外伝68話 ソビエシュは魔法学園の学長に会って話をすることを望んでいます。
宮医に軽い風邪だと言われたものの
念のため、
ゆっくり休んで欲しいという
カルル侯爵の助言に従い、
ソビエシュは、今日1日、
ゆっくり休むことにしました。
体調が悪いからではなく、
これが夢ではないかもしれないという
可能性が生じたことで、
仕事に集中する自信が
なくなったからでした。
しばらくぼんやりと座って
希望と恐怖の間で
時間を過ごしていた時、
護衛がナビエの来訪を告げました。
ソビエシュは、
急いで扉へ近づいて扉を開け、
目の前にいるナビエに、
思わず、肖像画に向かって話すように
彼女の名前を呼んでしまいました。
しかし、ナビエは、ソビエシュに
からかわれたと思っているような
顔をしていたので、
ソビエシュは慌てて皇后と呼び、
彼女が、ここに来るとは
思っていなかったので
驚いたと言いました。
ナビエが持っている盆の上には
湯気の立っているスープが
乗っていました。
彼女は、
自分の庭で風邪を引いたせいで
喉が痛いと聞いたので持って来たと
言いました。
ソビエシュは何のスープなのかも
知らずに、
自分の一番好きなスープだと言って、
すぐに受け取りました。
ナビエは、飲むようにと告げると
立ち去りました。
自分が扉を開けたことで、
ナビエを部屋の中へ入れて、
お茶を飲んで行けと勧める機会を
逃してしまった自分を
ソビエシュはバカだと罵りました。
ソビエシュは、盆を護衛に渡すと、
ナビエを急いで追いかけました。
後ろを振り返ったナビエは
眉をひそめながら
どうしたのかと尋ねました。
すぐにソビエシュは、
見送りに来たと言い訳をしました。
ナビエは、
ソビエシュの顔を
探るように見つめてお礼を言った後、
戻って休むようにと告げました。
言葉は優しいけれど、
殺伐とした声でした。
付いてくれば、ただではおかないという
悲壮感さえ漂っていました。
ソビエシュは
ナビエが心配してくれたことに
感謝しました。
ナビエは、そんなソビエシュを
奇妙な怪物でも見るように眺めてから
再び歩いて行きました。
ソビエシュは肩を落として、
自分の部屋へ戻りました。
その晩、ソビエシュは
カルル侯爵から、
魔法学園の学長が、
席を外しているので、
すぐに会うのは難しいという
返事が来たことを報告しました。
ソビエシュは失望しました。
切羽詰まったソビエシュは、
学長がいつ戻って来るのかと
尋ねました。
カルル侯爵は、1週間か2週間くらい。
状況次第で、
それより早くなるし、
遅くなることもあると答えました。
ソビエシュは、自分が1週間も
ここにいられるかどうか分からないし
もしかしたら、その間に、
この夢から覚めてしまうかも
しれませんでした。
もしも、過去に戻って来たとしても、
数日以内に何か行動を起こせば、
ずっと過去に
いられるかもしれないけれど、
何かをやり遂げなければ、
また現実に、
戻ることになるのではないかと
心配しました。
ソビエシュは、
学長が戻ったら、
すぐにこちらに来て欲しいと
伝えるよう、
カルル侯爵に指示しました。
カルル侯爵が出て行くと、
ソビエシュは懐中時計を取り出し、
あちこち詳しく調べました。
もしこれが本当に
前学長の魔法と関連があるとしたら・・
ソビエシュは、
力を落として背を向けたラスタと
彼女に近づいて、
東大帝国の没落を図った
エルギ公爵のことを思い出しました。
これが現実なら、ナビエの後だけを
追いかけているだけでなく、
不穏な可能性を
すべて防がなければならないと
決意しました。
翌朝、 ソビエシュは
ラント男爵に
ラスタを連れて来させました。
しばらくして、
ラスタは明るい顔をして
やって来ました。
離婚を突然取り消した後から、
ソビエシュはラスタに
少しも関心を示さなくなりました。
ラスタは、このことで、
人々に見くびられそうなので
不安と焦りを感じていました。
しかし、ソビエシュに呼ばれると
ラスタの顔が
一段と明るくなりました。
ソビエシュに
座るようにと言われたラスタは
キラキラとした目で彼を見ましたが
ソビエシュの表情を見ると、
不吉な予感がしました。
彼女を見つめるソビエシュの視線は
以前と違って、
愛情とも呼べないし、
憎しみや憎悪とも呼べないものに
変わり、まるで別人のようでした。
ラスタは、ソビエシュが
自分のことを怒っているのかと
沈んだ声で尋ねました。
離婚法廷をきっかけに
ソビエシュの自分への気持ちが
冷めてしまったのかと思いました。
すると、ソビエシュは
ラスタがエルギ公爵と
親しくしていることを
指摘しました。
ラスタは目を丸くしました。
もしかして皇帝は
自分とエルギ公爵のことで
嫉妬して、
自分を遠ざけたのではないかと
考えたラスタは
自分はエルギ公爵と友達に過ぎない。
皇帝に誤解されるようなこともないと
弁解しました。
以前のソビエシュは
ラスタが自分の予測と
違う行動をすることを
理解していませんでした。
しかし過去を絶えず自責していた
今のソビエシュは、
ラスタの感情が一瞬にして
沸き上がることを知っていました。
ソビエシュは、
ラスタを落ち着かせるために
飲み物とケーキを勧めました。
ラスタは、自分とエルギ公爵は
本当に何の関係もないと
訴えましたが、ソビエシュは、
それは知っているし、
2人を疑って
そのように言ったわけではないので
とりあえず食べるようにと
もう一度勧めました。
ラスタは、
とりあえずジュースを飲み、
ケーキを食べました。
ソビエシュは現実の世界で、
エルギ公爵を遠ざけるように
ラスタに警告したけれど、
彼女はエルギ公爵に会い続けたので、
ただ会うなと言っても
絶対に従わないだろうし、
妊娠中のラスタに、
強制的に彼と会えないようにすることも
できないし、
エルギ公爵は悪い人で、
後で彼女を裏切るとも
言えませんでした。
ソビエシュは、
自分の家族が関連したことで、
エルギ公爵は自分を恨んでいる。
エルギ公爵が、
自分に対する恨みを
どのような形で晴らそうとしているか
分からないので、ラスタは
彼と距離を置くようにと言いました。
初めて聞いた話に、
ラスタは、
すぐに答えられませんでしたが、
ラスタが嫌だと言わなかったし
反発しなかったので、ソビエシュは
一歩踏む出すことができたと
思いました。
ソビエシュは、
全てのことに慎重になり、
急いではいけないと
自分に言い聞かせました。
ラスタを帰したソビエシュは
ラント男爵とラスタの部屋の周りを
交代で守る近衛兵、
ヴェルディ子爵夫人を呼び、
エルギ公爵とロテシュ子爵が
悪い計画を立てたという
情報があるので、
ラスタに気づかれないよう、
彼らが彼女に近づかないように
防げと指示しました。
ナビエに許しを請い、
彼女の心を開かせるために、
努力をしなければならないけれど、
それと同時に、
ラスタが「現実」のようなことを
できないよう
エルギ公爵とロテシュ子爵を
注視しなければなりませんでした。
ラスタは皇后になれなかったので
港の問題は防ぐことができたけれど
エルギ公爵やロテシュ子爵は
他の方法でラスタを
誘い出すかもしれないので
彼らをずっと見守る必要がありました。
お昼頃、ソビエシュは
ナビエがまたスープを
持って来てくれることを
期待していましたが
昼休みが終わっても、
ナビエは人さえ
送って寄こしませんでした。
ソビエシュはがっかりして
懐中時計をいじっているうちに
スープをもらったお礼をすればいいと
考えました。
ソビエシュは
ナビエの好きなエビ料理を作らせた後、
侍従を呼ぶと、
スープを飲んで
体調が少し良くなったお返しにと言って
皇后へ料理を渡すように。
もし自分の状態について聞かれたら、
顔色が青白い。
少し咳が続いていると伝えるようにと
指示しました。
ソビエシュは扉の前に立ち、
彼が戻ってくるのを待ち続けました。
約30分後、彼が戻ってくると、
ソビエシュは、
皇后は何と言っていたかと
尋ねました。
ラスタと出会ってからの
ソビエシュのナビエ様への仕打ちと、
彼がラスタに
ナビエ様と離婚するという話を
していたのを聞いて
どれだけナビエ様が苦しんでいたか。
そして、ようやくハインリのおかげで
新たな人生を歩もうとするまでに
なれたのに、
ソビエシュが台無しにしてしまった。
ずっと彼に翻弄され続けている
ナビエ様は、
これからどうしたらいいのか
考えているに違いないと思います。
それなのに、ソビエシュは
ナビエ様の気持ちを無視して
彼女に期待ばかりしている。
ナビエ様には時間が必要であることを
少しでも考えられればいいのにと
思います。