
執務室の扉が開き、
ロルド宰相が素早く入って来ました。
彼は、カリセンからの使節団が
今、国境を通過したそうだと
報告しました。
ザイシンの名前で
プレゼントを送るようにと
指示したのはラティルなのに、
そんなことも知らず、
ザイシンの善意を誤解し、
彼の悪口を言うクラインと
ラナムンとカルレイン。
それとは逆に、今回、珍しく
ザイシンの善意に気づいた
ゲスターは、
正真正銘のゲスターでしょうか?
けれども、
その後の「間抜け」発言は
何となく、
ランスター伯爵っぽいような
気がしました。
タッシールは、
アニャドミスとの戦いに
参戦したせいで、
仕事が滞ってしまったのですね。
きっと、彼は
仕事が忙しくなくても、
大神官の悪口は言わないと思います。
狐の仮面をかぶっているせいで、
ゲスターが、
きちんと評価されなくて
可哀そうだというラティルの意見に
サーナット卿が反論しなかったのは
予想外でした。