106話 ミレニンは、キアナがパーティーに友達を連れて来るとブレイズに断言しました。
ミレニンは、
キアナの友達という人を
カルロイも知っているのかと尋ね、
その人は、クロイセンの
没落した貴族らしいけれど
とても美しいと聞いていると
話しました。
しかし、カルロイは
体調が悪いと言って、
持っていたグラスを
ブレイズに渡しました。
ミレニンは、
もう部屋に戻るのかと尋ねました。
ブレイズはカルロイに、
明日は、仮面を被り、
その憂鬱そうな顔を隠して、
出席するようにと助言しました。
カルロイが去ると、ブレイズは、
以前よりカルロイが
面白みがなくなったとマハ語で指摘し
ため息をつきました。
ミレニンは、
本気で、そう言っているのか、
自分は、
今までのカルロイの姿の中で
一番面白いと反論しました。
その言葉にブレイズが驚いていると
ミレニンは、
カルロイは、魂のない石ころだと
思っていたけれど、
皇后の話が出ると、釣った魚みたいに
ぴょんぴょん跳ねるのが新鮮だと
言いました。
ブレイズは、
彼は死にかけていると思うと
反論しましたが、
ミレニンは返事の代わりに、
ブレイズをじっと見つめたので、
彼はビクッとしました。
ミレニンは、
とにかくクロイセン人は
向かい合っていると、
戦争のことも思い浮かばないくらい、
とても面白い。
明日が本当に楽しみだと言いました。
キアナは、ベッドの上に
並べられたドレスを眺めながら
いくら考えても、ルーの髪の色が
特にマハでは目立ちすぎると呟くと、
ルーをパーティーへ連れて行くための
ドレスを選ぶのに、
頭を悩ませていました。
ルーは、
「陛下」と呼ばなければ
目立たないのではないかと
言うと、キアナは、
それも注意しないといけない。
大きな帽子でも、
被せないといけないのかと呟きました。
ジェインは、
それも悪くないと賛成しました。
ルーは、
大きすぎるよりは適当なものにして
服も、あまり目立たない
無難なものにすればいいと言って
仮面をちらっと見ました。
そして、
キアナが持って来た仮面だけ
付ければいいと思うと言うと、
キアナは、
皇帝に会う時に、
仮面を脱がなければ
ならないかもしれない。
皇帝は自分勝手な人だからと言って
ため息をつきました。
ルーは、
皇帝に会ったとしても、
どうにもできない。
自分が皇后だったという事実さえ
知らなければいいと言いながら、
心の中では、
むしろ、カルロイの方が問題だ。
もしも、カルロイと出くわしたら
どうすればいいのかと悩みました。
一方、キアナは、
それでも、念のため、
マハの皇帝がルーを見て、
すぐに帰してあげなければ
いけないと思うくらい、
ルーの化粧を、
具合が悪い人のようにしてくれと
メアリーに頼みました。
彼女が承知すると、ルーは、
自分は具合が悪い人だと
呟きました。
その言葉にキアナは、
だから、もっと具合が
悪い人のようにすると言いました。
馬車の中で、
髪を結い、ボンネットをかぶり、
無難なドレスを着て、
仮面を付けたルーを見て、キアナは
これなら絶対に
目立たないのではないかと
言いました。
ルーも何気に満足していたので、
「はい」と返事をしました。
キアナは、ルーの名前は
オリビア・チェルで
爵位と領地を失って久しいので
平民同然だと
マハの皇帝に話してある。
パーティー会場に入ったら、
すぐに皇帝と謁見する。
皇帝はルーに少し声をかければ
彼女を帰してくれると話しました。
ルーは、
本当に、そうだろうかと
不安を覚えました。
彼女は、
マハで皇帝が開くパーティーに
行くことになるなんて
思ってもいなかった。
しかも、そこにはカルロイがいる。
けれども、彼を見かけて、
彼が元気そうだったらいいなと
ルーは心臓をドキドキさせながら
思いました。
宮殿に到着すると、
キアナとクライドも
仮面を付けました。
宮殿の中に入ると、
そこは、まるで水の中のようで、
ルーは感嘆しました。
キアナは、
普段はこのようにしているわけでは
ないけれど、
パーティーが開かれると
必ずこうしていると説明しました。
そして、クライドに
先に人と会うように、
自分はチェル夫人を
先に皇帝の所へ連れて行くと
言いました。
クライドは、
また後でと告げると立ち去りました。
ルーとキアナは先へ進むと
階段の下に
3人の女性が立っていました。
キアナは、中央にいるのが
マハの皇帝だと教えました。
ルーは、ひそひそ声で
皇帝は仮面を付けないのかと
尋ねると、キアナは、
なぜだか分からないけれど、
皇帝は、他の人には
仮面を付けさせるけれど、
皇帝は付けたがらないと答えました。
ルーとキアナに気づいたミレニンは、
2人に近づき、キアナのことを、
自分の大切な友達と呼ぶと、
キアナは仮面を付けても、
その美貌は隠せないので、
一目で彼女だとわかると言いました。
キアナとルーは
皇帝に挨拶をしました。
ミレニンはルーに、
キアナの友達かと確認しました。
ルーはビクッとしましたが、
皇帝がパーティーに
招待してくれたことに
お礼を言いました。
ルーがマハ語を話したので、
ミレニンは彼女に
マハ語ができるのかと尋ねました。
ルーは、少しと答えると、
ミレニンは、意外だと返事をし、
ルーに、
楽しい時間を過ごして欲しいと
クロイセン語で告げました。
ルーは驚きましたが、
ミレニンについての話だけを
聞いた時は、
とても怖い人だと思ったけれど
意外と親切な面もあるし、
穏やかな印象に見えると思いました。
ところが、ミレニンは、
パーティーを楽しんだ後は、
もう一度、自分の所へ来るよう
言ったので、
ルーとキアナは驚きました。
キアナは、
皇帝の貴重な時間を
奪うわけにはいかない。
今、話をするのでも
大丈夫だと言いましたが、
ミレニンは首を横に振り、
マハのパーティーを見てこそ、
新しい客も話題ができる。
だから、是非パーティーを
楽しんで来てと告げました。
ポカンとしている2人を放って
ミレニンは立ち去りました。
キアナは、
仕方がない。
静かにしているしかないと
ルーに言いました。
ルーは、
パーティー会場を見回しながら
カルロイは来ていないのだろうか。
彼は背が高いので、
来ていれば、仮面を付けていても
目立つと思いました。
そこへ、キアナの知人がやって来て
彼女が、
しばらくご無沙汰していた理由を
尋ねました。
驚くルーとキアナ。
そして、他の女性たちも
集まって来ると、彼女たちは、
この前、借りた本を
帰そうと思ったけれど、
顔を見ることができなかった。
キアナは、今日も美しい。
クライド卿はどこへ行ったのかと
口々に話し始めました。
その様子を見ていたルーは、
キアナは、
マハを離れようとしているのに
マハは彼女に、
ひどく片思いをしているようだと
思いました。
そうしているうちに、
キアナに話しかけていた女性たちは
ルーの存在に気づき、
その人は誰なのかと尋ねました。
キアナはルーが見えないように
彼女の前に立つと、
この前、クライドと
本当に面白いことがあった。
これは、クライドがいる所で
話さなければいけない。
ところで、彼はどこにいるのか。
自分の夫を見た人はいないかと
叫びながら、
女性たちを引き連れて
行ってしまいました。
一人取り残されたルーは壁際に行き
ため息をつきました。
そして、母親のネックレスを
いじりながら、
マハが、とても退屈だという考えは
消えないと思っていると、
人々が騒ぐ声が聞こえて来ました。
ルーは何事かと思い、
声のする方へ顔を向けると、
「クロイセンの皇帝!」と叫ぶ声が
聞こえて来たので、
ルーはドキッとしました。
皇帝は、とても目立つ。
昨日、話をしてどうだったか。
会話が続かない。
礼儀正しいけれど無関心だったと
人々が話す中、
カルロイは歩いて来ました。
人々が何を話しているか、
ルーには、よく分かりませんでした。
そして、人が多いので、
自分の方は
見えないだろうと思いました。
そして、人々に囲まれている
カルロイを見て、ルーは、
彼が、しっかり立っている。
自分との約束を
守っていてくれていると思いました。
その時、カルロイが
ルーの方を見ました。
彼女の心臓はドキドキし、
自分を見ているのだろうかと
考えました。
仮面の下で、
ルーの顔が赤くなりました。
目をそらさなければならないと
思っていると、
カルロイは持っていたグラスを
落としていました。
カルロイの顔が青ざめていたので
彼の周りにいた人々は、
彼のことを心配しました。
マハの皇帝は
とても美しく、
はかなげな印象があるのですが、
腹に一物がありそうで怖いです。
とうとう、ルーとカルロイが
再会しました。
カルロイはマハへ来てから、
努めて
平静を保っていたと思いますが
ルーを見て、
一気にそれが崩れてしまいました。
キアナは、ルーだとばれないように
必死で、彼女のコーディネイトを
考えましたが、
カルロイには、
ルーがどのような姿をしていても
彼女だと分かってしまうのですね。
愛の力はすごいです。