402話 ラティルはゲスターの大事なところの治療をザイシンに頼むことにしましたが・・・
◇ザイシンの推測◇
ラティルはザイシンに、
ゲスターの「あそこ」を
見てもらえるかと尋ねました。
ザイシンはにっこり笑いながら
承知しましたが、答えた後で
「あそこ」が、とても曖昧な
表現だということにきづき、
「あそこ」とはどこなのかと
問い返しました。
ラティルは口を尖らせ、
瞳をあちこち転がしながら、
ザイシンが、以前ラナムンを
治療をする時に見たところと
答えました。
笑っていたザイシンが、
徐々に固まっていきました。
また、あそこなのかと
尋ねるザイシンに、ラティルは、
少しトラブルがあったと答えました。
ザイシンは、以前のように
薬を飲み間違えたのかと尋ねました。
ザイシンが質問し続けると
ラティルの顔が赤くなりました。
彼女は、
ゲスターと一緒に寝ようとしたら
グリフィンが現れたので
驚いて引き抜くところだったとは
言えないので、
階段で転んだみたいだと答えました。
ザイシンは、
どうやって転んだのかと尋ねました。
彼の頭の中では、
ゲスターが前に倒れたまま
階段を転がっていく場面が
繰り広げられました。
その場面をそっくりそのまま
読み取ることができたラティルは、
ザイシンはかなり驚いていると
思いました。
ザイシンは、他の所も
かなりケガをしたのではないかと
尋ねました。
ラティルは、他の所は大丈夫だと
言葉を詰まらせながら答えました。
さらにザイシンの頭の中は
混乱に満ちましたが、
手すりに乗って階段を滑り降りて
ケガをしたのかと、
その様子を思い浮かべながら
尋ねました。
ラティルは、ゲスターのイメージが
おかしくなったことを、
心の中で詫びながら、
そのようだと答えました。
ラティルは、後で時間がある時に
ゲスターの所へ行って見て欲しい。
少し腫れているようだと話すと
ザイシンは、
折れているのかと尋ねました。
ラティルは顔を真っ赤にして、
分からない。
ザイシンに確認して欲しいと
頼みました。
ザイシンは、急いでダンベルを下ろすと
今すぐ行って確認し治療するので
心配しないようにと言いました。
ラティルはお礼を言うと、
顔を真っ赤にしたまま
部屋を飛び出しました。
ザイシンは、
さっと冷水で身体を洗うと
ゲスターの部屋に走って行きました。
彼の部屋に着く前に、
ちょうど図書館から帰って来た彼と
廊下で会うことができました。
ザイシンに挨拶をして
通り過ぎようとしたゲスターの所へ、
ザイシンは切羽詰まった顔で駆けつけ、
彼に怪我をしたのかと尋ねました。
ゲスターは戸惑って立ち止まりました。
ゲスターの後ろに立っていた
トゥーリは、それを聞いて驚き、
彼もゲスターに
ケガをしたのかと尋ねました。
ゲスターは不思議そうに
ザイシンとトゥーリを交互に見て
首を横に振りました。
しかし、ザイシンは
ゲスターが、
階段の手すりの上を滑り降りて
ケガをしたと皇帝から聞いたと
話すと、ゲスターはうろたえましたが
ラティルが、
何を言いたかったのかに気づき
顔を赤くしました。
それを見たザイシンは、
ゲスターが本当にケガをしたと思い
部屋に行くように、自分が治療すると
優しく語りかけました。
◇腹の探り合い◇
カルレインは
アニャドミスについて話し合うために
ゲスターを訪れました。
アニャドミスの弱点は
正確には何なのか。
百花を
どのように使うことができるのか。
その封印方法が
具体的に何なのかなどについて
話し合うためでした。
ところが、
ゲスターの部屋の扉を開こうとすると、
治療しなくてもいい、とゲスター。
私は慣れているから大丈夫だという
ザイシンの叫び声。
自分が大丈夫ではないと
反論するゲスターの声。
が聞こえて来ました。
何の騒ぎかと思いましたが、
一応、中にザイシンがいるので
ゲスターが困っていても
放っておいて大丈夫だと判断し
カルレインは背を向けました。
ところが数歩も歩かないうちに
ちょうど百花が、
自分の方に歩いて来るのを
見ました。
彼はカルレインを見つけると
立ち止まりました。
百花はカルレインを見ると
「ああ」と嘆き、
すぐに、微妙に笑いながら
ゲスターに会いに来たのかと
尋ねました。
カルレインは、
百花の「ああ」という声に、
少し気分を悪くしましたが、
無表情で「そうだ」と答えると
百花は、大神官を探しに来たと
言いました。
百花がゲスターの部屋の
扉を見つめている間、
カルレインは、ゲスターから
百花の正体について
聞いたことを思い出し
心が複雑になりました。
彼は500年前に
百花を見た覚えがありませんでした。
敵の数があまりにも多く、
当時の百花の職位が低ければ
あり得ることでした。
しかし、自分たちは数少ない敵であり
その中でも高い位置にいた自分の顔を
百花は覚えていると思いました。
しかも百花はアニャドミスから、
彼女が望んでいるのが
カルレインだということを
直接聞いていました。
けれども、百花は
狐の仮面がゲスターだということを
知らないので、
カルレインは、
百花が何を知っているかを
知っているけれど、
知らないふりをしていなければ
なりませんでした。
カルレインが
どうすることもできずに
立っている間、百花も
カルレインが、
どこからどこまで知っているのか
分からず、
黙って笑っていただけでした。
百花は、
自分が話をしようと思っても、
カルレインが、
まともに聞いてくれるかどうか、
確信できませんでした。
しばらくして、百花が先に
カルレインは皇帝を愛しているのかと
尋ねました。
彼は、当然だと答えました。
百花は、
前に付き合っていた人とは
きちんと別れたのかと尋ねました。
カルレインは、
百花が気にすることではないと
答えました。
カルレインは、
百花は、アニャドミスを
ドミスだと信じているので、
自分が500年の間に
心変わりしたと思い、
あんな質問をしたのかと
推測しました。
百花とカルレインが、
見つめ合っていると、
扉がぱっと開き、ザイシンが、
あのように治療を拒否するなんてと
舌打ちしながら、
心配そうな顔で出てきましたが、
カルレインを見るや否や
表情が固まり、立ち止まりました。
カルレインは、
自分が吸血鬼だと明かしたことを
彼が思い出しているのだと
思いました。
カルレインは、
部屋の中で息巻いている
ゲスターを一度、
目を伏せている大神官を一度、
交互に見ました。
百花は百花で、
カルレインは吸血鬼だけれど、
大神官は何も知らないと思い、
しばらく沈黙したままでした。
じっと立っていた3人に、
おやつを運んできたトゥーリは
なぜそうしているのかと尋ねました。
彼らが後ろに下がると、
トゥーリは首を傾げながら、
部屋の中に入りました。
カルレインはトゥーリと一緒に
ゲスターの部屋に入りました。
カルレインが消えると、
大神官は少し安堵して
ため息をつきました。
百花は、カルレインに
ドミスの話をするかどうか
考えていましたが、
遅ればせながら、大神官の姿を見て
なぜ、ため息をつくのかと
尋ねました。
◇いつもと違う◇
ゲスターの部屋に
逃げるように入ってきたカルレインは
ゲスターが、
ソファーの背もたれに腰掛けたまま
トゥーリが置いていった
お菓子をつまむのを見ながら、
先程は、何をしていたのかと
尋ねました。
ゲスターはいつもと違って
少し疲れた顔で、
大神官にはイライラすると答えました。
どれだけ苛立っているのか、
いつもの、おどおどした口調が
少し消えていました。
カルレインは少し嬉しくなりましたが
それを隠しながら、無愛想に
どうしたのかと尋ねました。
ゲスターは眉をひそめるだけで、
彼についての説明はせずに
カルレインが来た理由について
尋ねました。
カルレインは、百花の問題だと
答えました。
◇動揺◇
その頃、ラティルは、
婚約式に来ると言っていた
サーナット卿の偽婚約者が
すでに首都に到着していると聞いて
動揺しました。
サーナット卿は、
偽の婚約とはいえ、
疑われると困るので、
今日は、自分が家や首都の
案内をしなければならない。
今日は早く退勤するので
用事がある時は、
副団長を呼んで欲しいと頼みました。
慌てたラティルは、
ここへ来るという話は
数日前に聞いたような気がすると
しどろもどろに話すと、
サーナット卿は、
自分が、その話をした時は、
すでに来る途中だったと
返事をしました。
ラティルは頷き、
目をパチパチさせながら笑い、
行って来るようにと告げました。
◇揺れる心◇
サーナット卿が出て行くと、
ラティルは訳もなく気になりました。
考えてみれば、
気になることは一つもないのに
ただ気になりました。
その理由は分かりませんでした。
それに気づいた乳母が、
何か気分が悪いことでもあったのかと
心配しました。
ラティルは
サーナット卿と言いかけましたが、
その話をすれば、
気になる理由を聞かれるのは
明らかなので、口をつぐみました。
そのため、ラティルは、
乳母がサーナット卿の名前を聞いて、
瞳が揺れたことに気づきませんでした。
ラティルは、
しばらく足を組んで座って
時間を過ごしていましたが、
久しぶりに
仮面をかぶってみることにしました。
◇再会◇
仮面をかぶって外に出たラティルは
サーナット卿が
婚約者に会いに行くのに
なぜ自分が
気にしなければならないのかと
一歩遅れて、
自責する気持ちが押し寄せてくると、
彼を探し回る気力がなくなり、
露店に入りました。
ラティルは、
そこで買ったおやつを食べながら、
訳もなく人々がごった返す通りを
ただ睨みつけていました。
自分の近衛騎士団団長が
婚約者に会いに行くのが
気になって付いて来るなんて、
人に聞かれたら笑われると
思いましたが、
自分の近衛騎士団団長が、
婚約者に会いに行けば、
気になるかもしれない。
しかも、偽の婚約者だしと、
突然考えが変りました。
心が少し沈んでいたラティルは
再びサーナット卿を
探すことにしました。
どんな人なのか、
少しだけ見て来よう。
サーナット卿と
会わなければいいだけだと
思いました。
そうと決めた途端、
ラティルは店を出て
外国からの客を案内できる
首都の名所を思い浮かべました。
首都の広場は、
とても大きくて広くて華やかなので、
他の所には行かなくても、
ここには、必ず立ち寄ると
思ったラティルは広場へ行き、
噴水の水しぶきが
少ない所に座り、通り過ぎる人々を
観察することにしました、
ところが、足を伸ばして
太ももを叩きながら周りを見ていると
隣にいる人に、
1人で出て来たのか、聞かれました。
ラティルは、聞き慣れた声に
びくっとして横を見ると、
その人は新聞を広げて読んでいたので、
上半身が隠れていて、
誰だかが分かりませんでした。
しかし、あの声は誰だったかと
考えていると、その人は新聞を
ゆっくり下ろしました。
ギルゴールでした。
ラティルは驚いて彼の名を呼びました。
ギルゴールの目が曲がり、
彼に会えたラティルが
嬉しくて何か言おうとした瞬間、
誰かが、もう一度、
「ギルゴール?」と呟く声が聞こえ、
首を傾げたラティルの目に、
ある女性をエスコートした
サーナット卿が
こちらを見つめているのが見えました。
ゲスターの腫れは
きっと時間が経てば直るし、
大事なところを
ザイシンに見られたくないので
ゲスターは、彼の治療を断固として
拒否したのでしょうけれど、
ザイシンはラティルに頼まれたし、
ゲスターを可哀想に思っているし、
一度、ラナムンの治療をしたことで
免疫ができているので、
何としてでも、ゲスターを
治療をしたかったのでしょう。
ザイシンが舌打ちするなんて、
おそらく、今回が初めて?
さすがのザイシンも、
ゲスターの断固たる拒否に
腹を立てたのかもしれません。
ようやくギルゴールが出て来たので
嬉しいです。
彼のラティルに対する
何気ない仕草に、
胸がくすぐられます。