201話 ラスタは毒を飲んで死んでしまいました・・・
◇逃走◇
馬車の中で
ベルディ子爵夫人は
なぜ、エルギ公爵が
グローリエムを助けるのか
わからないと
率直にエルギ公爵に尋ねました。
彼は、
皇帝陛下が
姫を殺すかもしれないとか,
殺さなかったとしても
親が奴隷なので
この子も奴隷になるのは気の毒だと
答えました。
ベルディ子爵夫人は
エルギ公爵を好きでは
ありませんでしたが
他の人を
信じることができないので
今は、彼を頼るしか
仕方がありませんでした。
エルギ公爵は
ベルディ子爵夫人と
グローリエムを助けるのは
これが最初で最後であり
その後は、一切関わらないと
言いました。
そして、自分の助けが
必要ないのであれば
断ればいいとも言いました。
ベルディ子爵夫人は
エルギ公爵の言葉を
不快に思いましたが
生れて来た時から守ってきた
グローリエムを
これからも守るために
エルギ公爵に助けてもらうのを
選んだのは自分だったので
何もしなくても
状況は良くならないのと
エルギ公爵に言いました。
エルギ公爵は
グローリエムが
あまりにもラスタに似ているので
不安だと言いました。
ベルディ子爵夫人も
同じ考えでした。
エルギ公爵は馬車から降りると
ソビエシュが
追いかけてくるかもしれないので
急いで行くようにと
助言しました。
◇西大帝国からの使い◇
皇后席が空になってから数日後
近隣諸国から
新しい皇后を迎えるべきだという
手紙が届くようになりました。
ソビエシュは、
離婚と廃位が相次いだのと
ラスタが法廷で
自分のことを不能と言ったことで
3番目の皇后との間に
子供ができるかどうか
注視されることになるかと思うと
まだ、皇后を迎える気に
なれませんでした。
ソビエシュは執務室の外へ
出ましたが
どこへ行っても
昔のことを思い出しました。
ナビエが目の前で再婚した
辛さに耐えられたのは
まだ生まれていなかった
グローリエムが
生れるのを待つことに
精神を集中することが
できたからでした。
今、その子供がいなくなり
ソビエシュの心の拠り所が
なくなってしまいました。
グローリエムは
ラスタとは別の塔に
閉じ込められたことに
なっていました。
ソビエシュが執務室に戻ると
西大帝国からの使いが来ていて
ソビエシュに
ナビエが襲撃されたことを
伝えました。
ナビエは生きているけれども
昏睡状態が続いていることを
聞いたソビエシュは
使いが頼む前に
エベリーを西大帝国へ送ると
使いに伝えました。
エベリーを乗せた馬車が
遠ざかるのを見ながら
ソビエシュは
苦しそうにナビエの名前を
呼びました。
◇ラスタの死◇
数日後、
塔に閉じ込められているラスタに
食事を運んでいた看守は
廃位になった皇后が
何日間も、水も食事も取らないので
食事を入れる扉から
中をのぞいたところ
血に濡れた銀髪が見えた、
頭も動いていない、
それに変なにおいがすると
報告しに来ました。
ソビエシュは塔を上りながら
本当にラスタが死んだのかと
思いました。
ラスタは最後まで
生き残ろうとした人だったので
数年間は耐えられるだろうと
思っていました。
しかし、塔の扉を開くと
すでに腐敗が進んで
髪の毛に血がこびりつき
目を開いたままの
ラスタの死体が見えました。
ラスタが廃位になる時と
塔に閉じ込められる時に
ソビエシュは
彼女と会いませんでしたが
悲惨な死を遂げた彼女を見て
痛快ではありませんでした。
なぜ陛下は
私に愛していると
言ってくれないのですか?
ラスタの笑い声と共に、
彼女の声が耳元で響きました。
そして、罠にかかって
泣いていたラスタのことを
思い出しました。
ラスタの
天使のような姿に魅せられて
人違いをしたのか
それとも、善人だった彼女を
宮殿や貴族や自分が
変えてしまったのか。
誰も答えてくれないだろうと
ソビエシュは思いました。
ソビエシュは、
ラスタの死体を火葬にして
広い平原にまくように
カルル侯爵に命じました。
ソビエシュの夢は
妻と子供のいる家庭で
幸せに暮らすことでした。
多くの平民が当然の如く
持つことのできる家庭を
皇帝である自分が持てないのは
皮肉だと思っていました。
そして、その幸せを
つかんだと思われたナビエが
襲撃されて危険な状況にあることに
ソビエシュは苦しみました。
ナビエが無事だという
知らせが届くまで
ソビエシュの苦しみは
消えないと思いました。
◇エルギ公爵の来訪◇
ソビエシュが
ナビエの肖像画に話しかけていた時
エルギ公爵が訪ねてきました。
ソビエシュは港のこともあり
エルギ公爵の
顔も見たくありませんでしたが
しかし、ソビエシュは
エルギ公爵が
ハインリの友人として有名で
ラスタと親しくしていたのに
ナビエの脱出を助けたことと
ラスタとスキャンダルを
起こしたのに
彼女に罪を
押し付けたことが
理解できなかったので
彼に会うことにしました。
エルギ公爵は
ソビエシュに別れの挨拶をしましたが
彼は答える代わりに、
ラスタが死んだことを知っているか
ラスタがおかしくなったのは
エルギ公爵のせいでもあると
思うけれど
何の恨みがあって
そんなことをしたのかと尋ねました。
それに対してエルギ公爵は
陛下は何の恨みがあって
あんなことをしたのかと
尋ねました。
ソビエシュの父親には
少なくとも側室が2人いて
母親が側室に
中絶薬入りのクッキーを
贈ろうとしたぐらいなので
彼は子供の頃は
幸せな家庭でなかったのだと
思います。
なかなかナビエ様が妊娠しない中
ラスタが、妊娠して
ソビエシュは、
自分の夢がかなうと思い
喜んだと思います。
ただ、その夢の妻というのは
ラスタではなく
ナビエ様だったのではないかと
思います。
一時的にラスタを皇后にして
子供を自分の跡継ぎにしてしまえば
何とかなると
思っていたとしたら
ソビエシュは
自分の母親から何も学ばず
女性の心理を理解できない
お馬鹿さんだと思いました。